試乗レポート
日産GT-Rの特別仕様車「T-spec」は“究極の公道向けGT-R”だった
2022年1月3日 10:05
数々の専用装備をまとう
幸いなことに、これまで毎年のように進化してきたGT-Rには、そのたびドライブする機会に恵まれてきた。衝撃的な2007年末の登場から早いもので15年目を迎えようという2021年9月には、2022年モデルとともに特別仕様車の「T-spec」を計100台限定で抽選販売することが発表された。価格は「Premium edition T-spec」が1590万4900円、「Track edition engineered by NISMO T-spec」が1788万1600円だ。
それなりに高いものの、いずれも専用カーボンセラミックブレーキ、カーボン製リアスポイラー、専用エンジンカバーなどが特別装備され、とりわけカーボンセラミックブレーキがこの価格差で付くことを考えると、分かる人にとっては割安に感じられるはず、らしい。
「T」が意味するのは、「Trend Maker」と「Traction Master」だ。前者はGT-Rのあり方や、その時代を牽引するクルマであり続けるという願いを表現した「時代を導くという哲学」であり、後者は「しっかりと地面を捉え駆動する車両」というハードウェアへの考えを表したGT-Rの開発初期の呼称と関係が深いのだという。
試乗したのは「プレミアムエディション」。専用の内装コーディネーションが施されるほか、足まわりはサスペンションが専用にセッティングされ、NISMO用をブロンズに塗装した専用のレイズ製アルミ鍛造ホイールが与えられる。さらに、通常のGT-R用よりもホイールのリム幅が拡大することに合わせて、フェンダーも片側5mmワイド化した専用品が装着されている。
ボディカラーにも注目だ。GT-Rにとっては歴史的な意義のある2つの新色が設定されたうちの1つで、16万5000円で選べる「ミレニアムジェイド」を初めてまとったR35の姿もやっぱり印象深い。
いかに公道を気持ちよく走れるか
専用の足まわりによる走りは、なかなか印象深い仕上がりだ。リリースでも述べられていた「軽快でスムーズなハンドリングを実現」について、GT-Rで軽快でスムーズというのはどういうニュアンスなのかと思っていたところ、ドライブして納得した。バネ下が軽く、足まわりがよく動いて、しっかりとしたグリップ感があり、決して軽くないクルマながら意外なほど素直にターンインできることが印象的だった。入力の受け止め方がうまく、しなやかにタイヤが路面を捉えるおかげで操舵したとおりよりスムーズに回頭してくれるようだ。それは快適性の向上にもつながっている。かつては乗り心地のわるさが指摘されていたGT-Rだが、年を追うごとに改善されてきたのはすでにお伝えしているとおりで、「T-spec」はさらに大きく洗練度を深めた印象を受ける。
路面への当たりにもカドがなく、段差を通過したときの衝撃も小さく、少々の路面のアンジュレーションぐらいは本当に瞬時に収束させてしまう。路面とのコンタクトフィールにこれまでにGT-Rにはないものを感じる。いかに公道を気持ちよく快適に走れるかを念頭に置いて開発されたことが伝わってくる。
バネ下の軽さにも寄与しているブレーキは、カーボンセラミック製としては世界でもっとも扱いやすいように感じられたほどで、ペダルフィールにもなんら気難しいところがないところも大したもの。今回は攻めた走りはそれほど試していないが、むろんキャパシティも相当に高そうだ。
究極の公道向けGT-R
2022年モデルにおける変更は特に何も伝えられていないエンジンフィールについても、すでに十分すぎるほど速かったところがさらに向上し、これまでよりも心なしかパワー感が増して、低い回転域から伸びやかに吹け上がるようになったよう感じられた。
NISMOと乗り比べると控えめに感じてしまうところだが、こちらはトルク特性が低回転域でのピックアップに優れるので、公道では扱いやすい。GT-Rらしい圧倒的な速さを、よりイージードライブで味わうことができる。
そうしたエンジンや前述の足まわりの仕上がりはもとより、プレミアムエディションがベースゆえインテリアのクオリティ感も高く、シートも快適性にかなり配慮したものが装着されているあたりも含めて、これまでいろいろなバージョンが送り出されてきたR35の中でも、まさに“究極の”公道向けのGT-Rと認識してよいかと思う。
それは、あくまでロードゴーイングカーとして進化してきたGT-Rの“深化”の奥深さをも物語っている。とっくに完売した限定100台は早くも高騰しているとも伝えられ、うち何台がプレミアムエディションであるかは定かではないが、手にすることのできた人が本当にうらやましい限り。ぜひ誇りを持って末永く愛してほしい。