試乗記

アストンマーティン「DBX707」に試乗 雄大な北海道をハイパワースポーツSUVでドライブ

アストンマーティン「DBX707」

 英国の名門アストンマーティンが初めて手がけたSUV「DBX」が登場したのが2019年末。そしてさらなるハイパフォーマンスバージョンの「DBX707」が発表されたのは2022年のことだ。そのDBX707を試乗する機会があったので、ここにお届けする。

合言葉は“パワー”

 DBX707のスペックをおさらいしておくと、ボディサイズは5039×1998×1680mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3060mmで、乾燥重量は2245kg。搭載するパワートレーンは、DBX707という車名と同じ数字の最高出力707PS/4500rpm、最大トルク900Nm/2600-4500rpmを発生する4.0リッターV8ツインターボエンジンで、ベースとなるのはエンジンのサイド部分に刻印があるようにメルセデスAMGのM177系。そしてカバーには英国内で手組みされた証拠である「HAND BUILT IN GREAT BRITAIN」のバッヂが取り付けられている。ちなみにノーマルDBXの4.0リッターV8が発生するのは550PS/700Nmなので、大型ボールベアリング・ターボチャージャーを採用するとともに専用のキャリブレーションを行なうことで157PS/200Nmものチューンアップがなされている。

最高出力707PS/4500rpm、最大トルク900Nm/2600-4500rpmを発生するV型8気筒 4.0リッターツインターボエンジンを搭載し、トランスミッションには9速ATを組み合わせる
アストンマーティンの誇り“HAND BUILT IN GREAT BRTAIN”のバッヂ

 トランスミッションはその増大したトルクに対応すべく、オイル冷却の湿式多板クラッチを使用した9段ATを搭載していて、さらにDBXの3.07から3.27へ最終減速比を低めることで、ダイレクト感とレスポンスが向上。アクティブ4WDシステムの足まわりは、3チャンバーのエアサスペンションを再設定したり、電子制御式リア・リミテッドスリップ・ディファレンシャル(e-diff)を新バージョンに変更したりすることで、極低速域から超高速域まで対応できるコントロール性を獲得している。さらに前420mm、後390mmのカーボンセラミック製ディスクブレーキを標準装備とすることで、バネ下荷重を大幅に軽減。6ポッドのキャリパーと合わせてハイパワーに対する強大なストッピングパワーを手に入れている。

 そのパフォーマンスは、0-100km/hが3.3秒(DBXは4.5秒)、0-160km/hが7.4秒、80-120km/hが1.9秒という加速力と、最高速310km/h(同291km/h)を誇っていて、ドイツの本家を上まわるほどの性能を発揮する世界最強のスーパーSUVに成長。合言葉は万能の「パワー」なのだそうだ。

ハイパフォーマンスでありながら、乗る人を選ばないという

 筆者が試乗したのは淡いピンク色に輝くローズマリーゴールドをまとったもの。ホテル駐車場にたたずむボディは、増大したパワーに対応した冷却性能を確保すべくアストンマーティン最大級の開口面積となったツインベーンのフロントグリルと、さらなるダウンフォースを与えるためのカーボン製フロントスプリッターがまず目を引く。クラムシェルボンネットの鼻先に光るアストンのエンブレムは、英国ジュエリー・クォーターで手仕上げで製作された純メタル製だ。サイドでは、新たに設定された巨大な鍛造23インチダイヤモンドターン付きホイールが大きなボディとのバランスを上手に保っていて、リアは特徴的なダックテールだけでなく、新しいリップスポイラーを装着したルーフウイングやツイン・リアディフューザー、大径4本出しエキゾーストなどで“武装”を強化していて、高性能車であることを後続車に見せつける仕様になっている。

ローズマリーゴールドカラーのDBX707

 インテリアはボディカラーにマッチしたパープル! 分厚いドアのせいもあって乗り込んだドライビングシートは左右方向が適度にタイトで、スポーツカー度満点。一方のリアシートはロングホイールベースのおかげで前後方向に相当な余裕があり、さらに頭上の広大なガラスルーフのおかげでゆったりとくつろぐことができる。

インテリアカラーは上品なパープル

 今回の試乗コースは、羊蹄山の麓にあるホテル「パーク ハイアット ニセコ HANAZONO」をスタートし、地産地消にこだわるレストラン「ULTIMO NISEKO」でのランチをいただいたあと、支笏湖畔を経て千歳空港に至る、延べ走行距離160km、走行時間3時間というものだ。

