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三菱自動車の新型「アウトランダーPHEV」について加藤社長と長岡副社長に聞く 「“三菱自動車らしさ”を十二分に発揮」
2021年10月29日 06:00
- 2021年10月28日 開催
三菱自動車工業は10月28日、クロスオーバーSUV「アウトランダー」のプラグインハイブリッドEV(PHEV)モデルをフルモデルチェンジし、12月16日に発売すると発表した。
グレードは運転支援技術と予防安全技術を備えたベーシックな「M」(5人乗り)、20インチホイールやコネクティッド機能など充実装備の「G」(5人乗り/7人乗り)、そのうえで専用の上質な内外装とし、BOSEプレミアムサウンドシステムなどを標準装備した上級仕様の「P」(7人乗り)の3モデル。価格は462万1100円~532万700円。
新型アウトランダーPHEVは仏ルノー、日産自動車、三菱自動車のアライアンス3社で開発した新世代のプラットフォームを採用し、2020年に米国へ導入された日産の新型「ローグ」(日本名:エクストレイル)などと兄弟車となるが、独自のPHEVシステムや電動化技術、四輪制御技術、先進技術を活用した三菱自動車のフラグシップに位置付けられるモデル。
コンセプトどおりの「威風堂堂」としたデザイン、PHEVシステムではコンポーネントを刷新し、EV航続距離を延長しつつEVらしい加速感を向上させたこと、電気自動車と住宅の相互電力供給をするV2H(Vehicle to Home)に対応し、エンジンでの発電を組み合わせればガソリン満タンで最大約12日分の電力供給ができる点など、見どころ満載の注目の新型車だ。
この新型アウトランダーPHEVの発表に合わせて、三菱自動車の代表執行役社長 兼 最高経営責任者の加藤隆雄氏、代表執行役副社長(ものづくり担当)の長岡宏氏が報道陣向けのグループインタビューに応じたので、その模様をレポートする。
三菱自動車の新型「アウトランダーPHEV」(プロトタイプ)、上質なSUVに仕上がっていることを実感
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/1361412.html
三菱自動車の新型「アウトランダーPHEV」(プロトタイプ)をサーキット試乗 想像以上の完成度!
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/1361541.html
写真で見る 三菱自動車「アウトランダーPHEV」(3代目)
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/photo/1361284.html
三菱自動車、「アウトランダーPHEV」フルモデルチェンジ 7名仕様登場で価格は462万1100円から
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1361213.html
各地で高評価
加藤社長:まず新型アウトランダーPHEVについて、内外装の仕上がりの面や性能面で大変満足いくものに仕上がったなというのが私の感想です。このクルマは日産さん、ルノーさんと共通のアライアンスのプラットフォームを使っているということで、中には『日産と同じクルマになってしまうのではないか』とご心配する声も途中お聞きしました。特にこのPHEVは同社独自の技術でございまして、これをアライアンスのプラットフォームにのっけたということですが、独自の“三菱自動車らしさ”というものを十二分に発揮することができたのではないかと思っています。
日本に先立ちまして、アメリカではすでにガソリン車が発売されていますが、おかげさまで大変ご好評をいただいており、半導体不足で数が十分に作れないというような状態ではありますが、クルマがアメリカに着いた途端に売れていくということで、嬉しい悲鳴が上がっている状況です。それからニュージーランドでも発売しましたし、間もなくオーストラリアでも発売いたしますが、すでにたくさんの問い合わせをいただいておりまして、こちらでも大変評判がいいということを現地から聞いております。特にニュージーランドでは環境車に対する恩恵などが出た関係で、このPHEVに対する問い合せも非常に多く入ってきています。
また日本でも10月半ばから受注を開始しておりますが、出だしのところは“非常に好調”ということでお客さまの関心の高さを感じますし、手ごたえを感じているところです。ぜひ日本でもこのクルマを成功させたいと思っています。
