インプレッション
ホンダ「ジェイド」
Text by松田秀士(2015/3/5 00:00)
幅広なクルマに恐怖心を持つ人に優しいクルマ
話題の本田技研工業「ジェイド」のフォルムは確かに低い。1530mmという全高はもちろんタワーパーキングなどの利用を考慮したものだが、外観からは「これで室内は本当に大丈夫か?」と眼を疑うほど。そのぶん、デザイン性はとてもスマートで、真横から眺めるシルエットはちょっとしたクーペ風なイメージもあり、ミニバンとは思えない美しいものだ。それでも斜め後方の俯瞰した位置からのビューは初代オデッセイを思い出させる。実をいうと、私は初代、2代目オデッセイと乗り継いだオーナーだった。
現行型オデッセイはエリシオンとの統合により、スライドドアを備えた背高ノッポのユーティリティ(室内スペース)重視ミニバンへと時代の流れに追従している。そこで、3代目から全高1550mmの低床ミニバンへと進化していたオデッセイの後継ぎが必要だったのだ。そんな流れのなか、2014年に生産終了を発表したストリームとの統合も考慮して今回発表されたのがジェイドということになる。
そんなジェイド、海外ではいくつかのパワーソースを搭載するが、日本では今のところハイブリッドモデルのみ。フィットやヴェゼルに搭載される直列4気筒1.5リッター直噴エンジン+電気モーター+7速DCTで、エンジンとモーターを統合したシステム最大出力は112kW(152PS)だ。この数値は、ガソリンエンジンと電気モーターが最大値を発生する回転数にそれぞれ大きな差があるのでそのまま鵜呑みにしてはいけないが、ホンダ式DCTの「スポーツハイブリッドi-DCD」はトランスミッションの中に電気モーターが組み込まれているので、使用するギヤによって実質的な最大出力が変化すると考えればよいだろう。
以前のホンダ式(IMA)のようなエンジンと直結したハイブリッドでは、数値上の最大出力が高くても実質的な力感は得られなかったのだ。その意味でも、現行型フィット以降に採用されたi-DCDは個人的に高く評価している。JC08モード燃費の24.2~25.0km/Lという数値もなかなかのもの。
さて、初めてオデッセイを購入したときの動機は「アコードベースなので、乗用車のイメージで乗れるミニバン」ということが大きな要因だった。ジェイドも現行アコードとドライビングポジションはまったく同じだと説明を受ける。シートに乗り込むと確かにミニバンというイメージはなく、初代オデッセイよりも乗用車チックだ。ダッシュボードの平面を基調にした横に広がりのあるデザインは、高級感もあり広々としたイメージで心地よい。全幅は1775mmでSUVのヴェゼルよりも5mm広いだけだが、室内は横方向の広がりを感じるし、Aピラーからドアサイドショルダーを下げる造形なので見切りがよく、フロント左端の距離感がつかみやすい。高齢者、女性など幅広なクルマに恐怖心を持つ人には優しいクルマといえる。
また、このドアサイドの造形は側方視界がとてもよく、ドアミラーによる死角もほとんどないので夜道でも人や自転車の確認がしやすい。また、ホンダインターナビとのセットオプションだが、左にウインカーを出した際に助手席後方の状況をナビ画面に大きく映し出す「LaneWatch(レーンウォッチ)」もある。実際に使ってみると左後方の死角がほとんどなく、安全に車線変更することができた。ドライバーの不安を取り除いてくれる安心安全なシステムでとても評価できる。また、バックで出庫する際に左右から近づいてくる車両をブザーとナビ画面上の表示で知らせてくれる「後退出庫サポート」もある。
さらにジェイドには、上級モデルのX専用装備だが、単眼カメラで車線を認識して車線を逸脱しそうになった時にステアリング操作を支援する「LKAS」も装備する。LKASは高速道路での直進性を補助してくれるので運転疲労の軽減に役立つ優れたシステムだ。また、このシステムはミリ波レーダーによる衝突回避、および軽減とも協調する「ホンダセンシング」を形成している。単眼カメラとミリ波レーダーの組み合わせで、クルマなどのモノだけでなく歩行者への衝突回避も可能になっている。
