試乗記

日産「GT-R 2024年モデル」試乗 デビューから16年、その進化を探る

GT-R 2024年モデル

GT-Rが消える憶測

 現行「GT-R(R35)」が登場したのは2007年末のこと。すなわち16年の月日が経過したことになる。その間、毎年のようにセッティング変更やパワーアップなどの改良を施すことでその時代のトップレベルの走りを達成。17MY(モデルイヤー)ではピラーまわりやルーフを大規模改善するなどして走りの質を高めてきたという経緯がある。そんな地道な努力があったからこそGT-Rは長きに渡り生きながらえることに成功したのだろう。

 だが、22MYを最後にGT-Rが消えるのではないかという噂が絶えなかった。新車外騒音規制をクリアすることが困難ではないかという憶測があったからだ。それを打破するためにはフロアまで作り直して大きなマフラーが必要という可能性もあるとの話が持ち上がっていたこともその要因だ。おかげで駆け込み需要が殺到。NISMO仕様に至っては納車当日に新車価格の倍の値段で売ってほしいという話まであったと聞くからまさに異常事態。世の中の情勢や転売ヤーの横行などさまざまな理由はあったのだろうが、いずれにしてもGT-Rの人気は登場から何年経過していようとも色褪せることがなかった。その終焉ともなれば、尚更のことだったのだろう。

 けれどもGT-Rの歴史はそれで終わりじゃなかった。なんと24MYが2023年の年明けに開催された東京オートサロンで発表となり、まだまだ継続されることになったのだ。前後のデザインを大きく変更して登場した今度のGT-Rでのポイントは、やはり規制に対応するためのマフラーだ。音圧を低減しつつ、排気抵抗はキープして動力性能を犠牲にしないこと。さらに魅力的な音を奏でることも求められて開発が行なわれたという。

 結果として誕生したそのマフラーは、従来のものに比べてタイコ部分が横長にはなったことがリアバンパー下部からも伺える。従来型は中間パイプからタイコに1本で突き刺さっていたが、24MYではタイコの手前で二分割にされ、2本がタイコの中に入るようになった。その後1本は消音室へダイレクトに、もう1本はタイコ内部でさらに二分割されてマフラーの出口へと向かう。ポイントとして日産から挙げられたのはメインパイプが二分割されるところだ。「ジェットサウンドジェネレータ」と名付けられたそれは、ジェットエンジンのタービンブレードを参考にし、二分割された部分で小さな渦を発生させる排気管形状にしているのだとか。

 22MYまではタイコ脇にバルブを備えることで、例えば住宅街においてバルブを閉じることで消音効果を発揮していた。ステアリングコラムの下に隠しスイッチがあり、それを押せば静かになっていた。だか、24MYではバルブを廃止。純粋にマフラーだけで静かになった。これにより若干の軽量化を実現したという。

今回試乗したのは4月下旬に発売となった「GT-R」2024年モデルの「Premium edition T-spec」(1896万700円)。ボディサイズは4710×1895×1370mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2780mm。車両重量は1760kg。撮影車のボディカラーは特別塗装色のミレニアムジェイド
Premium edition T-specでは専用のレイズ製アルミ鍛造ホイール(ブロンズ)やサスペンション、拡幅フロントフェンダー(後部アウトレットダクト付)、拡幅フェンダープロテクターなどを特別装備。軽量で耐熱性に優れたカーボンセラミックブレーキも専用品となる。また、外装ではハンドリング性能の向上を目的にフロント&リアバンパー、リアウィングなどの変更を行なっており、これによってダウンフォースを増加させることに成功している
Premium edition T-specの専用内装。ルーフトリム、インストパネル、サンバイザーにはアルカンターラを用い、センターコンソールはカーボン製フィニッシャー(専用エンブレム付)を採用

初期型とはもはや別物

 そんな24MYはどう生まれ変わったのかを確認するため、さっそく「Premium edition T-spec」を駆り出してみることに。

 すると、エンジンを始動させたタイミングから明らかに野太いサウンドが消え去ったように感じる。始動直後は触媒を暖めるためにエンジン回転がやや高くなるのが通例。その一瞬が特に重低音が響く傾向にあったのだが、そこでもとにかく大人しい感覚が際立っている。それは試しに空ぶかしをしてみても同様で、シュンシュンというサウンドが出る程度。ひょっとして牙を抜かれてしまったのか? だが、それはコンフォートモードやノーマルモードでの話。Rモードに切り替えてみるとバブリング的なパラパラとした音が伝わってくる。

