試乗記
三菱ふそうのEVトラック「eキャンター」を冬の北海道で試乗してみた
2025年1月25日 10:05
三菱ふそうトラック・バスは、バッテリEV(電気自動車)の小型トラック「eキャンター(eCanter)」の試乗会を北海道で開催した。雪上の特設コースと圧雪路になった公道で走行し、雪道や寒冷地におけるBEVは使い物になるのか、冬季の北海道で試した。
北海道の雪上ドライブコースと、坂もカーブもある公道で試乗
三菱ふそうのeキャンターは、電気モーターによる小型トラック。2017年の第1世代の登場から2023年に第3世代へと進化し、これまでに全国各地で2000台以上が納車されている。三菱ふそうの記録では納車地はほぼ全国で、東北、北海道、信越、北陸の寒冷地でも243台納入しており、今回試乗地となった北海道でも6台が納入されている。
寒冷地のBEVというと電力消費の問題がよく言われるが、BEVはガソリンやディーゼルエンジンに比べて電気モーターによる緻密で素早い回転制御ができる。そのため、制御のプログラムさえしっかりとしていれば、雪道など滑りやすい路面でも滑らずに駆動力を路面に伝えやすく、路面の状態がよくないところで走りやすいという一面もある。
今回の試乗は、北海道のルスツリゾートのゴルフ場の駐車場を使って雪上ドライブを体験できるようになっている特設コースと、周辺の公道で行なった。ゴルフ場の駐車場は冬季の間はドリフト走行などを体験するコースになっている。
特設コースでの試乗はワイドキャブでホイールベース3400mm、Mバッテリのeキャンターを使って1500kgの積荷を載せて走行。フルブレーキ、円旋回、小さい半径での旋回を体験した。公道ではエクストラワイドキャブでホイールベース4750mmでLバッテリのeキャンターを使用、約600kgの積荷を載せて圧雪路の坂道とコーナーを体験し、雪道でのeキャンターの挙動を確かめた。
なお、今回の試乗は気温が氷点下ではなく、わずかにプラス。しかも天候は快晴で太陽が照り付けていたため、圧雪路であっても凍結しないという良好なコンディションではあった。
発進・加速は電気モーターの緻密な制御で雪道でも不安なし
特設コースで試乗した第一印象は、雪道ということを意識せずに走り抜けることができたこと。もちろん、路面のコンディションが良好であったこともあるが、極端に強くアクセルペダルを踏んでもタイヤのスリップはほとんどなかった。
eキャンターではASR(アンチスピンレギュレーター)が効いてることはもちろんだが、ASRをオフにしてもほとんどスリップせずに走り出すことができる。ASRがオフの状態で強くアクセルペダルを踏めば後輪が滑って前に進まないこともあるが、ASRがオンになっていれば発進時にいきなりアクセルペダルをベタ踏みしても滑り出すことはなく、タイヤが路面をしっかりつかんで素早く加速していく。
ASRがオンのまま円旋回すれば速度を上げていくと先に滑っていくのは前輪で横にはみ出していく。駆動輪の後輪はスリップすることなく、路面を掴んで加速していく。
ASRをオフにしても横滑り防止装置が働いていることもあり、発進時にスリップしてもクルマの向きが変わるようなことにもならない。ASRオフで圧雪路を円旋回すると多少滑る程度で、クルマが向きが大きく変わるほど回るということもなく、大きくカウンターステアを当てて立て直すということもなかった。
もちろんeキャンター自体の重量は通常のエンジン車のCANTERよりも重く、特設コース内を走行した車両の重量は約4.5t、そこに1500kgの積荷を足して合計約6t。そもそも6tのトラックが簡単にスピンで向きを変えるということもないが、ASRをオンにしていればきつい半径のコーナーでも20km/h程度であれば何の不安もなくクルマが旋回していく。
と、これは安全マージンがとられた特設コース上の話で、公道や凍結路面では状況は変わってくるので、トラックとして荷物をいたわるような安全な速度で走行することを心がけたい。
今回の試乗ではトーヨータイヤのトラック用スタッドレスタイヤを使っているが、特設コースでの走行では、北海道で超ロングセラーという「M919」を装着したeキャンターと、EV用として新登場した「M951EV」の2種類を試している。詳細は別記事でレポートするが、どちらも不安のない走行を実現した。
