試乗記

ホンダ「スマチャリ」搭載のeバイク「RAIL ACTIVE-e」に試乗してみた

2023年7月6日 開催

ワイ・インターナショナルが発売するeバイク「RAIL ACTIVE-e」の試乗会にて、ホンダが開発したeバイク制御システム「スマチャリ」を体験してきた

 ワイ・インターナショナルが全国に展開するスポーツサイクルショップ「ワイズロード」から発売される「RAIL ACTIVE-e(レイルアクティブイー」は、本田技研工業が開発した「スマチャリ(SmaChari)」システムを搭載したクロスバイクタイプのeバイクである。

 eバイクとはいわゆる電動アシスト自転車であるが、買い物などを主な用途とするタウンサイクルの電動アシスト自転車ではなく、趣味性が高く走りを楽しむことも求めたモデルを指すという認識が一般的。そしてアシスト特性も楽にこぐことを狙った強めのアシストを主体とするものでなく、走行状態や乗り手の脚力に応じたプラスアルファのパワーを自然な感じで伝えるものとなっている。

ワイ・インターナショナルが製作し、ワイズロードより発売される「RAIL ACTIVE-e」。7月21日より予約受付がスタートする。予約はワイズロード各店舗のほかオンラインにて行なう。さらに7月21日から全国の店舗でRAIL ACTIVE-eの試乗も開始される。RAIL ACTIVE-eの価格は22万円。発売は2023年10月下旬予定

 さて、今回紹介するRAIL ACTIVE-eだが、このモデルは「コーダーブルーム」という自転車メーカーが発売している「RAIL ACTIVE」というペダルで漕ぐ一般的なクロスバイクに、ワイ・インターナショナルが取り扱うモーター、バッテリなどを組み込んだ後付けタイプのeバイクだ。

 eバイクはモーターの力のみで走る「電動バイクではない」ので、ペダルを踏む力、クランクを回す回転数や速度に応じたアシストを行なう必要がある。また、日本にはアシストに関する法規もあるので、その枠にあったアシスト性能を設定することが求められるが、そこに使われている技術がホンダが開発した「スマチャリ」というシステムだ。

「スマチャリ」は本田技術研究所 ソリューション開発センターに所属する野村真成氏が、ホンダが従業員向けに行なっている新事業創出プログラム「IGNITION」に応募し採用されたもので、内容は後付けタイプの電動化ユニットにて既存の自転車をeバイク化する際の制御を行なうためのセンサーやシステムと、ライダーへの情報を伝えたりアシスト特性の設定などを、日本の法規にあった状態で可能にするスマートフォンアプリの開発、商品化だ。

本田技術研究所の野村真成氏
スマチャリアプリのメイン画面。RAIL ACTIVE-eはアプリを入れたスマホがシステムのキーとなるので、登録したスマホでなければシステムが立ち上がらないようになっている

 つまり、「RAIL ACTIVE-e」とは、コーダーブルームの「レイルアクティブ」という自転車+ワイ・インターナショナルの電動化パーツ+ホンダの「スマチャリ」という3つの商材によって構成されたワイ・インターナショナルオリジナルのeバイクだ。そして販売やアフターサービスを行なうのがワイ・インターナショナルのスポーツサイクルショップ「ワイズロード」となっている。

アシスト特性は絶品のRAIL ACTIVE-e

 スマチャリ搭載のRAIL ACTIVE-eは2023年3月に発表されているが、eバイク部分のパーツ調達の遅れなどにより試乗車の準備ができていなかったが、7月6日に待望のメディア向け試乗会が開かれた。

 この試乗会にCar Watchも参加したのだけど、会場には自転車系媒体はもちろんのこと、クルマ系、オートバイ系、そしてガジェット系と様々なジャンルのメディアが来ていたことから、RAIL ACTIVE-eへの注目度が高いことが感じられた。

 試乗の前にはワイ・インターナショナル マーケティング部の青木亮輔氏よりRAIL ACTIVE-eの説明が行なわれた。

ワイ・インターナショナルの青木亮輔氏
RAIL ACTIVE-eの紹介。コーダーブルームのレイルシリーズには多くのモデルがあるが、レイル アクティブは通学や通勤に向いた装備を持つエントリーモデル。なお、RAIL ACTIVE-eは国家公安委員会が管理する「型式認定」の審査に合格した「法規適合車両」だ
RAIL ACTIVE-eは7月21日より予約開始となるが、同日からワイズロード各店舗で試乗も開始される

 青木氏の説明のあとはホンダの野村氏によるスマチャリアプリの解説が行なわれた。今回はスマチャリのアシスト特性やアプリの機能が実走で体験できる初めての機会なので、この点については以下で紹介していく。

