インプレッション
トヨタ「アルファード」「ヴェルファイア」
Text by 河村康彦(2015/3/6 00:00)
「より押し出し感の強い外観」と「さらに充実が図られた装備群」
トヨタ自動車のフラグシップ・ミニバン「アルファード」と「ヴェルファイア」が、およそ6年半ぶりのフルモデルチェンジを受けて発売された。
2000年代前半までは、日本のフルサイズ級ミニバンの頂点として隆盛を極めた日産自動車「エルグランド」。だが、今やその人気を完全に凌駕したのみならず、このカテゴリーにあっては“無敵の存在”というイメージすら際立つのがこの2ブランド。従来型の好評を背景にフルモデルチェンジを行ったそんな両モデルの仕上がりは、端的に言うと「見た目上でもハードウェア上でも、おおよそ想定された通りの正常進化が図られたもの」と、それが第一印象だった。
新型のエクステリア/インテリアを一見した時点でまず実感できる特徴的ポイントは、ずばり「より押し出し感の強い外観」と、「さらに充実が図られた装備群」という2点。従来型のヒットの要因が徹底的に分析され、それを踏み台にその特長点をさらに強化しようという典型的な“マーケットイン”型の開発態勢が採られた、と、いかにもそんな開発のプロセスが実感できるのが今度のモデルだ。
ホイールベースの50mm延長を含め、全長と全幅がわずかずつ拡大された一方で、全高がダウンされた新型のボディーは“スタイリッシュな箱”を意識した結果から決められたものという。なるほど、箱型ではありつつもそのプロポーションが単なる“直方体”などに見えないのは、Aピラー下端が大きく前出しされてウインドシールドの傾斜が増したことや、クォーターピラーをブラックアウトとしてヒドゥン化したことにより、ルーフの長さがより強調されてダイナミックに感じられることなどが影響を及ぼしていそう。
モデルチェンジを重ねるごとに前傾角を増してきたボディー同色のセンターピラーは、今や両モデルに共通をする重要なアイデンティティの1つ。キャビンスペースを重視したモデルではとかく平板に見えがちなサイドパネルが、従来型以上に抑揚に富んだ表情を示す点には、ボディー幅が増したことによる恩恵も少なくなさそうだ。
それにしても驚くのは、「ここまでやるか」というほどに押し出し感の強いフロントマスク。特に、もはや巨大と表現するしかない大面積グリルを採用するアルファードには、そんな思いが強い。正直、これほどいかつい顔の大きなミニバンが溢れたら、そんな街からは優しさが消えてしまうのでは? と、そんな危惧(?)すら覚えそう。
だが、それもまた「こうしたモデルを選ぶユーザーは、そんな押し出し感の強さこそを望んでいる」という、従来型に対するサーベイから得られた結果に基づいた判断ということなのだろう。
●ボディー・室内寸法比較
標準ボディー | エアロボディー | |||
---|---|---|---|---|
新型(アルファードG/ヴェルファイアV) | 先代(アルファード240G/ヴェルファイアZ) | 新型(アルファードS/ヴェルファイアZ) | 先代(アルファード240S/ヴェルファイア2.4Z) | |
全長(mm) | 4915/4930 | 4870 | 4935 | 4885 |
全幅(mm) | 1850 | 1830 | 1850 | 1840 |
全高(mm) | 1880 | 1890 | 1880 | 1900 |
ホイールベース(mm) | 3000 | 2950 | 3000 | 2950 |
室内長(mm) | 3210 | 3160 | 3210 | 3160 |
室内幅(mm) | 1590 | 1585 | 1590 | 1585 |
室内高(mm) | 1400 | 1400 | 1400 | 1400 |
トヨタ全ラインアップの中にあっても極めて重要度の高いモデル
700万円超という価格で話題の「エグゼクティブラウンジ」グレードを頂点に、いかにも日本人好みで分かりやすい豪華なインテリアの演出に尽力されたのも、新型の大きな特徴。320万円弱をスターティング・プライスとして、前出700万円超という範囲の間に、さまざまなデザインのシートや多種多様な装備群を、まさに“水も漏らさぬ”きめ細かさで用意をしているのも、今回のモデルならではだ。
