インプレッション

ポルシェ「718 ボクスター」(ワークショップ)

 2016年2月から、すでに日本でも予約受注の扱いがスタートしている「718 ボクスター」。「40年前に生産が終了した912E以来のフラット4エンジン搭載スポーツカー」と紹介される、先日のジュネーブ・モーターショーで披露されたそんなニューモデルのワークショップが開催された。

 プログラムそのものは半日で終了。加えて、今回は自らでのテストドライブも不可という事前の注釈付き。それでも、通常のマイナーチェンジの域を遥かに超えたビッグニュースでもあるだけに、早速“現地1泊”という弾丸スケジュールでイベントが開催されたフランスへと飛んできた。

 冬なお温暖な地中海沿い南仏マルセイユの空港から、ポルシェ本社のスタッフが操る送迎シャトルに揺られること30分ほど。細い田舎道を経由して到着となったのは、「実はミシュランの所有物」と紹介されたテストコース。その敷地内にパワートレーンやシャシー、そしてデザインといった項目ごとにプレハブルームが設けられ、各国から集まった参加者がそうしたテーマに分かれての座学と、本社テストドライバーが駆るモデルへのテストコースでの同乗走行……という内容でプログラムは進行された。

 興味深いことに、イベントはミシュランのコースで開催されたものの、718 ボクスターの標準装着タイヤにミシュラン製の設定はないという。「18インチにピレリとグッドイヤー、19インチにピレリと横浜ゴム、20インチにピレリとグッドイヤーとブリヂストンを用意する」と、これが現場到着後に聞き出した、初めての貴重な情報“第1号”ということになった。

300PS/380Nmの2.0リッター、350PS/420Nmの2.5リッターを搭載

ワークショップで展示されたSグレード用の2.5リッター・ユニット

 すでに価格とともに日本で明らかにされているのは、新開発されたターボ付きの4気筒エンジンには最高出力300PS/最大トルク380Nmを発生する2.0リッター・ユニットを搭載したベースグレード用と、350PS/420Nmを発生する2.5リッター・ユニットを搭載するSグレード用が用意され、それぞれで6速MT/7速DCT、左/右ステアリング位置の選択が可能であるということ。これまで日本仕様には設定そのものがなかったマルチメディア・システム「PCM(ポルシェ コミュニケーション・マネージメントシステム)」が、大幅なバージョンアップとともについに標準採用されることになったのも大きなニュースだ。

 1950~60年代にさまざまなレースで活躍した「718」。水平対向4気筒エンジンを搭載したこのモデルに対するオマージュからネーミングされた718 ボクスターのデザインは、これまで好評だった981型のイメージをもちろん強く受け継いでいる。ちなみに「実は社内呼称は982型」というこのマイナーチェンジ・モデルのエクステリアは、「前後のリッドとルーフ、ガラス部分を除いては、すべてが新しいデザイン」という。前後のバンパーやサイドシルなど樹脂部分はもとより、一見ではキャリーオーバーされたかに見えるドアやフェンダーといった金属部分も、新たに造形されたということだ。

 特に印象的なのはリアビューで、これはこれまでの981型に対して最も見た目の変化が大きい部分と思えたもの。担当デザイナー氏が「3Dアクセント・ストリップ」と呼ぶ左右テールレンズ間のブランドロゴが配されたブラックの帯は、ボディカラーによってはかなりのインパクトを放ちそう。コンビネーション・ランプのグラフィックも大幅に変更され、立体感の強さとブレーキランプの4点発光がこちらもかなり印象的だ。

撮影車は「718 ボクスター S」。ボディサイズは4379×1801×1280mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2475mm。搭載する水平対向4気筒2.5リッターターボエンジンは最高出力257kW(350PS)/6500rpm、最大トルク420Nm/1900-4500rpmを発生する
エクステリアではラゲッジコンパートメントリッドとフロントウィンドウを除くすべての部分を一新。フロント部は従来モデルよりもワイドな設計になるとともに、フロントの大型クーリングエアインテークは新ターボエンジンを搭載していることを表現。また、サイドビューでは2つのルーバーを備えた大型エアインテークパネルを、リアビューではテールランプをつなぐように配される“Porsche”のロゴが入ったアクセントストリップを採用するなどし、ダイナミックかつワイドなルックスを表現。718 ボクスター Sは19インチアルミホイールを標準装備するが、撮影車はオプションの20インチを装着している
インテリアではダッシュボードパネルの上部を新デザインとした。スポーツステアリングホイールの直径は376mmで、「918 スパイダー」と同じデザインが採用されている

 そんな718 ボクスターの中にあっても、最大の見どころはもちろんその心臓部。新たに搭載されたのは、完全新開発が行なわれたターボ付きの水平対向4気筒直噴エンジンだ。排気量を落としつつ、ターボチャージャーを付加することで燃費とパフォーマンス双方の向上を図るというのは、すでに911 カレラ系が先行をしたのと同様のポルシェが“ライトサイジング”と語るコンセプトに基づいた手法。

 一方で、そんな911 カレラ系とは異なって、6気筒を4気筒に変更する“レスシリンダー”化にまで踏み込んだのは、ミッドシップ・レイアウトを採用するこのモデルの場合、2人分のシート背後のエンジンルームにスペースの制約があるゆえだ。端的に言えば、「(車両搭載状態で)前方2気筒分を廃止し、そこに捻出された空間にターボチャージャーやキャタライザーなどをマウントした」というレイアウトが採用されたのだ。

