インプレッション

メルセデス・ベンツ「GLC」

全車ステアリング位置が右のみの設定になったGLC

「GLC」の前身に「GLK」があった。GLKは先代Cクラス(W/S204)をベースに駆動方式をFR方式からフルタイム4WDである4MATIC方式へと改め、最終型では先進安全技術群である「レーダーセーフティパッケージ」を装備するとともに、V型6気筒3.5リッター直噴エンジン(276型)を搭載していた。この276型は成層燃焼(リーンバーン)と均質燃焼(ストイキ)、さらにその混合である均質成層燃焼の3モードを走行状態に応じてシームレスに切り替える燃焼技術を採用するとともに、メルセデス・ベンツにおける第3世代(≒きめ細やかに、より高い圧力で燃料を噴射する)直噴エンジンシステムも併せて搭載していた。

筆者のC 350ではカタログ燃費数値を大きく超える燃費数値を記録することができる。このときは20.0km/Lをマークした

 この燃焼技術は高速走行時の巡航燃費に大きな効果がある。法定速度が100km/hの日本でもACC(Adaptive Cruise Control)である「ディストロニック・プラス」を利用して高速道路の左車線を走っているだけで、カタログ燃費数値である12.8km/Lを大きく超える燃費数値を記録するのだ。「3.5リッターで306PSもあるのにウソだろ!」と突っ込みを入れたくなるだろうが、筆者はこのエンジンを搭載した先代Cクラス・ステーションワゴン(C 350)のオーナーであり、条件さえ整えばこうした燃費数値をいとも簡単に、誰でも記録することができる。ここに示した画像はなによりの証拠だ。

 では、そんなに御執心のGLKにも関わらず、なぜ筆者はCクラスを選んだのかといえば、GLKでは右ハンドルが選択できなかったから。ハンドル位置に関してはさまざまな捉え方があり、慣れてしまえばむしろ左ハンドルが楽なのでは、という意見も耳にする。しかし、「左側通行であれば右ハンドル」というのが筆者の持論。仕事柄、左ハンドル車両に乗る回数は非常に多いが、右折時は物理的な死角が右ハンドル車両よりも大きくなってしまうため、いつも以上に気を配りながら運転している。

 その点、GLCは右ハンドルのみの設定だ。これは素直に喜びたい。これまでのGLKで取り逃してしまった潜在顧客の心を鷲づかみにするはず! さらにもう1つの魅力である4MATICだが、後輪寄りの駆動トルク配分が与えられた。ちなみに、この駆動トルク配分はハンドル位置に応じて違いが設けられており、右ハンドル仕様は前33:後67の後輪寄りのトルク配分。一方、左ハンドル仕様は前45:後55と12%ほど前輪寄りとなる。「ハンドル位置で走りの味付けを変えたのか!」と思いきや、取材してみると構造上の問題とのこと。

 ここ数年、メルセデス・ベンツが市場へと送り出している新型車両はいずれも新型プラットフォームを採用するが、「MRA」プラットフォームではGLCが初の「右ハンドル×4WD」モデルだ。ということはつまり「初物につきもののデメリットなのか」と勘ぐってしまいそうだが、真相は別としてハンドル位置に応じて前輪にトルクを伝えるデファレンシャルギヤボックス構造に違いをつけなければならず、右ハンドル仕様の前輪トルクが低くなったという。駆動配分の違いが走りにどんな影響を及ぼすのか興味津々だが、今回の試乗ルートは神奈川県の郊外路と中央自動車道で、いずれもドライ路面のオンロード。よって今回は、日常での使い勝手を中心にリポートしたい。