その詳細1つ1つを紹介して行くスペースはとてもここにはないが、こうした微に入り細を穿つ商品設定が可能となったのも、まさにミニバンの王者ならではの余裕と貫禄なのだろう。
実際、そんな新型のインテリアに目を向けると、細部までが一見して極めて上質なタッチで仕上げられていることに感心する。例えば、金属調のセンタークラスターや、木目調のパネルの質感などは、思わず「これって本物!?」と騙されそうになってしまうほど。ダッシュボードに入るステッチも実は成形によるものと聞けば、その高質感の演出への努力には、半ば執念すら感じられるほどだ。
電動式のパーキングブレーキや全車速対応の追従機能付きクルーズコントロールの設定、LEDヘッドライトの採用などは、このタイミングで登場となるフラグシップ・モデルとしては、もはや「当然そうあるべきもの」と評るべきだろうか。
一方で、ここまでやられてしまうと逆に些細な部分が目立ってもしまうもの。例えば上級グレードであってもステアリング・コラムの調整機構が手動式に留まるあたりには、むしろ「電動式が当たり前では?」と、思わずそんな疑問が芽生えてしまったりもする。
ついに切り返しの支援までをも行うという最新のパーキング・アシストメカは、レクサスも含むオール・トヨタ車での初の設定。敢えて大柄なモデルを選びながら、駐車は機械に助けてもらうというノリには、どこか本末転倒感が漂わないでもない。
しかし、こうしたトヨタ最先端の装備をいち早く設定するというのも、今やアル/ヴェルが全ラインアップの中にあっても極めて重要度の高いモデルであることを示す、1つの証左であるのだろう。
パワートレーン3モデルそれぞれの印象
そんな新型のテストドライブは、恐らくは今回も売れ筋モデルとなるであろう2.5リッター・エンジン車のZ“Aエディション”、「強さ」こそを望むユーザーに好まれそうな3.5リッター・エンジン車のVLグレード。そして今の日本では、そのものが“付加価値”の1つとして認知されるハイブリッド・システムを搭載したZR“Gエディション”という、いずれもヴェルファイアの3車種で行った。
最初にスタートをしたのが、動力性能にもっとも余裕のある3.5リッター・モデルだった影響もあろうが、走り始めてすぐに唸らされたのは、従来型はもちろん、あらゆるライバルを大きく凌駕するその圧倒的な静粛性の高さだった。
エンジンからのノイズなどもはやほとんどど耳に届かないことはもとより、ロードノイズがここまで高いレベルで遮断されたミニバンに乗った経験はこれまで皆無だ。と同時に、粗い路面の補修跡を乗り換えても、その衝撃が徹底的に“かど丸化”されてマイルドであることにも驚いた。
こうして、その基本的な乗り味はなるほど十分に「上級のサルーンと同等」と表現するに足るもの。特に、後輪側の突き上げ感が従来型とは比較にならない点は、ボディー骨格そのものの強化などに加え、リアサスペンションがビームアクスル式からウィッシュボーン式独立懸架へと一新された効果が大きいに違いない。
そんな3.5リッター・モデルから2.5リッター・モデルへと乗り換えると、さすがに最高出力でおよそ100PS、最大トルクで90Nm近い差がもたらす力感の違いは小さくない。
3.5リッター・モデルでは2500rpm程度も回せばすべてがこと足りていたと思えた街乗りシーンの加速も、こちらでは4000rpm付近まで回す必要に迫られる場面がしばしば。加えれば、6速ATを採用する3.5リッター・モデルに対して、こちらはCVTとの組み合わせ。加速にもの足りなさを覚え、思わずアクセルペダルを深く踏み込んでしまうと、どうしてもエンジン回転ばかりが先行する“ラバーバンド感”にも見舞われてしまう。それでも、その静粛性はやはり優秀だ。前出3.5リッター・モデルよりも1インチ径の大きな18インチ・シューズを履いていたにもかかわらず、その乗り味も決してわるくない。
