試乗記
テインの最新サスペンション減衰力コントローラー「EDFC5」を試す 新機能“ジャーク制御”は走りをどう変える?
2023年7月18日 12:33
装着している車高調キットをきちんと使いこなせる電子デバイス
ショックアブソーバーメーカーのTEINが、最新技術を投入した電動可変減衰力コントローラーを装備した試乗会が福島県二本松にある「エビスサーキット」で開催された。
「EDFC(Electronic Damping Force Controller)5」と呼ばれる商品は、室内から任意にスイッチで4輪の減衰力を変えられるほか、Gセンサーが検知する加減速による減衰力の自動制御、車速に対しての減衰力の自動制御を個別に行なえるのが大きな特徴だろう。
そして旧モデルから進化した最大のハイライトは、芝浦工大の渡邊教授との産学連携で開発した「ジャーク(躍度)制御モード」が加わったことだ。これは、Gの変化量、つまり加減速やハンドル操舵によって、これから必要とされる減衰力を先読み制御(ジャーク感応自動調整モード)することで、ハンドリングと乗り心地の両立を可能とした。
今回そのEDFC5を搭載した「ノア」「新型プリウス」「GR86」を試乗する機会を得た。試乗車は全てTEINの全長調整式ストリートユース用車高調整ショックアブソーバー「RX1」を装着し、これにEDFC5を組み合わせたものだ。
RX1のコンセプトは日常使いでの乗り心地と正確なハンドリング。ミニバンのような多人数乗車でも快適な乗り心地が保てるように、ギャップを通過してもフルバンプの衝撃を穏やかにするハイドロ・バン・ストッパー(ダンパー・イン・ダンパーでフルバンプ付近でのみ減衰力を発生するラリーカー由来のもの)を内蔵することで乗り心地を改善している。OEではコスト的に難しい機構だ。
最初の試乗車はノア。コースはアップダウンの多いエビスサーキットの東コース。EDFC5による減衰力調整はせず、RX1のみのフィーリングチェックを行なった。前後スプリングレート、ダンパーレート、車高調によってフロントは40㎜、リアは50㎜下げられ、タイヤサイズは205/55R17から215/45R18にインチアップされている。
ツイスティなコースでもしっかり走るのが第一印象。乗り心地は硬めで特にリアの強さを感じるが、少なくともサーキットでは余分な動きがなく滑らかだ。純正の穏やかな動きとは違ってミニバンらしからぬキビキビした動きが印象に残る。残念ながらセカンド/サードシートでの乗り心地は確認できなかったが、TEINによればセールスポイントの1つだという。
次に新型プリウスを試乗。こちらも前後スプリングがフロント3.0kgf/mmから5.0 kgf/mmに、リアは3.5 kgf/mmから4.7 kgf/mmに固められ、車高はフロント35mm、リア30㎜ダウンされている。またアッパーマウントも強化ゴムに変更されている。タイヤは標準の195/50R19から225/45R19とサイズアップされる。
RX1の減衰力は伸圧同時調整で、マニュアルだと16段の調整が可能。試乗車の減衰力は真ん中の8段に設定されていた。
もともとハンドリングに優れたプリウスが、地を這うようにサーキットを走る。タイトコーナーでのハンドル応答性もシャープで生き生きとした走りを実感できる。
乗り心地ではリアから突き上げは強くなっているものの、前後収束バランスが保たれているのでピッチングは小さい。
いよいよEDFC5を試す
4輪のショックアブソーバーの減衰力特性を独立制御でき、ドライバーの好みに応じてステア特性も変えられる。RX1ではマニュアルでは16段制御だが、EDFC5では減衰力変更をモーター駆動することで96段制御に変更できる。つまり、ほぼ無段階制御でマニアックな要望にも応えられる。
ダッシュボードに設置されたディスプレイには各輪とも中間の48と表示されていた。余談だがこのディスプレイのカラー表示も好みに応じて変えられる。ちなみに選んだのはモノクロのようで見やすかったブルー。
