試乗記
ついに登場した新型「エルグランド」(4代目)、プロトタイプに初乗り!【後編】
2025年10月31日 08:00
次期エルグランドの注目ポイントは?
2026年夏、約16年ぶりに登場するという次期「エルグランド」。そのプロトタイプに栃木のテストコースで試乗してきた。思い返せばまだかなり暑かった8月初旬のことである。試乗車は写真のとおり昔ながらの厳重なカモフラージュというかカバーが施されており、ルーフやボンネットのラインも分からないほどの状態だった。
けれども中身についてはある程度のアナウンスがあった。次期モデルは第3世代e-POWERが与えられ排気量は1.5リッター。エンジンは発電特化型のZR15DDTeと呼ばれるもので、つまりは海外のキャシュカイに搭載されていたものをベースとしているそうだ。燃焼効率の向上を目指したSTARC燃焼(Strong Tumble and Appropriately stretched Robust ignition Channel)、大量EGR(Exhaust Gas Recirculation)、高圧縮比、低フリクション、ロングストローク、大型ターボ、ミラーサイクルが設計アプローチとなる。
このエンジンは次期エルグランド用にチューニングされており、駆動用のモーターはトータルで500Nm以上のトルクを発生する。ユニットの特徴は5-in-1(ファイブインワン)システムが組み合わされること。モーター、ジェネレーター、減速ギヤ(モーター)&増速ギヤ(発電)、インバーター、そしてエンジンをトータルでマネージメントして制作したことで、ユニット全体の剛性を前の世代より60%ほど向上させることが可能になった。
これにより共振点周波数を高くできたことがメリットだそうで、車体が持つ低い共振点周波数との干渉回避が行なえ、振動や静粛性の向上が見込めるそうだ。とはいえ、今回の試乗車は厳重なカモフラージュが走行風でなびいているほどだったから、静粛性についての本当のところは次の機会となるかもしれない。
続く注目ポイントはやはり「e-4ORCE」だ。これまでにもエクストレイルやアリアに対して与えられてきたシステムであるが、今回はコーナーリング性能向上のために新ロジックを追加。目標車両挙動となるようにブレーキとトルクを協調制御していくというから興味深い。従来はどちらかと言えばレスポンス重視としていたところを、エルグランドのキャラクターを考え、例えば加速時にはリア駆動力を大きくすることで不快なピッチ変化を抑制するなど、フラットに走らせることを狙ったチューニングにしているようだ。
フラットな走りを実現するためにもう1つのアイテムが加えられた。「インテリジェントダイナミックサスペンション」と名付けられたものがそれだ。車輪速、ヨーレート、横G、操舵角、ドライブモード、モータートルクといった情報から車体挙動推定を行ない、1/100秒毎に演算、そしてリアルタイムに減衰力を調整していこうというこの電子制御ダンパーはかなりの武器となりそうだ。
ちなみにドライブモードは6つあり、PERSONAL、SPORT、STANDARD、COMFORT、ECO、SNOWを選択することが可能だ。さらに「Smooth Stop」なる機能も追加。これは停止寸前にブレーキの液圧を抜き、フラットに停止することを実現してくれるという。平たく言ってしまえばミニバンではレクサスLMにしかない電子制御ダンパーと、アルヴェルPHEVにしかないスムーズストップが共に備わったようなものだ。
ゲームチェンジャーとなりそうな仕上がり
これらすべてが統合制御されるという次期エルグランド。まずはSTANDARDモードでゆっくりとテストコースを走り始める。かつて現行型オーナーだった感覚からすれば、目線がかなり高くなり、見晴らしがかなりよくなったことが第一印象だ。その分、よっこらしょと乗り込むようにはなったのだが、これなら信号待ちでライバルに見下ろされるようなこともないし心理的にも穏やかになれるか!?
低速ではかなり穏やかな印象であり、エンジンの存在を感じるようなことはほとんどない。高速周回路へ向けた連絡路でたびたび一時停止を行なう必要があるのだが、「Smooth Stop」はたしかにラフな操作をしたとしても、フラットさをキープしたまま停止してくれる。これならカックンブレーキとなるようなことはないだろう。ちなみに急制動となるようなブレーキでは、止まることを優先してガッツリ止まってくれるから安心だ。
高速周回路へ入り元気よく加速してみると、これが1.5リッターなのかと思えるほどに力強く速度を重ねていくからひと安心した。もちろん100%電動駆動なのだから当然のこと。現行3.5リッターユーザーであったとしても満足できそうな世界観だ。
けれども静粛性はなかなか。カモフラージュがバタついた音があり正確ではないかもしれないが、それにしてもエンジンの存在はかなり遠くに感じる。いままでの3気筒エンジンとは思えぬ雰囲気で、回転フィールには滑らかさがあった。あくまでも黒子に徹している、それが第3世代e-POWERなのだろう。足まわりもフラットさをキープした感覚はたしかに伝わってくる。フル加速をしようが、減速をしようが、できるだけ挙動変化を与えないように駆け抜けていく感覚はありがたい。
続いてワインディング路においてSPORTモードで走ってみる。するとなにもかもが引き締められ、思い通りに狙ったとおりに走っていくからおもしろい。かつてより遥かに高い位置にいるのに、いままで以上に安定し高い次元でコーナリングして見せるのだ。無駄なピッチやロールは起こさず、適度な動きで次々にコーナーやうねりを越して見せたことはおどろくばかりだ。
逆にペースを落としてゆったりとCOMFORTモードで走れば、しなやかさを見せながらもフラットに駆け抜けてもくれる。ドライバー主体にも走れるし、パッセンジャー優先にすることだってできる。それをこの巨体でやってみせるのだからすごい進化だと思う。きっと2t後半に達するであろう重量を見事にコントロールしつつ、その重量でなければ達成できない重厚な乗り味もある。e-4ORCEと電子制御ダンパーの組み合わせは向かうところ敵ナシと言っても過言じゃなさそうだ。大きくなり高くなり重たくなったことで物理的には不利になったと思える次期モデルではあるが、ネガになりそうなところを統合制御によって乗り越えた上で、逆に進化した部分がしっかりと感じられる。
これならどこまでも走っていけそうだ。コンセプトを「LIMITLESS GRAND TOURER」としたのも頷けるところ。このクルマにはもちろんプロパイロット2.0という高速走行時にハンズオフ可能な技術も準備されているのだからなおさらだ。正式なところは公道に出てきてからしっかりとまたお伝えしたいと思うが、ファーストインプレッションはかなり上々だったのは間違いない。これはゲームチェンジャーとなりそうな仕上がりだ。
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