試乗記

ランボルギーニ初のプラグインハイブリッドSUV「ウルスSE」、オンロード&オフロードで試乗

ウルスの最新作「ウルスSE」に試乗

800PSを誇るウルスのトップグレード

 イタリアのスーパースポーツカーブランド・ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」。2018年に発売されたウルスはランボルギーニの新規ユーザーの獲得につながり、購入者の40%が40歳以下、さらに女性オーナーの比率も13%など、ブランドの裾野を大きく拡げる立役者となっている。そのウルスの最新作「ウルスSE」は、ラグジュアリーとハイパフォーマンスを融合し、ランボルギーニの未来を見据えたPHEV(プラグインハイブリッド)としてウルスSEをラインアップに加えた。モーターを得たことでさらなるパワーアップを果たし、800PSを誇るウルスのトップグレードとなる。

 ウルスSEは2024年4月の北京モーターショーで世界初公開され、日本でも5月23日に発表を行なっているが、まだ上陸前のため、試乗が行なわれたのは南イタリア。バーリ空港から約3時間のところにある世界一有名なテストコース、ポルシェの「ナルド・テクニカルセンター(NTC)」だ。

 もともとはフィアットのテストコースだったが、2012年からポルシェの所有に。700ヘクタールを超える広大な敷地の周囲は直径4㎞、全長約12㎞の「ナルドリング」と呼ばれる完全な円の周回路に囲まれている。その中には1周6.2㎞のハンドリングコースなど17のテストコースがあるそう。今回はじめてランボルギーニの試乗会に使用されたが、厳格にいくつもの書類にサインをし、持ち込むスマホのシリアルナンバーまで申請するという徹底ぶり。しかし、こんな素敵な場所で800PSのウルスSEの真価を体験できるなんて、楽しみすぎ!

 まず、エクステリアに目を向けると、ウルスSEはウルスらしいアグレッシブなデザインを保ちながら、フロントデザインはややスッキリとしたもの。アイコンのY字型とヘキサゴンは至るところに散りばめられているが、闘牛の尾からインスピレーションを受けたというマトリクスLEDヘッドライト・クラスターや新型スポイラー、エアベント、エアダクト、リアディフューザーなどにより、美しさだけでなく、ダウンフォースと冷却性能も向上させ、リアの安定感も強化されるという効果も。さらにボディカラーは100色!

今回イタリアで試乗したのは5月に日本で発表された「ウルスSE」。ボディサイズは5123×2022×1638mm(全長×全幅×全高。全幅はミラーを除く)、ホイールベースは3003mm。外観やエクステリアにもならでは演出が施され、ランボルギーニのチーフデザイナーであるミティア・ボルケルト氏によると、新しいデザインのスポイラーやエアベント、エアダクトを採用し、フロントデザインをスッキリさせ、六角形の「ヘキサゴン」とYシェイプにも手が加えられたという

 チーフデザイナーのミティア・ボルケルト氏によると、2025年には150色になるとのことで、カラフルさにこだわったとか。インテリアはダッシュボード中央に12.3インチの大型スクリーンと、Y字型のモチーフがところどころにあしらわれている。テレメトリーシステムや新型ディスプレイはウルスSE専用のものだ。

 ウルスSEは、最高出力456kW(620CV)/最大トルク800Nmを発生するV型8気筒4.0リッターツインターボエンジンと、最高出力141kW(192CV)/最大トルク483Nmのモーターを搭載するPHEV。25.9kWhのリチウムイオン電池を搭載し、総トルクは950Nmにもおよぶ。ギヤボックスはトルクコンバーター付きの8速ATで、EVモードでの航続距離は60km以上。0-100㎞/h加速は3.4秒。最高速は312km/h、EVモードでの最高速は135km/h。タイヤは専用となる23インチのピレリ「P ZERO」を採用し、タイヤに「L」の刻印が押される。

 一番のトピックは初採用の電動トルクベクタリングシステム「HANG・ON」(ハングオン)。従来のトルセン式センターデフから電子制御の油圧多板式クラッチとなり、前後のトルク配分をより正確に制御するうえ、リア・アクスルに搭載された電子制御の新しいリミテッドスリップディファレンシャルはドライバーの意図を予測して駆動力を最適化する「ハングオン・インテリジェンス」により、ドリフト(故意にオーバーステア状態にする)もサポート。たとえばコーナー走行時に車両がドリフトすると予測し、リアにより多くのトルク配分をするとドリフトを簡単に行なうことができる。この機能はあらゆる路面状態やドライビングスタイルに対応するランボルギーニ独自の機能となる。

