試乗記

大幅アップデートしたアウディ「Q8」、V6 3.0リッターディーゼル+マイルドハイブリッドの出来栄えは?

新型「Q8」に試乗

内外装とともに機能も大幅アップデート

 アウディSUV群のフラグシップ「Q8」がビッグマイナーチェンジを受けてエクステリア、インテリア、そして機能も大幅にアップデートされた。試乗したのは3.0リッターV6ディーゼルターボの「Q8 50 TDI quattro S line」だ。

 エクステリアでは4リングがアウディの新CIに則った2Dになり、フロントグリルも横に広がって力強くなった。これに伴い、アウディ独自のターンインジケーター付きのマトリクスLEDヘッドライトの位置が上になりインパクトあるイメージを与える。テールランプもデジタルOLED(4種類の点灯パターンを選べる)がオプションで選択できる。コンビライトはすっきりしたデザインになり、フロントとのバランスが取られている。

 サイズはフラグシップモデルにふさわしく全長は5m越え、全幅も2mに近い5005×1995×1690mm(全長×全幅×全高)。そしてホイールベースもそれに見合った2995mmのロングホイールベースでミニバンに匹敵する。見るからに大きなボディだが、実際に乗ってみると意外と取りまわしがよい。試乗したS lineはオプションでオールホイールステアリングが備わり、低速では後輪が最大5度の逆相に入り、最小回転半径は5.6mと中型SUV並みの小まわり性を発揮する。このシステムは高速では同相に入れて安定性を増しているが、その動きにはほとんど違和感がない。

今回試乗したのは2024年10月に全面アップデートした新型「Q8」。試乗車のグレードは「Q8 50 TDI quattro S line」となり、価格は1228万円。ボディサイズは5005×1995×1690mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2995mm
今回のアップデートにより、2Dのアウディ リングスをはじめとする新CIや最新テクノロジーなどを採用。S lineにはフロントバンパー、ドアアタッチメントトリム、ディフューザーの一部にコントラストカラーを採用し、SUVクーペとしてのスポーティでエレガントな外観を強調する。足下は22インチホイールにコンチネンタル「Sport Contact 6」(285/40R22)をセット
Q8 50 TDI quattro S lineのインテリア。ドライブモードはDYNAMIC、INDIVIDUAL、OFFROAD、ALLROAD、EFFICIENCY、COMFORT、AUTOから選択可能

フットワークはいかにもアウディのスポーツSUVらしいもの

Q8 50 TDI quattro S lineの出来栄えは?

 ディーゼルターボは48V電源を持つベルト駆動式オルタネータースターターのマイルドハイブリッドとの組み合わせになる。エンジン本体の出力は200kW(272PS)/600Nmを出す。発進直後は軽いアシストがあるがエンジンはすぐに始動し、最初のエンジン振動はほとんど感じない。走行中はディーゼルらしい強力なトルクがQ8にSUVらしい力強さを与えてくれる。

V型6気筒3.0リッターディーゼルターボエンジンは最高出力200kW(272PS)/3500-4000rpm、最大トルク600Nm(61.2kgfm)/1750-3000rpmを発生

 装着タイヤはコンチネンタル「Sport Contact 6」(285/40R22)と大径で、600Nmのトルクと車両重量2.2tのQ8を支える。サイズが広いだけにロードノイズを拾うが、路面コンタクトは意外と優しい。小さいハーシュネスや凹凸で突き上げ感はあるものの、このサイズとしてはよく吸収している。

 直進性の第一印象は路面の接地感が薄いと感じたが、ステアリングに伝わる左右のブレはなく手を添えているだけでスッキリと走る。また微舵角の反応も素直でサスペンションとの相性のよさを感じさせる。レーンチェンジ時にゆったりとした動きも素直だし、ACCを入れての直進安定性もフラつくことがない。

Sport Contact 6の路面コンタクトは優しい

 ハンドリングは軽快と言ってよい。正確なステアリング応答性とライントレース性は大きなボディを感じさせない。タイトなS字でもロールを抑えた姿勢で慣性モーメントを無視したように走り抜ける。このフットワークはいかにもアウディのスポーツSUVらしい。

 一方、乗り心地は荒れた路面を通過した際も強いショックを感じない不思議な感触だ。前後5リンクのエアサスペンションは正確に路面を捉える。特に感銘を受けたのは軽いウネリのような路面でショックは最小限、視線の位置もブレないのはさすがだった。ただディーゼルのバイブレーションは微妙に伝わってくる時もあるのが気になった。

 試乗車では5段階で車高を変えられ、深雪で一番上げると腹をすることなく通過できそうだ。最新4輪駆動システムは制御が細やかで大抵の難路は走破できるものが多い。Q8のシステムも興味深く、一度悪路や雪道で試してみたいものだ。

 ドライブモードはDYNAMIC、INDIVIDUAL、OFFROAD、ALLROAD、EFFICIENCY、COMFORT、AUTOを選択でき、4輪の駆動力配分や車高などを最適なものをチョイスする。ちなみにCOMFORTとDYNAMICでは明快な差があり、いろいろなモードを選択してみた結果、オールマイティはAUTOがリーズナブルだった。

 ブレーキは重い車重を受け止めるだけのことはあり、大型ローターにはフロント6ピストンの大型キャリパーが備わる。ペダルのコントロール性は高く、ストロークと踏力のバランスがよく取れている。

乗り心地は荒れた路面を通過した際も強いショックを感じないもの

 インテリアは高級感のある水平基調に整然と並べられたトリムに代表され、エアアウトレットもデザインの中に取り込まれスッキリしている。必要なスイッチは外に出ており、タッチパネルから階層に入っていく手間はあまりない。

 1つ不満があるのはACCのコントロールレバー。ウィンカーレバーのように生えており、ステアリングホイールに隠れるようなレイアウトのため、視認しながら慣れないとむつかしい。常用されることも多い機能で、視線で追えないのは安全にも関係することで早期に改善してほしい。

 一時は将来BEVに移行するとのコメントが出ていたアウディだが、風の便りでは新開発エンジンの話も聞こえてくる。欧州の戦略見直しを垣間見る試乗だった。

悪路や雪道でも試乗してみたいと感じた
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