試乗記

NISMOがカスタムした「フェアレディZ NISMO」「スカイライン NISMO」試乗 最新サスペンションなどで走りはどう変わった?

ワークスチューニンググループ合同試乗会2024(NISMO編)

NISMOが手掛けた「フェアレディZ NISMO」「スカイライン NISMO」に乗った

オーリンズベースの最新サスペンションを搭載するフェアレディZ NISMO

 いまは元気のない話題ばかりが目立つ日産自動車だが、カスタマイズの世界は真逆だ。日産車のチューニングパーツを送り出す日産直系のNISMO(日産モータースポーツ&カスタマイズ)は、フェアレディZ NISMOとスカイライン NISMOに対し、数々のアイテムをリリースし始めている。ベースモデルの時点でもすでにNISMOの手が入っている車両を、さらにイジったらどんな世界が見えてくるのか? 1台ずつ紹介していくことにしよう。

 フェアレディZ NISMOでは、装着されたばかりだという全長調整式のサスペンションキットが今回の見どころの1つだ。オーリンズベースで仕立てられたそれは、街乗りにおける乗り心地を大切にしつつも、クローズドコースにおけるスポーツ走行をきちんと受け入れるというコンセプトで仕立てられた足まわりだ。

 内容としてはフロント12Kgf/mm、リア13Kgf/mmのスプリングをセット。減衰力は20段調整となり、試乗車はフロント7段、リア8段にセット(数が多いほど硬い設定)。車高は前後10mmダウン。ホイールは試作品のレイズベースのLM GT4という鍛造品を奢り、タイヤは純正サイズの横浜ゴム「ADVAN NEOVA AD09」を装着していた。

 それらに合わせるようにLSDも改められている。Zはノーマルの時点で機械式LSDがすでにインストールされているが、スポーツ走行を行なった際には効きが甘くなってしまうシーンがあり、そこを改善したいというのが主な狙いだそうだ。とはいえ、街乗りにおける快適性を損なわないように、作動音を出ないようにするといった対策も行なっている。さらに、LSDの効きを安定して出すためにデフオイルクーラーもセットしており、それがテールから顔を覗かせている。

 エンジンはノーマルとなるが、スポーツリセッティングというコンピュータチューニングを行ないスピードリミッターのみを解除。マフラーはフロントからテールエンドまで一気に変更できるスポーツチタンマフラーを採用。これは純正マフラーから約33%も軽く、7.8kg減を実現している。

フェアレディZ NISMOが持つパフォーマンスをより高めるため駆動系パーツ、サスペンションキット、新型LM GT4鍛造ホイールを装備
コンピュータにはスポーツリセッティング TYPE-1を採用。足まわりは11月11日に発売されたばかりのオーリンズベースの「全長調整式スポーツサスペンションキット」(49万600円)をはじめ、より剛性を高めたというレイズベースの鍛造LM GT4(試作品)、機械式LSD(R200 2WAY、試作品)をセット
スポーツチタンマフラーの奥にデフオイルクーラーが見える

 走らせてみると、真っ先に感じるのはそのスポーツチタンマフラーだった。甲高く爽快な音色を与えてくれるそれは、スピーカーが発する擬似音を追い越すような勢いが感じられるところが心地いい。スポーツ走行をする際にはかなり気分を高めてくれる。一方で街乗り想定で走ってみてもこもり音がなく、音で疲れるようなことがないところも好印象だ。ややパワーアップされたかのような感覚を得られるところもうれしい。

スポーツチタンマフラーはスポーツ走行をする際の気分を高めてくれる

 シャシーの仕上がりはなかなか機敏だ。ステアリングを切った瞬間からクルマ全体が応答してくる感覚に溢れている。けれどもピーキーにはなっておらず、しなやかさも忘れてはいない。試乗したモビリティリゾートもてぎの南コースは、コース途中に段差があり、そこでホップしてしまうようなところがあるのだが、その際にもリアの接地が薄れることなく、きちんと追従して安定性もトラクションも確保してくれる。これは効きが増したLSDのおかげもあるのだろう。安定方向に振られたことで、どんな路面状況でも安心して走れるだろう。

トラクションの確保には機械式LSDが役立っている

 一方で外周路において街乗りをしてみても、ノーマルでは突き上げるようなシーンであったとしても、角が丸い印象がありしなやかさも忘れていないところが印象的だ。LSDの作動音も出ていないし、これならたしかに街乗りからサーキットまでバランスよく走れそうだ。

