インプレッション

ホンダ「ジェイド」

幅広なクルマに恐怖心を持つ人に優しいクルマ

 話題の本田技研工業「ジェイド」のフォルムは確かに低い。1530mmという全高はもちろんタワーパーキングなどの利用を考慮したものだが、外観からは「これで室内は本当に大丈夫か?」と眼を疑うほど。そのぶん、デザイン性はとてもスマートで、真横から眺めるシルエットはちょっとしたクーペ風なイメージもあり、ミニバンとは思えない美しいものだ。それでも斜め後方の俯瞰した位置からのビューは初代オデッセイを思い出させる。実をいうと、私は初代、2代目オデッセイと乗り継いだオーナーだった。

 現行型オデッセイはエリシオンとの統合により、スライドドアを備えた背高ノッポのユーティリティ(室内スペース)重視ミニバンへと時代の流れに追従している。そこで、3代目から全高1550mmの低床ミニバンへと進化していたオデッセイの後継ぎが必要だったのだ。そんな流れのなか、2014年に生産終了を発表したストリームとの統合も考慮して今回発表されたのがジェイドということになる。

ジェイド ハイブリッド X。ボディーサイズは全車4650×1775×1530mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2670mm。ボディーカラーは新色の「マンダリンゴールド・メタリック」

 そんなジェイド、海外ではいくつかのパワーソースを搭載するが、日本では今のところハイブリッドモデルのみ。フィットやヴェゼルに搭載される直列4気筒1.5リッター直噴エンジン+電気モーター+7速DCTで、エンジンとモーターを統合したシステム最大出力は112kW(152PS)だ。この数値は、ガソリンエンジンと電気モーターが最大値を発生する回転数にそれぞれ大きな差があるのでそのまま鵜呑みにしてはいけないが、ホンダ式DCTの「スポーツハイブリッドi-DCD」はトランスミッションの中に電気モーターが組み込まれているので、使用するギヤによって実質的な最大出力が変化すると考えればよいだろう。

 以前のホンダ式(IMA)のようなエンジンと直結したハイブリッドでは、数値上の最大出力が高くても実質的な力感は得られなかったのだ。その意味でも、現行型フィット以降に採用されたi-DCDは個人的に高く評価している。JC08モード燃費の24.2~25.0km/Lという数値もなかなかのもの。

直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴エンジンの「LEB」。最高出力96kW(131PS)/6600rpm、最大トルク155Nm(15.8kgm)/4600rpmを発生。H1型モーターは22kW(29.5PS)/1313-2000rpm 160Nm(16.3kgm)/0-1313rpm
ジェイドでは走行用バッテリーなどコントロールユニットなどをセンターコンソール部分に設置。前方側(写真左)の冷却ファンで内部の空気を吸い込み車外に排出。反対側に用意する吸気口から車内の空気を吸ってバッテリーなどを冷却する仕組み
7速DCTの「スポーツハイブリッドi-DCD」はシフトセレクター後方に「Sモード」のスイッチを配置。アクセル操作に対するモーターのアシスト量や変速制御をスポーティに変化させる

 さて、初めてオデッセイを購入したときの動機は「アコードベースなので、乗用車のイメージで乗れるミニバン」ということが大きな要因だった。ジェイドも現行アコードとドライビングポジションはまったく同じだと説明を受ける。シートに乗り込むと確かにミニバンというイメージはなく、初代オデッセイよりも乗用車チックだ。ダッシュボードの平面を基調にした横に広がりのあるデザインは、高級感もあり広々としたイメージで心地よい。全幅は1775mmでSUVのヴェゼルよりも5mm広いだけだが、室内は横方向の広がりを感じるし、Aピラーからドアサイドショルダーを下げる造形なので見切りがよく、フロント左端の距離感がつかみやすい。高齢者、女性など幅広なクルマに恐怖心を持つ人には優しいクルマといえる。

 また、このドアサイドの造形は側方視界がとてもよく、ドアミラーによる死角もほとんどないので夜道でも人や自転車の確認がしやすい。また、ホンダインターナビとのセットオプションだが、左にウインカーを出した際に助手席後方の状況をナビ画面に大きく映し出す「LaneWatch(レーンウォッチ)」もある。実際に使ってみると左後方の死角がほとんどなく、安全に車線変更することができた。ドライバーの不安を取り除いてくれる安心安全なシステムでとても評価できる。また、バックで出庫する際に左右から近づいてくる車両をブザーとナビ画面上の表示で知らせてくれる「後退出庫サポート」もある。

ハイブリッド Xのインテリア。インパネ上部に配置するデジタルメーターは、横基調に表示を並べて視認性を確保する
ステアリングは全車本革巻きを採用。ハイブリッド Xでは「LKAS(車線維持支援システム)」などの操作スイッチも用意される
助手席側のドアミラー下部に専用カメラが追加される「ホンダセンシング+リンクアップフリー+ETC車載器+レーンウォッチ+後退出庫サポート」は全車にオプション設定
左側にウインカーを動かすと自動的にレーンウォッチが起動して助手席側後方の情報を画面に表示。左折時の車両巻き込み防止やレーンチェンジなどの車間距離確認に役立つ、画面下側の赤いバーが自車の後端と同じ位置。さらに後方10m、20mの位置に黄色いバーを表示して距離感が分かりやすいようになっている