 91.0mmというボアと76.4mmというストロークのデータから、2.0リッターのベースグレード用ユニットが同じスペックを持つ911 カレラ用の3.0リッター6気筒ユニットとモジュラー構造を採用していることは明らか。

 一方、ストロークが同じSグレード用ユニットでは、911 ターボ系や自然吸気時代の911 カレラS系に積まれてきた3.8リッター・ユニットと同じ102.0mmというボア径を採用することで2.5リッターの排気量を獲得している。

 ターボ付きエンジン特有のアクセルレスポンスの鈍さを解消すべく、「プレコンディショニング」や「ダイナミックブースト」という機能を採用するのも新エンジンの大きな特徴。前者は「部分負荷領域で排気のバイパスバルブを閉じ、イグニッションタイミングを遅延させつつスロットルはわずかに開くことで、エンジンへの供給空気量と過給圧を増大させる」という制御。後者は、「フル加速中の一時的なアクセルOFF時に、燃料噴射を停止しながらスロットルは開き続け、過給圧の低下を防ぐことで再度のアクセルON時のレスポンスを高める制御」と説明される。

 さらにSグレード用ユニットでは、新しい911 ターボ系と同様に可変ジオメトリー式のターボチャージャーも採用するなどして、より高いパフォーマンスを獲得することとなっている。

「最高許容回転数が7500rpm」は掛け値ナシ

 前述のように、今回のイベントでは自身の手でドライブを行なうことは許されず。その一方で、本社テストドライバー氏が駆るモデルへの“横乗り”でもある程度の感覚は掴めたのもまた事実だった。

 718 ボクスターの加速力が、981型を軽々と凌ぐものであったことは間違いない。特に低回転域でのトルクがグンと厚みを増していることは、高回転まで引っ張るまでもなく、ドリフト状態を維持して行くことが可能という挙動を見ていても明らかだった。と同時にそんな新しい心臓部が、高回転域での頭打ちを意識させない回り方をしてくれたことも安心できたポイント。ベースグレードでも、特に高回転域でのパワフルさがさらに鮮烈なSグレードでも、「最高許容回転数が7500rpm」は掛け値ナシだ。

 一方、そのサウンドはやはり6気筒時代とは明確に異質なもの。ポルシェでは新エンジンの音を「典型的なボクスターのサウンド」と表現するが、個人的にはちょっとばかりの疑問が残った。不等長排気時代の“スバルサウンド”もかすかに混じるようなその音色が、新たな魅力と感じられる人ももちろんいるだろう。特に、オプションの「スポーツエグゾースト」を選択した場合、迫力は一層増すことになる。けれども、「エンジンが6気筒だから」という思いを込めて981型を選んだユーザーにとっては、このサウンドの変化はネガティブに受け取られる可能性は少なくないと思う。

 ところで、そんな718 ボクスターのテストコースでのホットラップでは、特にリア・サスペンションの横剛性が大きくアップした印象が強かった。実は718 ボクスターでは、981型に対してリアのホイール幅を全モデルで0.5インチワイド化した。その上で、こうした感覚が得られたのは、リア・サブフレームへのラテラルメンバー追加やダンパー大径化をはじめとした、さまざまな新しいチューニングが功を奏しているのに違いない。

718 ボクスター、718 ボクスター Sともにサスペンションは前後マクファーソンストラットを採用。とりわけ横方向の安定性の向上を目指して大幅に見直されたというリアサスペンションでは、新たにラテラルメンバーを追加することでリアサブフレームを補強。加えてリアホイールも0.5インチワイド化するといった対策が施された

 いずれにしても、その真価を完全に確認できるのは自身の手でドライブしてから。ここまでテストドライブの機会が待ち遠しくなる“マイナーチェンジ・モデル”は、世の中にそうそうあるものではないはずだ!

718 ボクスター/718 ボクスター S主要諸元

718 ボクスター718 ボクスター S
エンジン水平対向4気筒2.0リッターターボ水平対向4気筒2.5リッターターボ
ボア×ストローク91.0×76.4mm102.0×76.4mm
圧縮比9.5:1
最高出力220kW(300PS)/6500rpm257kW(350PS)/6500rpm
最大トルク380Nm/1950-4500rpm420Nm/1900-4500rpm
使用燃料無鉛ハイオクガソリン
燃料タンク容量54L64L
トランスミッション6速MT/7速PDK
ブレーキシステム対向4ピストン式アルミニウム製(フロント/リア。カラー:ブラック)対向4ピストン式アルミニウム製(フロント/リア。カラー:レッド)
ブレーキディスク(フロント)330×28mm330×34mm
ブレーキディスク(リア)299×20mm
ホイール(フロント/リア)8J×18/9.5J×188J×19/10J×19
タイヤ(フロント×リア)235/35 ZR18 / 265/45 ZR18235/40 ZR19 / 265/40 ZR19
ボディサイズ4379×1801×1281mm(全長×全幅×全高)4379×1801×1280mm(全長×全幅×全高)
ホイールベース2475mm
最高速(MT/PDK)275/275km/h285/285km/h
0-100km/h加速(MT/PDK)5.1/4.9秒4.6/4.4秒

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は、2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式にしてようやく1万kmを突破したばかりの“オリジナル型”スマート、2001年式にしてこちらは2013年に10万kmを突破したルポGTI。「きっと“ピエヒの夢”に違いないこんな採算度外視? の拘りのスモールカーは、もう永遠に生まれ得ないだろう……」と手放せなくなった“ルポ蔵”ことルポGTIは、ドイツ・フランクフルト空港近くの地下パーキングに置き去り中。

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