試乗記
ホンダの新型軽商用EV「N-VAN e:」初試乗 低重心&ガソリン車比160%増しのトルクが気持ちイイ!
2024年8月28日 11:00
- 2024年10月10日 発売
- e:L4/269万9400円~280万9400円
- e:FUN/291万9400円
商用から個人ユースまで4タイプを設定
10月10日にいよいよ発売開始となるホンダの軽商用EV「N-VAN e:」(エヌバン・イー)。これをホンダ栃木研究所のテストコースで先行試乗できた。
N-VAN e:はその名の通り、N-VANをベースに仕上げたピュアEVだ。プラットフォームを新規開発することなく、バッテリを含むIPU(インテリジェントパワーユニット)を床下にすんなり収められたのは、ガソリン仕様のセンタータンクレイアウト用のスペースがあればこそだろう。そのおかげで床下から天井までの室内スペースが、まったく犠牲になっていない。
とはいえ衝突安全を踏まえたモーターやインバーターなどPU(パワーユニット)の配置や、高圧電線の取りまわしの苦労を振り返ると、その電動化は傍で思うほど簡単なものではなかったようだ。
ちなみにバッテリ容量は29.6Kwh、航続可能距離は245km(WLTCモード値)と、軽乗用EVである日産サクラ/三菱eKクロス EVの20Kwh/180kmを上まわっている。
全部で4種類のグレード展開となるN-VAN e:だが、今回の試乗では「e:L4」と「e:FUN」が用意された。ちなみにシングルシーター仕様の「e:G」と、これにエマージェンシー用の後部座席を備えたタンデムシート仕様の「e:L2」の2種類は法人販売用グレードとなる。今回、筆者が試乗したのはe:L4をベースに、趣味やレジャーシーンにもなじむスタイリングを採用し、より一般的なモデルとなる「e:FUN」だ。
なお商用タイプのe:L4は、少しでも価格を抑えるためにヘッドライトがハロゲンタイプになっており、ちょっと無骨なイメージが“らしく”ていい。対してe:FUNは、ガソリン仕様と同じく丸型のLEDライトが愛らしい表情を際立たせていた。
急速充電にも対応し、外部への給電も可能としたN-VAN e:
そんなN-VAN e:がガソリン仕様と一番違うのは、フロントグリルに2つの給電ポートを備えることだ。向かって右側は、急速充電ポート。左側の普通充電ポートは、別売りのパワーサプライコネクターを装着することで1500Wの外部給電も可能となる。
ちなみに6kW出力の普通充電なら約4.5時間で満充電でき、50kW出力の急速充電だと0~80%までを30分で充電できる。
さらにホンダアクセスのオプションとなる「外部電源入力キット」を装着すると、車内に12V電源と1500W用のコンセントが付いて、テールゲートを閉めたまま、さまざまな電化製品が使えるようになるのもポイントだろう。
ただその際は車両先端のパワーサプライコネクターから、車外をぐるっと回って車体後部にケーブルを刺さなくてはならない。その姿はあまりスマートとは言えないから、電源は床下のバッテリから直接取った方がよいように思えるが、それだと車体後部にインバーターを仕込む必要が出てくる。
またアウトドアでの使用を考えると、ノーズから給電する方がリアゲートを閉めたままにできるというわけだ。
なお、普通充電用ケーブルもホンダは別売りとしているが、これは既存のEVオーナーが乗り換えたときに、無駄な出費を省くためだと言う。
時代に合わせてリサイクル材を多用
環境性能の向上を大切なテーマとするEVだけに、サステナビリティにもきちんと目が向けられている。充電ポートを備える樹脂製のグリルは、よく目をこらすと赤や青、白やシルバーといった細かいマーブルカラーに彩られているのだが、これはホンダ車の廃棄バンパーをリサイクルして作られている。
ちなみにホンダはこのリサイクルを1996年から行なっているが、これまでは廃棄バンパーの塗装がほぼ見えなくなるまで洗浄・粉砕して、普段は目に付きにくい部分だけにリサイクルパーツを使っていた。
しかしN-VAN e:ではあえてその色味や素材感を生かし、サステナビリティへの取り組みを視覚的にアピールした。よく見るとパネルにリサイクルマークが型押しされているのもポイントだ。
さらに言えばN-VAN e:はその前後バンパーや、室内の足下付近のパネルにもリサイクル材を使っている。またフロアカーペットに使われるポリエステル繊維は、その80%以上が回収されたペットボトルから作られている。
廃棄バンパー リサイクル材は通常の樹脂製パーツよりも少し割高だそうだが、長年続けてきた技術の蓄積でその差はかなり縮まってきているほか、こうした活動は昨今B to Bでもニーズが大きく、近年ではZ世代を中心にしたユーザーたちも、こうした企業努力を評価する傾向が強いと言う。
コンテナをイメージしたインテリア
普段使いのできる常用タイプ、e:FUNのインテリアは、温かみのあるベージュカラー。対して商用バンのe:L4は、汚れが目立たないグレー基調だ。
そのインパネはガソリン仕様と同じく直線基調だが、N-VAN e:はシフトノブを廃してシビックやアコードたちと同じエレクトリックギアセレクターを採用したことから、各部の配置が微妙に変わった。
その恩恵を最もわかりやすく受けたのはエアコンのスイッチで、これが横長かつ上側配置されたことで、運転席から手が届きやすくなった。またコントロールユニット下に小物入れが設けられ、中央モニターの傾斜が少し立ち気味になった。
パワーウインドウのスイッチは、シフトセレクター下に配置された。最初は何度もドア側でスイッチを探したが、ドアハンドルと小物入れが大きくなったのはとてもよいと思う。
