試乗記

テインの最新サスペンション減衰力コントローラー「EDFC5」を試す 新機能“ジャーク制御”は走りをどう変える?

テインの新製品「EDFC5」を試めせる機会を得ました

装着している車高調キットをきちんと使いこなせる電子デバイス

 ショックアブソーバーメーカーのTEINが、最新技術を投入した電動可変減衰力コントローラーを装備した試乗会が福島県二本松にある「エビスサーキット」で開催された。

「EDFC(Electronic Damping Force Controller)5」と呼ばれる商品は、室内から任意にスイッチで4輪の減衰力を変えられるほか、Gセンサーが検知する加減速による減衰力の自動制御、車速に対しての減衰力の自動制御を個別に行なえるのが大きな特徴だろう。

車室内からサスペンションの減衰力調整を変更できる「EDFC」の最新版となる「EDFC5」。使用するにはテイン製サスペンションの装着が前提となる。GPSキットはオプション。1台分の価格は10万5050円
最新版の大きな特徴の1つである「ジャーク(躍度)」を導き出す計算式

 そして旧モデルから進化した最大のハイライトは、芝浦工大の渡邊教授との産学連携で開発した「ジャーク(躍度)制御モード」が加わったことだ。これは、Gの変化量、つまり加減速やハンドル操舵によって、これから必要とされる減衰力を先読み制御(ジャーク感応自動調整モード)することで、ハンドリングと乗り心地の両立を可能とした。

 今回そのEDFC5を搭載した「ノア」「新型プリウス」「GR86」を試乗する機会を得た。試乗車は全てTEINの全長調整式ストリートユース用車高調整ショックアブソーバー「RX1」を装着し、これにEDFC5を組み合わせたものだ。

車高調整キット「RX1」。画像はノア/ヴォクシー用で価格は22万円。新型プリウス用は21万2300円。GR86用は20万6800円
モニターに表示されている「48」は、現在の各サスペンションの減衰力設定値(左側がフロント左右、右側がリア左右。車高調「RX1」は前後とも16段の減衰力調整が備わっているが、EDFC5は高精度ステッピングモーターを搭載しているので、16段、32段、64段、96段と、より細かく制御できるようになる。写真は96段設定で、現在中間の「48」になっていることを表示している

 RX1のコンセプトは日常使いでの乗り心地と正確なハンドリング。ミニバンのような多人数乗車でも快適な乗り心地が保てるように、ギャップを通過してもフルバンプの衝撃を穏やかにするハイドロ・バン・ストッパー(ダンパー・イン・ダンパーでフルバンプ付近でのみ減衰力を発生するラリーカー由来のもの)を内蔵することで乗り心地を改善している。OEではコスト的に難しい機構だ。

 最初の試乗車はノア。コースはアップダウンの多いエビスサーキットの東コース。EDFC5による減衰力調整はせず、RX1のみのフィーリングチェックを行なった。前後スプリングレート、ダンパーレート、車高調によってフロントは40㎜、リアは50㎜下げられ、タイヤサイズは205/55R17から215/45R18にインチアップされている。

この日試乗したうちの1台はトヨタのノア
車高ダウン&タイヤをインチアップしているが、サスペンションキット「RX1」の乗り味はしっかりと走る印象だった

 ツイスティなコースでもしっかり走るのが第一印象。乗り心地は硬めで特にリアの強さを感じるが、少なくともサーキットでは余分な動きがなく滑らかだ。純正の穏やかな動きとは違ってミニバンらしからぬキビキビした動きが印象に残る。残念ながらセカンド/サードシートでの乗り心地は確認できなかったが、TEINによればセールスポイントの1つだという。

 次に新型プリウスを試乗。こちらも前後スプリングがフロント3.0kgf/mmから5.0 kgf/mmに、リアは3.5 kgf/mmから4.7 kgf/mmに固められ、車高はフロント35mm、リア30㎜ダウンされている。またアッパーマウントも強化ゴムに変更されている。タイヤは標準の195/50R19から225/45R19とサイズアップされる。

新型プリウスも車高が下がるとスポーティな雰囲気になる

 RX1の減衰力は伸圧同時調整で、マニュアルだと16段の調整が可能。試乗車の減衰力は真ん中の8段に設定されていた。

 もともとハンドリングに優れたプリウスが、地を這うようにサーキットを走る。タイトコーナーでのハンドル応答性もシャープで生き生きとした走りを実感できる。

 乗り心地ではリアから突き上げは強くなっているものの、前後収束バランスが保たれているのでピッチングは小さい。

いよいよEDFC5を試す

EDFC5は「車速感応」「G感応」「ジャーク感応」さらにすべてを使う「統合調整」と設定も細かくできるので、今回はテインのスタッフさんにアドバイスをもらいながら試乗を行なった

 4輪のショックアブソーバーの減衰力特性を独立制御でき、ドライバーの好みに応じてステア特性も変えられる。RX1ではマニュアルでは16段制御だが、EDFC5では減衰力変更をモーター駆動することで96段制御に変更できる。つまり、ほぼ無段階制御でマニアックな要望にも応えられる。

 ダッシュボードに設置されたディスプレイには各輪とも中間の48と表示されていた。余談だがこのディスプレイのカラー表示も好みに応じて変えられる。ちなみに選んだのはモノクロのようで見やすかったブルー。

