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ホンダベンチャー企業が手掛けた電動マイクロモビリティ「ストリーモ」発表会

2022年6月13日 開催

本田技研工業が取り組んでいる新事業創成プログラム「IGNITION」から誕生した第2号目のベンチャー企業「株式会社ストリーモ」の製品、電動マイクロモビリティ「Striemo(ストリーモ)」

 創業時より独創的な技術やアイデアを大切にするとともに、それらを生かした社会課題の解決や新たな価値創造に向けたさまざまなオープンイノベーションに取り組んでいる本田技研工業。その取り組みの1つとして2017年より行なっているのが、ホンダ従業員の持つ独創的な技術やアイデア、デザインを形にすることを目指す新事業創成プログラム「IGNITION」というものだ。

 この取り組みは勤続年数や所属部署を問わず、日本国内の事業所に勤務する正規従業員を対象としたもので、最終選考を通過したアイデアは社内で事業化をするか、あるいは起業という道が用意される。

ホンダが取り組んでいる新事業創成プログラム「IGNITION」の解説

 事業化をするかどうかの判断には6か月の期間があり、この間には専門スキルを持った社内人材によるタスクフォースチームが作られて提案のサポートを行ない、企業の審査過程では投資会社からアドバイスや支援が受けられるようになっている。

 なお、起業する際にはベンチャーの独立性をキープする意味でホンダからの出資比率は20%未満となっている。このIGNITIONでは2021年に第1号として「株式会社Ashirase(あしらせ)」が設立されている。

最終選考を通過したアイデアはホンダ内部で手掛けるか、よりスピード感を持って市場に出すため提案者が起業するという2通りの道がある
新事業創成プログラム「IGNITION」での第1号の起業が「株式会社Ashirase(あしらせ)」
Ashiraseは視覚障がい者に安全な移動を提供するためのシューズイン型のナビゲーションシステムを開発。2022年度中に発売を予定している

電動マイクロモビリティ「ストリーモ」とは?

 今回は新事業創成プログラム「IGNITION」から誕生した2社目のベンチャー企業「株式会社ストリーモ」の製品である電動マイクロモビリティ「Striemo(ストリーモ)」の発表会が行なわれた。

 発表会にはストリーモから代表取締役(CEO)の森庸太朗氏、取締役 開発責任者(CDO)の岸川景介氏、取締役 執行責任者(COO)の橋本英梨加氏が出席。代表者の紹介が終わったあとは森氏のよるストリーモの紹介に移った。

株式会社ストリーモ 代表取締役(CEO)の森庸太朗氏
株式会社ストリーモのメンバー。現在はこれが総員となる

 森氏はまず「われわれの生活の中で移動の手段はなくてはならないものですが、近年は移動に関わるさまざまな課題が指摘されいます。その課題を解決するためのものが、1人乗りの電動モビリティであるマイクロモビリティです。また、人々の移動距離の約6割から8割がだいたい5km以下と言われています。こうした内容の移動をクルマからマイクロモビリティの利用に変えることで“1人あたり年間約1tのCO2削減”となります。そのため、グローバルでもマイクロモビリティの市場は伸びていて、2030年までには1920億米ドルになると予想されています」と紹介した。

5km以下の移動距離をクルマからマイクロモビリティに乗り換えることで1人あたり年間1tものCO2が削減できるという
欧州では環境整備として自転車専用道路に整備、自動車への規制強化が進んでいる
グローバルでのマイクロモビリティ市場は大幅に伸びると予想されている

 日本でも電動キックボードといったマイクロモビリティが普及しはじめているが、同時に事故も増えているのが現状だ。森氏たちストリーモもこの点には着目。続いてはマイクロモビリティの現状についても語られた。

 スライドを用意しつつ、森氏は「電動キックボードの事故率は“自転車の18倍”と非常に高いものになっています。そして電動キックボードの利用をやめた人の50%と、そもそも利用しよう思わない人の40%が“操縦に不安を感じる”ことを理由として挙げています。電動キックボードの事故原因をまとめて見たところ単独事故が80%でした。その中の約6割が路面の影響による転倒でした。さらには縁石や電柱などの構造物にぶつかる事故が約20%ありました。このデータから分かるのは、操縦性や安定性に課題があるのではないかと考えられます」とし、日本における電動キックボードの事故状況とそこから考えられる課題の説明を行なった。

マイクロモビリティ(電動キックボード)の現状。事故率は自転車の18倍となっている。また、事故の内容としては約8割が路面の影響などが原因となっているとのこと

 こうした現状を受けて、森氏たちは小さな移動に安心を与えるにはどうしたらいいかを検討した。この際に立ち返ったのがホンダでの仕事。森氏は「ホンダでは“研究所は人を研究するところだ”という言葉があります。私がやってきたのはまさに人の研究でした。やってきたのは2輪車に関わることで、レース用バイクの開発においてはライダーの言葉をいかに物理現象に落とし込むか、どういったメカニズムでどういったことが起こるかを研究してきました。また、倒れないバイクとして報道されたライディングアシストの開発にも関わっていましたが、倒れないバイクを作るより人と協調して走れるようにすることは非常に大変です。2輪車の中では操縦性のよさ、安定性のよさなどはなくてはならないものです。マイクロモビリティの世界にこのようなことを取り入れていくのですが、私自身、これまでの経験から“人がどれだけバランス取りにストレスを感じているかということを感じてました。そこでバランス取りのストレス軽減という点を重視しました」。

