試乗記

ヒョンデの日本未導入EV「アイオニック 6」試乗 ハッチバックのアイオニック 5との違いは?

アイオニック 6

オーストラリア仕様のアイオニック 6に試乗

 ヒョンデのEVモデル「アイオニック 5」が日本にやってきてから約1年が経ち、街でもときおり見かけるようになった。日本初のオンラインのみというユニークな販売方式にもかかわらず、すでに700台以上のアイオニック 5が走っている。まだまだ認知度が低いものの健闘していると言ってよいだろう。ヒョンデの次のモデルも気になるが。試験的に日本に導入された4ドアクーペの「アイオニック 6」に試乗するチャンスがあったので紹介しておこう。

 アイオニック 6は5と同じグローバル・ユニバーサル・プラットフォームを使ったBEV(バッテリ電気自動車)。しかし単純に5のクーペ版ではなく、ホイールベースを50mm短くした2950mmで俊敏性を重視し、バッテリも72.6kWhから77.4kWhと容量を大きくしている。605Nmの最大トルクは変わらないものの、最大出力は225kWから239kWとわずかに上がっている。

 試乗したのはAWD。アイオニック 5同様にRWDとAWDが選べる。装着タイヤはピレリ「P ZERO」で245/40R20とワイドなサイズを採用する。もっとも今回試乗するアイオニック 6はオーストラリア仕様で、日本に導入された場合の出力やサスペンションなどのスペックは決まっていない。

今回試乗したのは日本未導入のBEV(バッテリ電気自動車)「アイオニック 6」。4輪駆動モデルと後輪駆動モデルの設定があり、試乗車は4輪駆動モデル。バッテリサイズは77.4kWhで、モーターの最高出力は239kW、最大トルクは605Nm。航続可能距離(欧州WLTP)は519km
アイオニック 6のボディサイズは4855×1880×1495mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2950mm
ハッチバックモデルのアイオニック 5とは全く異なるフロントデザイン
タイヤはピレリ「P ZERO」でサイズは245/40R20
ランプの存在感があるリアまわり
ミラーやシャークフィンアンテナはスケルトン仕様

 インテリアのレイアウトはアイオニック 5と同じで、ダッシュボード上に12インチの2面の大型ディスプレイが並ぶ。ちょっと違うのはドアミラーがカメラになり、モニターはダッシュボード左右に配置される。カメラの解像度は高くクリアに見えるがカメラのステーが長く出ているので、ついそちらに目がいってしまう。慣れが必要そうだ。レンジセレクターはアイオニック 5同様ステアリングコラム右側にはえており、上にまわすとD、下にまわすとRとなる。レバーの頭を押すとパーキングになる。

アイオニック 6のインテリア

ロングホイールベースのクルマとは思えないほど俊敏な動き

 試乗車のバッテリは68%ほど充電されており、満充電なら欧州WLTP規格で519km走行可能とあるため、表示では約360km以上は走れる。横浜から千葉の想定試乗ルートなら十分な残量だ。「日本の急速充電にはまだ対応してないので、何かあったら連絡ください」との声に送り出されてサービスセンターを後にする。

 スタート時のクリープはあまりないので、アクセルを微妙に使いながらジワリと走り出す。ボディサイズは4855×1880×1495mm(全長×全幅×全高)と大きいが、ハンドルを握ると意外とコンパクトに感じる。キャビンが曲面で構成されている影響もありクーペらしい感覚だ。

 すぐに高速道路に入る。BEVの加速力は力強く、交通の流れに乗るのは簡単だ。アクセルレスポンは上々、しかも過敏ではないのが好ましい。

 ピレリ P ZEROは245という太いサイズだがパターンノイズが小さい。ロードノイズは残るが走行中の音は低音でキャビンはBEVらしく静かなものだ。

 ハンドルについているドライブセレクターはECO、NORMAL、SPORT、長押しでSNOWモードを選択できる。ECOモードでも交通の流れに乗るのはラクで中間加速も不満はない。日常的にはこのモードでも十分だ。左右のパドルは左側を引くと回生力の強いi-ペダルがONに、右パドルを引くとOFFになり、市街地でもすぐ使えるよう設定されている。またSPORTモードではアクセルレスポンスが高くなり加速も鋭い。

 後方確認はついドアミラーの位置に目をやってしまうが、視線移動の少ないモニターは暗いところでも明るくクリアに見える。ただし慣れないと遠近感をつかみにくいのがたまにキズ。

 乗り心地は硬め。荒れた舗装路面になると少し鋭角的な突き上げがあり、またショックアブソーバーの減衰力が高めの印象だ。もっとも試乗車はオーストラリア仕様なうえ、各部のあたりもついていない新品というハンディもある。

 一方、ハンドリングは低重心を活かしてロールの少ない安定した姿勢で維持する。ハンドルレスポンスも早く、ロングホイールベースのクルマとは思えないほど俊敏な動きだ。アイオニック 5に比べて全高が低いのもこのクルマの強みでスポーツカーのような感覚は期待以上だった。荒れた路面では跳ね上げられるときもあるが、その場合の上下収束も早く不安感はない。欲を言えばハンドルから伝わるフィードバックがもう少しほしい。コーナリング中に保舵している感覚が薄いのだ。

 目的地でアイオニック 6を止めてじっくり眺める。一見、緩い曲面で優雅に見えるがルーフが長く、サイドラインもリアにいくほど下がっていく挑戦的なデザインだ。キャビンは想像するよりも広く、前席はもちろん後席もヘッドクリアランスが十分に取れて、大人4人が余裕をもって座れる。前席でシートを合わせても後席のレッグルームは足を延ばせるほどある。アイオニック 5より50mm短いホイールベースとはいえ、BEV用のグローバル・ユニバーサル・プラットフォームの恩恵だ。

 キャビンの解放感はアイオニック 5ほどないがクーペらしい引き締まった感触だ。またBEVならではと思ったのは環境音を流せること。くつろぎの空間を楽しめるように小鳥のさえずりや波の音、たき火の音など、約10種類ほどの音を出せる。中には雑踏もあるのはおもしろい。忙しい環境音があった方が落ちつけるというのも都会らしい。

 高速道路ではACCを使いながら走ったが、前車との車両間隔は適正に保つ。BEVの高トルクはACCとの相性がよい。ただレーンキープアシストはそれほど強く介入しない。あくまでもレベル2プラスに抑えられている。

 前後駆動力配分は自在でクルージング中は後輪だけで駆動し、わずかなアクセルOFFでもマメに回生している。前輪が駆動するのはアクセルを強く踏んだ場合で、相対的に前輪の駆動力が後輪より強くなる。これらは呼び出すとモニターに表示される。

 新横浜に返却したとき、まだバッテリは35%ぐらい残っていた。約160kmほど好きに走り回っての残量なのでバッテリ制御は上手だと感じた。

 アイオニック 6が日本にやってくるかは未定。ただ欧州では発売直後から人気が高く、2023年のワールドカー・オブ・ザ・イヤーを受賞していることも付け加えておこう。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