試乗記

V6 3.5リッター搭載の現行「エルグランド」に改めて乗ってみた

現行エルグランドに改めて試乗

サイズの割に取りまわしのしやすいボディ

 久々にエルグランドに乗った。アルファード/ヴェルファイアの猛威の前にすっかり影が薄れてしまった日産のLクラスミニバンだが、今も手堅い日産ファンの手に届けられるように販売されている。

 後輪駆動のE50型から始まり、3代目の現行型はE52型。それまでの商用車派生プラットフォームから乗用車用のD-プラットフォームを採用してフロアを低くした前輪駆動となった。大人しいデザインだが利便性は高く、2010年の発売から基本的には15年変わっていないが愛好者は多い。4965×1850×1815mm(全長×全幅×全高)は大きくなったアルファード/ヴェルファイアとは違ってひとまわり小さいサイズ感だが、Lクラスミニバンらしい大きな3列シートや、サイズの割に取りまわしのしやすいボディなどが今となっては貴重な存在だ。

 さらに今や希少価値となった大排気量の自然吸気V型6気筒エンジンを選択できるのもエルグランドの魅力である。発表以来15年の年月はさすがに最新のミニバンと比較すると追加できない装備もあるが、必要なものはあらかた揃っている。

2010年にデビューし、はや15年が経過した現行エルグランド。2026年度の発売が予告されている次期エルグランドを想像しつつ、今回は2024年4月に「インテリジェント アラウンドビューモニター(移動物 検知機能付)」「ディスプレイ付自動防眩式ルームミラー」を全車に標準装備した一部改良モデルの「350 ハイウェイスター プレミアム アーバンクロム」(567万8200円)に乗った。ボディサイズは4965×1850×1815mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3000mm
外観では力強さに磨きをかけたフロントグリルが特徴的。ボディカラーはディープクリムゾン/ミッドナイトブラックの2トーン
足下は18インチアルミホイールに横浜ゴム「ADVAN V51」(225/55R18)の組み合わせ
インテリアではピアノブラックでまとめた10インチの大型ディスプレイを採用するほか、プレミアムシートは連続したキルティングパターンを用い、高級でモダンな印象に仕上げている

エルグランドの良いところは低床フロアで後席の乗降性に優れること

久しぶりのV6 3.5リッターエンジン車に試乗

 さて久しぶりに借り出したエルグランドは最上級の「350 ハイウェイスター プレミアム」。FFでVQ35DEを搭載し、大型車用エクストロニックCVT-M6を組み合わせる。

 出力は206kW(280PS)/344Nmで自然吸気らしく滑らかな回転フィールを身上とし、今では中々味わえない素の内燃機の良さを堪能できる。実際に今では少数派のエルグランドを選ぶ理由に「VQ35DEだから」という理由も聞かれる。ゆったりとトルクの波に乗って郊外路や高速道路を走ると気分がおおらかになる。市街地では3mのホイールベースはさすがに長く、最小回転半径は5.7mと大きいが、見切りの良さとカメラのおかげでそれほど不自由はない。

V型6気筒DOHC 3.5リッター「VQ35DE」型エンジンは、最高出力206kW(280PS)/6400rpm、最大トルク344Nm(35.1kgfm)/4400rpmを発生。WLTCモード燃費は8.7km/L

 エルグランドの良いところは低床フロアで後席の乗降性に優れることだ。アルファードではドアを開けると専用のサイドステップが出てくるが、エルグランドではそれがなくても乗り込める。3列目シートも大きくて分厚い。十分なレッグスペースも持ち大人6人が移動するのに十分だ。ただ3列シートを使うとその後ろのラゲッジスペースはあまり取れなくなるので荷物は工夫する必要がある。

 乗り心地はロングホイールベースを活かしたサスペンション設定で、ピッチングが少なく長距離でもフラットな乗り心地だ。3列目はさすがにリアタイヤ付近なので突き上げ感もあるが、シートクッションがある程度ショックを吸収する。細かく言えばフロアの微振動が足に伝わってくるところが15年目のミニバンであることを思い出させる。フロントシートではフロア振動はほとんどないのだが。

長距離でもフラットで快適な乗り心地

 エクストロニックCVT-M6の加速はエンジン回転と実速との乖離がなく、滑らかに余裕を持って加速する。ターボの二乗的な加速とは違った伸びやかさが良く、マニュアル変速を使うとあたかも6速のギヤを持つような変速で山道などでは使いやすかった。

 燃費はハイブリッドの二けたkm/Lには勝てないが、一応記しておくとWLTCモード燃費で8.7km/L(VQ35DE)だ。走り方次第で違いが出るが実走行に近いところ。市街地モードでは5.7km/Lでハイオク使用が前提なのでお財布にはちょっと厳しい。

次世代エルグランドにも期待

日産のフラグシップミニバンとしての存在感を改めて感じた

 ハンドリングはオーソドックス。終始弱いアンダーステアを維持して姿勢は安定そのもので、セオリーどおりのステア特性はミニバンらしいものだ。ハンドル応答性は操舵量に素直に反応しロールの変化も少ないのが好ましい。コーナリング中の凹凸で大きなGがかかっても突き上げ感は思っていたより少ない。

 装着タイヤは横浜ゴム「ADVAN V51」でサイズは225/55R18。腰の強いタイヤでコーナーでも接地形状はあまり変わらないためにドライバーへの負担は少なく、パターンノイズも小さいところがミニバンとの相性が良い。ワインディングロードでもエルグランドの高すぎない全高とサスペンション剛性に支えられた安心感があった。

 ステアリングの操舵力は適度に保舵感があり、機敏な動きを嫌うミニバンらしい設定でバランスよくまとめられている。ステアリングに伝わるキックバックや、微妙に揺れの収束が遅れたりするのが年代を感じさせるが息の長いミニバンである。

 久々にエルグランドに乗り、日産のフラグシップミニバンとしての存在感を改めて感じた。

 さて、次世代エルグランドの声も聞こえる。プラットフォームを刷新し、発電に特化した新開発エンジンを搭載したe-POWERとも伝え聞く。e-POWERはまだまだ伸び代が大きく、セレナでも実証済みの電動車ならではの滑らかな加速と力強さからも分かるように、きっと次世代エルグランドは、現行VQ35DEエンジンの個性を上まわるに違いない。日産のフラグシップミニバンへの期待は大きい。

4代目となる次期エルグランドは第3世代となるe-POWERを搭載し、2025年度後半に公開、2026年度の発売を予定。新開発となる発電専用1.5リッターエンジン、モーターやインバーターなど5つの部品をモジュール化することで軽量化された「5-in-1」を採用し、大幅な静粛性と燃費の向上を実現するとのこと
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学