――技術的にエクリプスクロス PHEVとの電動化システムの差を教えてください。そのうえで、あらためてルノー・日産・三菱自動車のアライアンスにおいて三菱自動車の電動化技術がアライアンスによってどう進化できたのか教えてください。
長岡副社長:ひと言で申し上げて全て変わっていると言って過言ではないほど大幅に変わっています。基本的にわれわれが培ってきたPHEVの技術、あるいはさまざまな制御に対する知見というのは当然活かしておりますが、例えばフロントモーター、リアモーターは大幅にパワーを上げていますし、リア側でいうとモーターとインバーターを一体化することで今回(PHEVで)3列シートができるようになりました。バッテリについても大幅に容量を加えてEV走行の距離も大幅に拡大しているということで、コンポーネントはほぼ全て刷新しています。
PHEVの制御という意味では、車両運動統合制御システム「S-AWC(Super-All Wheel Control)」とセットの電動化であり、その走りの技術というのはそのまま向上させています。同じ部分はわれわれが培ってきたPHEVとS-AWCの融合の部分、コンポーネントはほぼ全て刷新したということです。
また、アライアンスとの連携で旧型のアウトランダー、もしくはエクリプスクロス PHEVに対してよくできたのかという点ですが、PHEVのシステム自体はいずれにしても三菱自動車でやっておりまして、そこは三菱自動車が開発しています。クルマということになりますと、プラットフォームおよび最近はフィジカルなプラットフォームよりは色々な電動部品という方がクルマの実態に近くなってきておりますが、そういう意味も含めてeアーキテクチャと呼んでおりますが電子部品の全体を統括するようなシステムは今回アライアンスのものを使わせていただいています。
そういう意味において、特に自動運転技術であるとかあるいはインフォテイメントシステム、空調システムといったものは基本的にアライアンスと共用しながら、インテリア、エクステリアなどは三菱自動車で新作し、かつ走りの部分もPHEVの制御と一緒にわれわれが仕立てているということです。基本的な先進技術はアライアンスのものをうまく使いながら、PHEVとそれ以外の部分、走りのチューニングも含めて三菱自動車がやれたということで非常にベースの高いところから三菱自動車らしいクルマを作り込めたと考えています。
――オンライン発表会ではライフスタイルや人を中心とした商品訴求が強かったと思いますが、日本国内での車両販売ではなくいわゆる“ことづくり”の分野の事業化をどうお考えか。例えばコネクティビティ技術を活用してメーカー、販売店、ユーザーとの関係をどうしていきたいか教えてください。
加藤社長:ひと言で申し上げますと、いま色々なサービスが出てきておりますが、われわれとしても果敢に挑戦していきたいと思っています。大事なことは2つあり、1つは新しい取り組み、新しいサービスで、これは時代が変化していきますからこういったものについていく必要があるだろうと。その一方で、いまのうちの商品を見たときに弱い面はなんなのかと社内で色々と考えておりまして、簡単に言いますと“三菱自動車らしさ”と申し上げておりますし、ラリーアートの話(5月の中期経営計画「Small but Beautiful」のアップデート発表の中で「ラリーアート」ブランドの復活を宣言している)もいたしましたが、今まで三菱自動車が培ってきたものの中でブランドとしてしっかりと残していくべきものがお客さまに受け入れられ、お客さまに喜んでいただけるものは何なのかと考えて実際にクルマにしていくと作業をまずやっています。
それから新しいサービスについては、例えばサブスクリプションですとかシェアリングのところはお客さまにどう受け入れられるかモニタリングしておりますが、これは競合他社さまでは結構ご利用が多いということで、新たな販売戦略として大きく役立つのではないかと評価しております。あとはオンライン販売的なところ、これは当社ではアメリカが先行しておりまして、かなりオンライン販売でやれておるということ。それから日本よりもむしろタイあたりで先行しておりまして、これはグローバルでお客さまが要望されることが少しずつ違うものですから、こういったものを検討している最中です。最終的には日本でもそういったことも考えていきたいと思います。
