試乗レポート

アウディの新型「RS 3」に富士スピードウェイで試乗 さりげない4ドアセダンが途方もないパフォーマンスを発揮

剛性の高そうな気持ちよいエンジンの回転フィール

 RSモデルはアウディのスポーツシリーズの中でも際立っている。そのRSシリーズの中でも最新のモデルが「RS 3」で11月27日に発表(発売は2022年4月下旬)になったばかりだ。

 RSの素晴らしいところは街中での柔軟性とレーストラックでの過激な走りを両立しているところだ。仕立てるのは「R8」などを手掛けるAudi Sport GmbH。レーシングモデルの「R8 LMS」や「RS 3 LMS」などを開発生産する生粋のレーシングファクトリーだ。

RS 3はアウディならではのオールアルミの直列5気筒DOHC 2.5リッター直噴ターボを搭載する。最高出力は400PS/500Nmを絞り出し、先代のRS 3よりも20Nmアップしている。

 A3のプラットフォームは2019年にMQBからMQB-EVOに進化した。タイヤサイズはフロント265/30R19、リア245/35R19でブランドはブリヂストン。フロントよりリアタイヤが細いのは珍しいが、掛かる荷重を考えると理にかなっている。

富士スピードウェイで行なわれたAudi Sport試乗会では、最新の「RS 3」に試乗できた。試乗車は「RS 3 セダン」(818万円)で、ボディサイズは4540×1850×1410mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2630mm。フロントまわりではワイドなRSバンパーを装着し、シングルフレームにはハイグロスブラックのハニカムグリルを組み合わせ、フラットなウェッジシェイプLEDヘッドライトとLEDリアコンビネーションダイナミックターンインディケーターを標準装備。フロントホイールアーチ後方には新たなデザインエレメントとしてエアアウトレットを新設。フロントトレッドは先代モデルと比較して約30mm拡大し、スポーツバックではリアトレッドも約10mmワイドになった
こちらは展示車の「RS 3 スポーツバック」(799万円)で、ボディサイズは4390×1850×1435mm(全長×全幅×全高)。RS 3のインテリアでは12.3インチディスプレイを備えたアウディ バーチャルコクピット プラスを標準装備するとともに、RS専用のシフトインジケーター(マニュアルモードで作動)はグリーン、イエロー、レッドと色を変えながらレーシングカーのように点滅して理想的なシフトアップタイミングをドライバーにアナウンスし、10.1インチタッチディスプレイにはクーラント温度、エンジン温度、トランスミッションオイル温度、Gメーターが表示される。また、RSモードボタンを配置した3スポークのRSスポーツマルチファンクション レザーステアリングをはじめ、カーボンアトラスのデコラティブパネルやRSロゴのエンボス加工が施されたRSスポーツシートなどを標準装備する

 2.5リッターの横置き5気筒ターボはさすがアウディらしく、剛性の高そうな気持ちよいエンジンの回転フィールで、アクセルを踏み込むとストレートではあっという間に200km/hを越えてピタリと路面に張り付いたまま加速は止まらない。そんな高速、高回転でもエンジンは粛々とまわりビクともしないのは頼もしい。0-100km/h3.8秒というとんでもない実力も納得だ。

 レブリミットは7000rpm、6500-7000rpmでイエローゾーンとなるが高回転も出力がグイグイと出る感じだ。それでも使いやすいのは低回転から500Nmのトルクが出ているので、どこから踏んでもホンの一瞬の間を置いてドンと加速する。その気持ちよさは5気筒アウディ特有のものだ。

新型RS 3が搭載する直列5気筒DOHC 2.5リッター直噴ターボエンジンは最高出力294kW(400PS)/5600-7000rpm、最大トルク500Nm(51.0kgfm)/2250-5600rpmを発生

 サスペンションはRS 3のために開発されたもので、ショックアブソーバーには新開発のバルブシステムが使われており、伸び側から縮み側まで反応は早く、ハンドルを切り返した際の路面追従性が高い。

 オプションのRSダンピングコントロールサスペンションはドライブモードに合わせて減衰力を変えられるが、この際の変化幅はこれまでよりも大きくなっている。また従来モデルよりもフロントで30mm、リアで10mmトレッドが広げられ、四隅にタイヤを置いた姿はいかにもRSらしい踏ん張り感を感じさせるが、イメージどおりロールの少ない姿勢でサーキットを疾駆する。高速での安定感も抜群だ。

 実はRS 3は左右後輪にトルクを可変で伝えるRSトルクスプリッターを持っている。メカニズムとしては後輪ドライブシャフトの電子制御湿式多板クラッチがあり、走行状態に応じてコーナー外側の後輪にトルクを伝えて旋回しやすくする。しかも、100%リア後輪外側にトルク配分をする「RSトルクリア」とSタイヤに対応してサーキット走行に適した「RSパフォーマンス」という2つの禁断のモードがある。これもRS流のドライバーへのおもてなしだ。しかし残念ながらタイヤ磨耗も激しくなるので、今回は使用禁止。残念!

正確なライントレース性がRS 3の持ち味

 各コーナーでRS 3を確認しながら走る。コーナーでのアクセルONでエンジンはドライバーの意思を忠実に反映して、力強く、そして極めて滑らかにパワーを出し、時間をかけて作られた内燃エンジンの素晴らしさを思い出させてくれる。

 コーナーでこのエンジンを堪能しながらアクセルを踏むと4輪で路面をガッチリと捉え、安定した姿勢で旋回する。が、いつものクワトロとは違う。これまでのRSでは後ろから押し出されるような弱いアンダーステアを感じながら強力なトラクションで前に出ようとするのが常だった。

 しかし今回は少し様子が異なる。後輪が外に出ようとする。ハンドルの切り始めではホンの一瞬、これまでのRSと同じようにアウディらしい前方向の動きを感じるが、その後は強烈な旋回力で面白いように曲がっていく。走行モードはダイナミックだったが、リアのトルクスプリットシステムが外輪にトルクを流している結果だ。感覚的にはRS 3がラインに乗って想定以上の速度で安定してトレースするようだ。いくぶん人工的な味付けがしないでもないが、グリップ限界でも挙動が分かりやすくアクセルコントロールも容易だ。速いハンドル修正もほとんど必要ない。正確なライントレース性がRS 3の持ち味だ。

 コーナーでトルクスプリットを過信するのは禁物で、無理に曲がれるわけではない。ドライバーをサポートしてくれるのがこのシステムの真価だと思う。タイヤ空気圧はフロント2.6、リア2.4でサーキットランの後での前後空気圧は適正だった。

 また現代のスポーツカーらしく、クルージング時には後輪ドライブシャフトのクラッチを切ることで走行抵抗を減らし燃費向上に貢献する

 RS 3はA3シリーズのトップ・オブ・スポーツだ。さりげない4ドアセダンだが、途方もないパフォーマンスを持ち、しかも柔軟性の高さは街乗りからサーキットまでカバーできる。RS 3の価格はセダンで818万円、スポーツバックで799万円となっている。4390×1850×1435mm(全長×全幅×全高)という日本でも使いやすい適度なサイズと前述の圧倒的なパフォーマンスは魅力的だ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学