試乗記
プジョーの新型「408 GT HYBRID」に試乗 静かで軽やか、心地よく走れる“新種のライオン”
2023年7月14日 07:00
「解き放たれた新種」というキャッチコピーがとても印象深い、プジョーの新型408。名前に「40~」と使われるのは、始まりとなった401の登場が1934年という長い歴史があり、1955年に登場した403では初めてピニンファリーナデザインを採用したり、405では1989年、1990年とダカールラリー2連覇を果たしたりと、今日のプジョーを創り上げてきた重要なミドルクラスのモデルとなる。
ただし、その流れを汲む407は2011年に生産を終え、役割としての後継は508に譲っているので、この新しい408はやはり「新種」という表現がぴったりというわけだ。
プロポーションは近年欧州で人気が上がってきている、クーペSUVとも、ハイリフト4ドアファストバックとも言える、前衛的なものとなっている。日本では新型クラウンのクロスオーバーを思い浮かべると分かりやすいが、408は地上高が170mmと高めに与えられながら、全高は1500mmに抑えられるという、その中でもとくにクーペ寄りのスタリイングが強調されているように感じる。
そしてフロントマスクのデザインは、最新世代のプジョーモデルに共通する猛獣モチーフから、一歩抜け出した印象を受けた。GTグレードに装備される、ボディ同色のグリッドが左右のフェンダーに向かって溶け込むように配される「フレームレスグリル」は、未来にタイムスリップするときに流れる光のようだし、ライオンの牙をモチーフとした「サーベルランプ」はよりスマートに。これはLEDデイタイムランニングランプとなっていて、走行状況に合わせて自動で照射をコントロールするマトリクスLEDヘッドライトと相まって、鋭い視線で前方を捉える。308から新しくなったライオンエンブレムも、さらに存在感を増しているようだ。
フロントフードをはじめ、彫刻のようにボディを自由に彫ったような造形は、光の加減によってさまざまな陰影をつくる。フロントウィンドウの潔い傾斜の先に緩やかなルーフラインがリアへと流れ、そこにはライオンの爪をイメージした鋭い3本LEDテールランプが待ち構える。同じライオンでも、408のそれは光を受けて発光するような、孤高の存在であるような錯覚を覚えた。実車を見るまでは、同じプラットフォーム「EMP2」を採用するシトロエン・C5Xのプジョー版のようなイメージだったが、こうして見ると、全長がC5Xより105mm短いこともあり、「デザインも商品企画も開発も、まったく別のところで進められてきた」という担当者の話にも納得だ。
しかも、インテリアを覗いてみると「これは……」。308で見た光景がよみがえる。ブラックを基調としたシックでスタイリッシュな空間に、助手席との間を立派なセンターコンソールが隔て、コクピット感がしっかり得られるモダンな運転席。お約束の小径ステアリングと、インパネ中央の10インチのタッチスクリーンは、デジタルショートカット機能である「i-Toggle(トグル)」がセットされて使いやすさをアップしている。
308と違うのは、3Dのメーターにクラスターがついているところ。そして、レザーとアルカンターラのコンビとなるシート表皮や、ドアのインナーパネルなどにもレザーやアルカンターラがあしらわれた室内全体の雰囲気として、重厚さと上質感が高まっているように感じる。
室内スペースとしては、前席のゆったりとした広さはもちろん、後席の足下スペースもしっかりと余裕が確保されている。これはホイールベースが2790mmと長いためで、同じホイールベースを持つのは全長が90mm長いフォルクスワーゲン・パサート。足の長い人でもくつろいで過ごせる後席だ。ただルーフが低いためか、頭まわりのスペースはややタイト。地上高が高いため視点も高まって圧迫感はないが、どちらかというとやはりSUVに乗っている感覚よりは、ファストバックに近いのではないだろうか。