雪の下り坂にも不安なし、安心感のある回生ブレーキ
雪の坂道を下る場合、タイヤへの荷重が変化するため慎重な運転が必要だ。エンジン車ではフットブレーキに加えて排気ブレーキやギヤダウンによるエンジンブレーキなどを使って慎重に下ることが求められる。
eキャンターではアクセルペダルを離した場合の減速時、回生ブレーキの強さはゼロから最強まで4段階が選べ、シフトレバーで調整できる。回生ブレーキを最強にした場合、後輪駆動のeキャンターでは後輪だけにブレーキ力がかかる状況となるが、モーター駆動による緻密な制御のおかげか、安心感が高く運転が楽ちんだ。
公道での試乗では、圧雪路の下り坂で回生ブレーキを多用する場面があったが、公道試乗に使ったeキャンターは車両が6t、積荷が約600kgの合計6.6t。合計4段階のうちもっと強い回生ブレーキとしていても後輪がスリップすることなく減速し、不安なく坂道を下ることができた。
なお、下り坂の公道で使用したタイヤは北海道でロングセラーの「M919」を装着したeキャンター。特別なスタッドレスタイヤでなく、ごくふつうのスタッドレスタイヤでの結果となる。
暖房の方法次第で冬季の電費低下は最小に抑えられる
今回のように短時間の試乗では電費(燃費)を実感することはできなかったが、eキャンターには冬季の電費を最小限に抑える仕組みも搭載している。
三菱ふそうの実験では、春や秋の冷暖房をまったく使わないときに対して、航続距離の減少は、夏の外気温30℃で冷房を使うと数%低下ですむが、冬のマイナス5℃では通常のようなコンフォートモードで強めに暖房を使うと3割を超える航続距離減少があるという。
eキャンターでは暖房にはPTCヒーターを搭載しているほか、外気の影響を抑える断熱材入りの高断熱キャビン、さらに省電力暖房のオプションとしてステアリングヒーター、シートヒーター、ウインドウシールドヒーターによるデフロスト機能を設定している。
これらを駆使し、PTCヒーターによる暖房をEcoモードとし、ステアリングヒーター、シートヒーターを使った場合の電費低下は2割以下に抑えることができる。
ハイブリッド車を含めた電動車ユーザーはシートヒーターの有効性を体感している人も多いと思うが、シートヒーター、ステアリングヒーターがあるだけで暖房を控え目にしても快適性は損なわれず、むしろ背中から腰下、手元が暖かいことで通常の暖房よりも快適なこともある。
実際の試乗でも、晴天の快晴ということもあるが、外気が零度を少し超えた状況で、暖房なし、ステアリングヒーター、シートヒーターだけで走行した。筆者はコートを脱いだ状態で運転したが、寒さはまったく感じないどころか、手元や腰まわりが暖かく、そのうえで頭のあたりは温度が低く、まさに頭寒足熱の頭がすっきりとした状態で走行できた。
また、シートヒーター、ステアリングヒーター、PTCともにクルマの電源オンですぐ暖かくなるため、エンジンが暖まるまで寒さに耐える必要もない。フロントウインドウの凍結をとかすデフロスターも電気ですぐ暖かい風が出るため、エンジン車がエンジンが暖まるまでの時間やその間の燃料の消費なども考慮すれば、冬こそBEVが適した利用シーンもあるのではないだろうか。
そのほか、バッテリを暖めておくバッテリプレコンディショニング機能もある。これは普通充電のケーブルを使って暖める機能でその電力消費もあるが、バッテリの効率化を含めてトータルで電費を上げる効果があるという。
冬季こそBEVと思えるeキャンター
短時間ではあるが、冬の北海道でeキャンターを運転してみたが、不安なく走り抜けることができた。電動車の緻密な駆動トルク制御があってのこと。
また、車内もシートヒーターとステアリングヒーターがあるおかげで快適だった。実際の小型トラックの利用シーンとして配送などで短距離を走ることが多いが、ドアの開閉が多く車内保温が難しいなか、すぐ暖まるシートヒーターや、外から戻って冷えた手にステアリングヒーターはありがたい。しかも頭寒足熱で頭がすっきりすれば、事故防止にも効果が期待できそうだ。
これは、積雪のある寒冷地だけに限ったことではなく、どのシーンでも有効とは思わないが、BEVの冬場のメリットを考え、冬のBEV利用がぴったりハマる利用シーンがある、と感じることのできた試乗会だった。