インプレッション
STI「フォレスター tS」
Text by松田秀士(2014/12/10 08:55)
スバル(富士重工業)の「フォレスター」をベースに、よりオンロード嗜好に振ったSUVコンプリートカー「フォレスター tS」がSTI(スバルテクニカインターナショナル)より300台限定でリリースされた。
tSシリーズは、エンジン本体には手を入れずにコンピューターチューンなどの補器類でアップデートを図り、ボディーやサスペンションに注力してパフォーマンスと乗りやすさを追求したモデル。しかも、パーツ購入で個別にチューニングするよりも価格的に大幅にリーズナブルという魅力もウリ。そして、なんといっても台数限定販売なので、すぐに売り切れてしまうことでも知られているのだ。
そのフォレスター tSとはどのようなモデルなのだろうか? STIによると、輸入車もターゲットにオンロードでの“走りのSUV”を嗜好する層に向けて開発したとのこと。つまり、素のフォレスターではオンロードの走行性能にもの足りなさを感じているユーザーに向けて、STIの味付けで勝負をかけている。そのSTIの味付けは「強靭でしなやかな走り」という二律背反するものだ。
現代版ドイツ系SUVのような乗り味
では、実際に走らせながら何がどう変わっているのかをリポートしよう。一般道でのフィーリングは確かにチューンドサスペンションという印象で締まりの効いた硬いサスペンションだ。試乗会場は河口湖近辺で、ここではさまざまなワインディングが待ち構えている。さらに舗装も荒れていて、スポーツサスペンションにはハードルの高い路面だ。季節による寒暖の差が激しい地域では、温度差や凍結により路面の歪みや亀裂が多い。そのような路面を走ると硬めのサスペンションではゴツゴツとした振動がボディーに直接入り、ボディーが細かく振動する。いわゆるバイブレーションだ。
SUVはもともとオフロードにターゲットを置いているから、サスペンションが振動を吸収して乗り心地がよいもの、というのは今のSUVには当てはまらない。最近のSUVはオンロードでの走りを重視してサスペンションをハードにセッティングする。ルーフが高いがゆえにモーメントの大きなSUVのロールを押さえこむ手法が、特にドイツ系のSUVでは主流になってきている。
そんな現代版ドイツ系SUVの味を濃くしているのが、今回のフォレスター tSといえるだろう。乗り心地は決してよいとはいえないが、突き上げ感が少なく余韻が残らないタイプでまったく気にならない。特にギャップを通過した後のボディー振動が少なくワンアクションで納まるので居心地がよい。これらは、フレキシブルドロースティフナーやフレキシブルサポートサブフレームリヤ等によるボディー補強が功を奏しているのだろう。中でもフレキシブルドロースティフナーはボディーを補強するというものではなく、フロア下面とサイドフレーム間をつなぐことでリアサスペンションの追従性を高めるというもの。つまり、掛け橋のような補強のバーとは元々考え方が違うのである。このような補強パーツはSTI独自のもので、他にあまり見たことがない。
また、路面からのノイズが小さく感じられ、耳障りな音質がカットされている。これはカーペットに遮音材を貼り付ける処理がなされているからなのだそうだ。ここでのカーペットとはマットではなく、車体の床全面に張り巡らされている絨毯のことだ。つまり、ベース車両のフォレスターとはひと味違う室内の高級感は、このようなパーツを組み合わせてバランスを取ることで達成している。
ハンドリングは操舵初期の応答性を重要視している。つまり、ステアリングを切り込めばすぐにフロントタイヤが反応し、フロントセクションにヨーモーメントが発生するのだ。この応答の時間は0.08秒以下に抑えられている。これはフォレスターXTの0.11秒に対して実に30%も速いヨー応答だ。欧州SUVモデル(VW「ティグアン」と思われる)でも0.09秒といったところなので、フォレスター tSがいかに速いかが分かるだろう。フロントが応答してヨーモーメントが発生した後、車体にスリップアングルが付き、リアタイヤが応答することにより横Gが発生してコーナーリングが始まる。このときの横G発生までの応答時間は0.1秒で、欧州SUVと同等レベル、フォレスターXTは0.14秒だ。
実際に走らせたフィーリングでは、コーナーリングでの応答が速くロールするよりもヨー方向へのモーメントが強く出るが、すぐにロール方向にも動き出すので比較的ナチュラルで安心感がステアリングからも感じられる。そして、横Gを増やしてロールがどんどん深くなっていっても、バンプラバーが強く当たってロールを機械的に止めるのでもなく、スプリングレートなりのロール角で安定してコーナーリングする。コーナーリング中、路面のギャップに対して突き上げ感が少なく外乱による姿勢の乱れもほとんど感じられない。モーメントの大きなSUVでのオンロードスポーツ性能はこういった姿勢の乱れが気になるところだが、実に正確なライントレース性だ。
これらの走りを支えているのが15mmのローダウンを可能にする専用サスペンションだ。フロントのダンパーは倒立式で剛性アップを狙っている。フロントタイヤの応答がボディーに逃げてしまうのを防止するフレキシブルタワーバーをはじめ、前述したフレキシブルドロースティフナーを前後に装着、さらにフレキシブルサポートサブフレームリア、サブフレームブッシュ、フロントに装着されるスタビライザーブッシュはサイドカットされない円柱モノで手組みによって装着される。またクランプスティフナーの板厚もアップされている。
そのほかにも、フロント4ピストン/リア2ピストンのブレンボ製ブレーキキャリパーとBBS製19インチアルミホイールがこの走りを支えている。新設計のBBSアルミホイールは従来品よりもかなりの軽量化が達成されている。245/45のブリヂストンタイヤは吊るしの製品で、専用タイヤを開発しないことで誰もがリーズナブルにアフターマーケットで購入できるというわけだ。
ところで、フォレスター初となるブレンボブレーキ+先進運転支援システム「EyeSight」にも、フォレスター tSに合わせたセットアップが行われているので安心だ。ちなみにEyeSightの仕様はver.2で、車高のローダウンとブレンボブレーキの制動力にもプログラムの合わせ込みが施されている。
低中開度での発生トルクが増すようなセットアップ
では動力性能はどうか。エンジンはECUチューンによってアクセル低中開度での発生トルクが増すようなセットアップになっているという。さらに、S#モードでのステップ変速をクロスレシオ化しているのだ。つまり、シフトアップ時に次のギヤにシフトアップしてもこれまでよりも回転が下がらず、繋がりのよい心地よいシフト操作が体感できる。
実際に走らせた印象では、1速で約60km/h、2速で約100km/hだったので肝心のワインディングではこの1&2速をもっとクロスレシオ化した方が楽しめるかも?と感じた。3速以上のクロス化はサーキットでしか楽しめないだろう。それでも高速道路での加速では繋がりのよさが加速感の向上に貢献している。
そして、CVTにオイルクーラーが採用されたことも意味がある。CVTはオイル温度が上昇するとマニュアルモードでのシフト操作ができなくなってしまうので、スポーツモデルにはこれは必須だろう。
欧州勢にも負けない走行性能、そして持つことの喜び。大人のSUVとしての価値は高い。といいながら、今ごろにはすでに予定台数を販売してしまっているかもしれない。