408に用意されたパワートレーンは、1.2リッターのガソリンと1.6リッターガソリン+モーターのPHEV。ガソリンモデルにはエントリーグレードの「アリュール」と上級グレードの「GT」があり、試乗したPHEVは「GT HYBRID」のみの設定だ。110PSのフロントモーターと8速ATの組み合わせで、システム最高出力は225PS。荷室床下に、容量12.4kWhのリチウムイオンバッテリが搭載されている。EV走行距離は66km(WLTCモード)で、プリウス PHEV(87km)やRAV4 PHEV(95km)よりは少ないものの、ラングラー PHEV(42km)やグランドチェロキー PHEV(53km)などと比べると少し長く走れそうな感覚だ。
このパワートレーンは電池残量があるうちは、スポーツモード以外では基本的にEV走行を優先するので、出だしはとても静か。そして、見た目や車両重量1740kgという数字から想像していた予想を、いい意味でとんでもなく裏切ってくれるほどの軽やかさに驚いた。「軽快」という言葉はときにチープさの裏返しにもとられるものだが、408はそうではなく、このクラスにふさわしい落ち着いた質感や滑らかな操作感はしっかりと感じさせながら、驚くような軽やかさを感じさせてくれるところに感心しきり。
ただしこれはパワートレーンがどうこうというよりも、ボディ剛性をしっかり上げてきたところにも理由があるらしい。実はこのプラットフォームは「EMP2」と言ってもVirsion3という最先端のものに進化していて、超高張力鋼などの使用範囲を大幅に増量するなど、軽量化と高剛性化を徹底して行なったものだという。地上高の高さや車重などものともせず、こうした軽やかさを出しつつ、コーナリングでも不快なロールなどがないのはこうした剛性感の賜物かもしれない。
さらに、意識してエネルギーチャートを確認していなければ、いつエンジンがかかったのか気づかないほどのシームレスな切り替わりと、エンジンの静かさも予想以上だった。高速道路に入ってからも、合流などで強めの加速をした時に少しエンジン音が届くくらいで、心地よくクルージングさせてくれる。直線での加速の伸びやかさも爽快で、これはこのデザインながらcd値を0.29という優秀な数値に抑えているところもあるのだろう。
そして、408の足まわりはフロントがマクファーソンストラット、リアがトーションビームというサスペンションを採用し、タイヤは全グレードが205/55R19サイズ。試乗車はGT専用のアルミホイールに、ミシュランのe・プライマシーを履いていた。その乗り心地も唸るほど、お見事。市街地はもちろん高速道路でもフラットさを維持してくれて、路面のギャップも一発でいなす。前席ではそうだったけど、後席に座ったら変わるかも? と思って後席でも試乗してみたが、違いはなく快適だった。「プジョーといえば」的に語られる猫足のフィーリングとは違うけれど、これはこれでやはり新種のプジョーとしてしっかり煮詰めてきていると感じる。
また、小径ステアリングの操作感が「こんなに軽くて大丈夫?」と思うほどスルスルと軽いのだが、これがイヤな軽さではなく気持ちよさにつながっているところも、不思議な感覚だ。今回はガソリンモデルに試乗できなかったのだが、担当者いわく、まったくPHEVとはキャラクターが異なり、軽快感が強いとの話。とすると、PHEVではスポーティさを感じるシーンは少なかったので、おそらくガソリンモデルの方がもっとキビキビとした一体感があるのではないだろうか。
価格としては、ガソリンモデルのアリュールは429万円。PHEVは629万円なので200万円の差がありながら、アリュールにもPHEVと同等のADAS装備がそろっているのは良心的だ。冒頭のあいさつでStellantisジャパンの打越社長が「ちょっと安く設定しすぎたかもしれない」と冗談を言っていたが、昨今の他車の価格を鑑みると、確かに408は大穴的なお値打ちモデル。ラゲッジスペースがガソリンで通常536L、PHEVで471Lあるので、ファミリーでも使いやすいガソリンモデルを探している人や、大きすぎないPHEVモデルを探している人にも、ぜひ注目してもらいたい1台だ。