試乗記

ボルボ「EX40」のツインモーター仕様でロングドライブ 上質感とパワフルさが一気にレベルアップ

ボルボのバッテリEVモデル「EX40」のツインモーター仕様でロングドライブをしてみた

 ピュアEVであることを強調する“E”の文字を手にいれ、「XC40 Recharge」から名称変更となった「EX40」。そのハイエンドグレードとなる「EX40 Ultra Twin Motor」が大きく進化したということで、東京から栃木県の那須塩原を往復するロングドライブに出かけてみた。

 なお、EX40には3グレードがあり、エントリーモデルのシングルモーター仕様「Plus Single Motor」は679万円から、中間グレードのシングルモーター仕様「Ultra Single Motor」は719万円から、上位グレードのツインモーター仕様「Ultra Twin Motor」は789万円からとなる。

 2024年の夏に「EX30」で長野県の軽井沢までを無充電で往復したことがあり、ボルボが誇るバッテリマネジメントの実力にはいち目置いているのだが、今回はEVに厳しいといわれる冬。2023年以前に導入されていたツインモーターモデルよりも高効率な電費を実現して、航続距離が約16%伸びているというEX40 Ultra Twin Motorだが、果たしてどんなドライブになるのか期待と少々の不安が入り交じる……。

今回試乗した「EX40 Ultra Twin Motor」のボディサイズは、4440×1875×1650mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mm。最小回転半径は5.7m。試乗車のボディカラーはサンドデューンメタリック
ちなみに日本の車庫や駐車場事情に合わせて作られたひとまわり小さい「EX30」のボディサイズは、4235×1835×1550mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2650mmで、最小回転半径は5.4mとなる

 自宅前に停めたEX40は、新世代のスカンジナビアンデザインがモダンで、パッと目を惹く存在感があった。ボディサイズは全長4440mmと4.5mを切り、全幅は1875mmとややワイドなものの、狭い路地の多い自宅周辺の道でも取りまわしには苦労しなかった。

EX40のタイヤサイズは、試乗したUltra Twin MotorとUltra Single Motorがフロント235/45R20、リア255/40R20、エントリーモデルのPlus Single Motorはフロントが235/50R19、リアは235/45R20
受電口はボディ左側にあり、フロント側が普通充電:AC200V(Type1)で、リア側が急速充電のCHAdeMOに対応

 インテリアは上質なのにどこかユニークで、サステナブル素材が使われていてクリーンな印象もある。とくに、自然を身近に感じられるように採用されたという、スウェーデンのアビスコ国立公園から臨む山々に着想を得たという、透過照明の彫刻的なパネルが独特な空間を演出している。ヘッドライトが点灯するとこのパネルも落ち着いた光を放ち、立体的な構造が浮かび上がって幻想的だ。

EX40 Ultra Twin Motorのインテリア。水平基調で視界は広い
運転席は8ウェイパワーシート(ドアミラー連動メモリー機構付き)、助手席も8ウェイパワーシートを完備。どちらもシートヒーターを内蔵する
リアシートにもシートヒーターを内蔵している
後席シートバックは60:40分割可倒式。中央部には長い荷物を積むための開口部も用意している
ラゲッジスペースの容量はフロア下のスペースも含めて最大で578Lを確保
フロントにも31Lのカーゴスペースを用意。車両のけん引フックや緊急パンクリペアキットも保管されている

 インパネはEX30ほどシンプルで何もない光景ではないが、すっきりと整っている印象。センターディスプレイはGoogleが搭載されており、ナビだけでなくGoogleアシスタントで好きな音楽を探したり、メッセージの送信や電話など、さまざまな機能を声で操作できる。いつも使っているアプリやサービスもそのまま使えるから、普段と変わらない環境で運転できるのがありがたい。

天井には開放感のある「パノラマ・ガラス・ルーフ」を完備

 那須塩原の目的地を入れると、到着時点でのバッテリ残量の予測が表示される。もちろんそれは運転中に刻々と増減していくのだが、EX30の時は最終的にスタート時の予測から大きく変わらない残量でゴールしたので、かなり緻密な計算に基づいているのではないだろうか。

ステアリングは左側にACC(オートクルーズ)機能、右側にメーターの表示変更など、使いやすく配置されている
メーター中心部にはナビを表示でき視線をそらさず地図の確認ができる
センターコンソールには12V電源のほか、Type-Cのポートを2つ完備し、1つは車両と接続が可能
オプションのシート素材「テイラード・ウール・ブレンド」を選択すると、オレフォス製のクリスタル・シフトノブとなる
インパネの一部は暗くなるとスカンジナビア半島の標高線を模したデザインが浮かび上がる凝った作り

