インプレッション
フォルクスワーゲン「ゴルフヴァリアント」
Text by松田秀士(2013/12/25 13:00)
「ゴルフヴァリアント」がデビューしたのは1995年。ゴルフのワゴンモデルはゴルフIIIで初めて日本へ導入された。当時はヴァリアントという名称が日本では浸透していなかったこともあり、あえてゴルフワゴンという名称でデビューしている。初導入の翌年となる1996年にはRVブームにも後押しされ、1万3000台のヒットを記録。その後2006年に発売されたゴルフVから欧州と同じヴァリアントという名前に戻して販売されている。これまでの販売台数の累計は実に11万7000台を上回るヒットモデルなのである。
日本のワゴン市場は約70万台を販売した1997年をピークに年々縮小し、2009年には約11万台ほどに落ち込んでいた。ところが、「プリウスα」や「フィットシャトル」の登場によって、今や20万台を超える勢いにまで人気を取り戻しているのだ。今後は輸入Bセグメントやゴルフヴァリアントが属するAセグメントを中心にさらに拡大していくものと思われる。
コンフォートラインとハイラインの2種類を展開する新型ゴルフヴァリアント
もともとステーションワゴンの人気を支えていたのは、広いラゲッジスペースとカジュアルにもフォーマルにもマッチするそのスタイリング。そしてミニバンにはない乗用車並みのパフォーマンスだろう。フォルクスワーゲンでは、これからのワゴンタイプのニーズとしてこれらにプラスして燃費のよさが必須項目だと考えている。
もう少し掘り下げると、既存のワゴンユーザーはやはりワゴン車に乗り換える確率が高いということが分かっている。しかし最近の傾向としてミニバンユーザーからワゴンへの乗り換えという例が顕著なようだ。その理由は、30~40代になって子育てが終わり、3列目シートが必要なくなってしまうからで、わざわざ背の高いミニバンを持つ必要がなくなるからなのだ。つまり、教育費などに家計が圧迫される中、経済的なクルマというチョイスに流れていくのは自然なのである。ただし、一度ミニバンで経験してしまったラゲッジスペースの自由度は譲れないポイントとなる。従って、そこにあるチョイスはワゴンタイプとなるのだ。つまりゴルフVIIとなったゴルフヴァリアントでは、この燃費のよさが第一の訴求ポイントとなる。
新しくなったゴルフヴァリアントのモデルラインアップは、TSI コンフォートラインとTSI ハイラインの2種類。5ドアハッチバックモデルに設定されていたトレンドラインは存在しない。コンフォートラインには105PS/175Nmを発生する直列4気筒1.2リッター直噴ターボエンジン、ハイラインには140PS/250Nmを発生する直列4気筒1.4リッター直噴ターボエンジンが搭載されている。どちらも7速DSGのトランスミッションがドッキングされる。
外観上この2グレードに大きな差はないが、ハイラインはリアエンドマフラーがデュアルに、コンフォートラインではシングルになっている。またタイヤはハイラインが17インチ、コンフォートラインでは16インチとなっている。
ではエクステリアから見ていこう。ゴルフVIIとなって比較的直線ライン基調のフォルムを譲り受けたデザインだ。フロントフェイスはハッチバックモデルのデザインそのもので、薄く角ばったヘッドライトからリアコンビネーションランプまで一気に伸びるようなストレートラインはかなり高級感を感じさせる。またサイドビューからはキャビンを含めた荷室の長さが特徴的。
前モデルとのディメンションを比較すると、全長+30mm、全幅+15mm、全高-45mm、ホイールベース+60mmとなっている。全幅のプラスはわずかだが、全高が大きく下がっているのでワイド&ローなフォルムとなっている。もう1つ注目なのが全長とホイールベースの拡大だ。サイドビューからも見て取れるのだが、ラゲッジスペースは前モデルの505Lから約20%アップの605Lになった。これは「プリウスα」の535Lを凌ぐ積載量だ。さらにワンタッチでリアシートの背もたれを倒すことができるようになり、リアシートを倒した際のラゲッジスペースは1620Lとかなりの荷物を積むことができるのだ。
コンフォートラインの1.2リッターエンジンは十分に力持ち
