試乗記

日本も2025年春に導入予定、ヒョンデのAセグメントの新型バッテリEV「インスター」先行試乗

Aセグメントの新型BEV「インスター」

バッテリは標準で42kWh、ロングレンジで49kWh

 ヒョンデからAセグメントの新型BEV(バッテリ電気自動車)「INSTER(インスター)」がリリースされた。魅力的なサブコンパクトは「アイオニック5」の血統を引くピクセルを取り入れたシンプルだが力強いデザインで、懐かしさと新鮮さを併せ持ったなじみやすいコンパクトカーだ。バッテリ容量を小さくし、航続距離を追わない選択で逆に存在価値を高めている。

 インスターのサイズは3825×1610×1575mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2580mm。全長も全幅も小さく、軽自動車以上・小型車以下だが全高は少し高く、インスターに独得のプロポーションを与えている。コンパクトながら狭さを感じさせない広さはこの全高にもある。

 容量が小さいと言っても搭載するバッテリは標準で42kWh、ロングレンジで49kWhの容量がある。前者のWLTPによる航続距離は327km、後者は370km(何れも参考値)。車量重量は標準モデルで1350kg、ロングレンジで1450kgの車重になる。これらはいずれも15インチホイールモデルの数値で、試乗車のタイヤサイズは205/45R17になり、距離はもう少し短くなるはずだ。モーターはロングレンジで84.5kW(115PS)の最高出力となる。

今回韓国で試乗したのはヒョンデの新型BEV「インスター」。ボディサイズは3825×1610×1575mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2580mmでAセグメントに属する
LEDライトはこのように点灯
NEXENのオールシーズンタイヤ(205/45R17)を履く
韓国で急速に設置が進む高出力の充電スポット「E-pit」。クレジットカードが使え、充電量も選べる。長時間駐車を防ぐためにデポジットがあるが時間内に出れば返金される。韓国では至るところに充電スポットが整備されていたのが印象的

 室内は前後に長く、特に後席は200mmのスライドが可能でレッグルームが広く、トランクも281Lの容積があり大きなトランク・イン・トランクも実用性は高い。リアシートバックを畳むと座面がほぼフラット、さらに前席シートバックを倒すとラゲッジルームとつながり長尺モノも飲み込める。

 ポケットが少ないのが玉にキズ。カップホルダーはセンタコンソールに2個のみで後席にはない(オプション選択ができるかどうか)ので、軽自動車のポケットの多さに慣れている日本のユーザーには不満があるかもしれない。

 室内の静粛性はBEVらしい。BEVの特性を考慮してフロアの遮音材を増やし、サイドウィンドウまわりから入る音もよくカットされている。タイヤはNEXENのオールシーズン、205/45R17。路面によって差があるもののロードノイズはよく抑えられている。太いAピラーが前方に配置されるため交差点では斜め前方に少し死角ができるが、大きなマイナスポイントにはならない。

 サスペンションはオーソドックス。フロント/ストラット、リア/トーションビームだがAセグメントとしては上下収束性がよく、特に前席ではシートのクッションストロークもあってサイズを感じさせず、荒れた路面でもアイポイントはずれない。

 後席は足下も広く2名乗車でも十分なスペースがある。ただリアアクスルに近い位置に座るため、荒れた路面では突き上げはそれなりにある。キャビンが広いために小型車と錯覚するが軽自動車以上・小型車以下のサイズであることを考えると妥当なところだろうか。

インスターのスイッチ類は使いやすく、シンプルな内装も好感が持てる
室内は前後に長く、後席は200mmのスライドが可能。トランクも281Lの容量が用意される

AセグメントのBEVは日本にも適合しやすそう

インスターにさっそく試乗

 動力性能は申し分ない。加速力はBEVらしく常に滑らかで力強く、42kWhと49kWhの2種類あるバッテリのうち49kWhのロングレンジモデルでは0-100km/hを10.6秒で走り切る。追い越し加速でも余裕があり、韓国の流れが激しい交通でも十分リードできた。

 ちなみに高速での直進安定性は低重心効果で高い。それに荒れた路面を通過する際もヨー方向の動きが少なくハンドルに手を添えているだけで直進する。サスペンションは高速での安定性を重視して設定されているようだ。

 幅の割に背の高いSUVデザインは高速では少し頼りなく見えるが、ハンドルを握っていればその気配はなくAセグメントとは思えない安定感だ。

加速力はBEVらしく常に滑らかで力強い

 ADAS系は充実しており、ストップ&ゴー機能付きのACC、レーンキープアシスト、ブラインドスポットモニター、リアクロストラフィックなどなど上級車に装備されているほとんどの装備が織り込まれており、その精度は高く高速道路での追従も楽に行なえた。ヒョンデ特有の装備として、ウィンカーを出すと後方カメラの映像がメーター内に映し出されるのもよい。

 コーナーでも同様、コンパクトカーらしからぬ安定感がある。電動パワーステアリングはステアリングダンパーを持ち、キックバックの少ないステアリングフィールを持っている。パドルは4段階で回生力を調整できるので自然に減速させたい時はこちらを使うと便利だ。左パドルで回生力の変更、右パドルで解除となり使いやすい。

 ブレーキタッチは少しデリケート。電動車はペダルストロークと踏力のバランスが難しいが、インスターもそのクセが残っている。慣れてしまえばコントロールも難しくないが今後も進化が望ましい。そしてぜひ改善してほしいのは後退時。クリープがないのでアクセルコントロールがデリケートだ。余裕がほしい。

 ドライブモードはエコとノーマル、スポーツがあり、エコはエアコンや回生力でエネルギーを節約できる。ノーマルは乗り慣れたガソリン車から乗り換えても違和感はない。スポーツはメーターが赤い表示になりアクセルゲインも高まるが、インスターではあまり使われない気がする。

コーナーでも安定感ある走りをみせるインスター

 インテリアはシンプルで使いやすい。センターディスプレイは10.25インチモニターがあり、ナビゲーションをはじめインフォテイメントはタッチスクリーンに集約される。マップ、ナビ、ラジオ、メディアなどは独立したスイッチがあり操作系は親切だ。装備も充実しており、シートヒーターやステアリングヒーターも備わりソウルの冬の寒さでも快適にスタートできそうだ。

 AセグメントのBEVは日本にも適合しやすそうだ。インスターは韓国で販売されているガソリン車の「キャスパー」をベースにしている。プラットフォームは同じH2型を共用するもののBEV化にあたりホイールベースを180mm、全長を230mm長く、全幅は15mm広くなっている。ボディ補強もインスター専用で大幅な剛性アップがされた。

 日本への導入は2025年春ごろの予定とされ、装備は輸出国のニーズにより変わるものの、日本仕様は試乗したモデルに近いものになるだろう。装備次第だが競争力のある価格なら、魅力的でかわいいBEVは注目されるに違いない。

日本への導入は2025年春ごろを予定
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。