試乗記

ジープからEVがついに登場! ジープらしいデザインに電気を詰め込んだ「アベンジャー」の走りはどんなもの?

ジープ初のBEV(バッテリ電気自動車)「アベンジャー」

明確なキャラクターを持つEV

 ジープ初となるピュアEV「アベンジャー」が日本上陸を果たし、試乗することができた。タフで、ゴツくて、野性的。そしてカジュアルなルックスで人気のジープが、電気自動車になるとどうなるか? 「静かでスムーズなジープ」の走りを、一般道で確かめてみた。

 走り出す前にそのアーキテクチャを説明すれば、アベンジャーはプジョー/シトロエンが先んじて開発した「eCMP」プラットフォームをベースに作られるピュアEVだ。ただしそのコンポーネンツは、前後オーバーハングを30mm以上短くしながらも衝撃吸収性能はこれまでと同等にするなど、60%以上がアベンジャー専用の設計になっているのだという。

 スリーサイズは全長×全幅×全高が4105×1775×1595mmと小柄で、カテゴリー的にはBセグメントのコンパクトSUV。ジープのゴツくて大柄なイメージとは反して、そのボディは兄弟車となるフィアット「600e」と比べても全長で95mm、全幅で5mm小さい。対して全高(1595mm)とホイールベース(2560mm)は同数値だ。

ジープ初のBEVモデルとなる「アベンジャー」。ボディサイズは4105×1775×1595mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2560mm。車両重量は1570kg

 だからだろう筆者はアベンジャーのリアシートに座ったとき、「割と使えるな」と思った。長距離移動やファミリーユースを想起させるフィアット・600eには膝まわりの狭さを感じたが、全長がよりコンパクトなアベンジャーには、1人ないし2人で楽しむパーソナルコンパクトSUVを直感したからだ。小さな割にしっかりとしたリアシートを備えているし、これがピュアEVであることも含めて、短い距離なら十分以上に使えると感じたわけである。

 そんなアベンジャーの一充電あたりの航続距離は486km(WLTC値)と、サイズも大きく車重もわずかに10kgほど重たいフィアット・600eより、約7km少ない。ほぼ変わらないといえばそれまでだが、その差はボディ形状の違いが空力性能の差となって表れているのだろうか。ちなみにそのCd値は、0.338だという。

 また急速充電は、フィアット・600e同様にCHAdeMOポートを備えている。ただし日本仕様はまだ50kW対応で、0~80%の充電には50分ほどかかる。

54kWhのバッテリを搭載し、最高出力115kW(156PS)/4070-7500rpm、最大トルク270Nm(27.5kgfm)/500-4060rpmを発生する「ZK02」モーターを駆動する前輪駆動モデル。一充電航続距離(WLTCモード)は486km
充電規格は普通充電と急速充電(CHAdeMO)に対応

 駆動用モーターは最高出力およびトルクが115kW(156PS)/270Nmで、定格出力が62kW(約84PS)と、これもフィアット・600eと同数値だ。駆動方式もFWDで同じだが、アベンジャーには悪路走破用の「セレクテレインシステム」が装備されている。モードは「ノーマル」「エコ」「スポーツ」以外に、「スノー」「マッド」「サンド」の合計6種類だ。

 さて試乗車は、17インチタイヤを履いた標準仕様の「アルティテュード」(580万円)だった。ルーフにはレールが標準装備されており、ボディカラーも訴求色であるオプションの「サン メタリック」となっていた。

 EVらしい見た目としては、ジープのアイデンティティである「7スロットグリル」が空気抵抗を減らすべくふさがれているところだろうか。そしてヘッドライト上部に細く輝くLEDデイランプが、その顔つきをキリッと引き締めている。

EV化にともない、ジープのアイデンティティとなる7スロットルグリルは閉じたデザインとなった
リアのシグネチャーライトはジェリー缶のデザインからインスパイアされた「X」のデザイン
アルティテュードは17インチアルミホイールを標準装備。タイヤはグッドイヤー「EfficientGrip 2 SUV」(215/60R17)を装着

 ちなみにアベンジャーには150台限定の「ローンチエディション」(595万円)があり、こちらは18インチタイヤとパワーサンルーフがセットになった「スタイルパック」が付くため、ルーフレールは付かない。またボディカラーはブラックペイントの2トーンとなっており、ダッシュボードはイエローに彩られている。

 コクピットに乗り込むと、ほどよく高められた車高で視界は良好。中央が盛り上がったボンネットはクルマの大きさを直感的に教えてくれるし、それがいかにもジープっぽくて楽しい。

アベンジャー アルティテュードのインパネ
テクノレザーステアリング ホイールにはADAS系のスイッチに加え、オーディオに関する操作スイッチも設定
シフトはボタンタイプ。ワイヤレス充電装備も備える
Apple CarPla/Android Autoに対応する10.25インチタッチパネルモニターを標準装備
悪路走破モードも含め6つの走行モードを備えるセレクテレインシステムを搭載
シート表皮はレザー。フロントはシートヒーターを備える
ラゲッジ容量はリアシート使用時で355Lを確保。6:4分割可倒シートを採用しているため、荷物の量によってアレンジができる
電気の力を手に入れた初のジープ車のフィーリングはいかに!?