 今回はバッテリ残量90%程度の状態から片道142km、2時間30分ほどのドライブで、到着時のバッテリ残量予測が37%と表示された。カタログ値ではフル充電から最大560km(WLTCモード)の航続距離となっているEX40のツインモーターだが、高速走行や山道が含まれる上、ヒーターで室内を快適にすることなどを考慮すると、多めにバッテリを消費するという予測なのかもしれない。

タッチスクリーン式センターディスプレイは9インチの大画面
EVレンジアシスタントでは走行できる残距離などの推定値が表示されて便利
タイヤの空気圧も監視システムによりチェックしてくれる
安全運転や運転支援機能は好みで利用を選べるほか、ワンペダルドライブの設定も変更でき、オートを選択すると交通状況に合わせて自動的に調整してくれる
駐車時などに役立つ360°ビュー機能も搭載
運転席に乗り込むとメーターにバッテリ残量が大きく表示される

 狭い住宅街から幹線道路、高速道路へと、走りはどのシーンでもパワフルで上質だ。アクセルペダルの操作に対してリニアに反応してくれるため、思い通りのコントロールができてストップ&ゴーでもストレスがない。とくに車線変更や合流、追い越しでは四輪が同時に蹴り出すような一体感のある加速フィールで、スカッとする爽快感が味わえる。

アクセルペダルの操作に対してリニアに反応してくれるEX40

 このEX40のツインモーターは190kWに出力を強化したリアモーターを駆動の主体としてセッティングし、フロントには新たに110kWの誘導モーターを搭載しているという。最高出力は408PSを達成しているというから、このサイズのSUVとして見てもパワフルなことは明らかだ。

 また、高速走行では高い安定感と室内の静粛性が印象的。床下に重いバッテリを配置するEVはガソリンモデルのSUVよりも低重心に有利となるとはいえ、やはりEX30よりも長く確保されたホイールベースの恩恵もあるのか、後席に座ってみてもその乗り心地のよさは変わらなかった。ほどよく厚みと弾力のあるシートも心地よく、ルーフには大型のガラスルーフが備わって視界が広いところも気持ちがいい。

高速走行では高い安定感と室内の静粛性が印象的だった

 さて、那須に近づいたところで撮影などを行なっていると、バッテリ残量の予測は当初よりも減ってきた。ディスプレイで近くの急速充電スポットを探すと、すぐに見つかったので早めに充電することにした。左リアに設置されている充電口は、日本人の習慣となっているバック駐車をした際に、充電器のすぐ近くにくるため充電コードを少し引き出すだけで使えてありがたい。

今回は那須千本松牧場に設置されていたPowerXの充電設備を利用しました
PowerXはアプリを入れて登録すればすぐに利用可能。スマホの画面で充電状況や充電速度、充電量、充電料金、充電終了時間もすべてひと目で確認できる

 幸運にも90kWh級の高性能充電器で、30分の充電で80%近くまで入れられた。EX40に限らずボルボの電動モデルは、充電する前にバッテリを充電に最適な状態に調整してくれる「バッテリプリコンディショニング」の機能が付いている。これを使えば、気温や走行状態などに大きく左右される充電性能を最もよい状態にしてから充電を行なえるので、より短時間で多くの電気を取り込める。これで帰路のバッテリ残量も安心だ。

ツインモーターはパワフルな走りが魅力だ

 那須では舗装された山道と、少しだけ未舗装の道も走ってみたが、カーブではAWDならではの接地感が高い走りを感じられた。キビキビとした軽快感という点ではシングルモーターの方が抜き出ているが、ツインモーターはカーブからの立ち上がりでリアからの蹴り出しで一気に前に押し出されるような力強さがある。下り坂でのブレーキの効き具合はどうかなと思ったが、ペダルの踏み始めでガツンと唐突に減速することもなく、おおむね自然なフィーリングで扱いやすかった。

 きれいな空気を室内に送り込んでくれる先進のエアピュリファイヤーを搭載し、ロングドライブでも常に心地よい室内が保たれていたことや、賢い安全運転支援システムのサポートもあり、東京と那須の往復はとても快適で心なしか疲労感も少ないように感じる。

ブレーキも自然なフィーリングで扱いやすい

 気になる充電残量は、高速道路の渋滞情報を加味して最後にSAで30分の急速充電を行なったため、余裕たっぷりのゴールとなったが充電なしでも十分に帰宅できたはず。バッテリEVでロングドライブをする際の不安を、ボルボはしっかりと軽減してくれていると感じたし、EX40 Ultra Twin Motorはさらに上質感とパワフルさが一気にレベルアップしていて、走る楽しさも手に入り大満足のドライブとなった。

大満足のロングドライブでした
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラス、スズキ・ジムニーなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSD。

Photo:堤晋一