試乗記

ヒョンデ新型「コナ N Line」初試乗 静粛性とフットワークのよさはそのままにスポーティさをプラス

2024年8月23日 発売

506万円

コンパクトSUVのKONA(コナ)に追加された新グレード「N Line」

 世界第3位の自動車メーカー「ヒョンデ」のKONA(コナ)が日本にやってきたのは2023年11月。使いやすいサイズ、バッテリEV(電気自動車)のSUVとしてユニークな存在感を放つ。

 Hyundai Mobility Japanとしては「IONIQ(アイオニック)5」に続く2台目のバッテリEVになる。そして、今回紹介するのはスポーティな「N Line」。KONAの上級グレードであるLounge(ラウンジ)をベースとして内外装に手を入れたモデルだ。価格はLoungeの489万5000円に対して、16万5000円プラスの506万円にとどまる。

ヒョンデのコンパクトSUV「KONA N Line」。試乗車のボディカラーは「アトラスホワイト」で、ほかに「アルティメットレッドメタリック」「アビスブラックパール」「エコトロニックグレーパール」の全4色を設定
N Lineは日本初導入だが、本国では「ELANTRA」「SONATA」「TUCSON」「i20」などにも設定されているスポーティグレードとなる
ボディサイズは4385×1825×1590mm(全長×全幅×全高)で、標準モデルよりも全長が50mm長くなっている。また車両重量は1790kgとLoungeよりも20kg重い。ホイールベースは2660mm、最小回転半径は5.4m(自社測定値)

“N”はヒョンデのパフォーマンスモデルを示すもの。日本にも「IONIQ 5 N」で強いメッセージを届けたが、N LineはそのNのエッセンスを取り込んだライトなスポーティグレードとなる。

 エクステリアには多くの専用パーツが使われている。中でもインパクトが大きいのはリアのウィングタイプスポイラー。ブラックアウトされた左右2分割のスポイラーは、空気を整流するとともにKONAにこれまでとは違った印象を与えている。

 同時にフロントとリアのバンパーのデザインが変更され、フロントは踏ん張り感があり、リアはデュフェーザーをモチーフにしたスピード感を強調したデザインになった。サイドシルにもスカートが追加され、下半身が強化された印象となってオリジナルKONAよりも格段とスポーティさが増している。

2分割タイプのN Line専用ウィングタイプリアスポイラー
N Line専用デザインのフロントバンパー。右端にN Lineのエンブレムを備える
サイドも下部にブラックのエアロが装着される
リアバンパーもN Line専用デザインで、スポーティなディフューザー形状を採用
N Line専用デザイン19インチアルミホイールを装備。タイヤはクムホ「ECSTA PS71」でサイズは235/45R19 99V
ウィンドウモールの下側は、標準モデルはシルバーだが、N Lineはブラック仕様となる
左右のフェンダーにあしらわれるN Lineのエンブレム

 インテリアではNのロゴの入ったシートに赤いステッチが入り、インテリアも赤のアクセントストライプで、ベースとなったLoungeからガラリと変わって新鮮だ。

 ヌメリとしたデザインと全高がやや高いKONAは大きく見えるが、サイズは4385×1825×1590mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2660mmと日本でも使いやすい大きさだ。小まわり性もよく街中でのフットワークも良好。

 ラゲッジスペースはセカンドシートを使用した状態で466L。6:4で倒れるバックシートで積むものに応じてスペースを変えられる。フルフラットにすると1300Lのかなりの容積だ。バックドアはキーを持っていればハンズフリーで開けられ、開閉の高さも調整できるのでガレージの中でも便利に使える。

 また、バッテリEVならではなのは、ボンネットの下にも27Lのトランクがあり、意外と収納性が高い、パワーコンポーネントを低く抑えた恩恵が現れる。

水平基調のインパネまわり。サンルーフも備え開放感がある。内容はN Line専用のブラックインテリア
アルカンターラ×本革のコンビシートを採用。「N」ロゴがあしらわれるほか、レッドステッチが配される。ベースモデルのLoungeと同じく前席はシートヒーターとベンチレーションも備える
後席もレッドステッチが採用されスポーティさが高められている

