試乗記

本気のレース屋集団「無限」がSUVをチューニングしたら、気持ちよく走れるマシンに仕上がっていた件

SUPER GTやスーパーフォーミュラなどで活躍するレース屋集団の「無限」が手掛けるSUVを試乗してみた

 2023年に創業50周年を迎えた無限の起源はやはりレースの世界だ。ホンダのエンジンをベースに仕立てたFJ1300用エンジンの「MF318」でデビューウィンしたのを皮切りに、1975年にはシビックセダン・レーサー向けのアフターパーツの販売を開始。

 その後もシティターボレーサーの開発を行なったり、フォーミュラではF3000からF1で数々の優勝を飾ったり、近年ではスーパーフォーミュラでチームタイトルを獲得するなど、本気のレース屋集団である。

 一方で市販車向けの事業も1984年の「MUGEN CR-X PRO.」より本格的に開始。「HONDA CIVIC MUGEN RR」「HONDA CR-Z MUGEN RZ」「HONDA S660 MUGEN RA」などのコンプリートモデルを輩出したほか、さまざまなホンダ車に対して数々のカスタマイズパーツをリリースしている。

MUGEN CR-X Pro.(1984年)。ホンダのCR-X用にボディキット、エンジンパワーアップキット、サスペンションキットを発売
無限初のコンプリートカー「Honda CIVIC MUGEN RR」は、2007年に300台限定で発売
Honda CR-Z MUGEN RZ発表(2012年)
S660をベースにしたコンプリートカー「Honda S660 MUGEN RA」を限定660台で発売(2016年)

2024年4月の改良版「ヴェゼル」の乗り味はいかに?

 そんなレース集団がSUVをイジったらどんな世界になるのか? それが今回のお題である。そこでまず試乗したのはつい先日マイナーチェンジが行なわれた「ヴェゼル」だ。静粛性や乗り心地が飛躍した最新のヴェゼルは、一体どのように料理されているのだろう?

2024年4月に改良した「ヴェゼル」にはエアロ、ホイール、マフラー、パフォーマンスダンパーなどが装着されている

「Sports Style」をコンセプトとするこのヴェゼルには、フロントからリアまでアンダースポイラーが与えられているほか、リアにはウイングスポイラーやテールゲートスポイラーが備えられている。また、フロントグリル上にはデカールを追加することで、かなり引き締まったスタイルに変貌しているところも面白い。

フロントアンダースポイラーは、価格8万8000円(塗装済)/7万7000円(未塗装)。フロントグリルデカールは価格1万9800円
ウイングスポイラーは価格11万円(塗装済)/10万4500円(未塗装)。テールゲートスポイラーは価格11万円(塗装済)/10万4500円(未塗装)
ブラッククリアミラーフェイスの18インチアルミホイール「MDW」は2024年8月発売予定で価格4万9500円/本
e:HEV用スポーツサイレンサーは2WD/FF用も4WD用も価格16万5000円

 いかにも走りに振られた印象が強い。けれども中身の変更はわずかだ。1本あたり-3.2kgを達成する18インチアルミホイール、スポーツサイレンサー、そして前後に備えられたパフォーマンスダンパーといったところがチューニングしたポイントとなる。

パフォーマンスダンパーは、FF(2WD)はフロント/リア用2本セット14万3000円、4WDはリアのみの設定で7万1500円

 走らせてみるとフットワークはかなり軽快に改められており、運動性能も乗り心地もスッキリとしたフィーリング。おまけに微振動も軽減されている感覚がある。特に心地よかったのはステアリングの切り始めだった。わずかに切ったあたりからしっかりとした手応えが得られるように改められており、リアの追従性が高まった感覚が得られているのだ。これは高速道路のジャンクションなどに自信を持って入れる感覚で、SUVの腰高な感覚も怖くないところがうれしい。おそらく数々のエアロパーツやパフォーマンスダンパーのおかげだろう。また、爽快さが得られるエキゾーストノートも好感触だった。

