試乗記

最新世代のポルシェ「911カレラ(Type992.2)」、そして「タイカン」最新モデルを乗り比べ!

9月に日本デビューした新型「911カレラ」(Type992.2)に試乗

 ついに電動化へと足を踏み入れた最新世代のポルシェ911「Type992.2」を、日本でテストすることができた。またこれと同時に、ポルシェ電動化の旗頭である「タイカン」の最新モデルを乗り比べた。

 走り出す前にまず1つ朗報を述べておきたいのは、今回のテストドライブが「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」(PEC東京)で初開催されたことだ。筆者はこれが、非常にエポックメイキングな出来事だと感じた。

 その理由はまず、PEC東京であればわれわれに貸し出されるプレスカーの登録を待たずに、いち早く最新モデルを体験できるからだ。さらにこのクローズドコース内であれば、日本の一般公道では体験しがたい速度域で、ポルシェの動的質感と安定性を、しっかり確認することができるからである。

 ちなみにPEC東京のハンドリングトラックは、その舗装が一般公道とほぼ同じ路面μで作られているから、いわゆるサーキットテストとはまた違う、現実味のあるダイナミックテストができる。またドリフトサークルを走らせればESC(横滑り防止装置)の制御をOFFにして挙動を確かめられ、ダイナミックエリアでは全開加速やフルブレーキング性能、さらには連続スラロームでハンドリングアジリティを安全に確認することができる。

 そしてゆくゆくはこれを、読者の皆さんも同条件で体験することができる。つまり筆者の評価を読んで、その言い分にアナタも口を挟むことが可能になる!

PEC東京で「911 Type992.2」「タイカン ターボ クロスツーリスモ」に乗ることができた

リア・エンジンのトラクションを掛けていく運転がとても尊い

911の基本となる「カレラ」

 というわけで本題だが、今回試乗したのは911初のハイブリッドカー「カレラGTS」ではなく、最もベーシックな「カレラ」だった。しかしそれは期待外れどころか、むしろこの時代には得がたい体験となった。

 そのエンジンは、2981ccの水平対向6気筒ツインターボを踏襲したピュア・ガソリンユニットだ。そしてここに先代GTSが専用装備していたターボシステムを搭載し、最高出力を385PS/6500rpmから394PS/6500rpmまで高めている。最大トルクは450Nm/5000rpmのままだ。

 これはおそらく現行GTSのパワーユニットが、新開発の電動ターボチャージャーを搭載する「T-ハイブリッドシステム」へと刷新されたことを受けての有効活用だろう。そのCO2排出量が市街地と都市部を併せたモード値で215g/kmから244~230g/kmまで増えていることを考えても、ポルシェができうるギリギリの範囲内で、内燃機関としての進化を果たしてくれたのだろう。もしくはこの余白を織り込み済みで、992.1型の数値が抑えられていたのかもしれない。

 ちなみにGTSは541PS/610Nmの出力を発揮し、CO2排出量は251~239g/kmだ。ハイブリッドなしの状態でも3.6リッター化されたフラット6は、485PS/570Nmを叩き出すという。

先代GTSモデルからターボチャージャーを、先代ターボモデルからインタークーラーを継承した911 Type992.2(1694万円)。水平対向6気筒3.0リッターツインターボエンジンを搭載し、最高出力290kW(394PS)、最大トルク450Nmを発生する

 さて、わずかに9PSの出力向上に過ぎない新型カレラだが、そのパワー感はまさに理想的なバランスとなっていた。今回は直接先代モデルと乗り比べをしたわけではないが、これまで少しだけもの足りなさを感じていたそのアウトプットに、レスポンスと切れ味が増しているように感じられた。そのキャラクターが「シャシーファースター」であることには変わりないが、従来の踏み込める楽しさに、“加速させる楽しさ”が加わった感じだ。

 そこには、このアウトプットを路面へと伝えるシャシーワークも大きく貢献している。試乗車はそのタイヤサイズを標準のフロント235/40ZR19、リア295/35ZR20からフロント245/35ZR20、リア305/30ZR21サイズへと変更していた。そしてここが“キモ”だと思うのだが、カレラには「リア・アクスル・ステアリング」が装着されていなかった。プレスカーは概ねユーザーに人気のオプション装備を満載していることが多いのだが、試乗車はまさに、“素カレラ”に近い内容だったのだ。“近い”とお茶を濁したのはタイヤの大径化に加えて、オプションの軽量リアガラスが装着されていたからだ。

“素カレラ”に近い内容だった試乗車

 ということでそのフットワークだが、これが俊敏にして実にしなやかだった。足まわりはノーマルながら大径タイヤの剛性およびグリップを受け止めた上で、そのGを滑らかにさばいてターンインを決める。

 その身のこなしは高いスタビリティを維持した上で、992.1型よりソフトで軽やかになっているように感じられた。それがリアガラスのせいなのかと問われたら、じわっと効いてはいるかもしれないが、そこまでハッキリとハンドリングには現れてはいない。「最後のガソリンモデル」になるかもしれないと気合いが入りまくっていた、992.1型の肩の力が抜けた感じだ。

 リア・アクスル・ステアリングがない挙動は、すこぶるナチュラルだ。ざっくり言えば後輪操舵の利点は低速コーナーでは曲がりやすく、高速コーナーでは安定性を高めることにある。そしてこの制御がない分だけカレラのハンドリングは、ターンインからクリップにかけての動きが落ち着いている。