 一方、パワートレーン、サスペンション、EPSなどは、標準のKONAと共通となる。KONAは本国にはガソリン車もあるが、重量のあるバッテリEV(と言っても1790kg)にも対応できるモノコックとしており十分な剛性を持っている。追加でブレスを入れる必要性はなかったとの説明だった。確かに剛性感は高く、どっしりしたSUVらしさを感じられる。

 走り出しは滑らかで、バッテリEV特有の静粛性と振動のない伸びやかな加速力が魅力。ガソリン車と共用のプラットフォームはバッテリEVのKONAでは少しだけフロアが高め。しかし、ルーフが高くヘッドクリアランスは十分に取れている。視界も若干見下ろす感じで好ましい。ただドライビングポジションはステアリングのチルト量に限界もあるため、身長によってはもう少しチルト量に余裕がある方がいいかもしれない。

N Line専用のレッドステッチステアリング
ステアリングにもN Lineロゴがあしらわれている
赤いアクセントを入れることでスポーティさを表現している
N Line専用のフロアマットを装備

 デビュー時には硬いと感じたリアからの突き上げは、N Lineでは角が取れた乗り心地になった。ヒョンデらしくキビキビした設定だが、細かい凹凸はサスペンションで吸収してくれる。大きな凹凸ではややバタバタしたところがあるもののバネ上は比較的フラットに保たれ好印象だった。

 装着タイヤも標準モデルと同じくクムホ「ECSTA PS71」でサイズは235/45R19 99Vを履く。こちらも思いのほかしなやか。接地形状はオーソドックスに感じたが、シッカリ路面をつかむ感触は好ましい。またロードノイズはフロアにバッテリを収めるKONAでは遮音効果もあり、キャビンの静粛性は高い。耳を澄ますとCピラーから入るノイズは前席よりは大きいが、静かなクルマだけに気が付くと言ったところか。唯一大きいのはインバータノイズだが、これもノイズというよりもバッテリEVらしさを感じさせる音だった。

KONAは遮音効果もありキャビンの静粛性は高い

 ステアリング操舵力は重め。アシスト力はもう少し欲しいところだ。ちなみに操舵力はドライブモードにかかわらず同じということだった。

 ドライブモードは「NORMAL」「ECO」「SPORT」「SNOW」が選べる。N Lineらしく走らせるならSPORT。アクセルのピックアップがちょうどよく、しかも過敏ではないので普段使いでもドライバーは神経質にならない。なかなか巧な設定だ。

 パドルシフトは左パドルを引くと0-1-2-3-iPedal、右は逆にiPedal-3-2-1と変化する。回生力を変えることでエンジンブレーキを使うのと同じ要領で使えるので長い下り坂ではフットブレーキへの負担を減らして回生エネルギーを有効に貯め込める。iPedalは回生ブレーキを積極的に使うポジションでモーター駆動車ならでは。慣れると節電になりワンペダルドライブもできる。システムは凝っており、前方の交通量に応じて回生力を変え減速コントロールを自動的に行なうことだ。

加速は俊敏で高速道路の流れにも自然に乗れる

 パワートレーンは64.8kWhのリチウムイオンバッテリと最高出力150kW(204PS)/最大トルク255Nmのモーター(EM16)で構成される。駆動方式はFFだ。バッテリEVの立ちあがり時の大きなトルクもよく抑えられ、FFでもトルクステアはほとんど感じない。しかも加速は俊敏で高速道路の流れにも自然に乗れる。

 ナビゲーションは目的地を設定するとARで行き先に従って案内をしてくれる。ヒョンデ車はOTA(Over The Air)でソフトウェアを更新でき、ナビソフトもそれに含まれて常に最新のマップになる。

 IONIQ 5で驚かされたバッテリEVならではのクルマの作り方、装備の面白さ、使い他の工夫などはKONAにも受け継がれており唸らせるところがある。

ヒョンデならではのクルマ作りが随所に盛り込まれている1台だ
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学