 スマチャリのアプリは主に5つの画面から構成されている。内容は「メインメニュー画面」「走行ログ画面」「メーター画面」「地図画面」「アシスト設定画面」で、アプリを立ち上げた際に最初に表示されるのはメーター画面だ。

 メーター画面の表示内容は自車の現在地が入っている地図、速度、消費カロリー、走行距離となるが、この地図にはホンダの4輪用ナビゲーションから収集されたデータから周辺道路の危険箇所(クルマが急ブレーキを踏むことが多い地点)を表示する機能もある。

 自転車は車道を走るのが基本となっているだけに、クルマ利用時の危険箇所はそのまま自転車にも関係してくること。それだけにこの表示が出る意味は大きいものと言えるだろう。なお、こうした自転車の安全性を高める機能はアプリのアップデートにてさらに拡充していくとのことだ。

スマチャリアプリの紹介。スマホ画面で表示するのは主にこの5つ
アプリ起動で自転車と通信、接続。これでアシストユニットの電源がオンになる。これをスマホキー機能と呼ぶ。メーター表示は速度、出力、消費カロリーなどが出る
注意ポイントも表示された実際の画面

 続いて紹介されたのが「アシスト設定画面」。この画面で特徴的な機能が乗り手や走行シーンにあわせて出力をすべて自動で調整するAIモード。登り坂で強めのアシストを行なうのは当然として、コーナーリング時や徐行しているときにはアシストのレベルを下げると言った綿密な制御も行なうそうだ。

 また、さまざまなアシストの特性を試してみたいという人に向けてAIモードのオフ機能とパワーおよびレスポンスの設定を4段階で調整できる機能も持たせている。

アシスト設定画面。アシストのオンオフ、AIモードのオンオフのほか、アシストの最大値の調整を行えるパワー設定に出力の立ち上がり特性を調整できるレスポンス設定もある。さらにスタート時に急にパワーが立ち上がることで意図しない急発進がおこらないよう、急発進抑制制御も装備している
実際のアシスト設定画面。AIモード時はパワー、レスポンスのレベル表示が走行時の状況に合わせて変化する
AIモードをオフにしてパワー設定、レスポンス設定を変更したときの画面。項目のボタンをタップすることで変更できる
サブメニュー画面からアプリ設定を選ぶと走行時にスマホ画面の操作ができないようにできる。また、走行中は一定時間スマホの操作をしないのだが、その状態でも画面が読めるよう常時点灯させる設定もできる
サブメニュー画面
アプリ設定画面。このスイッチはオンにしておくのが基本形
こちらは走行ログ管理の画面。eバイクで走行した日にマークが付き、走行時間、距離、消費カロリーの積算値が表示される
メインメニュー画面。フレンドとはスマチャリ同士でフレンド登録をすることで、それぞれの位置の共有などもできるコネクテッド機能

ロードバイク乗りが煮詰めた幅広い車種に適合するアシスト特性

 RAIL ACTIVE-eに採用されるスマチャリではあるが、これはRAIL ACTIVE-e専用のシステムというわけではない。

 スマチャリは多様化、高性能化する自転車をさらに進化させ、さらに便利に、そして安心して使えるようにすることを目的にとした既存の自転車用をeバイク化した際の制御システムなので、今後はRAIL ACTIVE-e以外のスマチャリ搭載eバイクの登場が予想される。

 これは開発時点で織り込み済みのことであるが、ほかの車種に展開するとしてもシステムを車種ごとに作り替えるものではない。

 そのためスマチャリでは、制御システムの中身や自転車側に装着するセンサーを一般的なeバイクより増やすなど、制御の高度化を行なうことで、車両にあったアシスト特性の実現を可能としているのだ。

 なお、スマチャリのアシスト特性開発を担当するホンダの服部氏という人物は趣味でロードバイクに乗るサイクリストである。しかもとくに長距離走を好むそうで、年間のロードバイクでの走行距離は1万kmを超えるという。

 そのように自転車の乗り込んでいる人が設定するアシスト特性なので、ペダルの踏みこみにマッチしたパワー感や立ち上がり特性が自然なのだけでなくアシストを受けつつも自分で漕いでいる感が味わえるようになっているのだ。

試乗会に参加したスマチャリ開発陣。左から大貫博崇氏、野村真成氏、服部 真氏

高価格帯eバイクに匹敵する乗り味のRAIL ACTIVE-e

eバイクとしてはエントリーモデルの位置付けながら、乗り味は本格的なスポーツeバイクと同じく自分の足で漕ぐことを楽しみつつ、絶妙に助けてくれるという「質のいい」アシスト特性を持っていた