それからコネクティッドのところですが、これは単純にコネクティッドでつなげてそこからサービスを提供するということは始めておりますが、これも世界的に分析しておりまして、コネクティッドで提供できるサービスの中でもお客さまで非常に関心を持たれているものと、意外とそうでもなくてあまりご利用されないものが徐々に分かってきております。そういったものの中でどういうものがお客さまに受け入れられるのか、あとはコネクティッドを利用して今度はアフターサービスにつなげることですとか、それは当然ながらわれわれ考えていく必要がありますし、例えばスマートキーなんかでシェアリングとの連携なども考える必要があると思います。徐々に実施に移しながら知見を積んでいるところでございますので、最初に申し上げた“三菱自動車らしさ”ということとそういった新しい技術をいかにうまく組み合わせていくのか。これが重要なポイントになると思います。
――発表会でも触れられていましたが、新型アウトランダーPHEVが先代モデルから明らかに車格が上がったように感じられます。御社の中でアウトランダーのポジションが変わり、明らかに最上級車種と捉えて構わないでしょうか。
加藤社長:そのように捉えていただいてよいのかなと思います。旧型のアウトランダーに対してとにかく内外装、走行性能など全てひとクラス上のものを目指すぞというコンセプトのもとに開発を進めてきておりますので、その結果狙い通りに全ての面でひとクラス上のものに仕上がったのかなと考えています。そういった意味では現時点での三菱自動車としてこれが最上級車種であるという位置付けで間違いございません。
――先代のアウトランダーは発売から4年後に最上級グレードとして「S Edition」が発売されました。また、先般ラリーアート復活を明言されています。将来的に走行性能を高めた最上級グレードが追加されるかどうか、答えられる範囲でお願いします。
加藤社長:社内的にさまざまな検討をしておりまして、先ほどラリーアートという話もございましたが、じゃあラリーアートというのが当社で持っているクルマの中でどういったものに適応していくのが一番親和性がいいのかですとか、そういった議論を色々社内で進めている最中でございますし、まだ何も決まっておりませんですがもしこのクルマ(新型アウトランダーPHEV)との親和性がいいということであれば、そういったことも考えられるのかなと思います。
――今回新型アウトランダーは国内はPHEVのみのラインアップですが、今後国内市場でガソリンモデルを追加する可能性はあるのでしょうか。
加藤社長:現時点では予定はございません。これは旧型のアウトランダーの国内販売の状況を見ておりまして、お客さまのご関心が明らかにPHEVの方が強いということで思い切って今回PHEVに絞りました。ただ、さまざまなお客さまのご意見があると思いますので、引き続きお客さまからの反応をよく見ていきたいと思っていますが、現時点ではガソリンモデルの販売は予定していません。
――PHEVで急速充電機能を必ず付けられていますが、価格が上昇してしまうという点もあります。この機能にこだわる理由を教えてください。
長岡副社長:おっしゃるとおり、急速充電を付けることでそれだけのコストがかかっているのも事実ですし、一方で「PHEVなのだから、BEV(電気自動車)に譲った方がいいのではないか」という議論があるのもそのとおりでございます。
ただ、われわれが急速充電機能を付ける理由はV2H(Vehicle to Home)なども含めて、自分が急速充電で電気を受け取るだけではなく、自分から外に対して強力な電力を供給できる能力を持ちたいということで、今後の災害時など色々なことを考えてもこういう能力が非常に重要になってくるということも考え、PHEVの1つのあるべき姿だとわれわれはこだわって急速充電機能を付けてきたということです。
――先代も含めアウトランダーは非常にいいクルマだと認識していますが、なかなか広く普及という部分でいうと難しいのかなと感じています。その1つが純粋なEVもそうなのですが日本は集合住宅が多いと言われているのですが、そのあたりの解決策を考えていらっしゃいますでしょうか。
加藤社長:まず普及について、PHEV自体の便利な価値というのがまだ十分にお客さまに伝わっていないのかなという声を販売店からも聞いておりまして、そういう意味で今回アウトランダーPHEVの発売に合わせてYouTubeでの動画、それからTV-CMも考えておりますが1本でなくていくつかそういったものを訴求するような動画を考えております。当然ながら公式サイト上でもそういったものをご理解いただく工夫というのを進めていきたいと思いますし、あとはお客さまの試乗も今までは1泊2日貸し出していたキャンペーンを2泊3日にするなどし、例えばキャンプなどで使えることなど使っていただいて魅力を感じていただく取り組み、それからもう1つは日本全国の8か所でPHEVのフューチャーパークという名前のイベントを考えております。大型商用施設などを利用し、実際にPHEVを持っていってお客さまに触っていただいてPHEVの便利さやよさをご体感いただく。こういうイベントを今までとは違って新たに追加し、何とかPHEVの認知度を上げていきたいと思います。