撮影したのは本革仕様のGLC 250 4MATIC Sports。ベース車のボディサイズは4670×1890×1645mm(全長×全幅×全高)だが、オプションのランニングボードを装着しているため全幅は1900mmになる。ホイールベースは2875mm。車両重量は1860kg。ボディカラーはカバンサイトブルー。価格は745万円
GLC 250 4MATIC Sportsでは19インチのAMG5ツインスポークアルミホイール、AMGスタイリングパッケージ(フロントスポイラー、サイド&リアスカート)、パノラミックスライディングルーフなどを標準装備。ヘッドライトとリアコンビネーションランプは全グレードともLEDが与えられる
前後席にシートヒーターが備わる本革スポーツシートを標準装備。インテリアカラーはブラック、インテリアトリムはピアノラッカー調/アルミニウム
後席は40:20:40の分割可倒式を採用。バックレストをすべて倒すことで最大1600L(VDA)のスペースが出現。ラゲッジスペースのフロア下にはサブトランクも用意される
COMANDシステムの8.4インチワイドディスプレイではナビゲーションや車両周辺の状況が分かる360°カメラなどの表示が可能なほか、選んだモードに応じてエンジン、トランスミッション、ステアリングの制御、アイドリングストップやエアコンの作動状況などが変化する「ダイナミックセレクト」の選択画面などを見ることができる。「ダイナミックセレクト」では快適性を優先する「Comfort」、トランスミッションが低いエンジン回転をキープする「ECO」、エンジンレスポンスとシフトタイムがより素早くなる「Sport」、もっともダイナミックな走りを実現する「Sport+」、各種パラメーターを個別に設定できる「Individual」の5モードを用意

GLCのいいところ、わるいところ

 見た目こそSUVのセオリーに則り、大径タイヤ(試乗車は「GLC 250 4MATIC Sports」で235/55 R19を装着)に腰高ボディというマッシブな印象を抱かせるが、いざ乗り込むと洗練されたCクラスそのもの。クルーザーのインテリアを意識したというSクラスに通ずる優雅なインテリアデザインは、適度な包まれ感があって優しい雰囲気を醸し出す。全幅は1890mmとC 180との比較で80mm大きいが、ボンネットフードの見切り線も手伝って取り回しはそれほどわるくない。もっとも、大径タイヤの影響もあり最小回転半径は5.7mと、同じく19インチを装着するC 250から0.6m大きいが、このあたりは「360°カメラシステム」を上手く使うことで概ね対処できた。

 走行性能はエンジンと乗り味の両面で疑問符がついた。エンジンはAクラス~Eクラスまで搭載実績があり評判のよい「274型」。直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボ(メルセデス・ベンツではBlueDIRECTと表記)で、211PS/35.7kgm/13.4km/Lを発揮する。また、このエンジンは日産自動車「スカイライン」にも搭載されているが、メルセデス・ベンツ各モデルのなかでもまったく同じエンジンではなく、燃焼システムに違いが設けられている。

GLCが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボ「274」型エンジンは、最高出力155kW(211PS)/5500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/1200-4000rpmを発生。JC08モード燃費は13.4km/Lをマーク

 A/B/CLA/GLA/SLK(近くSLCとなるか)では均質燃焼のみ、C/Eクラスでは成層燃焼と均質燃焼、さらにその混合である均質成層燃焼の3モードを使い分けている。「3モード」版のメリットは前述したとおりだが、GLCはCクラスのSUVであることから3モード版を搭載すると予想していた。が、GLCが搭載しているのは「均質燃焼」版だった。3モード版でなくとも、パワーやトルクといった動的性能に不満がないことは、A/B/CLA/GLA/SLK各モデルの試乗で体験済み。ただ惜しいのは、実用燃費数値の上で少なからず違いがあるということだ。正確に記せば、このGLCに3モード版の搭載がないことから厳密な比較はできないが、燃焼システムの違いによる数値の変化は確認済みだ。

 じつは2015年、今回の試乗ルート(中央自動車道の相模湖IC~大月IC)で、「均質燃焼版のスカイライン」と「3モード版のC 200」の2台を走らせ燃費数値を4回計測したのだが、平均で11%ほどC 200がスカイラインを上回ったのだ。車種が違うので当然ながら参考数値だが、それでも計測時はドライバーを毎回交代させ、車列の前後も交互になるようにして平準化には気を配った結果である。空気抵抗係数にはじまる各種抵抗値には違いがあるにせよ、両車ともにACCを80km/hにセットしていたことから、燃焼システムによる違いがあることはほぼ間違いないだろう。

