インプレッション

ボルボ「V40」

 これまでのクルマ社会では、多くの場合、高価なクルマほど新しく高性能な安全装備がついてくる、つまりお金を多く支払った人ほど、高い安全性を手に入れることができるという暗黙の了解があった。

 でもこのほどなにかと話題にのぼる、輸入車のプレミアムコンパクトクラスでは、その暗黙の了解が続々と打ち破られている。「小さなクルマにこそ、大きな安心を」という考え方のもと、価格の高い・安いに関係なく最新の安全技術が注がれて、大型車や高級車に負けないくらいの安全性が実現しているのである。

世界で最も高い安全性を備えるコンパクトカー

 ボルボのラインアップの中で、最も小さな5ドアコンパクトカーとして誕生した「V40」は、「大型車の特徴や機能を、小型車のパッケージにすべて取り入れる」というコンセプトが掲げられたモデルだ。安全性に関しても、もちろんそのコンセプトに沿った内容となっている。しかも、ライバルとなるどのコンパクトカーよりも、その内容は手厚い。

 この時に、私はひとつ思い出したことがあった。数年前にスェーデンの学校などを見学したのだが、驚いたのが0歳から5歳の子供が通う保育園で、工作の時間にカッターやハサミ、ノコギリなどを使わせているということだった。自分自身を振り返ると、カッターやノコギリなんて握らせてもらったのは、小学校にあがってしばらくしてからだったと記憶する。

 そんな小さな子供に刃物を使わせるなんて、危なくないのか? という私たちの考え方は、スウェーデンではまったく逆だった。危ないから使わせないのではなく、危ないからこそ正しい使い方を学ばせ、経験させる。リスクを取り除くのではなく、コントロールすることで、しっかりと現実と向き合って生活していく。こうした考え方がベースにある人たちなら、クルマづくりにおいても独自の安全意識が育まれ、それに基づいたアプローチが行われているのだろうと思った。

 また、ボルボが伝統として守り続けているのは、「乗る人が中心のクルマづくり」。それには速さよりも便利さよりも安さよりも、まず安全であることだ。そして、そこからさらに進化した考え方として、乗員だけでなくクルマの周囲にいるすべての人に対して、安全であること。ボルボは、ボルボ車が関連する交通事故をゼロにすることを目標としているが、そうした理念を通じて、今できる最善のことがV40にはめいっぱい詰まっていると、早々に感じることができたのだった。

歩行者保護エアバッグ
シティ・セーフティはフロントウインドー上のレーザーセンサーで前方の車両を監視する自動ブレーキ。ここにはカメラもあり、ヒューマン・セーフティ(歩行者検知機能付き自動ブレーキ)やロードサインインフォメーション(標識認識)に使われる
フロントグリルのミリ波レーダーはヒューマン・セーフティやアダプティブクルーズコントロールに使われる。

 大きなトピックとしては、全車標準装備の衝突被害を軽減する自動ブレーキ「シティ・セーフティ」の、作動速度域が50km/hに高められていること。

 また、世界初の装備となる「歩行者エアバッグ」も画期的だ。これはクルマが歩行者との衝突を感知すると、ボンネットが持ち上がってフロントウインドーに向けてエアバッグが展開し、歩行者が硬い部分に当たらないようにするというもの。

 そして、ボルボ初の装備として「CTA(クロス・トラフィック・アラート)」もあり、これはバックで視界のわるい駐車場から出る時などに、左右から来るクルマを検知して知らせてくれる機能だ。

 こうした最先端の安全技術が10種類も揃う「セーフティ・パッケージ」に加えて、衝突安全性をテストするユーロNCAPで過去最高の5ツ星を獲得。今、世界で最も高い安全性を備えるコンパクトカーは、このV40だと言っても言い過ぎではないはずだ。

デザインだけでも人を惹きつける

 こうして、素直にスゴイと納得できる安全性が備わることを知ってからV40を眺めると、その魅力はおのずと5割増しくらいに輝き、ベースモデルで269万円からという価格はとてもリーズナブルに聞こえてくるのだが、もしそれを知らなかったとしても、V40はきっと多くの人を惹きつけることだろう。

 というのは、昨年のジュネーブショーで初めてV40のコンセプトモデルを見た時に、いちばん驚いたのはデザインの美しさだった。ブラッシュアップされたアウディ「A3」や、先頃大変身を遂げてスタイリッシュになったメルセデス・ベンツ「Aクラス」など、ライバルたちが続々と洗練されていく中で、やはりデザインの完成度は絶対にハズせない要素のひとつ。ボルボは長いこと、角張ったボディーこそボルボの代名詞だと言われ続けてきたせいで、そうしたデザインの呪縛につきまとわれてきた感が見え隠れしていた。

