イベントレポート 東京オートサロン 2023

日産、「GT-R」2024年モデル発表会 空力性能やマフラーの進化点を開発陣が解説

2023年1月13日 発表

東京オートサロン2023の日産自動車ブースで公開された「GT-R(2024年モデル)」

 日産自動車は1月13日、「GT-R」2024年モデルを幕張メッセで開催中の「東京オートサロン2023」で先行公開した。

 先行公開イベントでは2024年モデルのGT-Rのアンベール後、日産自動車 COO アシュワニ・グプタ氏のスピーチが行なわれた。

日産自動車株式会社 CCOのアシュワニ・グプタ氏

 グプタ氏は「40年もの歴史を持つ東京オートサロンで日産GT-R 2024年モデルの発表を行なえることをうれしく思います。GT-Rについては1995年にR33型を、1999年にR34型をここ東京オートサロンで発表しております。2007年に発表した日産GT-Rは21世紀を象徴するスポーツカーです。ユーザに究極のドライビングプレジャーをお届けするモデルとして進化してきました。そして2024年モデルは一切の妥協も許すことなく高性能を極めた日産の“魂”です」とあいさつした。

グプタ氏が日産の魂と表現したGT-R 2024年モデル
GT-R NISMO 2024年モデル
GT-R T-spec 2024年モデル

 続いてはGT-R 2024年モデルについて、チーフ・ビークル・エンジニアの川口隆志氏より車両概要のプレゼンテーションが行なわれた。

GT-Rのチーフ・ビークル・エンジニアを務める川口隆志氏

 川口氏は「われわれのR35 GT-Rは2007年に発売以来、多くのお客さまからのサポートをいただきながら進化を続けてきました。GT-Rはグランドツーリング性能とレーシング性能の両方を昇華させるべく常に進化しています。2014年にはレーシングのゾーンを伸ばしたNISMO仕様がデビューしています。それからGTゾーンの進化を目指したスタンダード仕様という2つのグレード構成によって進化を遂げています。今回の2024年モデルも両グレードともに性能を進化しましたので、ここからご紹介させていただきます」とコメント。

GT-Rはグランドツーリング性能とレーシング性能の両方を昇華させるべく常に進化しているクルマ

 2024年モデルに共通する狙いは、「人の感性に気持ちよく、それでいて速い」ことだという。川口氏は「トータルバランスをもっと高い次元へということをキーワードに、NISMO仕様については“最高のトラクションマスター”を目指した開発を進めました。より接地させる、駆動を極めるということです。そしてスタンダード仕様についてはR35史上でもっとも洗練された乗り味のよさを目指しました」と補足した。

2024年モデルの狙い

 続けて「NISMO、スタンダード仕様ともにハンドリング性能の向上を目指してフロントバンパーやリアバンパー、それからリアウィングといった外装のデザインを見直しました。これによって空力性能、特にダウンフォースですね。クルマを下に押し付ける力をより向上させました。それからNISMO仕様に関してはさらにコーナリング性能を向上させました。この性能を追求するために新たに取り入れたのがレカロが開発したシート。機構面ではフロントに機械式LSDを装着しました。さらにそのポテンシャルを余すことなく使うために改めて4WDの制御も更新しました。また、国内仕様限定の仕様ですが、非常に厳しくなった騒音規制に対応すべく、新構造のマフラーを開発しました。このマフラーは音量規制値内に数値を収めるだけでなく、新たなGT-Rのサウンドを作り出しています」と概要を説明した。

2024年モデルの概要

 GT-R NISMOのわきに立った川口氏は、「ここからは新しいデザインについて説明していきます。まずはGT-R NISMOです。フロントのデザインを見ていただくと分かるとおり、水平基調を軸としたデザインに変更しました。これによってスタンスのよさを表現しています。さらに新しいシグネチャーとなるデイタイミングライトを採用して新たなGT-Rの顔をつくりました。改めてになりますが、GT-Rのデザインの変更は性能の進化を求めて行なうものであります。そのため今回の変更点も全て意味があります。例えばフロントグリルの開口部ですが、前型よりも開口部の面積を若干小さくしています。しかし中に入る風の量は一切変わっておりません。そのことによって冷却性能はキープしつつ、フロントの空気抵抗を下げています。さらにヘッドライトの下のキャラクターラインやデイライトまわりのデザイン変更によって、横に流れる風を整流し、さらに空気抵抗を下げることができています。それとカナード形状をより深くしたことにより、タイヤの横に渦を発生させていますが、この渦はホイールハウス内の圧力を吸い出す効果があるため、ホイールハウス内に入った風によって車体が持ち上がることを防ぐのです」。

「次にリアのデザインですが、ポイントはバンパーサイドに大きなエッジを設けました。それからトランクリッド上面にもエッジを設けています。このエッジによって、大きな抵抗になっていた(クルマを後ろに引っ張る力になる)クルマ後方に巻き込む風を減らす効果があります。そして今回大きな特徴となるのがリアウィングで、形状はスワンネックといいます。これはSUPER GT GT500の車両にも採用されている形状で、トランクから伸びるステーはウィングの下面ではなくて上面から支える構造になっています。ご存じの方もいらっしゃると思いますが、ウィングは下面の空気の流れによって負圧を発生させることでダウンフォースを生みますが、上面で支えるスワンネック形状であれば下面に余計な形状がないのでその効果も高くなるのです。先ほど説明した前まわりのデザイン変更、そしてこのリアまわりの変更により、トータルで約13%ほどダウンフォースを向上させることができました」と解説した。

GT-R NISMOの空力面の変更点
GT-R NISMO 2024年モデルのバンパー形状
タイヤハウス内の圧力を抜く効果を持つ「渦」を意図的に作ることで、高速域でのクルマの浮き上がりを防ぐ
GT-R NISMO 2024年モデルのリアバンパー形状
GT-R NISMO 2024年モデルのリアウィング

