試乗記

ホンダの新型軽商用EV「N-VAN e:」初試乗 低重心&ガソリン車比160%増しのトルクが気持ちイイ!

2024年10月10日 発売

e:L4/269万9400円~280万9400円

e:FUN/291万9400円

ホンダの新型軽商用EV「N-VAN e:」

商用から個人ユースまで4タイプを設定

 10月10日にいよいよ発売開始となるホンダの軽商用EV「N-VAN e:」(エヌバン・イー)。これをホンダ栃木研究所のテストコースで先行試乗できた。

 N-VAN e:はその名の通り、N-VANをベースに仕上げたピュアEVだ。プラットフォームを新規開発することなく、バッテリを含むIPU(インテリジェントパワーユニット)を床下にすんなり収められたのは、ガソリン仕様のセンタータンクレイアウト用のスペースがあればこそだろう。そのおかげで床下から天井までの室内スペースが、まったく犠牲になっていない。

個人ユースの「e:FUN」は丸型のLEDライトを採用。撮影車のボディカラーはオータムイエロー・パール×ブラックの2トーン仕様
ボディサイズは3395×1475×1960mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2520mm、最小回転半径は4.6m、車両重量は1140kg(e:L4は1130kg)
商用タイプの「e:L4」は、ハロゲンヘッドライト仕様
撮影車のボディカラーはプラチナホワイト・パール

 とはいえ衝突安全を踏まえたモーターやインバーターなどPU(パワーユニット)の配置や、高圧電線の取りまわしの苦労を振り返ると、その電動化は傍で思うほど簡単なものではなかったようだ。

 ちなみにバッテリ容量は29.6Kwh、航続可能距離は245km(WLTCモード値)と、軽乗用EVである日産サクラ/三菱eKクロス EVの20Kwh/180kmを上まわっている。

装着タイヤは横浜ゴムの「ブルーアース・バン」でサイズは145/80R13

 全部で4種類のグレード展開となるN-VAN e:だが、今回の試乗では「e:L4」と「e:FUN」が用意された。ちなみにシングルシーター仕様の「e:G」と、これにエマージェンシー用の後部座席を備えたタンデムシート仕様の「e:L2」の2種類は法人販売用グレードとなる。今回、筆者が試乗したのはe:L4をベースに、趣味やレジャーシーンにもなじむスタイリングを採用し、より一般的なモデルとなる「e:FUN」だ。

 なお商用タイプのe:L4は、少しでも価格を抑えるためにヘッドライトがハロゲンタイプになっており、ちょっと無骨なイメージが“らしく”ていい。対してe:FUNは、ガソリン仕様と同じく丸型のLEDライトが愛らしい表情を際立たせていた。

バッテリを含むIPU(インテリジェントパワーユニット)を床下に収めたことで、ガソリンモデルと同様のフルフラットを実現した。軽商用バンでBピラーレスはN-VANのみ。ガソリンモデルで側突への対応を完成させていたが、今回バッテリを保護するためのフレームも追加したほか、前突時はパーツをスライドさせることで電気部品への力を他所へ逃がす工夫が施されている
e:FUNの荷室内側寸法は、助手席をたたんだ状態(1名乗車)で、1495×1230×1370mm(長さ×幅×高さ)、運転席側の長さは1335mm
2人乗り状態
4人乗り状態

急速充電にも対応し、外部への給電も可能としたN-VAN e:

 そんなN-VAN e:がガソリン仕様と一番違うのは、フロントグリルに2つの給電ポートを備えることだ。向かって右側は、急速充電ポート。左側の普通充電ポートは、別売りのパワーサプライコネクターを装着することで1500Wの外部給電も可能となる。

 ちなみに6kW出力の普通充電なら約4.5時間で満充電でき、50kW出力の急速充電だと0~80%までを30分で充電できる。

向かって左側(運転席側)にある給電ポート
向かって右側(助手席側)にある急速充電ポートはCHAdeMO(チャデモ)仕様

 さらにホンダアクセスのオプションとなる「外部電源入力キット」を装着すると、車内に12V電源と1500W用のコンセントが付いて、テールゲートを閉めたまま、さまざまな電化製品が使えるようになるのもポイントだろう。