 でも、それを完全に振り切ったなと感じたのが、「C30」のデザインを見てからだ。リアドアの上側で跳ね上がるように流れるキャラクターラインや、ウインドーグラフィックス、シャープなカットのテールランプなど、往年のスポーツクーペである「P1800」や、スポーツワゴンの「P1800ES」へのオマージュとして、C30から始まったデザインランゲージがV40にも受け継がれ、それはさらに熟成されてきているように見える。

P1800ES

 4370×1785×1440m(全長×全幅×全高)というサイズは、ライバルと似たり寄ったりではあるが、意外なのは全高がほかよりも低く抑えられていること。ハッチバックと呼ぶにはあまりに流麗なルーフラインが、全体をクーぺのようにスポーティな低いスタンスに見せており、それがV40を一層美しく見せている。

 室内に入ってみると、インテリアの美しさや丁寧な仕事ぶりも相当なレベルの高さだ。スカンジナビアン・デザインの象徴ともいえるセンタースタックは、オーディオやナビ、エアコン、電話などの機能が集約されているとは思えない、オシャレ家具のようなたたずまい。カップホルダーのリッドや、ドア内張りの質感も文句なく、メッキ加飾がポイントとなって引き締めている。

 そして、圧巻なのはシートの質感と座り心地のよさ。ボルボのシートは、内蔵されているフォームへの工夫で体重を均等に分散させることができ、包まれるようにクルマとの一体感が感じられる設計になっている。それがV40でも活かされたことで、これまでのコンパクトクラスのシートと比べても、かなり疲れにくく快適になっていると感じる。

 居住空間としては、運転ポジションを合わせた時の手計測で、頭上が握り拳1.5個分ほどのゆとり。これはAクラスとほぼ同じで、リアシートの頭上は同等、足下は0.5個分だけV40の方が広かった。座面はしっかり膝裏まであって大きく、ちょっと凹みがついているので収まりがいい。フロアは中央もフラットだし、センターアームレストは幅広で、座面中央のフラップを引っ張ると、カップホルダーが2つ出てくるという仕掛け。オプションだが大きなガラスルーフがあり、ベルトラインが前方に向かって低くなっていくので、明るい室内でくつろげる。

ビジュアルも安全もエコも揃う

 パワートレーンには今回、ガソリンの1.6リッター4気筒直噴ターボに、6速デュアル・クラッチ・トランスミッションの「パワーシフト」という組み合わせが日本に投入された。これはなんと、ボルボ史上最も低燃費の16.2km/L。ボルボ初のアイドリングストップや電動パワステを採用し、エネルギー回生システムやスポーツモード付きのパワーシフトもボルボ初採用だ。

 走り出してみると、スルスルとどこまでも滑っていくような加速ではなく、どちらかと言えばレーシングカーのようにヒュンヒュンと俊敏なシフトアップをしながら、手応え満点の加速をしていく感覚。でもそこにギクシャクするとことはまったくなく、とてもなめらかで心地いい。ノイズもほとんどなく、信号待ちなどではとても静かな時間が流れている。

 また、ややハイスピードなコーナリングを試してみた時に、その思いがけずしなやかな身のこなしにも驚いた。実はこのV40には、通常はRデザインにしか驕ることのない、モノチューブダンパーがリアに付いているという。加えて、コーナー・トラクション・コントロールが90km/hまでの速度域で作動して、旋回性を高めてくれるので、自然ながらビタッとラインが決まり、爽快な気分にさせてくれるのだった。

 そして、狭い道での扱いもスムーズ。日本仕様はドアミラーステーなどが専用となり、車幅が1800mmを切っているので、車庫入れにも苦労することはなさそうだ。ボルボ初搭載の駐車支援システム「パークアシストパイロット」も試してみたが、絶対に自分の目では無理だと思うスペースに、わずか2回ほどの切り返しで見事に納めてくれて、周囲からは拍手喝采。これなら実際にもちゃんと使えそうだと思えた。

 インドや中国などで若い世代がどんどんクルマを購入する時代になり、今、こうしたプレミアムコンパクトクラスは闘いが激しさを増すばかり。その中に勇敢にも戦士として飛び込んできたV40は、なるほどライバルたちに負けず劣らずの魅力にあふれ、ボルボならではの強みもしっかり携えている。

 日本でも、エコ一辺倒がようやく落ち着いて、安全性にも注目が高まっているところだけに、ビジュアルも安全もエコも揃うV40は、想像以上に大健闘しそうな予感である。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。