試乗記
プジョーのSUVクーペ「408 GT ハイブリッド」で500km強のロングドライブ そこで見えた価値とは
2024年7月9日 08:25
「408 GT ハイブリッド」はプラグインハイブリッド
プジョーのスタイリッシュなSUVクーペである「408 GT ハイブリッド」で500km強のロングドライブを行ない、そのグランドツーリング性能を確かめた。
ということでまず軽く408シリーズの立ち位置からおさらいすると、これはCセグメントのクロスオーバー的なSUVクーペだ。そもそもプジョーの“ヨンマル”シリーズ(3桁の40X系)といえば、かつてはDセグメントのセダン/ワゴンであり、クーペも派生するモデルだった。しかしその役目は407シリーズで終わり、現在はフラグシップモデルである「508」が、セダンのみのラインアップでこれを受け継いでいる。
かたや408世代は308をベースとしたCセグメントのミディアム・セダンとして2010年に生まれ変わったが、ローカル・モデルだったことから日本には2代に渡って導入がなされなかった。しかし現行シリーズがグローバル・モデルとなったことで、2023年夏から日本でも販売が開始されたという運びだ。
今流行りのSUVクーペ。Cセグメントと銘打ちながらもそのサイズは4700×1850×1500mm(全長×全幅×全高)と、かなり大柄だ。身近な例で比べるとホンダ「ZR-V」(4570×1840×1620mm[同])よりもワイドで長いが、背は低い。
そういう意味でいうと、小さなクラウン・クロスオーバーとも言えるかもしれない。背の高いセダンというべきか、平べったいSUVというべきか。もちろんこれには昨今のSUVブームが大きく影響しているわけだが、かつてはセダン/ワゴン/クーペと作り分けていたボディをデザインの力で合理化するという、いかにもフランスらしいアバンギャルドなやり方とも捉えることができる。
そんな408は、ベーシックな「アリュール」と上級仕様の「GT」が1.2リッター直列3気筒ターボのガソリンエンジン(130PS/230Nm)を搭載。対して今回試乗した「GT ハイブリッド」は、1.6リッター直列4気筒ターボ(180PS/250Nm)に12.4KWhのバッテリとモーターを組み合わせたプラグインハイブリッドモデルとなっている。そのトランスミッションは全車8速ATで、駆動方式も全車FWDだ。
またGT ハイブリッドはバッテリのみで64kmの航続が可能であり(WLTCモード)、6KWhの普通充電なら2時間半でフルチャージできる。ただし急速充電には対応していない。
その魅力は独創的なデザインとグランドツーリング性能の良さにあり
一路目指すは、避暑地の軽井沢。男3人のロングドライブはムードのかけらもなかったが、1泊2日の小旅行を想定するにはちょうどよい人と荷物の量だった。ちなみにリチウムイオンバッテリを床下に備えるトランクは、ガソリンモデルの536Lに比べて471Lとわずかに狭いが、大人3人分の荷物と撮影機材を積み込むキャパ的には過不足なしだ。そしてシートを倒せば、最大で1545Lの容量が得られる。
お昼時までもうひと踏ん張り、という都内の国道はそこそこ慌ただしく混み合っていた。そんな中を408 GT ハイブリッドは極めて静かに走った。当日はバッテリが満充電からのスタートだったので、ハイブリッドモード(いわゆるノーマルモード)でもモーターを積極的に使っていた。確かにエンジンは時おりまわっているようだが、その音すら小さく雑味がない。窓を開けるとヘッドまわりのメカニカルノイズが聞こえてきたから、クルマ自体の遮音性もかなり高いのだろう。
モーター駆動の特性よろしく、その加速は小さなアクセル開度でもリニアで滑らかだ。ただし1モーター(定格出力30kW/最高出力81kW/最大トルク320Nm)で車重も1730kgあるから、アクセルを大きく開ければ別だが、その出足やふとしたダッシュに特段パンチ力は感じない。
