試乗記

アウディのバッテリEV「Q8 スポーツバック e-tron 55 クワトロ Sライン」に試乗 フラグシップSUVらしい走りと質感

アウディ「Q8 スポーツバック e-tron 55 クワトロ Sライン」

 アウディはBEV(バッテリ電気自動車)化を進めて、すでに多くのe-tronが登場しているが、今回紹介する「Q8 e-tron」は次のステップに入ったBEVとなる。といってもバッテリの大変革という派手なものではなく、既存技術の地道な改良の成果による第2世代だ。

 アウディは2026年以降に世界市場へ投入するニューモデルはすべて電気駆動システムを搭載するという大胆なEV戦略を取る。そして2033年には内燃機関の生産を終了し、100年にわたる燃焼技術はアウディにおいては幕を閉じることになる。

 最近の急速に変わる環境の変化によって戦略の手直しの可能性はあるが、この目標は大きく変わることはないだろう。

 Q8 e-tronは日本に最初に導入されたアウディのBEVで、今回試乗するのはその技術をベースにした後継車となる。

日下部保雄がアウディのバッテリ電気自動車「Q8 スポーツバック e-tron 55 クワトロ Sライン」に試乗

 主な改良点ではエクステリアはS lineに統一されたスポーティなもので、電動車にとって電費の向上に直接的な効果がある空力の改善を図った空力デバイスが追加された。分かりやすいのはリアのディフューザーだが、フロア下を流れる空気の整流に大きな効果があることはよく知られている。デザインとは直接関係ないが、前後タイヤ前に装着されたフラップもその一環で、リアタイヤ前にはバッテリからのエア抜きを設けて、積極的に冷却する。

 デザインで分かりやすいのは、伝統の4リングが二次元的デザインになったことだ。迫力のあるブラックアウトされたフロントグリル、21インチの大径ホイールから見える巨大なブレーキキャリパーなどはいかにもBEVのパフォーマンスモデルらしいいでたちだ。

Q8 スポーツバック e-tron 55 クワトロ Sライン。ボディサイズは4915×1935×1620mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2930mm

 床下に置かれたリチウムイオンバッテリは55では114kWhという大きなもので一充電走行可能距離は501kmと長くなっている。従来のQ8 e-tronからは23%の向上になる。パフォーマンスの向上は、瞬間的なパワーよりも効率化や走りの質の向上にあてられている。

 シャシーもそれに見合うべくアップグレードが行なわれた。EPSのラックマウントのブッシュが見直され、ダイレクト感が高くなるとともにギヤレシオが15.8から14.6と早くなり正確さが増した。シャシー側では電子制御エアサスペンションの見直しがあり、滑らかな乗り心地とともに運転のリズムを崩さないピッチとロール制御が進化し、走りの質感が向上した。ESC(スタビリティコントロール)の制御も修正され、スペック上でも電子系の進化は目覚ましい。

 モーター出力は300kW/664Nm、車重は2610kgもある重量級だが、巨大なトルクが重いボディを軽々と引っ張る。アクセル開度に対して滑らかな加速ができ、過剰な反応をしないが、奥まで踏み込むと本領発揮となる。それでもドライバーの想像どおりで成熟されたe-tronらしい。

ボンネット内はEVらしくオレンジの配線が見える。床下のリチウムイオン電池は総電力量114kWhのもの。最高出力300kW、最大トルク664Nmを発生するモーターを駆動させる。WLTCモードの一充電走行距離は501km

 ファストバックのスッキリしたデザインは控えめだがそれとなく目立つ存在なのはS lineに統一されたためか。またインテリアのレイアウトもこれまでのe-tronの流れを継承し、ICEのクルマから乗り換えても安心感がある。

 アウディのインターフェースはドライバーに優しい。一例を挙げればシフトセレクター。センターコンソールに小さなレバーが配置されてすぐに手が届き、その他のドライビングに必要なものは直感的に分かるレイアウトになっている。質感もさすがと思わせる上質なものだ。

ドライバーオリエンテッドなインテリア

 ドライブモードは通常はAUTOで万能、そして従来どおりコンフォート、ダイナミック、エフィシェンシー、インディビジュアルとある。アクセルのゲインが高く、サスペンションも硬くなるダイナミックは市街地では少し持て余し気味。コンフォートは穏やかな味付けだがクワトロのe-tronとしては味が薄れるような気がして、AUTOに任せることにした。期待する性能はこのモードで十分だ。

 さらにオフロードモードが追加されており、車高が上がって凹凸の強い路面では頼もしいモードだ。ホイールベース2930mm、4915×1935×1620mm(全長×全幅×全高)の大きく長いファストバックだが、深雪などで路面との干渉しにくさは実用性を高めてくれる。

 インテリアの作りのよさ、スポーツを強く意識したアウディらしいエクステリアなどe-tronのフラグシップらしい完成度だ。ICEとBEV共用プラットフォームだが、後席もロングホイールベースを活かしてレッグルームは広く、ヘッドクリアランスも十分な居住空間を持っている。

 気になる充電設備だが、フォルクスワーゲングループが作るプレミアム・チャージング・アライアンス(PCA)による90-150kWのCHAdeMO規格急速充電器ネットワークが341拠点まで広がっており、今後も拡大予定だ。航続距離の延長とともにプレミアムBEVユーザーに大きなメリットがある。

アウディ「Q8 スポーツバック e-tron 55 クワトロ Sライン」概要

Q8 スポーツバック e-tron 55 クワトロ Sライン。価格は1317万円。撮影車両のボディカラーはウルトラブルーM
Sモデル専用にデザインされた開口の少ないシングルフレームグリルをブラックのマスクで囲む新しいフロントデザインを採用。大きく外側に張り出したホイールアーチによりSUVの力強さとワイドなスタンスを強調する
ほぼ全幅に広がるシルバーのディフューザーインサートが、後方に向かって滑らかに弧を描くスポーツバックのシルエットと調和するリアデザイン
普通充電とCHAdeMO規格急速充電に対応。150kW急速充電器ではバッテリ容量10%から80%まで約34分で完了する(バッテリの温度や残量、充電器などに応じて充電速度は異なる)
オプションとなる10スポークローターデザイン アンスラサイトブラック ポリッシュト 9.5J×21(Audi Sport)のアルミホイールを装着。撮影車両の装着タイヤはブリヂストン「ALENZA」(265/45R21)
前後タイヤ前には空気を整流するためのフラップを装着する
ボンネット内
インパネ
ステアリング
センターコンソールにはMMIタッチレスポンス付きMMIナビゲーションを備える
タッチ式のエアコンコントロールパネル
サラウンドビューカメラなどの操作スイッチ類
シフト
高解像度12.3インチカラー液晶フルデジタルディスプレイにさまざまな情報を表示するバーチャルコックピットを採用
コンソールのドリンクホルダー
シート表皮はダイナミカルレザー。フロントはスポーツシートとなり、S lineロゴが入る
リアにはドリンクホルダーと小物入れを備えるセンターアームレストを設置
オプションとなる4ゾーンデラックスオートマチックエアコンディショナーを装着すると後席からもエアコンの操作ができるようになる
ラゲッジ容量はVDA方式で528L。リアシートは20:40:20分割可倒方式
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:中野英幸