まずジャーク制御のみを入れる。何が変わるのかちょっとワクワクだ。
コーナーでのターンインの動きが滑らかになる。Gを感知して瞬時に高い減衰力を選ぶためにハンドル応答性に優れている。ただコーナーの中間から出口にかけては減衰力の変化が大きく感じられた。もっとも市街地走行では気にならないレベルだ。
次にスパンの短いスラロームに50㎞/hで進入。ハンドルの操舵速度が早く、切り返しで応答遅れを感じた。とにかくEDFC5は奥が深そうだ。
ジャーク制御に加えてG制御を入れるとターンインからの動きにメリハリが出て、ターンアウトの姿勢も安定している。スラロームでも上下動の収束が早く、ハンドルの切り返しでの安定性が高くなる。サーキットではコントロールしやすいモードだ。
さらに速度制御を入れる。速度が上がると減衰力は高めに設定されるので最初からスポーツダンパーを入れたようなソリッドな印象だ。姿勢変化は小さいが乗り心地も路面からのショックがダイレクトになる印象だった。
次に減衰力を前後とも思いきって落としてもらう。RX1の設定減衰力内の一番低い状態となり、ディスプレイ上は前後とも96を表示する(数字が大きいほど減衰力が低くなる)。姿勢変化が大きくなるが、ショックアブソーバーはこのポジションでもしっかり減衰力を出し不安感はない。
この状態でジャーク制御を入れるとハンドルレスポンスが高くなるのが分かり、滑らかなハンドルフィールを感じやすくなった。その一方でコーナーの中盤からは姿勢は少し乱れる。先ほどの動きがより明快になった印象だ。
このようにEDFC5は各輪の減衰力を車内から自由自在に行え、さらにジャーク制御、G制御、速度制御を独立、あるいはそれらを組み合わせて好みのハンドリングや乗り心地をいつでも好きなタイミングで選択できる。
また、AI学習によってオーナーのドライビングに合った減衰力を選択して、走りやすい環境を作るという。
さらには、EDFC5の応用では記憶しているジャーク制御の回数からドライビングの学習にも役立つ。つまり制御回数が少ない=滑らかなドライビングになるわけだ。
前後左右の減衰力を自在に変えられ、めちゃくちゃ面白かった。
最後にGR86のMT車に試乗した。スプリングは前後2.7/4.0kgf/mmから前後6kgf/mmに固められ、車高も30mm低くなっている。装着タイヤは215/45R17から225/40R18にインチアップされていた。
ノアやプリウスよりもパワーのある「GR86」でエビスサーキットを走るのは面白い。最初からEDFC5を活用し、リアの減衰力を低めに設定しながらジャーク制御のみを入れたり、G制御、速度制御を加えるなどして挙動変化やコントロール性がどう変わるか試してみた。
結果的には各機能の効果はプリウスと同じ傾向だったが、FRのGR86ではリアの減衰力を変えてパワーオンでの踏ん張りやコントロール性を試してみた。簡単に減衰力を室内から変えられるなんて素晴らしい。
減衰力を48/48からリアのみ70前後ほどの低い減衰力にしてみた。この設定だとリアは粘りながらも滑る状態でコーナーでのグリップは低くなる。
さらに速度を上げるとリアが動きやすくなり、減衰力を60までに上げるとリアの安定性も高くなる。このように走り方によって減衰力を微妙に変えられるのもEDFC5の魅力で、乗り心地を維持したままハンドリングを変えることができる。ホントにマニアックな製品だ。
モータースポーツから誕生したショックアブソーバーメーカー、TEINはサスペンションへのこだわりを大切にして製品に反映させている。
いろいろなバリエーションを試したコントロールユニットのEDFC5は、ショックアブソーバーのRX1と組み合わせることで走る楽しさが大きく広がるに違いない。価格はEDFC5は1セット10万5050円。RX1は車種によるが約21万円、いずれも3年保証としており(ショックアブソーバーは3年/6万km)、製品に対する自信がうかがえる。