トランスアクスルは湿式多板クラッチを採用した8速ATとモーターの組み合わせで、あえてラフに加速すると変速時の断続感が出るものの、アクセルを滑らかに合わせていけばその変速も同様に滑らかである。
こうしたパワートレーンの静粛性に上質さを上乗せするのは、腰のある足まわりだ。シトロエンほどソフトさを強調しないが、小さなプジョーたちほどスポーティではないサスペンションは、中性的かつ都会的な乗り味。タイヤも19インチとほどよいサイズで、バネ下での収まり感がいい。空力を意識したであろう205幅のトレッドと、55扁平のエアボリュームが、荒れた路面や首都高速道路の継ぎ目を上手にいなしてくれる。
街中でも快適な408 GT ハイブリッドだが、その素性が光るのは高速巡航だ。
ドライブモードを「SPORT」に切り替えると、エンジンが高回転側に振られてちょっとした臨戦態勢に入る。アクセルを深めに踏み込むと同時にモーターのアシストが加わり、キレのあるサウンドに対してラグなく加速する様はとても心地良い。燃費コンシャスにコーストさせながらのクルージングも至って快適な408GT ハイブリッドだが、いざアクセルを踏み込んだときにほどよくメリハリを効かせるあたりはやはりプジョーだ。
一方、パドルレスポンスが鈍いのは少しばかり残念だった。せっかくパワーユニットがリニアなのに、シフトダウンで前方との車間を保ったり、加速体制に入る際にパドルを操作したりするとラグが生じてしまう。減速時Gの調整にはBボタンの回生ブレーキがややマッチする。
カーブでは緩やかな中・低速コーナーが絶品だ。それまでほどよい硬さで直進安定性を保っていた足まわりは、荷重が掛かるほどにじわりとほどけていく。4つのタイヤに荷重が上手に載っかり、ちょっと独特な小径ハンドルでそのラインをトレースしていくと、狙い通りにカーブを曲がれる。
心地良いロール感とシートのホールド感。吸い付くようなコーナリングGの気持ち良さ、この適度なバランス感覚こそがフランス車のすばらしさだ。リア・トーションビームまわりの剛性不足をいなすために緩く取られた、リバウンド側のダンピング不足が出ない程度にスムーズかつスポーティに走らせると、その運転がすこぶる楽しい。
というわけで往路はアッという間に約250kmの道のりを走り切り、撮影も終えてその日の宿へ。まったく疲れることなく翌日を迎え(ココ重要)、さらに別の試乗会へとハシゴして、そこから再び東京を目指した。
今度はリアシートにも座ってみたが、フロントのふっかり具合や上質な乗り心地と比べてしまうと、後ろはややチープだった。シートそのものは肉厚なのだがNVH(ノイズ・ハーシュネス・バイブレーション)がやや安っぽいのは、やはりトーションビームのせいだろう。マルチリンク至上主義ではないけれど、もしリアサス剛性がもう少し高く乗り心地が上質ならば、天地に狭いグラスエリアの圧迫感も見逃せたかもしれない。
総じてプジョー408 GT ハイブリッドは、フロント2座に対してはかなり上質なGTエクスプレスだと言えるだろう。ただCセグメントのSUVクーペとして考えれば広くて実用的なリアスペースを備えた1台だとも捉えられるし、どこに視点を置くかで見方は変わる。
ちなみにその燃費は、537km走ってメーター読み18.5kmLをマークした。ただその燃料はプレミアムガソリンだ。また静粛性は極めて高いが、よりEVに近い乗り味を期待するなら、国産プラグインハイブリッド車たちの方が良いだろう。
それでは何が408 GT ハイブリッドの魅力かと言えば、やはりその独創的なデザインとグランドツーリング性能の良さだろう。電動化しても、やはりプジョーは肉食獣(つまりライオン)。現代的にソフィスティケイト(洗練)されたふりをしながらも、そこに牙を隠し持っているのだと思う。