ノーマルよりもリアの追従性が高まった感覚が得られている

改良前「ヴェゼル」向けサスペンションキットを試乗

 続いて試したのはマイナーチェンジ前のクルマに向けてリリースされる予定のサスペンションキットだ。新型は走りも乗り心地も改められ、特にリアのしなやかさが際立っている感覚があったが、マイチェン前のクルマはそうじゃなかった。フロントはユルい感覚があり、入力をそこでいなしている感覚があるが、コーナリング中に路面が荒れていたりするとバウンスしてしまうし、リアは逆に旋回重視で突っ張った感覚があった。それをどう払拭できているのかが興味深い。

開発中のサスペンションきっとはほぼ完成形とのこと

 走らせてみるとフロントのしっかり感はかなり高められた感覚で、意図した通りに走ってくれるし、懸念材料だったバウンスもかなり軽減している。一方でリアはしなやかさが生まれ、感覚としては前後入れ替わったかのようなフィーリングがある。いまのところパフォーマンスダンパーの設定はないらしいが、この足まわりキットだけでもかなりのレベルに引き上げられている感触があった。

バウンスもかなり軽減していた

ちょっと大人でちょっとスポーティに仕上げた「Z-RV」

 続いて乗った「ZR-V」は、ヴェゼルと同様にアンダースポイラー類が充実。テールもガーニーフラップやテールゲートガーニッシュが与えられている。さらに、ベースモデルより1インチアップとなる19×8.5J +50のホイール「MDC」を装着しているところがZR-Vの特徴だ。

Z-RVは「エモーショナル アーバンスポーツ」をコンセプトに開発
フロントアンダースポイラー、サイドスポイラー、リアアンダースポイラーをまとめた「スタイリングセット」の価格は、クリスタルブラック・パールが26万4000円、未塗装が23万1000円

 ベースモデルは18×7.0J +50だから、見た目の安定感の違いは歴然。タイヤサイズも225/55R18から235/45R19に改められている。また、新型ヴェゼルと同様にパフォーマンスダンパーを前後に装備。ステンレス製のスポーツエキゾーストシステムはテールピースだけでなくセンター部もまとめて交換するスタイル。

19インチ×8.5J(インセット50)のアルミホイール「MDC」。価格は1本5万8300円

 ZR-Vは走り出しからノーマルとは違い圧倒的な重厚感が得られている。ホイールは1本あたり0.2kg軽くなっているらしいが、やはりタイヤが太くなったことが相当に効いているのだろう。それを後押ししているのが巡行時に野太いサウンドを展開するマフラーだ。

オールステンレス製の「スポーツエキゾーストシステム」は価格33万円で、Zグレードのe:HEVとガソリン車に適合

 パワーユニットのe:HEVは巡行時にかなり低い回転で回っているようだが、その際に重低音を常に轟かせてくれるのだ。いかにもチューニングモデルといったこれらの世界観は、この手のクルマが好きな人々のハートをわしつかみにすることだろう。けれども高速に乗ってエンジンを回してみるといつまでも重低音じゃなく、爽快な高音が感じられる。この二面性はなかなか面白い。

リアスタイリングにスポーティさをもたらす「テールゲートガーニッシュ」。価格はクリスタルブラック・パールとプラチナホワイト・パールが8万8000円、未塗装が7万7000円
標準装備のテールゲートスポイラー上部に装着する「ガーニーフラップ」。エアロを装着した状態での前後のバランスを考え空力解析を行い開発し、ダウンフォースを発生させることでリアの接地感の向上に寄与。価格はクリスタルブラック・パールが3万5200円、未塗装が2万4200円

 フットワークは常に頼りがいのある感覚で、高速コーナーでも安定感は抜群。ガーニーフラップのおかげもあってか、ベタっと地を這うかのようなフィーリングをSUVで生み出しているところが好感触だ。ステアフィールも手応えが常に一定しており、リアの追従性も良好。けれども、乗り心地が悪化するようなこともなく、高速道路の継ぎ目などをうまくいなしていたことが印象的だ。

無限のZ-RVは“ベタっ”と地を這うかのようなフィーリングをSUVで生み出していた

 冒頭にも述べたように、レーシング直系の無限。それだけにどれだけガチガチなSUVが登場するのかと身構えていたのが正直なところだ。けれども、どれもストリートに合わせた絶妙な仕上げ。SUVを理解し狙ったフィールドにきちんと合わせ込んでパーツを仕立ててくるところはさすがだ。

やはりレース屋が手掛けるとSUVもスポーティに仕上がるんだなと納得
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