試乗記

シリーズの頂点に立つ「ディフェンダー オクタ」、オン&オフロードで実力を試す

ディフェンダーシリーズの頂点に立つ「ディフェンダー オクタ」

史上最もパワフルなディフェンダー

 街中でも「ディフェンダー」をよく見かける。力強く端正なデザインと乗れば分かるタフなボディが多くのファンを引き付けて、日本でも2019年の発売以来累計で1万5000台を販売している。

 3種類のパワートレーンと3種類のホイールベースを組み合わせたラインアップで選択枝が多いのも人気の要因だが、その中でも頂点に立つのが「DEFENDER OCTA(ディフェンダー オクタ)」だ。2024年に発売され、瞬く間に完売してしまうほどの人気モデルで次の入荷が待たれていたが、2025年モデルがやっと入荷した。世界中から引っ張りだこで輸入台数も限られる。しかし2026年モデルでもラインアップすることがアナウンスされている。

 オクタとは最高の硬度を持つダイヤモンドの8面体(octahedron)を表しており、Cピラーにさりげなく配置されたダイヤマークがその誇りだ。外観でもオフロード車にはなくてはならい牽引フックがフロントに1か所、リアに2か所、しかもきちんとデザインされてフレームと連結されており、ハイパフォーマンスモデルらしい太いエキゾーストパイプやグラマスなオーバーフェンダーからもオクタならではの威容が感じられる。

 ボディサイズは4940×2065×2000mm(全長×全幅×全高、通常モード)で堂々たるオフローダーであることが分かる。ホイールベースは3020mmと長く、オフロード走行での高速安定性を確保している。

今回試乗したのは「ディフェンダー 110」の能力を引き上げ、4×4ファミリー史上最もタフで、最も走破性が高く、最もラグジュアリーな「ディフェンダー オクタ」(2037万円)。ボディサイズは4940×2065×2000mm(全長×全幅×全高、通常モード)で、「ディフェンダー 110 V8」と比べ5mm短く、70mm広く、30mm高くなったことでこれまで以上に大胆でタフなスタイルとなった。また、車両重量もディフェンダー 110 V8に対して160kg重い2610kgとした
エクステリアではボンネット下に多くの空気が流れるようにした独自のグリルデザインを採用するとともに、4本出しのアクティブエキゾーストシステムを組み込んだリアバンパー、グラファイト仕上げのアルミニウム合金フロントアンダーシールドを含むアンダーボディプロテクションなどを特別装備。渡河水深は最大1mに進化(ディフェンダー 110 V8は0.9m)した
過去最大の33インチ外径のタイヤを装着するため、ホイールアーチを拡大
足まわりでは快適性と洗練性の実現に貢献する6Dダイナミクスサスペンションシステムを採用。ブレンボ製キャリパーを備えた400mm径のフロントディスクブレーキ、従来のディフェンダーよりもクイックなステアリングレシオなども与えられた。オフロード試乗ではグッドイヤー「WRANGLER DURATRAC RT」(275/60R20)をセット

 サスペンションはエアサスだが、油圧系統を4輪で連結して路面に応じて4輪を制御する6Dサスペンションと名付けられたシステムを採用する。

 6Dサスペンションはレンジローバー・スポーツのハイパフォーマンス仕様であるSVにも採用されており、オクタに使われるのも基本的には同様だ。オクタはステアリングホイールのスポークに設けられたドライブモードを長押ししてOCTAモードにすると路面に対する追従性が向上し、凹凸の大きな路面でもタイヤの接地性が向上して、しかもバネ上の動きは比較的フラットに保たれるのが特徴。いかにもオフロード最強を目指すディフェンダーらしいモードだ。

 一方のレンジローバー・スポーツSVのSVモードはオンロードでパフォーマンスを発揮するようにサスペンションもロールやピッチングを抑える方向に変わる。クルマのキャラクターに合わせて設定も変えられている。

 そしてパワートレーンは、ディフェンダー110 V8スーパーチャジャーとは異なるBMWが開発したV8 4.4リッターツインターボエンジンになる。このエンジンもレンジローバースポーツSVに搭載されているものと共用しており、オンとオフで柔軟性を持つエンジンだ。467kW(635PS)/750Nmの出力を持ち、合わせてマイルドハイブリッドシステムを搭載する。

オクタが搭載するV型8気筒4.4リッターツインターボエンジンは最高出力467kW(635PS)/6000-7000rpm、最大トルク750Nm/1800-5855rpmを発生。0-100km/h加速は4.0秒、最高速は250km/hとなっている
通常のディフェンダー オクタのインテリアでは、新たなバーントシエナカラーのセミアニリンレザーにエボニーのKvadratテキスタイルトリムの組み合わせを標準装備。ライトクラウド/ルナのUltrafabrics PU、もしくはエボニーのセミアニリンレザーも選択可能とした。フロントシートはサポート力に優れボルスターと一体型のヘッドレストを備えた新型パフォーマンスシートを採用。ディフェンダー初採用となるオーディオ技術「ボディ&ソウルシート」により没入型の音楽体験を楽しめるとともに、6種類のウェルネスプログラムも利用できる