 さらにジェイドには、上級モデルのX専用装備だが、単眼カメラで車線を認識して車線を逸脱しそうになった時にステアリング操作を支援する「LKAS」も装備する。LKASは高速道路での直進性を補助してくれるので運転疲労の軽減に役立つ優れたシステムだ。また、このシステムはミリ波レーダーによる衝突回避、および軽減とも協調する「ホンダセンシング」を形成している。単眼カメラとミリ波レーダーの組み合わせで、クルマなどのモノだけでなく歩行者への衝突回避も可能になっている。

 このように、運転環境は安心感があり快適そのもの。走りにおいてはサスペンションのフィーリングがちょうどよいレベルに締まっている。ヴェゼルでは硬めのサスペンションに慣れるまで少し戸惑ったが、ジェイドは初めから違和感もなく、シートのフィーリングもよいので乗り心地に不満はない。

内装色は全車にブラックを設定するほか、ハイブリッド Xの一部ボディーカラーでアイボリーも選択可能
インテリアの加飾パネルは、ハイブリッド Xが木目加飾、ハイブリッド(写真)がカーボン調加飾を設定する
ハイブリッド Xはノイズリデューシング機構を持つ17インチアルミホイールと215/50 R17タイヤを組み合わせる
ハイブリッドはスチールホイール+フルホイールキャップに205/60 R16タイヤをセット
中空構造のレゾネーター(消音装置)をホイールを取り巻くように配置してロードノイズを低減させるノイズリデューシング機構はフラグシップセダン「レジェンド」でも使われているもの
「LKAS」などで使われる単眼カメラのセンサー部など

低くワイドな見た目の印象そのままの走り

 市街地での加速感は、エコ(ECON)モードでヴェゼルと比べてもかったるさはなくフラストレーションも溜まらない。また、高速道路での合流も加速がよく、実用レベルでの動力性能も十分に余裕がある。ハンドリングはとても素直なもので、サスペンションが動き始める初期は緩い感じで路面に追従しているが、コーナーリングでの、特に速度の高いコーナーリングではしっかりと締まりが効いたフィーリングになり、ロールは大きくならない。コーナー外側のサスペンションはそれほど深くないところでロールが止まる。おそらくバンプストッピングラバーによるロール規制だろう。一般的にはこのとき、コーナー内側のサスペンションが伸びてロール感を大きくするものだが、ジェイドはそれも大きくなく、4輪で踏ん張って路面をとらえているフィーリングだ。全高が低くワイドな見た目の印象がそのまま走りでも表現されている。

 ドライビングポジションは“アコードそのもの”という説明どおり、ミニバンっぽくなくてスポーツセダンのようなポジション。シートのフィーリングもちょうどよい厚みでリッチ感がある。また、ジェイドで一番よい席は2列目だ。前席と同じ独立した仕様のシートが採用されている。初代オデッセイでも設定されていたいわゆるキャプテンシートと呼ばれるもの。座ってみると、ミニバンに多い目線を上げたスタジアム仕様ではない普通の着座位置。ということは、2列目シートは低く設置されている。ヘッドクリアランスを稼ぐための手法なのかもしれない。室内高は床下に燃料タンクを収めるホンダ十八番の低床設計で、十分なクリアランスがある。

 その2列目シートはスライド方式にギミックがあり、後方に下げるほどに左右のシートが内側に寄る仕組みになっている。これは両サイドで邪魔になるリアタイヤのホイールハウスを避けて後退できるようにするためで、前席と2列目シートの足下スペースを可能な限り大きく取るためのギミック。これにより、2列目シートには広大なスペースが広がり、中央に寄って前席とオフセットするため前方視界がよくなる。

2列目シートはシートレールを斜めに配置した「Vスライドキャプテンシート」。低い着座位置を維持しながらロングスライドを実現させるため、シートベースをできるだけシンプルな構造にしたいとの要望から生まれたアイディア

 では3列目シートはというと、完全に2列目シートのあおりを食っている。3列目に乗り込むためには2列目のシートバックを倒し、なおかつ座面を跳ね上げるベルトを引っ張らなくてはならない。さらに、2列目から3列目にかけての床下には燃料タンクがあるため、シートの座面と床のクリアランスが小さく、ひざの裏が3列目座面に着くことはない。つまり体育座りをしているような姿勢になる。しかも、2列目シートを一番前にセットした状態でも、私の約25cmの靴は前席座面下に接触しながら潜り込んだ。カタログにある大人6人乗車写真は「?」だ。子供以外はエマージェンシー用と考えた方がよい。その代わりに3列目を畳むことで、大型のゴルフバックなら斜めにすることで4つ搭載できるスペースがある。

ラゲッジスペースと6人乗りを両立させるため、スペース的に広々とは言えない3列目シートだが、頭上空間をガラスにして空間を確保し、2列目のVスライドキャプテンシートも視界を開けて閉塞感を出さないようにとの配慮が込められている
3列目の格納はまずシートバックを前方に倒し、畳んだシートを後方に引き落とすように床下に収納。シートバック後方のボードを前方に反転させてフラットな荷室を生み出す

 最後に、ジェイドのよいところは快適な前方視界と数々の安全装備、そしてスポーティなハンドリングだ。逆に期待外れだったのは3列目シートの非実用性と、運転席での感想だが床下から感じる若干のロードノイズだった。これはジェイドに限った話ではないが、近年はどのメーカーも超高張力鋼板(超ハイテン材)の使用比率を高めている傾向にあり、板厚の薄型化が進んでいる。薄くても剛性が保てるというメリットがある半面、室内に入ってくるロードノイズを防ぎ切れていないように感じるので、そのあたりの課題が解決することで、ジェイドの魅力はより高まると思う。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在59歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/

Photo:堤晋一