試乗記

強烈なパフォーマンス! アップグレードキット「ポルシェマンタイパフォーマンスキット」装着の911 GT3を体験した

「ポルシェマンタイパフォーマンスキット」を装着する911 GT3を体験

マンタイレーシングとは?

 10月で開設3周年を迎えたポルシェ・エクスペリエンス・センター東京(以下、PEC東京)のパーティで、「ポルシェマンタイパフォーマンスキット」がお披露目された。そしてナイトセッションとバーチャルセッションというかなりユニークな環境で、そのポテンシャルの一部を味わうことができた。

 さてマンタイレーシングといえばポルシェとともにレースを戦い続ける老舗のレーシングチームだから、マニアならずともその名を一度は聞いたことがあるだろう。創業者であるオラフ・マンタイは1970年代にそのキャリアをスタートさせ、1980年代には旧DTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)で活躍したレーシングドライバーだった。旧DTM消滅後は1990年にポルシェ・カレラカップのドイツ選手権を制し、引退後は1996年に「チーム・マンタイ・レーシング」を設立した。

 以後チームはポルシェ・スーパーカップを中心に活動を開始し、2011年までにニュルブルクリンク24時間レースで5勝を挙げた(2021年には7勝目をマーク)。その活躍が認められて2013年にはポルシェが株式の過半数となる51%を取得し、GTカテゴリーにおけるワークスチームまでに成長したというのがこれまでのストーリーだ。

 そして当日のプレゼンテーションでは、PEC東京の会場に、最終戦を待たずしてWECのLM GT3クラスシリーズ・チャンピオンを決めた92号車(A.マリキン/J.シュトーム/K.バハラー組)が、最終戦に向かう前のサプライズとして展示された。

プレゼンテーションの会場に展示されたFIA世界耐久選手権に参戦するマンタイ・ピュアレクシングの911 GT3 R(92号車)

 話を戻せば「ポルシェマンタイパフォーマンスキット」は、そのマンタイ・レーシング・チームが開発した、ポルシェのストリートカー用アップグレードパーツたちだ。会場には911 GT3のデモカーとパーツを展示していたが、ラインアップとしては911 GT3 Touring(Type992前期型)、718 ケイマン GT4 RS、718 ケイマン GT4と合計4車種のキットがポルシェジャパンからオフィシャルパーツとして販売される。

 その内訳は「エアロダイナミクスパッケージ」と「ネジ式サスペンション」(いわゆる車高調サスだ)、そして「スチールスリーブ付きブレーキラインセット」の3種類。これらはヴァイザッハ開発センターのビークルダイナミクステストベンチや風洞実験、そしてノルドシュライフェでの入念な実走高テストを経て商品化されたという。

 またオプションとして、バネ下重量および回転質量を合計7.3kg軽量化した軽量ホイール(20/21インチ)、牽引フック、マンタイロゴ入りの照明付きドア エントリートリム、ホワイトのロゴを地面に投影するLEDドア プロジェクターが用意される。

「ポルシェマンタイパフォーマンスキット」の内容

 セレモニーでアンベールされたシルバーの911 GT3には、当然ながらこれらのキットがフル装備されていた。

 意外だったのは、エアロが品よくまとまっていることだ。カナードは小ぶりなシングルタイプで四隅が丁寧に丸められており、フロントのリップスポイラーも純正よりは大型化されているようだが、GT3マシンのような3Dシェイプではない。それでも白昼走らせたら恐ろしく目立つとは思うが、派手さを謳うというよりは、すごみが利いているという感じだった。

キットがフル装備された911 GT3
今回のパフォーマンスキットは、外観ではフロントに大型のスポイラーリップとサイドフラップを用意し、フロントアクスルのダウンフォースを増加させる
リアディフューザーはカーボンファイバー製で、フィンが延長された。リアホイールのエアロディスクもカーボンファイバー製となり、空力性能を高める仕様となっている。これに加え、オプションとして軽量ホイールセットやレーシングブレーキパッド、牽引ループのトーフックなども用意される

 興味深いのはスワンネックタイプのリアウイングが、GT3用はマニュアルタイプだったこと。同様に4WAYダンパーも、マニュアルのダイヤル式だ。どうやら年内には911 GT3 RS用キットもラインアップされるようで、多分そちらは室内からボタン1つでウイングを開閉するDRS(ドラッグ・リダクション・システム)や、ダンパー減衰力の伸び・縮み調整が行なえるようになるのだろう。となるとGT3用にそのエアロパッケージは流用できるのだろうか? エアロダイナミクスのバランスからそれはRS専用になるのかしらん? などと、マニアックな妄想が膨らんだ。