こちらのモデルでは2列目、そして3列目シートでの乗り味も試してみたが、率直なところその印象は1列目よりは多少見劣りするもの。2列目は内臓系を揺するブルブルとした振動感がやや目立つし、リアのオーバーハング上に座ることになる3列目では、やはり上下動が大きめなのだ。もっとも、そんな3列目という“末席”では走行中にメモ書きをするにも難儀した従来型での経験を思い起こせば、これでもその乗り味が大きく向上していることは間違いない。新型の乗用車度は、それだけ飛躍的に高まっているということだ。
アトキンソンサイクル運転を行う2.5リッター・エンジンと組み合わされ、リアアクスルもモーター駆動を行う4WDバージョンとして用意されたのがハイブリッド・モデル。さすがにシリーズ中でも特に重量が嵩む存在だけに、その動力性能はもっともマイルドな印象だった。
カタログ上のモード燃費では圧倒的に優れた数字を叩き出す一方で、ガソリン・モデルとの価格差をその燃料代の差で逆転させることは、相当な距離を乗る一部のユーザーに限られるはず。特に4WDなど必要ないという人は、果たして敢えてハイブリッド・モデルを選択することが得策なのか、改めて吟味を要する事柄だろう。
それでも、まずは電気モーターだけの力で粛々とスタートを行い、その後気付かぬうちに駆動力の主役がエンジンパワーにバトンタッチされるという、2つの動力源をシームレスに使いこなす技量の高さでは、さすがはこのモデルもハイブリッド・モデルのパイオニアであるトヨタの作品だと感心する。静粛性の高さはやはり文句ナシだし、燃費のよさゆえにガソリンスタンドへと出掛ける手間を減らせるといった点も、ハイブリッド・モデルならではのメリットと特筆ができるはずだ。
新たなジャパン・オリジナルによる高級車を目指してほしい
こうして、好評だった従来型と比べても、さらにその商品性を大きく向上させたことが間違いない新しいアルファードとヴェルファイア。ただし、そんなこのモデルたちにも“死角”と思える部分が存在しないわけではない。その最たるものが、「さらに強く、さらに豪華に」という路線を突っ走った結果、従来型にも増して重くなってしまった車両重量だ。
新型の重量は、今や多くのバージョンで軽く2t超えという状況。「エグゼクティブラウンジ」仕様を筆頭に、これだけ装備が充実していればそれも当然とは言えそうだが、それでも国際的に見れば、今やモデルチェンジを行えば軽量化が図られるのが当たり前というのがこの時代。そうした世の動きにまるで背を向けたように、これだけ重量が大幅増となったクルマは、端的に言って昨今かなり稀な存在だ。
それでも燃費は向上しているのだから……と、そんなエクスキューズも聞こえてきそうではある。しかし、それは最高速がわずかに80km/hほどに留まり、試験時の加速力も緩い日本独自の“お受験モード”でのハナシに過ぎないのだ。
それでも、「そもそもアル/ヴェルは日本市場重視のモデルで、欧米などに提案することはないのだから」と、そんな考え方に基づいた重量増であるとすれば、それはそれでそうした確信犯的な不作為が、日本のトップメーカーのやり方としてはちょっと問題ありであるようにも思えてしまう。兎にも角にも、今回軽量化という視点が完全に置き去りにされたのは、新型でのもっとも残念なポイントだと感じられてしまう。
同時に、「高級車」であることが声高にアピールされつつも、インテリアに用いられる素材にイミテーションのパーツが多用された点などにも、異論を投げ掛けたくなる人はいるはずだ。
例えば、トップグレードである「エグゼクティブラウンジ」に限っては、金属に見える部分には本物の金属を用い、ステッチの入った革に見える部分には、それぞれに本物の素材を用いるといった手法は取れなかったものか。例えそれで価格がさらに100万円、150万円と上乗せをされることになったとしても、だ。
そう、ここまでこだわり、それほどまでに真に贅を尽くしたモデルを作り上げたとすれば、それはもはや「トヨタ」としてではなく、「レクサス」のブランドが冠されたとしてもおかしくはないはず。それでこそ、欧米のプレミアム・ブランドが手掛けることのなかった新たなジャパン・オリジナルによる高級車の姿が、そこにおぼろげながら見えるような気もするのだが。