試乗記

ついに登場した新型「エルグランド」(4代目)、プロトタイプに初乗り!【後編】

次期エルグランドのプロトタイプに栃木のテストコースで試乗

次期エルグランドの注目ポイントは?

 2026年夏、約16年ぶりに登場するという次期「エルグランド」。そのプロトタイプに栃木のテストコースで試乗してきた。思い返せばまだかなり暑かった8月初旬のことである。試乗車は写真のとおり昔ながらの厳重なカモフラージュというかカバーが施されており、ルーフやボンネットのラインも分からないほどの状態だった。

 けれども中身についてはある程度のアナウンスがあった。次期モデルは第3世代e-POWERが与えられ排気量は1.5リッター。エンジンは発電特化型のZR15DDTeと呼ばれるもので、つまりは海外のキャシュカイに搭載されていたものをベースとしているそうだ。燃焼効率の向上を目指したSTARC燃焼(Strong Tumble and Appropriately stretched Robust ignition Channel)、大量EGR(Exhaust Gas Recirculation)、高圧縮比、低フリクション、ロングストローク、大型ターボ、ミラーサイクルが設計アプローチとなる。

 このエンジンは次期エルグランド用にチューニングされており、駆動用のモーターはトータルで500Nm以上のトルクを発生する。ユニットの特徴は5-in-1(ファイブインワン)システムが組み合わされること。モーター、ジェネレーター、減速ギヤ(モーター)&増速ギヤ(発電)、インバーター、そしてエンジンをトータルでマネージメントして制作したことで、ユニット全体の剛性を前の世代より60%ほど向上させることが可能になった。

 これにより共振点周波数を高くできたことがメリットだそうで、車体が持つ低い共振点周波数との干渉回避が行なえ、振動や静粛性の向上が見込めるそうだ。とはいえ、今回の試乗車は厳重なカモフラージュが走行風でなびいているほどだったから、静粛性についての本当のところは次の機会となるかもしれない。

栃木で試乗した際はボディサイズへの言及はなかったが、「ジャパンモビリティショー 2025」での公開に合わせて4995×1895×1975mm(全長×全幅×全高。数値は日産測定値)であることが明らかにされた
ラッピング状態によりデザインはほぼ分からなかったが、フロントグリルは日本の伝統工芸である「組子」をモチーフとし、サイドパネルの大きな面構成と緻密なディテールのコントラストは日本庭園のように広いスペースの”間”と緻密に仕上げられた細部”整”の考え方を取り入れたという
タイヤは横浜ゴム「ADVAN V61」(235/60R18)をセット

 続く注目ポイントはやはり「e-4ORCE」だ。これまでにもエクストレイルやアリアに対して与えられてきたシステムであるが、今回はコーナーリング性能向上のために新ロジックを追加。目標車両挙動となるようにブレーキとトルクを協調制御していくというから興味深い。従来はどちらかと言えばレスポンス重視としていたところを、エルグランドのキャラクターを考え、例えば加速時にはリア駆動力を大きくすることで不快なピッチ変化を抑制するなど、フラットに走らせることを狙ったチューニングにしているようだ。

 フラットな走りを実現するためにもう1つのアイテムが加えられた。「インテリジェントダイナミックサスペンション」と名付けられたものがそれだ。車輪速、ヨーレート、横G、操舵角、ドライブモード、モータートルクといった情報から車体挙動推定を行ない、1/100秒毎に演算、そしてリアルタイムに減衰力を調整していこうというこの電子制御ダンパーはかなりの武器となりそうだ。

内装も偽装状態。分かったのはメーターまわりのほか、シフトノブがなくなりボタン式になったこと、シートデザイン程度
SOSコールボタン、前後のサンルーフ開閉に使うスイッチ
シフトの変更はボタンで。EVやe-Pedalのボタンも見える
前席シート
2列目シート
3列目シート
2列目シートの中央部。メモリーボタンのほかシートヒーター&シートベンチレーション機能も備わる
ドアを開けた状態。全高が上がったのに伴い、フロア高も上がったようだ。前席も1段ステップが設けられた
乗降時に便利なグリップも大型のものに