まずはコンフォートラインから走り出す。コンフォートラインのシートはファブリック製だが、座り心地やサポート性などを含めて安っぽくはない。ステアリング上にはスイッチ類は配置されておらず、エアコンもオートではないマニュアル操作といったところがしっかりエントリーモデルとして割り切られている。ただし操作系に何の不自由もないし、これで十分だと感じる。9エアバック、プリクラッシュブレーキ、マルチコリジョンブレーキシステム、プロアクティブオキュパントプロテクションなどの主要セーフティーシステムは標準装備。サスペンションはリアがトーションビーム式である。
トーションビーム式とは左右が1本のアクスルで繋がった状態で、コンパクトモデルに多く採用されているシンプルだが剛性の高いサスペンションシステムのこと。ただし左右が繋がっているため、乗り心地の面で若干の不安がある。しかし実際走らせてみるとよく締まったサスペンションながら突き上げなどの不快感はそれほど大きくない。多人数+フル積載という条件下では車高も下がるのでどうか? という疑念はあるけれども、基本的に1人か2人で走ることの方が多いだろうから問題なさそうだ。
それよりもコンフォートラインに搭載される1.2リッターエンジンは十分に力持ちで頼りがいがある。7速DSGとのマッチングもとてもよく、エコドライブを心がけるような浅いアクセル開度での走行では、早めに高いギヤに次々とアップシフトしてくれる。アイドリングストップ、ブレーキエネルギー回生システムなどを含めて燃費は21km/Lだ。
これに対して1.4リッターエンジンを搭載するハイラインの燃費は19.5km/L。同じくアイドリングストップ、ブレーキエネルギー回生システムを採用してコンフォートラインとともにエコカー減税100%だ。ただし、5ドアハッチバックの1.4リッターモデルに採用されている気筒休止システムは見送られている。それでもこの燃費は魅力的だ。トランスミッションも1.2リッターモデルと同じ7速DSG。
インテリアではシートはアルカンターラが基本で高級感がある。ほかにもブラックとブラウンの2種類のレザーシートをチョイスすることができる。コンフォートラインと違ってハイラインにはオートエアコンが装備されていて、ステアリング上にも各種のスイッチ類が設置されている。また、ダッシュパネルセンターにある8インチのタッチパネル式ディスプレイで集中的に操作設定ができるため、コンフォートラインでは不自由さを感じなかったが、実際ハイラインで手を離さずステアリング上から各種の操作ができるのは改めて安全だと感じる。
アクセルを踏み込んでみると、走り出しの力感は1.2リッターエンジンと大きく変わらないように感じる。この時点では「なんだ1.2リッターエンジンで十分じゃないか」と感じてしまうが、2000rpmぐらいから急に力強さが増し、そのまま高回転まで引っ張っていってくれる。ECOモードでの極低速域は若干拍子抜けするけれども、エンジン回転さえ上がればターボブーストもしっかりかかるので余裕の走りができる。
ハイラインのリアサスペンションは左右が独立した4リンク式。これにオプションで可変ダンピングシステムの「DCC」をフィッティングできる。DCCはエコやスポーツなどをチョイスすることによって、サスペンションだけではなくステアリングやトランスミッションも同時にコントロールしてくれる。これによってコンフォートな乗り心地からハードなスポーツ走行まで幅広くこなす。シフトセレクトレバーをマニュアルモードに設定し、ステアリング上のパドルを引いてアップ&ダウンシフトするときのフィーリングはまるでF1パイロットだ。
またハイラインには前車にピタリと追従する「ACC(アダプティブクルーズコントロール)」と、走行ラインをキープするレーンキープアシストシステム「Lane Assist」が標準装備されている。この2つの安全デバイスは将来の自動運転を見越したもので、特にレーンキープアシストシステムは自動的にステアリングを修正して車線内を走るようにしてくれるので、長距離ドライブでは疲労を軽減してくれるだろう。
新しくなったゴルフヴァリアント。スマートフォンのような操作が可能になった8インチタッチ式スクリーンは64GBの大容量SSDにより高精度な地図表示が可能となった。ここにインストールされるカーナビは17万8500円。キャッチコピーは「+ING」。いわゆるアクティブで常に前進していることを表している。コストパフォーマンスを含めて家電製品のように完成度の高いモデルである。