フットワークは俊敏にしてしなやか

 コーナリングパフォーマンスにアジリティを求めるなら、リア・アクスル・ステアリングは刺激的かつ安全な装備だろう。カレラをベースに35kgの軽量化を果たし、スポーツシャシーと大径タイヤを装着したカレラTも次からはこれが標準装備となるようだし、GT3/GT3 RSに憧れるなら必須のアイテムにも思える。

 しかし筆者は、このジワッとした手応えこそが“カレラ”だと感じた。そしてこのナチュラルなフットワークに、先代GTSタービンのリニアなパワーを合わせて、リア・エンジンのトラクションを掛けていく運転がとても尊いと思えた。

電動化のリーダーであるタイカンの底力

タイカン ターボ クロスツーリスモ

 冒頭に述べたとおり、今回は新型タイカンも試乗することができた。

 ちなみに筆者は新型「タイカン 4S クロスツーリスモ」でこの夏1500kmを走破しており、オープンロードでの手応えをすでにつかんでいる。ということで、ここでは同じクロスツーリスモでも「ターボ」を選び、その性能を可能な限り引き出してみた。

 頂点に控える「ターボGT」の1034PS(オーバーブースト時)というあきれたパワーはまた別として、このタイカン ターボ クロスツーリスモも最高出力707PS、ローンチコントロール時のオーバーブースト出力は884PS/1240Nmと凄まじい。

2月に改良が行なわれた「タイカン」「タイカンクロスツーリスモ」のうち、今回は「タイカン ターボ クロスツーリスモ」(2308万円)に試乗(写真はタイカン)。ボディサイズは4974×1967×1412mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2904mm。ローンチコントロール時のオーバーブースト出力は884PS/1240Nmで、この際の0-100km/h加速は2.8秒!

 しかしアクセルを踏み込まない限りは、それがまったくイメージできないほど洗練された身のこなしを呈することこそが、タイカンの一番のセリングポイントだ。アクセルを踏み込めば即座にトルクを立ち上げ、それをガッチリとした低重心ボディと、ポルシェ仕込みのしなやかなエアサスが支える。だからアクセルを踏み込む必要もなく十分に加速し、アクセルを離せばスーッとタイヤを転がしていく。

 トラックコースでの走りは、911カレラを味わった後だけにハッキリと重たさを感じた。確かにピュアEVであるタイカンは低重心で、コーナリングパフォーマンスも高い。しかし同じ感覚でコーナーにアプローチすると、ステアリングを切り始めてからの動きがワンテンポ遅いと分かる。スポーツモードでサスペンション剛性を高めても、後輪操舵がノーズをエイペックスにねじ込んでも、2320kgと1520kg、700kg(!!)の車重差は埋めがたかった。

 だがそれはむしろ、911カレラの素性をほめるべきところだ。そしてだからといって、タイカン ターボ クロスツーリスモの魅力が損なわれるわけでもない。この電動GTスポーツには、PEC東京のトラックコースでさえ狭すぎる。これがもっとコース幅の広い国際サーキットであれば、クリッピングポイントから707PSを解放することができただろう。状況によっては911カレラを置いてきぼりにすることも可能なはずである。

タイカン ターボ クロスツーリスモの怒涛の加速に思わず息をのんだ

 そして何かと競い合うのではなく、タイカンそのものと向き合うことで、その走りはさらに奥深いものとなる。確かに911カレラと比べれば幾分スローだが、そのステアリングレスポンスは操作に忠実で、車重をイメージしながらワイドラインでアプローチしていけば、美しいフォームでコーナーをクリアする。

 そしてアクセルに足を軽く乗せるだけで、旋回Gを縦Gに変換してカーブを脱出してくれる。個人的には回生ブレーキをエンジンブレーキのように活用できる方が効率的だと思うのだが、自然なブレーキングフィールにこだわり、新型となってもパドルを付けないポルシェの頑なさもおもしろい。

 そんなタイカンのESCをOFFにしてスキッドパッドを走らせると、これがとっても手強い。それはそうだ。前後の重量バランスがよく、低重心なボディを、さらにはモーター制御の4輪駆動で走らせるからこそタイカンは恐ろしく安定しているわけで、これを破綻させるのはある意味本末転倒だと言える。

 さらにはオーバーステアに持ち込んだとしても、一度付いた慣性を素早くカウンターで打ち消しつつ、前輪で行きたい方向をキープしながら4輪のドリフトアングルを保つのは至難の業だった。リアエンジン・リアドライブの911カレラも簡単だとは言いがたいが、はるかにコントローラブルだ。

 最後はこれをダイナミックエリアで走らせ、その加速力とブレーキング性能を確かめた。どういうわけかプッシュ・トゥ・パス機能がアクティベートせず884PS/1240Nmのオーバーブースト体験はお預けだったが、それでもまるでワープするような怒涛の加速には息をのんだ。そして911カレラと比べはるかに伸びた制動距離をして、2t越えのハイパーEVを操るリスクを再確認した。

スキッドパッドでも自由に走ることができた

 総じて今回は、ポルシェ911というスポーツカーの原点を振り返る素晴らしいテストドライブだった。かたや電動化のリーダーであるタイカンの、一般公道では測り得ない底力を確認することができた。

 奇しくもポルシェは次期型でピュアEVへ移行するとしていたモデルたちにハイブリッド対応の可能性を検討し、そのロードマップも若干修正されるのではないか? という噂が立ち上がっている。しかし未来なんて誰にも分からないから、状況を見たフレキシブルな対応は正しい選択だと思う。そんな激動の時代にあってあなたは、ICEとEVどちらのポルシェを選ぶだろうか? 筆者は992.2型の911カレラを強く推す。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートやイベント活動も行なう。