 これはマフラーサウンドだけではなく、アクティブノイズコントロール(ANC)とアクティブサウンドコントロール(ASC)が機能しているための効果。BOSEとの共同開発品となるそれは、嫌味な音に逆位相の音を出してノイズを低減するANCと、高揚感を与えるために室内に演出音を出すASCが組み合わされて成立しているもの。ANCは14MYから、ASCは17MYから投入された機能だ。

Premium edition T-specでは専用エンジンカバーを装備。V型6気筒DOHC 3.8リッターツインターボ「VR38DETT」型エンジンは最高出力419kW(570PS)/6800rpm、最大トルク637Nm(65.0kgfm)/3300-5800rpmを発生。WLTCモード燃費は7.8km/L

 新たなマフラーとこの機能の組み合わせをじっくりと感じるために走り出せば、なかなかおもしろい。Rモードで高回転へ向けてスロットルを開けていけば、中間域からシャーというジェットサウンドがマフラーから流れてくることに気づく。そこにANCとASCが加わるのだ。パドルシフトで積極的にシフトダウンを繰り返せば、バブリング的な音が楽しめるようになっている。一部は疑似的な部分ではあるが、周囲に迷惑をかけることなく気分が高揚するのであれば、これは大いにアリな道だと素直に思える。疲れた時にはコンフォートモードやノーマルモードで静かに走ることもできるのも大人な仕上がりだ。

 24MYのポイントはそこで終わらない。実はハンドリングに対する新たなるアプローチが行なわれている。その1つ目が空力の変更で、フロント側はグリルメッシュのハニカム化、インテークスロープ角度&ストロークの適正化、エアスプリッター断面の最適化、エアガイド断面による整流効果、カナード&ウイング形状の最適化が行なわれた。結果としてフロントのダウンフォースが向上したという。リア側はセパレーションエッジ断面、ディフューザー断面の最適化が行なわれたほか、リアウイングの後端がさらに後方へと移動したことが目新しい。リアタイヤの車軸より遠くで押さえつければ、それすなわちテコの原理でダウンフォースが増すことになる。フロントとリアをバランス良くさらに押さえつけようとしたことは明らかだ。

 さらに電子制御サスペンションのGセンサー性能を向上させたという。これは高感度のGセンサーを採用することによって車両挙動をより緻密に把握することができるようになり、結果として電子制御サスペンションとABS制御適合による路面追従性の向上に繋がったようだ。

 その合わせ技による乗り味はなかなか上質だ。路面がうねり、さらに継ぎ目では瞬間的な入力が入るような首都高速 横羽線では、車体の挙動はかなりフラットに感じる。目線がブレにくくなったようにも思える。けれども一体感は抜群に良い。今回の試乗車はT-specであり、カーボンブレーキを採用していることからバネ下重量が軽減されているが、そもそもそれがフットワークの良さにかなり繋がっている。そこに先述のNEWアイテムが加わったのだから心強い。修正操舵の必要もかなり減っていることは明らかだ。

 別の機会にフルウェットのワインデイングを走ってみたが、意のままに走れる感覚と圧倒的な安定感によって、怖さも感じずに走れたことは衝撃的だった。まるでライトウエイトスポーツカーに乗っているかのようにコーナーを駆け抜けつつ、アクセルオンでは確かなトラクションを生み出していることが印象的だった。

 かつてマイカーとして初期型に乗っていた身としては、もはや別物と言える仕上がりに久々に感動した。うねりやギャップでは乗り心地が荒く、リアに座っていた時には身体がハネてガラスに頭をぶつけたこともあったし、轍があれば真っ直ぐ走らすことさえ難しさを感じた初期型。限界域がピーキーでコーナリングを楽しむというよりは、できるだけ直線的に走ることを求められたことも懐かしい。

 あれから16年、ここまで上質で安心できるクルマに成長したいま、可能ならば再び所有したいとさえ思えてくる。車両価格が倍以上となり、それは叶わぬ夢となったことが唯一の残念ポイントか!? また、冷静に見てしまえば最近の電動化モデルに比べて低速トルクがなく、スタンディングスタートはやや苦手。ブーストがかかり始めるまでは我慢のひとときがある。また、多段化が進んだトランスミッションが多い中で6速というのはやはり燃費も音も不利な面が見えてくる。

 だが、それをネガとせず、それこそが自然だと感じられる人にとってはうってつけの1台だ。GT-Rの集大成といえるその仕上がりは、逆に16年以上の積み重ねがあってこそ到達した世界なのだろう。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