試乗記

ポルシェ911初のハイブリッド「GTS」、そのパフォーマンス性能を2WD&4WDで体感

「911 カレラ GTS」をポルシェ・エクスペリエンス・センター(PEC)で試乗

ハイパフォーマンス・ハイブリッドの中身

 ポルシェ 911の市販車で初めてのハイブリッドモデルとなるGTS。電動化の波もついにここまで来たといったところだろうか。けれどもこのGTSに搭載されるものはT-ハイブリッド(ハイパフォーマンス・ハイブリッド)とされており、走りを重視したことに変わりはない。

 T-ハイブリッドはそもそもエンジンからしてこれまでとは異なる。排気量は3.0リッターから3.6リッターへとアップ(ボア91→97mm、ストローク76.4→81mm)。モーターアシストの恩恵もあり、高負荷、高回転域においても空燃比を実現した。また「Vario Cam Plus」から「Vario Cam」に変更しバルブリフト切り替えを廃止。直打式からロッカーアーム駆動式に変更。ベルトドライブも廃止してコンパクト化した。

 これによりエンジン高は以前よりも約110mmダウン。そこで生まれた空間に3つの高電圧ユニットを搭載している。右側のユニットは高電圧分配ボックスでリチウムイオンバッテリからの電力を効率的にターボと駆動に分配。真ん中のユニットはPDKに統合された電動モーター用パルスインバーターで400Vから12Vへと変換。最大450A対応で12Vシステムや補助バッテリへの供給を行なっている。左側のユニットはパワーエレクトロニクスと呼ばれるもので、高電圧直流(DC)を三相交流(AC)に変換。タービンのモーターに最適な電力供給、効率的なエネルギー回収などを高精度制御しているという。

 WEC(世界耐久選手権)で活躍した919由来だというターボはエンジンルーム右下に備えられ、タービンにモーターが加えられているところがポイントの1つ。ターボラグを排除し低回転から反応が可能だ。また余剰排気を電力に変換してバッテリへと蓄電することもできる。もう1つのモーターはトランスミッションのPDK内部に存在する。高トルクを生み出すことはもちろん、スターターとしての役割も担っている。そしてフロントにはGTS専用に開発された400Vリチウムイオンバッテリが存在。これにより重量配分はかつてより7%ほど前よりになるそうだ。また、パワーユニットの振動は軽減され快適性も高まったことで、従来あったダイナミックエンジンマウントも必要がなくなり廃止したというのも興味深い。以上がT-ハイブリッドの大まかなシステム構成である。

今回PECで試乗したのは新型「911 カレラ GTS」(2379万円)と「911 カレラ 4 GTS」(2492万円、写真)。新開発の水平対向6気筒3.6リッターエンジンに電動ターボチャージャー、電動モーターを搭載する「T-ハイブリッド」を採用し、エンジン単体の最高出力は357kW(485PS)、最大トルクは570Nmで、システム全体の出力は398kW(541PS)/610Nmを発生
911 カレラ GTS/911 カレラ 4 GTSのボディサイズは4555×1870×1295mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2450mm。エクステリアではフロントバンパーの両サイドに5つの可変式縦型冷却エアフラップを備え、フロントスポイラーリップやアダプティブフロントディフューザー付きのアンダーボディ、リアエプロン下部に搭載されたチャージエア冷却用のエアアウトレットポートなども採用する
20/21インチホイールに組み合わせられていたのはピレリ「P ZERO R」(フロント245/35ZR20、リア315/30ZR21)
インテリアでは911に初めてフルデジタルのメーターパネルを装備したほか、12.6インチの曲面ディスプレイはレブカウンターを中央にレイアウトした伝統的なポルシェの5連メーターにインスパイアされたクラシックディスプレイを含め、最大7種類の表示を可能にしている

 この中でも注目なのはやはり電動排気ターボチャージャーのeTurboだろう。従来のツインターボからシングルターボとなるためサイズはやや大きめに設計されたという。タービン軸には電動モーターを搭載し、最大20kWのパワーブーストで瞬時にレスポンスを発揮する。つまりは排気が多くなる前からタービンを回すことが可能になり、エンジンに過給をかけられるわけだ。それだけでなくこの電動モーターはブースト圧を精密制御することも可能であり、結果として従来あったウエストゲートが不要になった。また、余剰排気エネルギーを最大11kWまで電力回生することも可能になっている。

