試乗記

都市型SUVホンダ「ヴェゼル」追加グレード「e:HEV RS」初試乗 4WDはBセグを越えた乗り味だった!

ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」の新グレード「e:HEV RS」に試乗する機会を得た

ローダウンスプリングなどで全高1545mmを実現

 アーバンスポーツSUVをグランドコンセプトとした「ヴェゼルRS」が登場した。現行ヴェゼルは2021年4月にフルモデルチェンジを行ない、2024年にマイナーチェンジ。そして2025年10月に今回のRSを追加したのがこれまでの流れだ。

 ベーシックモデルと新しいRSとの違いを感じるのはまず顔つき。ボディ同色としたグリルまわりがヴェゼルのそもそもの特徴だったが、今回のRSはブラックアウトされた新形状のグリルを全面に押し出すことでスポーティな演出を行なっている。

 それに合わせてエアロやミラーもブラックになり、かなり引き締まったスタイルだ。加えて全高がかなり低く、シャークフィンアンテナは廃止。代わりにリアガラスにはプリントアンテナを入れ込んでいる。SUVでありながらも見た目の安定感は増した。

e:HEV RSのボディサイズは、4385×1790×1545mm(全長×全幅×全高)と全高が圧倒的に低い。ホイールベースは2610mmで他グレードと同じ
e:HEV RSの価格は、2WD(FF)が374万8800円、4WDが396万8800円

 このスタイルを実現できた理由は足まわりにあり、15mmダウンのスプリングを入れている。また、シャークフィン廃止とこの車高ダウンによって全高は45mmダウンとなり、結果1545mmの全高を実現。これで都市部のタワーパーキングの高さ制限問題もクリアした。

 で、ローダウンスプリングを採用するということはスプリングのバネレートを引き上げたのかと思いきや、今回はレートのアップをせず、15mm短く硬質にしたバンプラバーを新たに開発したことでストロークを確保したという。

 ショックアブソーバーは特性を見直して引き締めているそうで、これに合わせてタイヤはブリヂストン「アレンザ」からミシュラン「プライマシー4」に変更。パワーステアリングの特性も見直しを行なったというこだわりようだ。

e:HEV RS専用のフロントグリル&フロントバンパーロアーグリル、フロントバンパーモールディングもダーククロームメッキを採用している
ドアミラーもブラックで引き締められている
リアバンパーモールディングもダーククロームメッキを使用
18インチアルミホイールはベルリナブラック+ダーク切削クリア塗装
RSの最大の特徴は、全高を1545mmに抑えたことで、昔ながらの立体駐車場やタワーパーキングにも入庫できることだろう

 そんなヴェゼルRSに乗り込むとインテリアもまたかなりスポーティな雰囲気だ。ルーフライニングがブラックアウトされたその空間は、ステアリングやシート周りにレッドステッチを与えていてスポーティ。シートを専用としたコンビシート(ブラックスムース×ファブリック×レッドステッチ)が与えられており、滑りにくく仕上がっているところがいかにも走りを意識したクルマらしい仕上がりだ。

ルーフライニング(天井内装)をブラックにしたことでスポーティな印象に仕上げたe:HEV RSのインテリア
シートは黒を基調にレッドのアクセントを使ったスポーティなコーディネートを採用
本革ステアリングにも赤のステッチを使用
インストルメンタルパネルガーニッシュと度アライニングガーニッシュはレッドにすることでスポーティさを増している

タイヤまで含めてトータルで見直した効果とは

短い時間ではあったが、今回の試乗会では左の2WD(FF)と右の4WDをまとめて試乗した

 さて、まずはFFモデルを走らせてみると、最初に感じたのはステアリングのしっかりとした感覚だった。程よく重いフィーリングは、路面状況をきちんと感じさせてくれるものだ。足まわりはかなりフラットな感覚で、首都高速のワインディング区間でヨタヨタするようなこともなく、無駄な動きを一切排除した感覚がある。けれども路面の継ぎ目や荒れたシーンで突き上げるようなこともない。タイヤまで含めてトータルで見直した効果がそこにある。乗り心地がやや硬質な印象があるが、同乗者がいたとしても不満が出ないレベルには収められている。

左が2WD(FF)のリア床下で、右が4WDのリア床下。4WDはフロントからプロペラシャフトを介してリアに駆動力を配分しているのが分かる。合わせて排気マフラーのレイアウトも変更されている

 今回の試乗はそれで終わらない。RSエンブレムを掲げる初めての4WDモデルこそチェックしておきたい1台だ。ベースモデルの4WDは悪路を意識しすぎたせいか、オンロードの荒れた路面で動きが収束しなかったり、ワインディングに行くと対角に動きすぎたりで、どうにも落ち着かないイメージがあった。そこをどう払拭したかが興味のポイントだ。

2WD(FF)のファーストインプレッションは、ステアリングのしっかりとした感覚だった

 走ればFFモデルのようにフラットな乗り味はそのままに、乗り心地にマイルドさが加わったところが絶妙に感じた。カドが丸くなったかのようなフィーリングは好感触だ。これはリアのバネ下重量やトラクションをかけた時の動きの違いによるところなのだろうが、いずれにしても走りと乗り心地を共存したそのサジ加減はこれまでにないオトナなクルマに感じられる。BセグメントSUVでありながらも、その大きさ以上のクラスに乗っているような感覚がそこにある。

4WDの走りと乗り心地を共存したそのサジ加減は絶妙だった

 ここまで乗り味がいいと、動力性能自体が高められなかったところが少し残念ではあるが、それは次へのお楽しみといったところか!? バッテリ残量が少なくなってくると、アンダーパワーに感じられてしまうところが見え隠れするだけに、次はe:HEVのスポーツ化も欲しくなってきた。そう感じさせるのは、ヴェゼル e:HEV RSのシャシーが豊かすぎた裏返しでもある。

今のままで十分でもあるが、e:HEVモデルのさらなる進化にも期待してしまう
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一