 ちなみにドライブモードは6つあり、PERSONAL、SPORT、STANDARD、COMFORT、ECO、SNOWを選択することが可能だ。さらに「Smooth Stop」なる機能も追加。これは停止寸前にブレーキの液圧を抜き、フラットに停止することを実現してくれるという。平たく言ってしまえばミニバンではレクサスLMにしかない電子制御ダンパーと、アルヴェルPHEVにしかないスムーズストップが共に備わったようなものだ。

メーターではe-4ORCEの作動状況が分かる
走行モードは6種類

ゲームチェンジャーとなりそうな仕上がり

いざテストコースで試乗
次期エルグランドでは目線がかなり高くなり、見晴らしがかなりよくなった

 これらすべてが統合制御されるという次期エルグランド。まずはSTANDARDモードでゆっくりとテストコースを走り始める。かつて現行型オーナーだった感覚からすれば、目線がかなり高くなり、見晴らしがかなりよくなったことが第一印象だ。その分、よっこらしょと乗り込むようにはなったのだが、これなら信号待ちでライバルに見下ろされるようなこともないし心理的にも穏やかになれるか!?

 低速ではかなり穏やかな印象であり、エンジンの存在を感じるようなことはほとんどない。高速周回路へ向けた連絡路でたびたび一時停止を行なう必要があるのだが、「Smooth Stop」はたしかにラフな操作をしたとしても、フラットさをキープしたまま停止してくれる。これならカックンブレーキとなるようなことはないだろう。ちなみに急制動となるようなブレーキでは、止まることを優先してガッツリ止まってくれるから安心だ。

 高速周回路へ入り元気よく加速してみると、これが1.5リッターなのかと思えるほどに力強く速度を重ねていくからひと安心した。もちろん100%電動駆動なのだから当然のこと。現行3.5リッターユーザーであったとしても満足できそうな世界観だ。

 けれども静粛性はなかなか。カモフラージュがバタついた音があり正確ではないかもしれないが、それにしてもエンジンの存在はかなり遠くに感じる。いままでの3気筒エンジンとは思えぬ雰囲気で、回転フィールには滑らかさがあった。あくまでも黒子に徹している、それが第3世代e-POWERなのだろう。足まわりもフラットさをキープした感覚はたしかに伝わってくる。フル加速をしようが、減速をしようが、できるだけ挙動変化を与えないように駆け抜けていく感覚はありがたい。

現行3.5リッターユーザーも満足できる仕上がり

 続いてワインディング路においてSPORTモードで走ってみる。するとなにもかもが引き締められ、思い通りに狙ったとおりに走っていくからおもしろい。かつてより遥かに高い位置にいるのに、いままで以上に安定し高い次元でコーナリングして見せるのだ。無駄なピッチやロールは起こさず、適度な動きで次々にコーナーやうねりを越して見せたことはおどろくばかりだ。

 逆にペースを落としてゆったりとCOMFORTモードで走れば、しなやかさを見せながらもフラットに駆け抜けてもくれる。ドライバー主体にも走れるし、パッセンジャー優先にすることだってできる。それをこの巨体でやってみせるのだからすごい進化だと思う。きっと2t後半に達するであろう重量を見事にコントロールしつつ、その重量でなければ達成できない重厚な乗り味もある。e-4ORCEと電子制御ダンパーの組み合わせは向かうところ敵ナシと言っても過言じゃなさそうだ。大きくなり高くなり重たくなったことで物理的には不利になったと思える次期モデルではあるが、ネガになりそうなところを統合制御によって乗り越えた上で、逆に進化した部分がしっかりと感じられる。

e-4ORCEと電子制御ダンパーの組み合わせは向かうところ敵ナシな印象

 これならどこまでも走っていけそうだ。コンセプトを「LIMITLESS GRAND TOURER」としたのも頷けるところ。このクルマにはもちろんプロパイロット2.0という高速走行時にハンズオフ可能な技術も準備されているのだからなおさらだ。正式なところは公道に出てきてからしっかりとまたお伝えしたいと思うが、ファーストインプレッションはかなり上々だったのは間違いない。これはゲームチェンジャーとなりそうな仕上がりだ。

今回の試乗では2列シート以降の試乗が叶わなかったので、2026年の正式発売時にその部分はたしかめたい

ジャパンモビリティショー 2025 記事リンク集

https://car.watch.impress.co.jp/category/event/jms/2025/index.html

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