それから災害時協力協定も140か所を超え、そのたびにPHEVを使ったデモのようなことをやっておりまして、そういう草の根の理解活動なども含めて色々と取り組んでまいりたいと思っています。
集合住宅の問題ですが、これはたしかにおっしゃるとおりでPHEVだけではなくてBEVの方でも問題として挙がっております。この集合住宅に限らず充電器を設置するということにつきましても例えば補助金の問題、それから意外と充電器を設置する際の規制の面でも制約が多いということがございます。それから集合住宅というのはやはりマンションの管理組合での調整というものが出てきます。そうなるとこれは当社1社ではなかなか対応が難しいということですので、カーボンニュートラルという方針が政府から示されておりますが、自工会の中でもこういうものを解決していきましょうよと話し合いをしています。それをもって例えば経済産業省、それから国土交通省などの機関に働きかけてもっと電動化が進みやすい環境づくりを全自動車会社が協力して進めていくということでございます。
長岡副社長:いまの集合住宅の件ですが、少しだけ技術的な補足をさせていただきます。さきほど加藤から申し上げたとおりですが、一方でそうはいっても集合住宅のタワー的な駐車場であるところでも、お客さま用の駐車場などに充電器が少しずつ設置されてきているのも間違いないかなと思います。
そこで設置されるのが大概は普通充電器でありまして、普通充電器で充電できないと厳しいねという条件があるのはおっしゃるとおりです。ただ、BEVと違いPHEVのいまの電池容量、今回の新型アウトランダーPHEVは20kWhですので、実際はバッテリ残量がゼロになっていることはありませんので数時間あれば充電できる。そういう意味でBEVより集合住宅との親和性があるのではないかと思います。
――先ほどの発表会で加藤社長が新型アウトランダーPHEVのステアリングを握って走られている姿を拝見しました。今後開発していく車両の感触を直接確かることは今後もやっていくのでしょうか。
加藤社長:今後も自分で運転してクルマの感触を確かめていくのかということですが、これはYesです。実は私、毎月岡崎の方へ行っておりまして、岡崎の方では実験の連中と一緒に色々なクルマに乗っております。特に昔のランエボですとか、そういうクルマにも乗っています(笑)。実は隣にいる長岡とも色々騒ぎながらクルマに乗っているのですが、そのときにこういうクルマがあるよだとか、こういうサウンドシステムがあるよなど、岡崎の方で色々と準備してくれています。現在開発中のクルマも、私自身で色々と運転して確かめています。
それから北海道には十勝の試験場もありますが、もう3回くらい行ったでしょうか。色々な道があって雪なんかが降ると結構楽しいものですから、こういったところでも運転しています。引き続き楽しみながらクルマの感触を確かめていきたいと思っています。
――6月の株主総会で来場者からスポーツカーの可能性についての質問があり、「いずれは少しでも出せるように頑張りたい」とのコメントもありました。加藤社長が考える“今後のスポーツカー”像とはどのようなものなのか、イメージがあれば教えてください。また発売の可能性もお聞かせください。
加藤社長:やはりわれわれは昔ランサーですとかパジェロなどで色々なラリーに参戦したことがありまして、私も一般社員のときにはああいうものを見て非常に歓喜した思い出がありますので、チャンスがあればそういうことも考えていきたいと思う一方で、環境対応が進んでくるとその走りだけをやっていて世の中に受け入れられるのかと考えていく必要があるのかなと思っています。それからセダンなどについても、お客さまのご要望自体がセダンからSUVに移りつつあると。
そういったものの中でどういうふうに考えていくか。今後スポーツカー的なものでも、やはり環境対応ができないとダメだろうと。それは間違いなくやらなくてはいけないと思いますが、いま話したようなことの中で将来可能性があるのかということは、ここにいる長岡も含め商品の連中と色々な話をしております。まだ具体的な計画、これを実現するようなことは全くありませんけれど、何かお話しできる段階になったらお話をさせていただければと思います。