試乗記

バイオ燃料を混ぜる「サステナ51」を用いたマツダ「CX-60」にチョイノリ

マツダが「サステナ51」のようなHVOを高く評価する点とは?

51%のバイオ燃料を混ぜた非化石エネルギー「サステナ51」を燃料に使ったCX-60に試乗

ディーゼルとBEVの二酸化炭素排出量

 連日の猛暑で温暖化を身近に感じるようになった。温暖化の議論として画期的だったのは1997年の京都議定書、そして切迫した状況の中で採択されたパリ協定では産業革命前からの平均気温を1.5℃抑える画期的な目標が設定された。二酸化炭素排出の削減はあらゆる産業で行なわれ、各国ごとに削減目標を提言している。

 日本の場合、東日本大震災以降で発電所のエネルギーミックスが変わり、石炭火力が大幅に増えた。石炭は技術の進化でひと昔前からは画期的なクリーン化に成功しているが、それでも10億t以上の二酸化炭素排出量があり、さらに削減する必要がある。このうち運輸などの自動車部門は約17%と言われる。

 そこで注目されるのがモータースポーツで使われ始めたカーボンニュートラル(CN)燃料で、内燃機の技術をそのまま使えるのも魅力だ。

 ディーゼル車はまだまだ主流の欧州ではバイオディーゼル燃料が普及しており、価格も政策的に軽油に近い。CN燃料自体は高価だが国の補助金効果が大きく、欧州各国の二酸化炭素削減に向けた強い意志が感じられる。日本では法体系の整備が進んでおらず補助金もないのが現状だ。

 CN燃料では油分の多いミドリムシを活用したバイオ燃料を開発したユーグレナが知られている。しかしミドリムシ由来のバイオ燃料はコストや生産性の壁が高く、ユーグレナも今は天麩羅油の廃油をベースとした燃料が主となっている。今回のポイントである「サステナ51」も軽油に地方税の規制ギリギリである51%のバイオ燃料を混ぜた非化石エネルギーになる。価格はまだ軽油の3~4倍するが、数年後には2倍程度に収めたいとしている。いずれにしても国の補助金がなければ厳しい状況だ。ミドリムシによるバイオ燃料も実用に向けて開発が進んでいる。

 さて二酸化炭素排出量をパワートレーンで比較すると、走行中は二酸化炭素をほとんど出さないBEV(バッテリ電気自動車)だが製造時に大量に排出するとされている。一方、マツダが得意とするディーゼル+マイルドハイブリッド「CX-60 e-SKYACTIV D 3.3」は走行中の二酸化炭素は出るものの、10万km走行時点でやっとBEVが優位に立つとの試算があり、さらに50%のバイオ燃料を混合したCN燃料を使うと24万km走行時点でもCX-60 e-SKYACTIV D 3.3を上まわることができないとマツダは試算している。この場合のBEVは85kWhのバッテリを搭載していることを想定しており、素材や容量によっても大きく異なるがこの仮説は興味深い。

 一方「サステナ51」は給油所では販売していない。給油所に別のタンクを増設するのはガソリンスタンドにとってコスト面で現実的ではない。そこで新しいビジネスモデルとして燃料配送が浮かび上がる。説明会に出席した平野石油では従来90以上あったガソリンスタンドを全て引き上げ、燃料配送に特化した。必要な時に必要な量を届けられるのは1000台以上の小型タンクローリーを持つ平野石油の強みである。関東、関西、九州が主力だが全国にネットワークを広げつつあり、燃料配送は選択肢として広がった。工事現場への配送が主だが災害時にも小回りを効かせることができる。

平野石油は1000台以上の小型タンクローリーを持つ

 三井住友グループでは一部の社用車にCX-60 マイルドハイブリッドを使い、平野石油が地下駐車場に設置された簡易スタンドへ「サステナ51」を配送するという活動が始まっている。軽油の場合、着火点が高いことから250L未満で軽油スタンドだと設置許可を必要としない。

小型タンクローリーで簡易スタンドに「サステナ51」を配送するという活用が始まっている。簡易スタンドは太陽光パネルで電気をまかなうことが可能

加速は力強く軽油と変わらない

「サステナ51」を使ったCX-60にチョイノリ

 実際に「サステナ51」を使ったCX-60 e-SKYACTIV D 3.3にチョイノリしてみた。3.3リッターディーゼルターボ+マイルドハイブリッドだ。燃料の熱量はほぼ同じとされ、低回転ではディーゼル特有のノック音が響く。最近のHV(ハイブリッド)やBEVに慣れてしまうとさすがにノイズは大きいものの、ディーゼルとしては格段に静かだ。

 加速は力強く軽油と変わらない。むしろ回転の上昇は少し速いように感じられた。街中でCX-60を走らせてみたが「こんなに軽快だったっけ」と思うほどアクセルへのツキも良い。走行中の追い越し加速では反応も良く、ス―と伸びていくのも心地がいい。まだ実証実験中だが実用性は問題なさそうだ。

 燃料とは関係ないが、初期型で感じた段差乗り越しでの突き上げ強さは後期型では影を潜め、マイルドで走りの質感が高い。

 マツダの説明では、軽油の発熱量は43~44MJ/kg。一方、FAMEと呼ばれる従来のバイオ軽油が38MJ/kg、そして「サステナ51」のようなHydro-Treated Vegetable Oil(HVO)が軽油と同じ43~44MJ/kg。HVOの良いところは部品への腐食性がない点も高い評価をしている。さらに着火に影響するセタン価も軽油より高く、組成の点でも相性が良いとしている。

 ちなみにHVOと通常の軽油はコックで切り替えることができ、エンジンやソフトウェアを変える必要はない。燃焼技術を突き詰めてSKYACTIV-Dを実用化し、大排気量化とマイルドハイブリッドでパワーアップした上で燃費も向上させたマツダならではだ。さらにHVOを使うことで二酸化炭素の排出量を格段に減らせる点もマツダがHVOを高く評価する点だ。

 問題点はHVOがまだまだ高価な点だ。普及に向けて障害は高いが政策が変われば劇的に普及する可能性もある。日本はどの道を進むのだろう。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。