いざ、実走!!

 センターコンソールの「D」ボタンを押してブレーキを緩めると、アベンジャーは「e-クリープ」制御でユルユルと走り出す。EVはトルクレスポンスが高いから、駐車時などはクリープしてくれると便利だ。対して「コンパス」にすら装備されているオートブレーキホールドがないのは、ちょっと残念。

 走り出して面白かったのは、ウインカーの作動音だ。“ドンッ カッ! ドンッ カッ!”とリズミカルに放つそのサウンドは、まるでバスドラムとスネアドラムのリムショットのようだった。

 街中での乗り心地は、シャッキリ系。ジープだけに“ゆるフワ”な足まわりを想像したが、コシのあるフィアット・600eのサスペンションと比べると、少しだけ剛性が高い感じだ。だから荒れた路面をゆっくり走ると多少横方向に揺さぶられるが、その分突き上げはきっちり減衰してくれるし、こちらを好むユーザーもいると思う。

ジープ アベンジャー。駆動方式はFWD。足まわりはシャッキリ系

 また大きなうねりを乗り越えたあとの着地では、この硬めの足がバッテリの重みをきちんと受け止めてくれる。乗り心地を重視して足まわりをソフトにしたEV特有の、胃袋に“ぐぇっ!”とのしかかる垂直荷重がないのはとてもいい。

 一方で足まわりがシャキッとしている割に、操舵レスポンスはやや鈍め。またノーマルモードだと電動パワステが効き過ぎていて、接地感がつかみづらかった。そのコンパクトさから、女性ユーザーも想定してのステアリングの軽さかもしれない。また回生ブレーキとのバランスか、ブレーキの初期タッチもややスポンジーだ。

 肝心なモーターライドは、とっても快適だ。

 足まわりの適度な硬さと相まって加速時のピッチングが少なく、リニアなトルク特性を使って街中をスイスイ走れる(これで接地感があれば!)。アクセルを深めに踏み込んでもトルクの出方は洗練されているし、絶対的なパワー感はないが、コンパクトSUVとしては十分な加速が得られる。

 街中ではイージーライドのキャラが強かったアベンジャーだが、高速巡航になるとその乗り味をビシッと定めてきたのは面目躍如だ。電動パワステは速度を高めるほどに座りを効かせ、操舵も同時に定まってくる。そしてちょっとだけ硬めの足まわりが、目地段差の入力を短く収束させながら直進安定性を高めてくれる。

「スポーツ」モードを選べば加速がさらによくなり、合流や追い越しでの動きもスムーズになる。ただレベル2を実現したというアダプティブ・クルーズ・コントロールの制御は、もっと走り込んでみる必要はあるが、第一印象としては操舵支援が少し雑だと感じた。

街中も高速巡航も快適にこなす

 総じてアベンジャーは、乗り手を選ばないカジュアルなコンパクトSUVだ。見た目もかなりのイケメンだし、EVに乗ってみたいユーザーにとっては、購入候補になり得る1台だろう。

 一方でここにジープらしいワイルドさや、ノリモノとしての面白さがあるかといえば、残念ながらオンロードではそれが分からなかった。

 とはいえこれだけのルックスだから「カッコいいEVに乗りたい」という要求は満たせると思うし、しかもジープというブランドが付いてくる。せっかくのオール電化だからもっとジープらしさをデジタルで表現してほしかったが、それが何なのかは筆者も明確には言えないからよしとしよう。

 ちなみに欧州ではこの他に1.2リッター直列3気筒ターボをベースとした「e-HYBRID」と、リアにもモーターを搭載する「4xe」がラインアップされている。フィアットはセイチェント(600)にマイルドハイブリッドを導入予定だが、ジープはそれを検討中とのこと。これだけイケメンだと、EVよりマイルドハイブリッドの方が先な気がするのは筆者だけではないと思う。

欧州ではマイルドハイブリッドモデルや4WDモデルも設定されている。日本への導入は検討中とのことなので、今後ラインアップが拡大されるかどうか注目したい
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートやイベント活動も行なう。

Photo:堤晋一