 さて、RAIL ACTIVE-eの試乗だ。今回は平坦路での走行のほか、会場前に道路が弧を描く形状の全長がわりと長い橋があったので、その登り坂でアシスト特性を試すことができた。

 最初はアシストオフで走行。RAIL ACTIVE-eは8段変速機構が付いていたので最初は中間あたりのギヤを選んでいたが、このギヤでは強めにペダリを踏む必要があり、橋を登りきるのはそれなりに疲れを感じた。ただ、RAIL ACTIVE-eはeバイクとしては軽めな約15kgと言う車重なので、車体の重さはそれほど感じなかった。

 とはいえ気温が高かったので汗もドッと出た。これが通勤や通学という目的であったなら、着替えがないなどの理由から自転車の利用は考えないものかもしれない。

 そこで登り返しの復路でAIモードをオンにしたところ、ギヤポジションはそのままでも、平地を走っているのとほぼ変わらない感じでペダリングができ、心拍数もほぼ上がらなかったので汗も余分にかくことがなかった。

 それだけにそのまま漕いでいると「簡単に走れた」というだけの感想になってしまうので、坂の途中でいったん停車してからの坂道発進を試してみたところ、ペダルの踏みはじめに一瞬だけ重さを感じたあとスムーズにパワーが立ち上がる印象だ。

10km/h未満のときはペダルを漕ぐ力に対して約2倍のアシストまで許可されている。そして速度が上がるとアシストを弱めるが、eバイクではこの枠のなかで「アシスト特性の味つけ」に凝ることで、漕ぐ楽しみを残しつつ、アシスト力を使えるようにしている。なお、日本の法律ではアシストの上限は24km/hまでとなっている

 ほかのeバイクでは踏みはじめから急激にパワーが立ち上がるものもあって、これはこれで楽なのだが自転車のフィーリングとしては異質だし、スタート時に不自然で急激な加速をするのは危険でもある。

 それに対してスマチャリのアシスト特性はあくまで乗り手の漕ぐ力をサポートするようなパワーの使い方。モーターで押し出すのではなくて脚力が強くなったようなイメージで、アシストの効き方は乗り手のペダルの踏みこみが強まったような感じだ。

 このフィーリングは平坦路でも同様で、モーターは介入しつつも上手に存在感を消しているという感覚を受けるので、アシストを受けつつ「漕ぐことが楽しめる」という乗り味に感じた。

 こうしたアシスト特性は海外の有名スポーツバイクメーカーが出している30万円~40万円クラスのeバイクで体験したことがあるが、そんな乗り味を「通学や通勤に向いた」と紹介されるeバイクで味わえるのはちょっと驚きだ。

既存の自転車をeバイク化するのでバッテリも装備。ボトルケージ取り付け用のダボ穴を利用するのでフレームは無加工で済む

 なお、途中でAIモードをオフにしてパワーやレスポンス設定を変更してみた。パワー設定については個人的な感覚では下から2目盛りの固定だと、適度な重さが出るのでeバイクといっても多少の負荷をかけてトレーニング的に乗りたいというときにちょうどいいと感じた。3目盛り固定では筆者の場合、アシストと脚力のバランスがとれていたので、自転車側のギヤチェンジを状況に合わせて使っていくとこの位置固定でも快適に走ることができた。

 次にレスポンス設定を変えてみた。レスポンス設定とはペダルの踏み込んだときからアシストが立ち上がるまでの反応速度を調整するもので、実はかなりマニアックな機能。それだけに目盛りを変えても発揮と変わったことを認識しにくいが、坂道を登るなど一生懸命にペダリングしている際、一度ペダリングを止めて、再び漕ぎ出すときはレスポンスをよくしている方が明らかに走りやすいのがわかった。

 また、平坦路でのゆっくりとした走行ではレスポンスを少し下げた方が軽い踏みこみで速度調整をするようなシーンではバイクコントロールがしやすいように感じた。

 とはいえ、これらの感覚はとても繊細なものなので、ここまで調整できるようにしていなくてもなんら不満はないと思う。それなのにわざわざ調整できるようにしている点をスマチャリ開発陣に聞いてみたところ、乗り味を評価されるクルマやバイクを作るホンダだけに、eバイクであってもスポーツ自転車らしい乗り味に仕上げることについては意識しているとの答えだったが、こういう価値感がeバイク界に広まってくれればeバイクはもっと楽しい乗り物になるだろう。

 筆者は趣味でeバイクに乗るだけに、RAIL ACTIVE-eをきっかけに乗り味のいいスマチャリ仕様のeバイクが増えることに期待してしまうのだった。

深田昌之