 ただその際は車両先端のパワーサプライコネクターから、車外をぐるっと回って車体後部にケーブルを刺さなくてはならない。その姿はあまりスマートとは言えないから、電源は床下のバッテリから直接取った方がよいように思えるが、それだと車体後部にインバーターを仕込む必要が出てくる。

 またアウトドアでの使用を考えると、ノーズから給電する方がリアゲートを閉めたままにできるというわけだ。

 なお、普通充電用ケーブルもホンダは別売りとしているが、これは既存のEVオーナーが乗り換えたときに、無駄な出費を省くためだと言う。

AC車外給電用の「パワーサプライコネクター」は、ホンダアクセスの純正アクセサリーで、価格は2万9700円
1500Wまで対応するので、ポットでの湯沸かし、炊飯器、ドライヤーなども使える
ガソリンモデルから設定のある「外部電源入力キット」もホンダアクセスの純正アクセサリー。AC100V/最大1500Wに対応し、外部接続用ケーブル5mも付属する。価格は3万7400円
ラゲッジスペースの左後方にAC100V/1500Wのコンセントとアースポイントが追加される。上にある12V/180W上限のアクセサリーソケットは標準装備

時代に合わせてリサイクル材を多用

 環境性能の向上を大切なテーマとするEVだけに、サステナビリティにもきちんと目が向けられている。充電ポートを備える樹脂製のグリルは、よく目をこらすと赤や青、白やシルバーといった細かいマーブルカラーに彩られているのだが、これはホンダ車の廃棄バンパーをリサイクルして作られている。

 ちなみにホンダはこのリサイクルを1996年から行なっているが、これまでは廃棄バンパーの塗装がほぼ見えなくなるまで洗浄・粉砕して、普段は目に付きにくい部分だけにリサイクルパーツを使っていた。

 しかしN-VAN e:ではあえてその色味や素材感を生かし、サステナビリティへの取り組みを視覚的にアピールした。よく見るとパネルにリサイクルマークが型押しされているのもポイントだ。

ホンダは1996年から修理で外されたバンパーを独自に回収してリサイクル材として再利用しているが、今回はフロントグリルや内装パーツにも採用した
左が一般的なバンパー成形用の樹脂ペレットで塗膜などはきれいに除去されている材料。中央はホンダが自主的に回収して粉砕したバンパー粉砕材。右が今回フロントグリルなどに使用している塗膜の混ざったリサイクル材料
白い点々がバンパーの塗膜。パッと見はほとんど白だが、よく見ると銀、赤、青、黄などさまざまな色がある

 さらに言えばN-VAN e:はその前後バンパーや、室内の足下付近のパネルにもリサイクル材を使っている。またフロアカーペットに使われるポリエステル繊維は、その80%以上が回収されたペットボトルから作られている。

 廃棄バンパー リサイクル材は通常の樹脂製パーツよりも少し割高だそうだが、長年続けてきた技術の蓄積でその差はかなり縮まってきているほか、こうした活動は昨今B to Bでもニーズが大きく、近年ではZ世代を中心にしたユーザーたちも、こうした企業努力を評価する傾向が強いと言う。

フロントグリルとセンターコンソール下部にホンダオリジナルの「リサイクルマーク」が配されている
なお、前後バンパーもリサイクル材料を100%使用しているが、こちらは強度を保つため塗膜などはすべて除去された材料を使用している

コンテナをイメージしたインテリア

 普段使いのできる常用タイプ、e:FUNのインテリアは、温かみのあるベージュカラー。対して商用バンのe:L4は、汚れが目立たないグレー基調だ。

e:FUNのインテリアはベージュカラー。視界の広い水平基調はそのままだが、シフトがレバー式からボタン式に、ステアリングも3本から2本スポークに改められた

 そのインパネはガソリン仕様と同じく直線基調だが、N-VAN e:はシフトノブを廃してシビックやアコードたちと同じエレクトリックギアセレクターを採用したことから、各部の配置が微妙に変わった。

