試乗記
新型「GR86」「BRZ」(2024年モデル)、似て非なる2台をサーキットで試す
2024年7月17日 17:00
モータースポーツで得られた知見を市販車にフィードバック
2024年モデルとして年次改良を受けたトヨタ「GR86」とスバル「BRZ」を、富士スピードウェイのショートコースで試乗する機会を得た。当日は比較用に2023年モデルも持ち込まれていたので、新旧ならびに新型GR86とBRZの違いについてもインプレッションしてみよう。
2021年にトヨタ 86(ZN6型)からスイッチして約3年。ここまでGR86(ZN8型)は特別仕様車や上級モデルのオプション設定は行ないながらも、ベースモデルの走りに関しては手が加えられてこなかった。2023年モデルで電子制御スロットルの制御を変更しているが、それだけだ。
しかし2024年モデルでは、これまでGR86が参戦したモータースポーツからのフィードバックを元に、4つの改良が施された。1つめは「MT車のスロットルレスポンス向上」、2つめは「ショックアブソーバーの減衰力設定変更」、3つめはこの変更に合わせた「電動パワーステアリング制御の変更」、そして最後が「AT車のマニュアルダウンシフト制御の許容回転数拡大」だ。
今回用意された試乗車はMT車のみだったので、まずAT車の改良についてその内容だけでも述べておこう。これは文字通りAT車でマニュアル操作したときの、シフトダウン時のエンジン回転数を7100rpmまで引き上げた改良で、ジムカーナやサーキット走行などに参加するユーザーからの要望を形にしたものだ。2023年モデルまではエンジンやトランスミッション保護の観点から大きくマージンを取っていたが、2024年モデルではコーナー直前でシフトダウンしても、適切なエンジンブレーキが得られるようになった。これによって連続シフトダウンが可能となり、素早く加速態勢に入れるようになった。
そしてスバル BRZも、実質まったく同じ4つのメニューで仕様を変更をしてきた。言い方こそ異なるが、1つめは「ダンパー減衰力特性の変更」、2つめは「電動パワーステアリングのアシスト特性の変更」、3つめは「MT車専用 SPORTモード 追加」、そして「AT車 マニュアルダウンシフト制御の許容回転数拡大」だ。
ちなみに3つめの「スポーツモードの追加」は、スポーティな電子制御スロットルの制御を別仕立てしたものだ。スバルはBRZといえどより多くのユーザーに門戸を開こうと、これまでスロットルに限らず各部のセッティングを尖らせ過ぎないようにしてきた。
しかし今回はMT車のみだがスポーツモードを設けることで、電子制御スロットルのレスポンスにリニアリティを与えたのだという。ちなみにそこには、スーパー耐久で得た知見が盛り込まれた。
対してGR86がスポーツボタンを付けないのは、そもそもがトヨタ車より一段スポーティな「Gazoo Racingのスポーツカー」という立ち位置にあるからだ。よってそのスロットル制御も、最初からGR86らしさを表現した仕様になっているのだという。
GR86は正常進化と呼ぶにふさわしい変更
試乗当日はあいにくの雨、というより豪雨だった。とはいえ厳しいコンディションだからこそ分かることも大いにあった。
GR86は、正常進化と呼ぶにふさわしい変更だった。まず2023年モデルに対して良くなっていると感じたのは、ターンイン。そのインフォメーションがとても豊かになった。具体的にはブレーキングを終えて、操舵していったときの接地感がさらに良くなった。“曲がりたがり”な基本特性に変わりはなかったが、豪雨の中にあっても「これ以上切ればオーバーステアに転じる」という分岐点がとても分かりやすかった。
そこには電動パワステ(以下EPS)のリニアリティだけでなく、アブソーバーの変更も効いている。前後ともにバルブまわりを改良し、若干縮み側の減衰力を弱めたことで、ウェット路面でもタイヤに面圧が掛けやすくなった。それは縁石を乗り越えても、バンプで跳ねずにタイヤを押しつけ続けられるくらい、しなやかな追従性だった。
対して2023年モデルは、わずかだがEPSの反力が軽い。またバンプ側減衰力の影響かこの雨でやや接地感が乏しかったり、切り込みすぎて自らオーバーステアを誘発してしまったりする場面があった。
とはいえ一発放り込んでしまえば滑ったあとのコントロール性は良いから、「これはこれでハチロクっぽい」と思えたのも事実だ。上質さでは2024年型だが、野性味のある2023年モデルもわるくない。
スロットル制御はむしろ、2023年モデルの方がレスポンスは“立っている”と感じた。確かに2024年モデルはヒール&トゥが素直に決まるし、アクセルコントロールもしやすいのだが、全体的にリニアでマイルドな印象なのだ。