会場となったパーク ハイアット ニセコ HANAZONO
ランチ会場の「ULTIMO NISEKO」でいただいた、羊蹄山をイメージしたシャーベットドリンク

 最初の約20分間は、SUPER GTなどで活躍するレーシングドライバーの番場琢さんがDBX707のインストラクションを兼ねてステアリングを握ることに。メリハリがありながらも同乗者に余計なGを与えない見事なドライビングを堪能したあと、ドライバーズシートを交代した。

スタートしてからの約20分は番場さんにステアリングを握ってもらった。奥に映っている山は羊蹄山

 センターコンソール上部にある丸いボタン式シフトセンターにあるスタートスイッチを押してV8に火を入れる(という表現はだんだんと少なくなってくるかも)のだが、パドルシフトの+を引きながらボタンを押すと、通常よりも音量を増してそれを目覚ませることができる隠しモードがあることを教えてもらい、早速試してみる。こちらはシチュエーションに応じて使い分けができるのだ。

 DBX707のドライブモードは「Terrain」「Individual」「GT」「Sport」「Sport+」の5通りがあり、センターコンソールにあるダイヤルを回すだけで素早く選択できる。マニュアル式スイッチを減らしてスクリーン内の階層から選択するものより、使いやすさという点ではこの方法がはるかに優れているのは言うまでもない。コンソール上にはさらに多くのボタンが配置されていて、例えばマフラーの絵が描かれたボタンを押せば、通常モードで走行していても排気音だけアップした音を聞くこともできるようになっている。

ドライブモードはセンターコンソールのダイヤルを回して選択可能

 デフォルトのGTモードでの走行は、707PSの超高性能モデルをドライブしているとは思えないほど快適で静か。ちょっと荒れた路面でもしれっとそれを受け流してしまう。そして前後左右の視界がよいので、車体の大きさを意識させない巧妙な設計がなされていることに気がつく。

 せっかくなので、ダイヤルを回してSport+を選んで車速を上げる。ステアリングの手応えが増してクイックになり、伝わる路面感覚が敏感に。さらにエキゾーストノイズは野太く吠え始めるのだけれども、そこには英国流のアンダーステイトメント性が盛り込まれていて、例えばイタリアンSUVが持つはじけた感じ(こっちも大好きなのだが)が抑えられているのがまた素敵だ。ワインディングでは、背が高く重いボディがもたらす慣性力、つまり前後・左右方向の“揺れ”を電子制御のアクティブコントロールがほぼ完全に制御していて、スポーツカーに乗っているかの如く平行移動する。これはもうすごいとしか言いようがない。そしてドライバーだけでなく同乗者もそれほど身構えることなく乗り続けていられるのだ。

 まあ、広大な北海道の自然の中を走っていると通常の速度感覚がなくなってしまうし、前出の番場氏によると、路面がウエットの時にはネガな面がわずかに顔を出すとのことで、DBX707のドライブでは十分に自制することが必要になってくる。足元の強力なカーボンブレーキのおかげで、一気に車速を落とすのは簡単なのだけれど。

 試乗を終え、千歳空港に到着した際の燃費は約8km/Lを記録。707PSのV8を搭載した2~3名乗車のSUVモデルとしては十分な数字だろう。価格は3000万円オーバーながら、DBXとDBX707の両方を試乗してしまうと、こちらを選ぶお客さんが圧倒的に多いのだそう。ウイングロゴを冠したスポーツモデルをガレージに納めつつも、SUVモデルは他社となっていたオーナーにとって、DBXだけでなく最強の707が登場したのは朗報以外の何者でもない。

アストンマーティン「DBX707」概要

ボディサイズは5039×1998×1680mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3060mmで、乾燥重量は2245kg。23インチのホイール内に収められるブレーキはフロント420×40mmディスク、リア390×32mmディスクを採用。ブレーキディスクはカーボンセラミック製のベンチレーテッド&溝付き2ピース、セミフローティング構造で、キャリパーはフロントがアルミニウム製フロント6ピストン・モノブロックキャリパー、リアがアルミニウム&鋳鉄製スライディング・シングルピストンキャリパー、一体型パークブレーキとなる。フロントとリアにはクローム加工の真鍮とエナメル製の手仕上げのアストンマーティン・バッヂを装着
分厚いドアを開くと、ボディカラーに合わせたパープルのインテリアがお目見え。インパネ中央にプッシュスタートボタンやシフトボタンをレイアウトし、センターコンソールにはドライブモードの切り替えスイッチや、運転支援機能のスイッチを配置。開放的なパノラマガラスサンルーフも装備する
原 アキラ