「バランス取りのストレスから解放されると安心や余裕が生まれます、そして、それは運転中のまわりを見まわす余裕につながる。するとそれは移動の楽しさを感じることになるでしょう。そして移動中に何かを発見したり人と出会ったり、そういったことができるようになるのです。このような移動の楽しさを世の中に広めていきたいということを念頭に開発してきたのが新しいモビリティのストリーモなのです」と語った。その後、ステージ上に置かれていたストリーモのアンベールが行なわれた。

森氏のホンダでの仕事は主に2輪関係。レーサーの開発やモーターサイクルショーに出展された“倒れないバイク”の開発にも関わっていた
ホンダでの経験の中で浮かんだのがバランス取りのストレスから解放することで安心、余裕が生まれ、それが移動の楽しさを感じることになるということ
ストリーモのアンベール

電動マイクロモビリティ「ストリーモ」の特徴

ストリーモの展開は一般向けと業者向けで内容が違っている。一般向けはリースやサブスクではなく販売となり、6月13日よりオンラインでの数量限定「Strimo Japan Launch Edditio」の抽選販売申し込みが開始される。事業者向けはサブスクとなる。ストリーモに乗るには原付一種免許が必要

 ストリーモは2022年内に販売開始予定となっている。製品特徴は大きく分けて3項目ある。1つは自立と安定。独自のバランスアシストシステムにより停止時も自立でき、走行時は歩行者と同じ速度の極低速から快適な速度まで転びづらく安定しているところ。

 つぎにバランス取りの不安感軽減という項目。石畳やワダチ、傾斜路でも進路や姿勢を乱されにくい走行時のバランス取りの不安を低減するものだ。そして最後は人と他の交通手段との親和性。ふらつきにくく足をつかずに停車できるので、歩行者や他の車両とも互いの安心して走行できるとのことだった。なお、ストリーモに乗るには原付一種免許が必要だ。

ストリーモに取り入れられた技術の紹介
300名以上がストリーモに試乗をしたといい、そのときのデータによると46%が「購入したい」という意志を持っていたという
事業者では敷地内移動のために手段として提案していくとのこと
ブランド展開のロードマップ
電動マイクロモビリティ「ストリーモ」。写真の車両は海外向け仕様のサンプル車のため、日本国内用市販モデルとは細部が異なる。6月13日より抽選販売申し込みが始まり、限定モデルの価格は26万円
車体をロックする物理的なロック機構はないが、スマートフォンと連動でモーターにロックを掛けることができる
メーターまわり。日本国内用市販モデルはメーターの形状が変更されるとのこと
スロットルはレバーを親指で押す。2輪車のようなアクセルグリップではない。マイクロモビリティの場合、スロットルはレバー式と法規で決められているとのこと
ブレーキは自転車と同じ。左ブレーキには機械式の注射用ブレーキ機構が付く。これも法規で決まっている部分
乗るには原付一種免許が必要。車体にはヘッドライト、ウインカー、ミラー、ストップランプなどが付く(現状未装備)
バッテリはハンドル下のフレーム部に収納される。キー付きで取り外しできるのでバッテリだけ持って部屋に入り充電できる
充電されているバッテリであれば青いインジケーターが点くようになっている。満充電で約30km走行が可能。この数値は定値試験でなく、自社での実際の使用に即した乗り方での計測値という
フロントホイールはモーター内蔵。ブレーキはドラム式だが、市販車はブレーキの形状も変更される(機構はドラム式のまま)
リアは2輪。前後ともサスペンション機構はないが、タイヤのエアボリュームを多く取ることでショック吸収性を持たせている
ステップ部。両足は揃えて乗る。スキーのように膝を曲げたり身体の向きを行きたい方向へ向けることで荷重を移動。ハンドルも操作する
静止状態で立っても倒れないので停車時に足をつかないでもいい
ハンドルは軽く手を添える程度。スロットルを大きく引いても唐突に加速することはないという
折りたたみ式になっているのでエレベーターなどにも持ち込める。クルマのトランクにも搭載しやすい
フロントタイヤの上にあるロック機構を外すとフレームが後方へ倒せる。ステップ後ろにあるロック部にフレーム上部にあるフックを引っかけて固定
折りたたんだあとはフロント側を持って移動。リアホイールはフリーでまわる
森氏による8の字旋回デモ走行(41秒)
森氏によるコーナリング走行(25秒)