GT-R NISMOには レカロが開発したカーボンフレームシートを装着

 次に取り上げたのはシート。GT-R NISMOにはレカロが開発した新しいシートが装着されている。構造はカーボンフレームとなっていて以前のモデルのシートから質量を一切増やすことなく剛性を50%向上させたもので、さらに人の体を支えるさまざまな部位に関し、最適なホールド感を出すためにパットを分割構造としているそうだ。

 シートにこだわった理由として、川口氏は「クルマを速く走らせる、また安全に走らせるためにはシートは非常に大切なものです。例えばドライバーが ブレーキを踏む時、シートの前後剛性が高ければブレーキを踏む力が強くなってしっかりクルマを減速させることができます。また、シートの横剛性が高いとコーナリング中でもドライバーの身体がしっかり安定するので、無駄な力が入ることなくハンドル操作に集中できるのです。そうすることによってスムーズなドライビングが可能になります」と説明した。

GT-R NISMO用のレカロ製カーボンフレームシート
GT-R NISMO 2024年モデルのシートまわり
GT-R NISMOのカラーラインアップは全5色

空力面の進化はNISMO同様

 次にスタンダード仕様について。川口氏からは「スタンダード仕様もNISMOと同様、水平基調を軸としたスタンスのよいデザインとなっております。それから新しいシグネチャーのライトも取り入れたことで新しい顔を表現しています。また、フロントバンパーについても形状の最適化により風をしっかり制御することによって空気抵抗を削減。カナードによる渦の発生もNISMOと同じなので、スタンダード仕様でもタイヤハウス内の圧力を抜く効果によってダウンフォースの減少を防ぎます。リアのデザインではバンパーの側面にエッジを立ててタイヤハウス内の空気がより抜けるようにしつつ、リアディフューザーの形状も最適化しています。もう1つ大きな特徴としてはリアウィングの変更です。スタンダード仕様はこれまでリアウィングの形状変更を行なってはこなかったのですが、今回は進化のために変えました。前モデルに対してウィングを少し長く幅を広くし、さらに取り付け位置を少し後に移動しています。ウィングを長くしたことによりダウンフォースは増えました。そしてウィングの取り付け位置をずらすことにより、わずかですがトランクに発生していたクルマを持ち上げようとする風の流れを削減することができました。スタンダードグレードに関しても前後の空力効果を高めたことにより、約10%ほどダウンフォースが強くなっています」と説明した。

スタンダード仕様の代表としてT-Specについて説明する川口氏
T-Specの空力について
T-Specのフロントバンパー
T-Specのリアまわり。ウィングはサイズアップされ、取り付け位置は後退している
横幅を広げている
タイヤハウス内の圧力を抜く形状
スタンダード仕様のカラーラインアップは8色となる

GT-R 2024年モデルのハンドリング

 続いてはハンドリング性能の進化についての解説だ。

 川口氏は「NISMOを例に取って説明します。今回のモデルは特にコーナリング性能を向上させています。先ほど説明したように、空力によってクルマを押し付ける力が増えたことで、接地感は高まっております。その効果をさらに生かすためフロントに機械式LSDを搭載しました。これにより、コーナリングから立ち上がる際に、フロント内輪のタイヤの空転を抑えることができます。するとフロントタイヤのポテンシャルを最大限使えるのです。こうした特性に合わせて4WDの制御特性も変更しています」と解説した。

空力が向上したのに合わせてフロントに機械式LSDを組む。また、ダンパーの最適化や4WD制御特性の変更により、タイヤの性能をこれまで以上に引き出すことができる

マフラーが大幅に進化

 最後はマフラーについての解説だ。川口氏は「ここは非常に大きな技術開発を行なったところであります。新しいマフラーは動力性能を一切犠牲にすることなく、非常に厳しくなった騒音規制に対応しつつ、迫力のあるサウンドを実現しています。この構造では非常に大きな特徴として排気管の途中に分岐構造を持っています。一般的に、排気音を下げようとするとマフラーを長くしたり、あるいはマフラーの容量を増やして音を下げようとします。しかし、こうしたことをしてしまうとマフラーの中を流れるガスの流れを少しわるくしてしまうので、エンジンの出力が落ちてしまうことになります。また、単純にマフラーを静かにするだけだと、スポーツカーにとって必要な高揚感を得られるサウンドも失ってしまうことになります。ここはGT-Rにとって大事なところでもあります。こうした課題に対して製作したのが新しい構造のマフラーです」と解説した。

2024モデルの大きな魅力が新しいマフラー。日本仕様だけの装備だ
厳しい音量規制をクリアしつつ、パワーダウンなし。それどころかサウンドチューンを行なう

 ポイントになるのは二股に分かれた構造。「消音室」とあるのはいわゆるレゾネーターで、ここは密封された構造。この部屋では低音域の音のみ消すことができる。これにより騒音規制で問題になる点を対応したという。

 そして排気ガスだが、マフラーの左側は密閉されていて右側にしか流れない構造で、動力性能は犠牲にならないという。さらに分岐部分の形状に新たなノウハウを投入。分岐付近を流れる排気に小さい渦をたくさん作ることで、とくに加速状態で迫力のあるジェットサウンドを発生させることが実現した。この構造については解説図を見ていただく方が分かりやすいと思う。

 日産ブースはとても人気で混んでいるが、GT-Rは一段高くなったステージに飾られているので他の展示車より見やすいと思う。東京オートサロン2023に出かけるなら、最新の思想を盛り込んだGT-R 2024年モデルも見てほしい。

深田昌之