 ただし、GLCには9速ATという武器がある。多段化は高速巡航時のエンジン回転数を低下させることで燃費数値を稼ぐ手段であり、メルセデス・ベンツではディーゼルエンジンを搭載する「C 220 d」や、V型8気筒4.7リッターツインターボの「S 550 クーペ」などへ搭載。さらに今後は搭載車を増やす見込みだ。しかし試乗したGLCの場合、Dレンジのままで80km/hに達しても未だ9速ギヤにアップシフトされる速度域ではないようで、8速ギヤのままでの走行となる。もっとも、ディーゼルエンジンと違ってガソリンエンジンであることから、なんでもかんでも低回転化がよしとされるわけではないが……。ちなみに、取材時の高速区間におけるGLCの巡航燃費数値は13.9km/L(車載計の数値)だった。

 もう1つの疑問符、乗り味についてだが、結論を先に述べてしまうと「硬さ」が先に立つ印象。速度域の高くなる高速道路では段差を乗り越えた際の突き上げが少しソフトになるものの、市街地ではしなやかさがもっとほしいと感じた。基本的な走行特性はCクラスに通ずるもので、ステアリング操作に対する位相遅れがとても少なく好印象。低めに収めた重心高と適正化されたロールセンター位置によって、決して突っ張ることなく、じんわり適度なロールを許す。それでいてSUVが苦手なちょっときつめのカーブ(曲率半径25~35程度)でも一発で鼻先が入ってくれるため気持ちがよい。

 しかし、どういうわけだろうか、しなやかさが足りない。GLC 250 4MATIC Sports(本革仕様)はシート表皮の張り具合が若干強く、これも乗り味に響いているようだ。表皮に関してはSUVらしくヘビーデューティを意識した措置(故に初期は張りが強め)なのかもしれないが、それ以上に試乗車の走行距離が1500km程度であったことから欧州車の新車に多く見られる初期の渋さが残っていたようにも感じた。

 実はこの初期の渋さ、メルセデス・ベンツは欧州車のなかでもとりわけ強い。これまで4台のCクラス(セダンとワゴン)を愛車にしてきたが、いずれも新車時は乗り味がとても硬く、W202に至っては都市高速道路のジョイントで大きく跳ねるし、直進安定性もすこぶるわるかったのだ。しかし、これが不思議と5000km(筆者の経験則)を超えたあたりから、タイヤの空気圧を落としたかと思うほどに滑らかさが際立ち、また機械的なフリクションも減少しきてきたのか、現在の愛車(C 350)では燃費数値もグンと伸び出した。といったことから、GLC本来の乗り味については後日、もう一度確認してみたい。

 ADAS(Advanced Driver Assistance Systems)関連はメルセデス・ベンツの最先端(ほぼSクラス!)を装備し、エクステリアやインテリアのデザインも個性が強い。そしてなにより、CクラスのSUVであることからウケもいいだろう。一方で、アプローチアングル20度、ディパーチャーアングル16.5度を確保するため悪路の走破性能も相当に高いはず。このように現状でも魅力あふれるGLCだが、メルセデス・ベンツ日本によるとプラグインハイブリッドモデルやディーゼルモデルの導入予定があるという。

 実は本国ドイツでGLCのディーゼルモデルに少しだけ試乗したのだが、これがスゴくよかった! その理由は「GLA 250 4MATICオフロード」と同じく、標準モデルからホイールストロークを長くしたオフロード専用サスペンション装着車であったこと。非常に滑らかな乗り味で思わず「欲しい!」と車内で叫んだくらいだ。この点、メルセデス・ベンツ日本の担当者にお話したのだが「導入は考えていません」とぴしゃり。う~ん、残念だ……。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員

Photo:高橋 学