浅間サーキットで高速グラベル走行

浅間サーキットでオフロード試乗

 試乗は火山灰で形成されたグラベルの浅間サーキットと、補修跡の凹凸が連続する路面を含む滑らかな郊外路で行なわれた。

 まずグラベルのショートトラックを2Lap×3回走る。何れも先導車付きとはいえ、ベテランのラリードライバーがペースを見ながら速度を上げていくのでオクタでの高速グラベル走行を楽しめた。

先導車付きとはいえ、ベテランのラリードライバーがペースを見ながら速度を上げていく

 剛性の極めて高いモノコックボディは凹凸の激しいコースでもミシリともいわず、正確なハンドリングもディフェンダーの特徴。アルミボディとは言え、重量2610kgの巨体は高速オフロードでどんな動きをするのか不安もあったが杞憂に終わった。さらに750Nmのトルクはすさまじく、アクセル開度に正確に反応して、凹凸の激しいグラベルもものともせずに軽いジャンプもこなしながらあっという間に高速域に達する。コーナーも意外なほど簡単に走り抜け、慣性に抗うような挙動安定性にはおどろくばかりだ。

凹凸の激しいコースでもミシリともいわず進んでいく

 エンジンはトルク特性を含めてドライバーの操作に柔軟に対応し、低速ではジワリとした駆動力を、高速では回転の伸びやかなスポ―ツカーのような力強さを発揮する。さらにOCTAモードを選択するとサスペンションの接地性が高まり、バネ上の動きは制御され、フラットな姿勢でオフロードでも快適な乗り心地だ。サスペンションストロークが増して、しかも減衰力の伸び側が絶妙にコントロールされることでコーナリング中の凹凸にも高い追従性を発揮し、ステアリングでの修正は最小限になる。ターンインでの正確な応答性もシャープで気持ち良い。

OCTAモードを選択するとメーターまわりとともにパドルシフトも赤く点灯

 しかもOCTAモードではABSも最適な制動力を優先しているために、オフロードでありがちなブレーキのすっぽ抜け感がほとんどない。まさにラリーにも適したブレーキシステムだ。

 オクタはこれまでランドローバー社が培ってきた技術を存分に引き出しながら高速ラリー車に必要な接地性やハンドル応答性を掛け合わせた新しいプレミアムオフローダーだ。

 試乗車はオフロード走行に強いグッドイヤー「WRANGLER DURATRAC RT」でサイズは275/60R20。コントロール性のよいタイヤだった。

高速ラリー車に必要な接地性やハンドル応答性を掛け合わせた新しいプレミアムオフローダーと感じた

レンジローバー・スポーツSVとは違ったドライブフィール

オンロードでもオクタに乗った

 一方のオンロードでは同時に試乗したレンジローバー・スポーツ SVとは違ったドライブフィールだった。レンジローバーはオフロードでの強みを身上としながら、かつて砂漠のロールスロイスと呼ばれた滑らかで安定性の高い走行性能をオンロードでも発揮できるセッティングになっている。レンジローバーらしい繊細な動きはシートやステアリングホイールから感じられる。

 同じ6Dサスペンションでもディフェンダーはもう少し野性味を感じさせ、サスペンションは大きく動く。バネ上のフラットな動きでいずれにしても荒れた路面での乗り心地は極上なのだが、オフロードに強いディフェンダーと今や都会のリムジンとなったレンジローバーへの2つのブランドへのこだわりは見事に表現されている。伝統に誇りを持つ大切さを感じた一瞬だ。

オクタと同じエンジンを搭載する「レンジローバー・スポーツ SV EDITION TWO」(2474万円)にも試乗

 オンロード試乗でオクタが履いていたのはミシュラン「PILOT SPORT ALL SEASON」で、サイズは285/40R23と、巨大な径はさすがに迫力満点。しかもパターンノイズだけでなく、太いタイヤでありながらロードノイズも抑えられていた。ディフェンダーの優れた遮音性に加えて静粛性も進化している。

 ちなみにOCTAモードもオンロードで試した。常識的な速度ではノーマルモードとそれほど変わらないが、荒れた舗装路面での衝撃は小さい。

 LLサイズのオクタだが、郊外路での取りまわしは正確なハンドリングもあって気ならなかったし、余裕十分なパワートレーンとサスペンションは日常使いでも快適だった。

余裕十分なパワートレーンとサスペンションは日常使いでも快適

 オクタは超人気車で2024年に発売された90台のファーストエディションもすぐに完売してしまったが、今回も早いテンポで予約されているという。また2026年モデルも継続して予定されるが、世界的に人気の高いモデルだけに供給不足の状態が続きそうだ。2000万円を軽くオーバーするオフローダーに世界もかなり変わってきた。

オクタは2026年モデルでも継続販売される
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学