またドア内張りもコンテナから発想を得た縦型ビードデザインの簡素な樹脂パネルに改められており、アームレスト用トリムやドアポケットまでが潔くカットされていた。これによってほんのわずかだがドア側の空間が広くなり、ガソリン仕様と比べて開放感が高くなっていた。
ちなみにこのパネルは商用規格のピッチでリベットやネジ用の目印が型押しされており、DIYしやすくなっている。ホンダアクセスから出ているメッシュポケットなどは、ヒット商品になるのではないかと思う。
従来のガソリンモデルと比較しながらテストコースで試乗
試乗は外周路をとワインディングコースを2周ずつ、ガソリンターボ仕様と乗り比べた。
動力性能で見るとN-VAN e:の最高出力は、試乗に用意されたe:FUNとe:L4の最高出力が47kW(64PS)まで高められており、直列3気筒ターボと同等となっている。かたや法人向けのe:Gおよびe:L2は車重は、車重が1060/1080kgと軽いこともあるのだろう、それぞれ39kW(53PS)の定格出力が最高値となる。
対して最大トルクは全車162Nmと、直列3気筒ターボの104Nmの約160%増しだ。
この効果は当然ドライバビリティに大きく現れていて、アクセル踏み始めにおけるレンスポンスのよさ、そこからの加速はN-VAN e:が断然上手だった。
直列3気筒ターボも十分に低速からトルキーなのだが、モーターと比べてしまうとわずかな応答遅れを感じてしまう。
ワインディング路には曲がり込みながら路面がうねる、なかなかいやらしい登り坂があるのだが、ここでもN-VAN e:はアクセルを踏んだ通りに、スムーズに坂を登り切った。
ハンドリングは、とてもおっとりしている。
低重心なEVだけにリニアな特性も与えられるはずだが、あえてゆっくりとロールさせるのは、荷崩れしにくさを考慮してのことだろう。また業務として運転したとき、この穏やかさが終盤の疲労を軽減してくれるのだと思う。
面白いのはBレンジボタンを押しても、回生ブレーキがうっすらとしか効かないことだ。これもおそらく積み荷への配慮だが、エネルギーはきちんと回収できていると言うから、街中ではBレンジに入れっぱなしでよいのではないかと思えた。
個人ユースのe:FUNであればもう少し回生力を高めてワンペダル的な操作をできるようにしたり、パドルを付けて段階的に回生ブレーキを調整してもよいかもしれないが、商用バンの質実剛健なキャラを生かすならこのままでよい。
高速巡航は100km/hを上限に周回路を走った。
加速力やパワーユニットの静粛性は当然EVの方が上だが、ガソリンターボもアクセルを踏み込めばきちんと速度をのせられるし、そもそもこのボディは風きり音の方が大きいので、どちらも静粛性に大きな差を感じなかった。
ちなみにEcoモードに入れると、エアコンが弱められるだけでなく(とはいえ普通に涼しかった)、回生ブレーキもさらに弱まって、コースティングを促すようになる。
感心したのは、走安性の高さと乗り心地のよさだ。
周回路の内側は波状路になっており、一箇所きついバンプがある。ここを約80km/hで通過したときガソリンターボはバンプラバーにタッチしたときの衝撃が、かなり大きめだった(もちろん車両的には問題ない)。
対してN-VAN e:は、最終的にバンプラバーが衝撃を受け止めながらも、そこまでの衝撃吸収力が優れていた。ガツン! ではなくドスッ! という感じだ。
そこにはまず「13インチタイヤ」のエアボリュームが効いていた。またタイヤの大径化にともない足まわりも剛性を上げているそうだが、乗り心地に角はない。感覚的には車両総重量1550kg(=2名乗車&最大積載量300kg搭載時)のボディを支えるためにストローク量を増やした印象で、ダンパーがその伸縮をうまくコントロールしていた。
ちなみに最大積載量は、e:Gとe:L2が300kg、e:L4とe:FUNが300kg(4名乗車時は150kg)だ。
100km/h巡航時からのレーンチェンジも見事だ。
バッテリは床下全面に敷き詰められているわけではないが、動きは十分に低重心。かつバッテリを挟み込むハニカムの構造部材がサイドシルと連結している効果もあるのだろう、Bピラーレスボディを感じさせないくらいフロアがしっかりしている。
だから操舵応答性はリニアで、レーンチェンジ後の収まりもいい。またそこからダブルレーンチェンジで切り返しても、スムーズにスラロームできる。
こうした走りから、スーパーハイトワゴンの低重心化(EV化)は走安面においても有効な手段だと感じた。軽自動車枠のサイズ設定に無理が出てきていることに変わりはないが、乗り心地も含めてこの安定感にはメリットが多い。
ちなみにホンダは昨年6月からヤマト運輸とN-VAN e:の実証実験を始めており、ウェル・トゥ・ホイール(電気の発電から充電・消費まで)の観点から見てもN-VAN e:は、街中の配送だとこれまで使ってきたガソリン軽自動車よりも環境性能が高い。具体的にはCO2排出量が、およそ半分まで抑えられるようになったのだと言う。
最後はわれわれのような一般ユーザーにとっての使い勝手だが、245kmの航続距離を考えれば、現実的にはそれが7掛けだったとしても、日常の通勤やデイリーユースは十分こなせるだろう。
となると、給電ギアのキャラクターを生かしたキャンプやアクティビティを楽しむためにも、ロングドライブ時のユーザビリティを確かめたくなるが、これに関しては10月の発売に合わせた公道試乗までひとまずお預けだ。そしてもしその機会が得られたら、アクティビティ先でのSOC(電池残量)管理等と共に検証してみたい。
総じてその第一印象は、とてもよかった。「働くクルマのEV化」は、アリだと思う。