インプレッション
日産商用車シリーズイッキ乗り(前編:NVシリーズ)
Text by 岡本幸一郎(2016/5/26 00:00)
次世代タクシーとして認識してほしい
2016年春、大磯プリンスホテルにおいて、日産自動車のLCV(ライト コマーシャル ビークル=小型商用車)に試乗する機会を得た。
日産は乗用車とともにLCVについても豊富なラインアップを揃えており、いまやグローバルで販売される日産車のうち、5台に1台がLCVで、その数は年々増加傾向だという。日本市場においてもLCVの構成比は高まっていて、2015年4月から2016年1月のLCVの車種別販売台数の上位10台に「クリッパー」「キャラバン」「AD」の3車種がランクインしているほどだ。前編では、NVシリーズについてリポートする。
手ごろなサイズと魅力的なスタイルが受けて、セグメントシェア40%を誇る人気モデルとなっている「NV200」には、バンとワゴン、それぞれのEV版、さらにはすでに報じられているタクシー仕様車まである。
まずはもっともベーシックなバンの「DX」をドライブ。キャブオーバーのワンボックスと違って乗用車に近く、とっつきやすいドライビングポジションや軽快な走り味を確認した。
次いで試乗したのは、電気自動車(EV)「リーフ」に続く日産のEVシリーズ第2弾として登場した「e-NV200」。ワゴンの上級グレード「G」の3列シート7人乗りをドライブした。
インテリアの雰囲気は、さすがにバンとは別物。静粛性もずっと高い。走りについても、むろんモーターが生み出すトルクにより走り出しから力強く加速するし、重心も低いので、見た目のイメージよりもずっとハンドリング性能に優れ、操縦安定性も高い。また、バンに対してリアのリーフスプリングの枚数を増やすなどして快適性の向上が図られているおかげで乗り心地も良好だ。
このe-NV200、小規模な引っ越しのような使い方をする際に、これほど重宝するクルマはないと思う。積載性に優れることはいうまでもなく、スムーズに走れるので積んだ荷物にも優しいし、エンジン搭載車と違って起動しても音がしないので近所の住人に迷惑をかける心配もない。もちろんゼロエミッションであるなど、多くのメリットがあるからだ。
航続距離がもう少し長いほうがありがたいのは否めないが、使い方によってはこの上ない利便性を享受できるクルマだと思う。
「NV200タクシー」にも試乗した。2015年6月に発表された同車は、東京タワーでの納車式の模様も思い出される。HKS製のバイフューエルシステムを搭載しており、左リアにLPGのタンクを設置しているほか、エンジンルームを覗くとインジェクターが追加されているのが分かる。
始動時からしばらくはガソリンを使用するが、水温が約80度になると自動的にLPGに切り替わる仕組みで、十分に暖機されている場合はすぐにLPGを使用する。なお、出力的にはガソリンの方が1割ほど高い。また、もしもLPGのタンクが空になった場合は自動的にガソリンに切り替わり、なんらかの事情によりガソリンで走りたい場合には手動で切り替えることもできる。
LPGで走行しても、ガソリンとの差は言われなければ判別がつかないというか、とくに不満を感じなかった。
タンク容量はLPGだけでも70L以上あり、一般的なタクシーの航続距離はゆうにカバーしている。LPGだけだと、とくに地方に行くと燃料を補給できる場所が限られるので、ガソリンを併用できるのは大きなメリットがある。
インパネにはバイフューエルシステムのメーターが追加されており、視覚的にどちらの燃料を使っているかひと目で分かる。装備では乗降に便利なオートステップが付き、バンに比べて立派なシートが付く。後席乗員の前方の空間を確保するため、助手席はリクライリングが可能だが、あえて前後スライドはできないようになっているのも特徴だ。日本仕様にはニューヨークタクシーのようなものものしい隔壁がないのもお国柄の表れか。
そしてこのクルマ、とにかく一番のウリは、いうまでもなく4人が不満なく乗れることだ。セダンだと2台に分乗しなければならないシチュエーションでも1台でまかなえるし、海外からの観光客に見られる、いわゆる「爆買い」にも対応できる広さがある。しかも目線が高いので、セダンでは見えなかった景色が見えるのは新鮮だし、サンルーフがあればなおのこと、子供にも喜んでもらえる。すでに空港や観光地で活躍しているという。
そんなセダンにはない価値を持ったNV200タクシーだが、日産の関係者によると使ったことのある人は「また次もぜひ乗りたい」という声が大きい一方で、年配の人にとっては、まだこのクルマがタクシーであることが認識されていないのが残念だという。少しでも早く定着するように願いたい。
細やかな配慮が髄所に見られるライフケアビークル
広くて使い勝手のよい荷室、燃費と動力性能の高次元の両立、従来の商用車にはない先進装備、堂々としたデザインなどを特徴とする「NV350キャラバン」。
「ライダー ブラックライン トランスポーター」は、オーテックジャパンが手がけたモデルらしく凛々しい外観と、上質に仕立てたインテリアが目を引く。市販されている乗用ミニバンよりもずっと広い空間が圧巻だ。搭載するガソリンの直列4気筒DOHC 2.0リッター「QR20DE」はやや線の細さを感じるも、大きな不満はない。
「プレミアムGX」は、直列4気筒DOHC 2.5リッタークリーンディーゼル「YD25DDTi」を搭載。やはりディーゼルらしく実用域のトルクは力強く、空荷で乗るとかなり速い。DPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)を手動で燃やすモードや、寒冷地仕様にはディーゼルの回転を高めて暖気を高めるスイッチなどが付いている。荷室の広さは寸法としては競合車を上回っており、実際にも相当に広いことも強調しておこう。
そのほか、会場には日産で一番大きいライフケアビークルとしてラインアップされている、NV350ベースの3バリエーションが展示されていた。そのうちチェアキャブ リフタータイプでは、車いすを合計で最大4名分も乗せることができる仕様も用意されている。
また、同車はリフターをモーターで駆動するのも特徴だ。油圧式では作動音が大きいのに対し、こちらは音が出ず、動きも非常にスムーズで、不安感を与えることもない。耐荷重は200kgで、車いすが不意に動かないよう、ロックだけなく電動の固定装置によりワイヤーで引っ張って止めているのも特徴だ。
サイドのスライドドアを開けると自動でオートステップがせり出す。また、手すりなどの部位を競合車では黄色にしているが、白内障の人にとって黄色は白に見えてしまい判別がつきにくいとのことから、日産では白内障の人でも見やすいようにとの配慮からオレンジを採用していることも特筆できる。