 こうした電動化は足まわりにも恩恵を与えたという。PDCC(Porsche Dynamic Chassis Control)搭載モデルでは、これまで油圧制御だったものを電動化することが可能になり、専用モーター駆動ポンプ+独立アキュムレーターに進化した。フロントアクスルリフトシステムも新開発の電動油圧ユニットを搭載することで、リフト時間を従来の5~6秒から1秒へと短縮した。

2WDと4WDを乗り比べ

911 カレラ 4 GTS(左)と911 カレラ GTS(右)を比較試乗

 そんな911 カレラ GTSをポルシェ・エクスペリエンス・センターで乗る。試乗当日はかなりのウエットコンディション。外周路はハイドロプレーニングしてしまうほどの雨量だったため、あえて普段は水を撒いて走るウエット円旋回路に行ってみた。そこではまずカレラ 4 GTSから走る。リアアクスルステアが標準となり、55km/h以上から同位相で切れるようになるシステムではあるが、このシーンでは逆位相。果たしてどう動くのか?

 まずはスタビリティコントロールをオンのままで試すと、スルスルと旋回しながらも滑るか滑らないかのところで絶妙にサポートを繰り返してくれるからひと安心。この安定感と確かなトラクションはやはり魅力だ。けれどもスタビリティコントロールを外して本領発揮させてみるとなかなかの暴れ具合。ケース剛性が高そうなタイヤは、滑り出す瞬間の動きが低速ターンではなかなかシビアだ。滑り出してカウンターを当てれば即座にフロントに駆動をみるみる配分し、安定方向に引き戻そうとする。

 その際、リアアクスルステアも動いているようで、ちょっとクセが強そうだという第一印象があった。カウンターを当て過ぎれば即座に安定方向に引き戻される感覚。だが、カウンターをあまり切らず、アクセルコントロールだけでスライドを調整していけばかなり気持ちの良いゾーンが見えてくる。いつまでもリアを滑らしたまま、けれどもスピンしないという四駆らしい動きをずっと続けられるのだ。

ウエット円旋回路では911 カレラ 4 GTSが四駆らしい動きを気持ちよくキープ

 これはパワーユニットのコントロール性の賜物で、どんな低回転であっても即座に右足に応答するトルクがあってこそ。T-ハイブリッドならではの世界観だろう。いつでもどこでもレスポンスするユニットの気持ちよさはたまらない。その際に得られる昔懐かしいようなサウンドも気分を高揚させてくれる。これはカレラ GTSに乗り換えてみても変化することはなかった。フロントの軸重が減り、アクセルコントロールはよりシビアになりそうなものだが、クルマの挙動をコントロール下に置きやすいのは相変わらず。こちらは派手にカウンターを当てながら走ることも可能だし、動きとしては読みやすい部分もあった。

911 カレラ GTSもクルマの挙動をコントロール下に置きやすい仕様だった

 その後はパイロンスラロームや外周路も走ってみたが、リアアクスルステアが生み出す俊敏さは低速コーナーでかなり際立つ。外周路で速度レンジが上がるとみるみる自然なフィーリングになった。一方、常にリニアで扱いやすいパワーユニットのイメージは速度レンジが上がっても変わらず。エンジンをレブリミットの7500rpmまできっちり回せば、かなりの爽快感が得られるし、上の回転でもリニアさは変わらないことも理解できた。どんなに元気よく走らせたとしても、充電残量がなくなってパワーダウンするようなこともない。単なるハイブリッドではないことは、そんなエネルギーマネージメントからも伝わってくる。

リアアクスルステアが生み出す俊敏さが際立つ

 ナンバー付きであり普段乗りでも快適な仕上がりをしているであろうGTSは、スポーツ走行も十分にこなせる1台だった。919由来のハイパフォーマンス・ハイブリッドをはじめとするテクノロジーを存分に味わえたことはうれしいニュースだ。環境性能を考えて……なんて聞くと牙を抜かれたようでもあるが、このGTSにはそんなところを微塵も感じない。レスポンスあふれる仕上がりはかなり魅力的だった。

外周路でもその魅力を存分に体感できた
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一