 その恩恵を最もわかりやすく受けたのはエアコンのスイッチで、これが横長かつ上側配置されたことで、運転席から手が届きやすくなった。またコントロールユニット下に小物入れが設けられ、中央モニターの傾斜が少し立ち気味になった。

 パワーウインドウのスイッチは、シフトセレクター下に配置された。最初は何度もドア側でスイッチを探したが、ドアハンドルと小物入れが大きくなったのはとてもよいと思う。

 またドア内張りもコンテナから発想を得た縦型ビードデザインの簡素な樹脂パネルに改められており、アームレスト用トリムやドアポケットまでが潔くカットされていた。これによってほんのわずかだがドア側の空間が広くなり、ガソリン仕様と比べて開放感が高くなっていた。

コンテナをイメージした縦溝を採用したほか、ドアポケットなどを廃止してドア自体を薄くしたことで居住性を向上させている
シフトはボタン式を採用
ディスプレイも見やすい角度に変更。エアコンスイッチやUSBポートなども中央に集約された
窓の開閉スイッチはセンターコンソールにレイアウト。右利きであればステアリングを保持したまま左手で操作することで安全性に寄与する。ドアミラーやウインドウスイッチの配線をドアまで引かないことで使用する材料の削減にもつながる
サイドミラーの角度調整や急速充電ポートの開ボタンをステアリングの右横に配置

 ちなみにこのパネルは商用規格のピッチでリベットやネジ用の目印が型押しされており、DIYしやすくなっている。ホンダアクセスから出ているメッシュポケットなどは、ヒット商品になるのではないかと思う。

純正アクセサリーの「メッシュポケット」は2枚で7700円。サイズは38×19cm(横×高さ)で、A4バインダーもすっぽり収まる設定
リベット取り付けのため穴開け加工が必要となる

従来のガソリンモデルと比較しながらテストコースで試乗

 試乗は外周路をとワインディングコースを2周ずつ、ガソリンターボ仕様と乗り比べた。

 動力性能で見るとN-VAN e:の最高出力は、試乗に用意されたe:FUNとe:L4の最高出力が47kW(64PS)まで高められており、直列3気筒ターボと同等となっている。かたや法人向けのe:Gおよびe:L2は車重は、車重が1060/1080kgと軽いこともあるのだろう、それぞれ39kW(53PS)の定格出力が最高値となる。

搭載する「MCF7」モーターは最高出力47kW(64PS)、最大トルク162Nmを発生

 対して最大トルクは全車162Nmと、直列3気筒ターボの104Nmの約160%増しだ。

 この効果は当然ドライバビリティに大きく現れていて、アクセル踏み始めにおけるレンスポンスのよさ、そこからの加速はN-VAN e:が断然上手だった。

 直列3気筒ターボも十分に低速からトルキーなのだが、モーターと比べてしまうとわずかな応答遅れを感じてしまう。

 ワインディング路には曲がり込みながら路面がうねる、なかなかいやらしい登り坂があるのだが、ここでもN-VAN e:はアクセルを踏んだ通りに、スムーズに坂を登り切った。

アクセルレンスポンスのよさとトルクフルな加速はさすがバッテリEV

 ハンドリングは、とてもおっとりしている。

 低重心なEVだけにリニアな特性も与えられるはずだが、あえてゆっくりとロールさせるのは、荷崩れしにくさを考慮してのことだろう。また業務として運転したとき、この穏やかさが終盤の疲労を軽減してくれるのだと思う。

 面白いのはBレンジボタンを押しても、回生ブレーキがうっすらとしか効かないことだ。これもおそらく積み荷への配慮だが、エネルギーはきちんと回収できていると言うから、街中ではBレンジに入れっぱなしでよいのではないかと思えた。