リアのウイングはよりワイドになり、ティアオフエッジ(ガー二ー)が採用される。マンタイロゴが特徴的なエンドプレートとともにウイングの迎え角が大きくなっている

LM GT3マシンを超えるラップタイム

マンタイレーシングのセッティングが施されたマシンをバーチャルドライブ

 また今回はPEC東京3周年のパーティも兼ねた夕方からの発表会だったこともあってか、残念ながらこのパフォーマンスキットを付けた911 GT3をテストドライブをするチャンスは与えられなかった。

 しかし代わりにポルシェジャパンは、素敵なアトラクションを用意してくれていた。冒頭に記した通り、1つはこの911 GT3の助手席でナイトセッションを楽しむことで、もう1つはPEC東京に常設されるシミュレーターで、マンタイレーシングのセッティングが施されたマシンをバーチャルドライブすることだった。

 シミュレーターとはいえ、その走りはあまりに強烈だった。コースはWECが開催された、富士スピードウェイ。横からアドバイスをくれるインストラクター氏は1コーナーのブレーキングポイントを、「だいたい160mあたり」だという。

 言われるがままに左足を思い切り踏み込み、3速までシフトダウン。ペダルをリリースしながらステアリングを切り込もうとしたとき、間髪入れず「ブレーキオフ!」と言われて左足を離す。そこからステアすると、マシンはおどろくべき速さでクリッピングポイントへ吸い込まれていった。

 いくらマンタイレーシングキットのダウンフォースがノーマルより17%高められているとはいえ、それはとてもミシュラン パイロットスポーツCUP2(N0)が引き出すグリップだとは思えなかった。またクリップまでブレーキを残さず、フロアのダウンフォースを生かしてターンする走りは、レーシングマシンそのものだった。

 こうしてまとめたラップは1分41秒897という、自分でも経験したことのないタイムだった。ちなみにWECで92号車が刻んだタイムは、1分41秒935だ。どうやらこれは同じマンタイでも、本物のLM GT3マシンだったようだ。

夜間走行で「ポルシェマンタイパフォーマンスキット」を体感

ナイトセッションでマンタイパフォーマンスキット装着車に乗った

 まるで笑い話のようなオチがついたが、肝心なマンタイパフォーマンスキットの走りも、実は負けず劣らず強烈だった。2.1kmの全長を持つPEC東京のハンドリングトラックは、前半が鈴鹿の3連S字をコンパクトにしたようなワインディングセクションで、マンタイパフォーマンスキットはここでの身のこなしがとても速い。しかしその乗り味には硬さが感じられず、右まわりの「カルーセル」では、その低い車高からは考えられないほどしなやかに、路面の凹凸を吸収していた。

 圧巻は「コークスクリュー」を抜けた後の最終セクションで、インストラクターは下りながらのターンミドルでリアタイヤの荷重をグッと高めると、ターンアウトで危なげなくアクセルを踏み抜いていった。

 筆者は助手席のハイスピード体験(しかも夜間走行だ!)にただただおどろくばかりだったが、インストラクター氏によればこのキットは、非常に高い次元でも「リアのかすかなスライドまでもが感じ取れるほど扱いやすい」のだという。さすがはニュルのラップを9秒短縮しただけのことはある。

身のこなしの速さとともに、硬さのない乗り味におどろく

 そんな「ポルシェマンタイ パフォーマンスキット」は、マンタイレーシングのエンジニアによってトレーニングを受けた正規ディーラーから購入することができる。まだその数は全国でも17か所しかないが、今後は増えていく見込みだ。

 参考までにその価格は911 GT3用で895万9500円と、単純にプラスすればGT3 RSが買えてしまうほど高価だ。しかし筆者は今回その性能を助手席から観察しただけなので、本当にそれだけの価値あるのかは判断できない。確かにすごいのだが、無責任にはおすすめできない。

 一方、911 GT3 RSというスポーツカーが現在、手に入れるだけでも大変なことも含めて、911 GT3オーナーが“マンタイ”のネームで愛機に箔を付けるのは、正直魅力的な選択だと思う。

 ちなみにPEC東京ではこの「911 GT3 Manthey」プログラム(90分・16万円)をいち早くスタートさせているから、その性能が本物なのか身をもって知りたければ、すぐにでもPEC東京に予約を入れるべきだ。

 しかし世の中の流れはもっと早くて、すでに多くのポルシェ・フリークや投資家までもが「マンタイレーシング」に目を付けているのではないかと思う。間違いなくマンタイの名前は、これから日本でもプレミアムな存在になっていくはずだ。

PEC東京では「911 GT3 Manthey」プログラムを早くも用意。興味のある方はぜひ予約を!
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。