 ちなみに、これらのチューニングパーツは基準車に対しても装着が可能とのこと。Zオーナーの1人としては、かなり心惹かれるアイテムばかりだった。

フェアレディZ NISMOは街乗りからサーキットまでバランスよく走れそうな印象だった

スカイライン NISMOはスポーツリセッティングがTYPE-2へと進化

スカイライン NISMOのNISMOスポーツパーツ装着車

 スカイライン NISMOについても基本的なチューニング方向は同様だ。ただ、大きく異なるのはコンピュータチューニングのスポーツリセッティングがTYPE-2へと進化したことだ。これはSTANDARDモードにおける初期~中間のスロットルマップを変更し、さらにDレンジにおけるシフトスケジュールを改めたことがポイントだ。ノーマルではなかなかキックダウンを行なわず、高いギヤをキープしてビッグトルクで走らせる感覚がどう改まっているのかが注目だ。また、スポーツチタンマフラーはセンターから後ろを交換するタイプではあるが、純正比50%減となる-10.6kgを達成している。

 足まわりはZと同様のオーリンズベース全長調整式サスペンションを採用。スプリングはフロント12Kgf/mm、リア13Kgf/mmをセット。減衰力は20段調整となり、試乗車はフロント5段、リア10段にセット(数が多いほど硬い設定)。コンセプトもZと同様で、タイヤチョイスも純正サイズのADVAN NEOVA AD09。ホイールはもちろん試作品のLM GT4である。加えてセットされる機械式LSDやホイールも同じ考え方だ。

スカイライン NISMOのNISMOスポーツパーツ装着車ではスポーツリセッティング TYPE-2をはじめ、スポーツチタンマフラー、機械式LSD(R190 2WAY)、全長調整式スポーツサスペンションキット(オーリンズ製)、ブレーキパッド(ロースチール材)、鍛造アルミホイール LM GT4(試作品)を装着

 まずはスポーツリセッティングTYPE-2の感触を確かめるために、STANDARDモードに入れてDレンジで走ってみる。すると、アクセルの踏み加減にリニアに応答するところが好感触。ギヤをホールドする傾向だったシフトスケジュールは、素早く踏み込めば即座に下のギヤにキックダウンしてくれるから爽快だ。これならZの9速ATじゃなく7速ATでも納得できる。

 のちにマニュアルモードに入れてスポーツ走行を行なうと、しっかりとしたトラクションを得られるLSDを装着したおかげで、FRらしいスライド走行も難なく許容するようになったところもマル。爽快さが増しつつも程よい音色を残すマフラーの演出もあり、走りのスカイライン復活といった感覚がより一層増していた。

“走りのスカイライン”を存分に体感できるNISMOスポーツパーツ装着車

 フットワークはZに比べれば重量もあるためしなやかさが増した感覚がある。けれども、鈍重にはならずキビキビとした身のこなしと、日常域におけるしなやかさをうまくバランスさせた仕上がりがあり、オールマイティな作りであることが感じられた。スポーツセダンとしてはちょうどいい落としどころなのかもしれない。

 これらのアイテムはスポーツリセッティング以外はスカイライン 400Rにも使うことが可能となっている。スカイライン NISMOの登場でライバル心が芽生えてきたユーザーには特にオススメだ。

日常域におけるしなやかさもしっかり残す

 こうした現行車両向けのパーツラインアップだけでなく、今回はR32 スカイラインGT-R向けのNISMOブランド40周年記念パーツの紹介もあった。小文字のNISMOではなく、かつての大文字NISMOロゴを再現したそれらのパーツは、2025年3月末まで受注する。新車登場時にタイムスリップする最後のチャンスといっていい。あらゆる施策を行なってきたNISMOの後押しによって、日産が少しでも元気を取り戻してくれることを期待したい。

試乗会会場に展示されたスカイライン GT-R(R32型)。2024年にNISMOは40周年を迎え、受注期間限定で40周年記念パーツをリリース。この40周年記念パーツ装着車となる
40周年記念パーツでは初代NISMOロゴが使われ、外観ではインタークーラー(24万2000円)やLM GT4ホイール(18×9.0J +22のBNR32用はホワイトカラーが10万2300円、ホワイト+切削シルバーカラーが10万3400円)、エキゾーストシステム NE-1(ステンレス仕様/63万8000円)などが目をひく
エンジンルームではインテークコレクター(23万8700円)、レーシングラジエターキャップ(5720円)、チタンタワーバー(17万500円)、オイルフィラーキャップ(1万3200円)などをセット。ここまできれいなエンジンルームはなかなかお目にかかれない
インテリア。φ350本革のNISMOステアリングホイール(14万3000円)をはじめ、フロアマット(3万5200円)もNISMO製
NISMO製シフトレバーブーツ&サイドブレーキブーツセット(2万6400円)。チタン製GTシフトノブは3万800円
シートカバー(13万2000円)もNISMO製
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学
Photo:安田 剛