このように、運転環境は安心感があり快適そのもの。走りにおいてはサスペンションのフィーリングがちょうどよいレベルに締まっている。ヴェゼルでは硬めのサスペンションに慣れるまで少し戸惑ったが、ジェイドは初めから違和感もなく、シートのフィーリングもよいので乗り心地に不満はない。
低くワイドな見た目の印象そのままの走り
市街地での加速感は、エコ(ECON)モードでヴェゼルと比べてもかったるさはなくフラストレーションも溜まらない。また、高速道路での合流も加速がよく、実用レベルでの動力性能も十分に余裕がある。ハンドリングはとても素直なもので、サスペンションが動き始める初期は緩い感じで路面に追従しているが、コーナーリングでの、特に速度の高いコーナーリングではしっかりと締まりが効いたフィーリングになり、ロールは大きくならない。コーナー外側のサスペンションはそれほど深くないところでロールが止まる。おそらくバンプストッピングラバーによるロール規制だろう。一般的にはこのとき、コーナー内側のサスペンションが伸びてロール感を大きくするものだが、ジェイドはそれも大きくなく、4輪で踏ん張って路面をとらえているフィーリングだ。全高が低くワイドな見た目の印象がそのまま走りでも表現されている。
ドライビングポジションは“アコードそのもの”という説明どおり、ミニバンっぽくなくてスポーツセダンのようなポジション。シートのフィーリングもちょうどよい厚みでリッチ感がある。また、ジェイドで一番よい席は2列目だ。前席と同じ独立した仕様のシートが採用されている。初代オデッセイでも設定されていたいわゆるキャプテンシートと呼ばれるもの。座ってみると、ミニバンに多い目線を上げたスタジアム仕様ではない普通の着座位置。ということは、2列目シートは低く設置されている。ヘッドクリアランスを稼ぐための手法なのかもしれない。室内高は床下に燃料タンクを収めるホンダ十八番の低床設計で、十分なクリアランスがある。
その2列目シートはスライド方式にギミックがあり、後方に下げるほどに左右のシートが内側に寄る仕組みになっている。これは両サイドで邪魔になるリアタイヤのホイールハウスを避けて後退できるようにするためで、前席と2列目シートの足下スペースを可能な限り大きく取るためのギミック。これにより、2列目シートには広大なスペースが広がり、中央に寄って前席とオフセットするため前方視界がよくなる。
では3列目シートはというと、完全に2列目シートのあおりを食っている。3列目に乗り込むためには2列目のシートバックを倒し、なおかつ座面を跳ね上げるベルトを引っ張らなくてはならない。さらに、2列目から3列目にかけての床下には燃料タンクがあるため、シートの座面と床のクリアランスが小さく、ひざの裏が3列目座面に着くことはない。つまり体育座りをしているような姿勢になる。しかも、2列目シートを一番前にセットした状態でも、私の約25cmの靴は前席座面下に接触しながら潜り込んだ。カタログにある大人6人乗車写真は「?」だ。子供以外はエマージェンシー用と考えた方がよい。その代わりに3列目を畳むことで、大型のゴルフバックなら斜めにすることで4つ搭載できるスペースがある。
最後に、ジェイドのよいところは快適な前方視界と数々の安全装備、そしてスポーティなハンドリングだ。逆に期待外れだったのは3列目シートの非実用性と、運転席での感想だが床下から感じる若干のロードノイズだった。これはジェイドに限った話ではないが、近年はどのメーカーも超高張力鋼板(超ハイテン材)の使用比率を高めている傾向にあり、板厚の薄型化が進んでいる。薄くても剛性が保てるというメリットがある半面、室内に入ってくるロードノイズを防ぎ切れていないように感じるので、そのあたりの課題が解決することで、ジェイドの魅力はより高まると思う。