縦22mm×横60mm の大型ディスプレイを採用し、高い視認性を確保。光センサで周囲の明るさを感知し、ディスプレイの輝度を自動調整してくれる(自動調整OFFも可能)。ディスプレイの色はデフォルトの4色(ホワイト、グリーン、アンバー、ブルー)に加え、好みの色に微調整できるユーザーカスタマイズも用意されている

 まずジャーク制御のみを入れる。何が変わるのかちょっとワクワクだ。

 コーナーでのターンインの動きが滑らかになる。Gを感知して瞬時に高い減衰力を選ぶためにハンドル応答性に優れている。ただコーナーの中間から出口にかけては減衰力の変化が大きく感じられた。もっとも市街地走行では気にならないレベルだ。

 次にスパンの短いスラロームに50㎞/hで進入。ハンドルの操舵速度が早く、切り返しで応答遅れを感じた。とにかくEDFC5は奥が深そうだ。

スラロームでも上下動の収束が早く、ハンドルの切り返しでの安定性が高くなる

 ジャーク制御に加えてG制御を入れるとターンインからの動きにメリハリが出て、ターンアウトの姿勢も安定している。スラロームでも上下動の収束が早く、ハンドルの切り返しでの安定性が高くなる。サーキットではコントロールしやすいモードだ。

 さらに速度制御を入れる。速度が上がると減衰力は高めに設定されるので最初からスポーツダンパーを入れたようなソリッドな印象だ。姿勢変化は小さいが乗り心地も路面からのショックがダイレクトになる印象だった。

速度制御を使用するとよりスポーティな乗り味になった

 次に減衰力を前後とも思いきって落としてもらう。RX1の設定減衰力内の一番低い状態となり、ディスプレイ上は前後とも96を表示する(数字が大きいほど減衰力が低くなる)。姿勢変化が大きくなるが、ショックアブソーバーはこのポジションでもしっかり減衰力を出し不安感はない。

 この状態でジャーク制御を入れるとハンドルレスポンスが高くなるのが分かり、滑らかなハンドルフィールを感じやすくなった。その一方でコーナーの中盤からは姿勢は少し乱れる。先ほどの動きがより明快になった印象だ。

減衰力が柔らかい状態でジャーク制御を使うとクルマの動きがより明快になる

 このようにEDFC5は各輪の減衰力を車内から自由自在に行え、さらにジャーク制御、G制御、速度制御を独立、あるいはそれらを組み合わせて好みのハンドリングや乗り心地をいつでも好きなタイミングで選択できる。

 また、AI学習によってオーナーのドライビングに合った減衰力を選択して、走りやすい環境を作るという。

 さらには、EDFC5の応用では記憶しているジャーク制御の回数からドライビングの学習にも役立つ。つまり制御回数が少ない=滑らかなドライビングになるわけだ。

前後左右の減衰力を自在に変えられ、めちゃくちゃ面白かった。

最後に試乗したのはGR86

 最後にGR86のMT車に試乗した。スプリングは前後2.7/4.0kgf/mmから前後6kgf/mmに固められ、車高も30mm低くなっている。装着タイヤは215/45R17から225/40R18にインチアップされていた。

 ノアやプリウスよりもパワーのある「GR86」でエビスサーキットを走るのは面白い。最初からEDFC5を活用し、リアの減衰力を低めに設定しながらジャーク制御のみを入れたり、G制御、速度制御を加えるなどして挙動変化やコントロール性がどう変わるか試してみた。

パワーがあるので全体的にスピードも速くなるが、EDFC5による効果はノアやプリウスと同じ傾向
細かく設定できるから自分好みのサスペンションに仕上げることも可能

 結果的には各機能の効果はプリウスと同じ傾向だったが、FRのGR86ではリアの減衰力を変えてパワーオンでの踏ん張りやコントロール性を試してみた。簡単に減衰力を室内から変えられるなんて素晴らしい。

 減衰力を48/48からリアのみ70前後ほどの低い減衰力にしてみた。この設定だとリアは粘りながらも滑る状態でコーナーでのグリップは低くなる。

 さらに速度を上げるとリアが動きやすくなり、減衰力を60までに上げるとリアの安定性も高くなる。このように走り方によって減衰力を微妙に変えられるのもEDFC5の魅力で、乗り心地を維持したままハンドリングを変えることができる。ホントにマニアックな製品だ。

途中で何度かピットに戻り、テインのスタッフへ乗り心地やフィーリングを報告しながら試乗を続けた

 モータースポーツから誕生したショックアブソーバーメーカー、TEINはサスペンションへのこだわりを大切にして製品に反映させている。

 いろいろなバリエーションを試したコントロールユニットのEDFC5は、ショックアブソーバーのRX1と組み合わせることで走る楽しさが大きく広がるに違いない。価格はEDFC5は1セット10万5050円。RX1は車種によるが約21万円、いずれも3年保証としており(ショックアブソーバーは3年/6万km)、製品に対する自信がうかがえる。

株式会社テイン 開発課の渡邊宏尚氏が持つのは、長期にわたり開発をしてきたダンパーのボディ部での減衰力調整を可能とする「D.B.A.(Damper Body Adjuster)」
テインが新たに開発した「D.B.A.(Damper Body Adjuster)」。減衰力調整機構をアッパー部に搭載できない車種向けに開発してきたという
ABARTH 595をはじめ、今後は4x4系、ピックアップ系などの車種展開も検討しているという
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一