 ドライビングモードはStrada/Sport/Corsa/Sabbia/Terra/Neveと、EV Drive/Hybrid/Performance/Rechargeを組み合わせることが可能。

インテリアではダッシュボードの中央に12.3インチの大型スクリーンをレイアウトし、新バージョンのヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)を備えた。ウルス SE専用のテレメトリー・システムと、周辺環境の認知を高める運転支援システムの操作に使う新型ディスプレイも用意される
ドライビングモードはStrada/Sport/Corsa/Sabbia/Terra/Neveと、EV Drive/Hybrid/Performance/Rechargeを組み合わせて使用する

快適性が高いのがこのクルマの強み

オンロード、オフロードでウルスSEに乗った

 まずは公道試乗。今回の試乗プログラムではナルドテクニカルセンターの高速周回路の走行がなく、オンロードは一般道のみ。

 ウルスSEは見た目もユニークで迫力があるが、車内にもわくわくな要素がいっぱい。飛行機のコクピットのようなスイッチに囲まれ、エンジンスタートストップも独特。赤い蓋を開けてスイッチを押すという儀式を行なう。しかし、スイッチを押してもデフォルトのストラーダモード(ノーマルモード)だと拍子抜けするほど静かで加速も力強く、しかも滑らか。走行しても強めにアクセルを踏まなければ130km/hまではモーター(EVモード)で静かに走行するが、意識的にEVモードを選択することもできる。

ストラーダモードでは拍子抜けするほど静かで加速も力強く、そして滑らかに走ってくれる

 エアサスペンションは「ストラーダ(ノーマル)」の乗り心地がよく、一方で「スポーツ」にすると足まわりが締まり、ランボルギーニらしい迫力のエンジン音に。悪路でもグリップし、安定感が高くレスポンスのよい「コルサ(サーキットモード)」でもハイブリッドドライブを堪能できることもポイント。さらにストラーダ、スポーツ、コルサモードの時に「Recharge」モードにするとパフォーマンスを発揮しつつ、がんがんバッテリに積極的に充電する。

 また、快適性が高いのがこのクルマの強みで、シートは疲れ知らず。タイヤも大径なのに乗り心地はよし。しかし個人的にはカーナビは要改善を希望。出発時にカーナビに目的地をスタッフが設定してくれて、さらに通過地点にきたら自分でQRコードにスマホをかざすと目的地を案内するシステムを導入したのに、後半は迷子になってしまいました(笑)。

疲れ知らずの走りを見せてくれるウルスSE

 そしてナルドテクニカルセンターに戻り、今回のメインイベント「グラベルエクスペリエンス」で土のダートコース走行。「Terra(土)」モードはいわゆるドリフトできるモードで、車高も少し上がる。1回2周ずつを数回。最初は恐るおそるだが、少しずつスピードを上げ、ここでは4WDの安定感も実感。高低差のあるグラベルコースのコーナーをちょこっと踏んでお尻を滑らせながらクルマをコントロールするのは楽しくないわけがない! バックミラーで後方を見ると、ウルスSEの後ろから乾いた土埃が上がり、疾走感がある~!(笑)。この後姿を見ただけでニンマリしてしまう。

ダートコース走行も

 そしてもう1つのメインイベント。広いアスファルトで舗装された路面の多目的エリアでの予測ドリフトを体験できる「ドリフトエクスペリエンス」だ。ステアリングをあまり切らずにアクセルコントロ―ルするとクルマがいかにサポートしてくれるかが分かるというコンテンツだが、ついつい自分でステアリングを切ってしまう。すると助手席に座っていたランボルギーニのチーフインストラクターがハンドルを抑えてくれてなんとか体験できた。予測ドリフト、アクセルを離すタイミングや量が難しい。でも「予測」して電子制御してくれるから、クルマにお任せすればOK。いきなりは難しいけれど、だれでも簡単にドリフトできるのは楽しい。

 ウルスSEは2025年からデリバリー開始予定。ドリフトは日本発祥の自動車文化だが、今やスーパーカーの世界にも着実にファンが増えているようだ。

だれでも簡単にドリフトできるのは楽しい!
吉田由美

日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員/日本自動車ジャーナリスト協会理事/日本ボート ・オブ・ザ・イヤー 選考委員 1998年より 、モデル業の傍ら日産ドライビングパークにて、セーフティ・ドライビング(安全運転講習)のインストラクターとして3年間 活動。その後、「カーライフ・エッセイスト」としてクルマまわりのエトセトラを、独自の視点で執筆活動をはじめ、現在は自動車雑誌を中 心に、女性誌、テレビ、ラジオ、イベントなどで幅広く活動の場を広げている。