試乗記
シリーズの頂点に立つ「ディフェンダー オクタ」、オン&オフロードで実力を試す
2025年6月24日 08:00
史上最もパワフルなディフェンダー
街中でも「ディフェンダー」をよく見かける。力強く端正なデザインと乗れば分かるタフなボディが多くのファンを引き付けて、日本でも2019年の発売以来累計で1万5000台を販売している。
3種類のパワートレーンと3種類のホイールベースを組み合わせたラインアップで選択枝が多いのも人気の要因だが、その中でも頂点に立つのが「DEFENDER OCTA(ディフェンダー オクタ)」だ。2024年に発売され、瞬く間に完売してしまうほどの人気モデルで次の入荷が待たれていたが、2025年モデルがやっと入荷した。世界中から引っ張りだこで輸入台数も限られる。しかし2026年モデルでもラインアップすることがアナウンスされている。
オクタとは最高の硬度を持つダイヤモンドの8面体(octahedron)を表しており、Cピラーにさりげなく配置されたダイヤマークがその誇りだ。外観でもオフロード車にはなくてはならい牽引フックがフロントに1か所、リアに2か所、しかもきちんとデザインされてフレームと連結されており、ハイパフォーマンスモデルらしい太いエキゾーストパイプやグラマスなオーバーフェンダーからもオクタならではの威容が感じられる。
ボディサイズは4940×2065×2000mm(全長×全幅×全高、通常モード)で堂々たるオフローダーであることが分かる。ホイールベースは3020mmと長く、オフロード走行での高速安定性を確保している。
サスペンションはエアサスだが、油圧系統を4輪で連結して路面に応じて4輪を制御する6Dサスペンションと名付けられたシステムを採用する。
6Dサスペンションはレンジローバー・スポーツのハイパフォーマンス仕様であるSVにも採用されており、オクタに使われるのも基本的には同様だ。オクタはステアリングホイールのスポークに設けられたドライブモードを長押ししてOCTAモードにすると路面に対する追従性が向上し、凹凸の大きな路面でもタイヤの接地性が向上して、しかもバネ上の動きは比較的フラットに保たれるのが特徴。いかにもオフロード最強を目指すディフェンダーらしいモードだ。
一方のレンジローバー・スポーツSVのSVモードはオンロードでパフォーマンスを発揮するようにサスペンションもロールやピッチングを抑える方向に変わる。クルマのキャラクターに合わせて設定も変えられている。
そしてパワートレーンは、ディフェンダー110 V8スーパーチャジャーとは異なるBMWが開発したV8 4.4リッターツインターボエンジンになる。このエンジンもレンジローバースポーツSVに搭載されているものと共用しており、オンとオフで柔軟性を持つエンジンだ。467kW(635PS)/750Nmの出力を持ち、合わせてマイルドハイブリッドシステムを搭載する。
浅間サーキットで高速グラベル走行
試乗は火山灰で形成されたグラベルの浅間サーキットと、補修跡の凹凸が連続する路面を含む滑らかな郊外路で行なわれた。
まずグラベルのショートトラックを2Lap×3回走る。何れも先導車付きとはいえ、ベテランのラリードライバーがペースを見ながら速度を上げていくのでオクタでの高速グラベル走行を楽しめた。
剛性の極めて高いモノコックボディは凹凸の激しいコースでもミシリともいわず、正確なハンドリングもディフェンダーの特徴。アルミボディとは言え、重量2610kgの巨体は高速オフロードでどんな動きをするのか不安もあったが杞憂に終わった。さらに750Nmのトルクはすさまじく、アクセル開度に正確に反応して、凹凸の激しいグラベルもものともせずに軽いジャンプもこなしながらあっという間に高速域に達する。コーナーも意外なほど簡単に走り抜け、慣性に抗うような挙動安定性にはおどろくばかりだ。
エンジンはトルク特性を含めてドライバーの操作に柔軟に対応し、低速ではジワリとした駆動力を、高速では回転の伸びやかなスポ―ツカーのような力強さを発揮する。さらにOCTAモードを選択するとサスペンションの接地性が高まり、バネ上の動きは制御され、フラットな姿勢でオフロードでも快適な乗り心地だ。サスペンションストロークが増して、しかも減衰力の伸び側が絶妙にコントロールされることでコーナリング中の凹凸にも高い追従性を発揮し、ステアリングでの修正は最小限になる。ターンインでの正確な応答性もシャープで気持ち良い。
しかもOCTAモードではABSも最適な制動力を優先しているために、オフロードでありがちなブレーキのすっぽ抜け感がほとんどない。まさにラリーにも適したブレーキシステムだ。
オクタはこれまでランドローバー社が培ってきた技術を存分に引き出しながら高速ラリー車に必要な接地性やハンドル応答性を掛け合わせた新しいプレミアムオフローダーだ。
試乗車はオフロード走行に強いグッドイヤー「WRANGLER DURATRAC RT」でサイズは275/60R20。コントロール性のよいタイヤだった。
レンジローバー・スポーツSVとは違ったドライブフィール
一方のオンロードでは同時に試乗したレンジローバー・スポーツ SVとは違ったドライブフィールだった。レンジローバーはオフロードでの強みを身上としながら、かつて砂漠のロールスロイスと呼ばれた滑らかで安定性の高い走行性能をオンロードでも発揮できるセッティングになっている。レンジローバーらしい繊細な動きはシートやステアリングホイールから感じられる。
同じ6Dサスペンションでもディフェンダーはもう少し野性味を感じさせ、サスペンションは大きく動く。バネ上のフラットな動きでいずれにしても荒れた路面での乗り心地は極上なのだが、オフロードに強いディフェンダーと今や都会のリムジンとなったレンジローバーへの2つのブランドへのこだわりは見事に表現されている。伝統に誇りを持つ大切さを感じた一瞬だ。
オンロード試乗でオクタが履いていたのはミシュラン「PILOT SPORT ALL SEASON」で、サイズは285/40R23と、巨大な径はさすがに迫力満点。しかもパターンノイズだけでなく、太いタイヤでありながらロードノイズも抑えられていた。ディフェンダーの優れた遮音性に加えて静粛性も進化している。
ちなみにOCTAモードもオンロードで試した。常識的な速度ではノーマルモードとそれほど変わらないが、荒れた舗装路面での衝撃は小さい。
LLサイズのオクタだが、郊外路での取りまわしは正確なハンドリングもあって気ならなかったし、余裕十分なパワートレーンとサスペンションは日常使いでも快適だった。
オクタは超人気車で2024年に発売された90台のファーストエディションもすぐに完売してしまったが、今回も早いテンポで予約されているという。また2026年モデルも継続して予定されるが、世界的に人気の高いモデルだけに供給不足の状態が続きそうだ。2000万円を軽くオーバーするオフローダーに世界もかなり変わってきた。