 個人ユースのe:FUNであればもう少し回生力を高めてワンペダル的な操作をできるようにしたり、パドルを付けて段階的に回生ブレーキを調整してもよいかもしれないが、商用バンの質実剛健なキャラを生かすならこのままでよい。

D⇔Bレンジの切り替えはボタンを押すだけ、どちらのレンジになっているかはメーター内で確認できる

 高速巡航は100km/hを上限に周回路を走った。

 加速力やパワーユニットの静粛性は当然EVの方が上だが、ガソリンターボもアクセルを踏み込めばきちんと速度をのせられるし、そもそもこのボディは風きり音の方が大きいので、どちらも静粛性に大きな差を感じなかった。

 ちなみにEcoモードに入れると、エアコンが弱められるだけでなく(とはいえ普通に涼しかった)、回生ブレーキもさらに弱まって、コースティングを促すようになる。

高速巡行するような車種ではないが、トルクフルで100km/hまでサクッと車速をのせられる

 感心したのは、走安性の高さと乗り心地のよさだ。

 周回路の内側は波状路になっており、一箇所きついバンプがある。ここを約80km/hで通過したときガソリンターボはバンプラバーにタッチしたときの衝撃が、かなり大きめだった(もちろん車両的には問題ない)。

 対してN-VAN e:は、最終的にバンプラバーが衝撃を受け止めながらも、そこまでの衝撃吸収力が優れていた。ガツン! ではなくドスッ! という感じだ。

 そこにはまず「13インチタイヤ」のエアボリュームが効いていた。またタイヤの大径化にともない足まわりも剛性を上げているそうだが、乗り心地に角はない。感覚的には車両総重量1550kg(=2名乗車&最大積載量300kg搭載時)のボディを支えるためにストローク量を増やした印象で、ダンパーがその伸縮をうまくコントロールしていた。

 ちなみに最大積載量は、e:Gとe:L2が300kg、e:L4とe:FUNが300kg(4名乗車時は150kg)だ。

タイヤを13インチにしたことでエアボリュームが増え、サスペンションのセッティング範囲にも余裕ができたと言う

 100km/h巡航時からのレーンチェンジも見事だ。

 バッテリは床下全面に敷き詰められているわけではないが、動きは十分に低重心。かつバッテリを挟み込むハニカムの構造部材がサイドシルと連結している効果もあるのだろう、Bピラーレスボディを感じさせないくらいフロアがしっかりしている。

 だから操舵応答性はリニアで、レーンチェンジ後の収まりもいい。またそこからダブルレーンチェンジで切り返しても、スムーズにスラロームできる。

 こうした走りから、スーパーハイトワゴンの低重心化(EV化)は走安面においても有効な手段だと感じた。軽自動車枠のサイズ設定に無理が出てきていることに変わりはないが、乗り心地も含めてこの安定感にはメリットが多い。

低重心が走りに効いていて、運転も楽しい

 ちなみにホンダは昨年6月からヤマト運輸とN-VAN e:の実証実験を始めており、ウェル・トゥ・ホイール(電気の発電から充電・消費まで)の観点から見てもN-VAN e:は、街中の配送だとこれまで使ってきたガソリン軽自動車よりも環境性能が高い。具体的にはCO2排出量が、およそ半分まで抑えられるようになったのだと言う。

 最後はわれわれのような一般ユーザーにとっての使い勝手だが、245kmの航続距離を考えれば、現実的にはそれが7掛けだったとしても、日常の通勤やデイリーユースは十分こなせるだろう。

 となると、給電ギアのキャラクターを生かしたキャンプやアクティビティを楽しむためにも、ロングドライブ時のユーザビリティを確かめたくなるが、これに関しては10月の発売に合わせた公道試乗までひとまずお預けだ。そしてもしその機会が得られたら、アクティビティ先でのSOC(電池残量)管理等と共に検証してみたい。

 総じてその第一印象は、とてもよかった。「働くクルマのEV化」は、アリだと思う。

働くクルマのEV化は断然“アリ!”と思わせてくれる試乗会だった
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートや、イベント活動も行なう。