エンジニア氏によれば、2023モデルまでは日常でのドライバビリティやエミッションの関係から、どうしても踏み始めのレスポンスを“なめし”ていたのだという。対して2024年モデルはエンジントルク制御の改良によって、環境性能をクリアしながら初期レスポンスを高められるようになった。
つまり2023年モデルで感じたレスポンスの急激な立ち上がりは、応答が遅れによるものだったわけだ。また2024年モデルはアクセルの追従性がリニアだから、マイルドに感じられるのだろうとのことだった。総じてGR86は、ウェット路面で乗った限りだが一段成熟したと筆者は感じた。
BRZが根本で大切にしているのは“トラクション”
対するBRZは、GR86よりも変化が分かりやすかった。
今回試乗したのはスバル流に言うと「アプライドD型」の、18インチタイヤを履いたSグレード。これをアプライドC型と比較した。
C型までのBRZのハンドリングは、ざっくり言えば「弱アンダーステアのトラクション型」だった。そしてD型は、まず断然曲がるようになっていた。ターンインした際の操舵フィールが明瞭で、切り込めば狙い通りにノーズが入っていく。
BRZの電動パワステは、ステアフィールに剛性感を与えたGR86とは反対に、ハンドルを戻すときのアシストを強めているのだという。だから操舵感は以前よりも軽く感じるはずだと開発陣は語った。
この制御はスリックタイヤやハイグリップタイヤを履いた際の、切り返し(やカウンター)での操舵力を軽くするためだという。また女性ユーザーを含む一般ユーザーからもBRZは「ハンドルが少し重たい」という意見があったため、この変更は街中での取りまわしの良さにも貢献するとのことだった。
ただ当日はノーマルタイヤであったことや雨が降っていたこと、コースレイアウトから切り返しを意識する場面がなかったことなどを含め、あまり軽さは意識しなかった。全体を通して、とてもスッキリとした操舵フィールだ。
足まわりはどのようにセッティング変更したのか、試乗しただけではよく分からなかった。とにかくD型はノーズがしっかり入るし、トラクションもガッツリかかる。
試乗後に答え合わせをすると、そのヒミツはリアダンパーにあった。前後とも初期ダンピングはGR86同様、従来より若干ソフトにしたが、その効果は乗り心地の改善と味付け程度。要となったのはリア・リバウンドスプリングのレート変更で、これをわずかに緩めたことでフロント荷重が掛かりやすくなった。またアクセルオンでは、従来よりもさらにトラクションが掛かるようになったのだという。ちなみにダンパーは日立アステモ製で、GR86と同じものだ。
そしてハイライトは新たに加わった「スポーツ」モードだ。確かにこれをひと押しすると、BRZのスロットルレスポンスは一段と鋭さを増した。ラフなアクセル操作だと挙動がギクシャクするほどだから、改めてモードボタンを付けたことにもうなずけた。
ただおもしろかったのは、レスポンスの上がり幅だけでいうとGR86の方が高いという点だ。これはGR開発陣が教えてくれた。ではなぜBRZの方が明確にその差を感じたのかといえば、まずノーマルモードからの差を体感できることが1つ。そして前述したリアダンパーのセットが、挙動に影響しているのだと思う。つまりBRZの方が、アクセルのON/OFFに対してピッチングするのだ。前後方向の荷重を掛けやすいセットになったのだと思われる。
ということで結論だが、GR86の2024年モデルとBRZのアプライドD型、どちらがよいのかは完全に好みだと思う。厳密な速さについては、ぜひGR86/BRZ Cupをチェックしていただきたい。
マイナーチェンジを施すとその特性はお互いに似てくるものだが、キャラクターとしては、両車の特色が守られた上でさらに進化していることに感心した。GR86はターンインからの鋭い旋回性能が特徴的で、ヨーモーメントを積極的にコントロールするのが楽しいスポーツカーだ。その上で操縦性が今回さらに洗練されたわけだが、基本的に“曲がりたがり”な性格は変わっていない。現代の“ハチロク”がほしいなら迷わずGR86だ。
かたやBRZは、とても曲がりやすくなったとはいえ、その根本で大切にしているのはやはり“トラクション”だった。ドリフト状態に持ち込むことは可能でも、最後までリアタイヤで地面を蹴っている頼もしさは、スバルらしさだと言える。フロントに中空スタビとアルミ製のナックルを採用して軽さを求め、リア・スタビの取り付け位置にこだわって接地性を高めたセッティングは、ここで1つのまとまりを見せた。
この双子の兄弟は、骨格や顔立ちが似ていても、その性格はまったく違う。とても似ているのに、かなり違うからこそおもしろいと思う。それはハチロク・ファンと、スバル・ファンのキャラクターをそのまま表しているかのようでもある。