試乗記

ヤマハ「MT-09 Y-AMT」に試乗 クラッチやシフト操作を廃した新開発トランスミッション「Y-AMT」を体験

2024年8月23日 開催

Y-AMTを搭載する「MT-09 Y-AMT」

 ヤマハ発動機は8月23日、クラッチレバーやシフトペダルを廃した新開発の自動変速トランスミッション「Y-AMT」の試乗会を開催。千葉県袖ケ浦市にある「袖ヶ浦フォレストレースウェイ」で2024年内に国内発売予定の「MT-09 Y-AMT」に試乗することができた。

 新電子制御シフト機構「Y-AMT」は、これまでスポーティなミッション車を扱う上で欠かせなかった「クラッチレバー」「シフトペダル」の操作を省きながら、スポーツ性と快適性を向上させる新技術となる。

スポーツモデルからクラッチレバーとシフトペダルが消えた!

「Y-AMT」は、ベース車両「MT-09」のMT変速機構に、シフト操作を行なうシフトアクチェーター、クラッチ操作を行なうクラッチアクチュエーターなどを搭載。ユニット重量は約2.8kgと軽量かつスリム・コンパクトな設計とし、ベース車両本来のスタイリングやハンドリングへの影響を最小限に抑えた。

 すでに「MT-09」に採用されているクイックシフター「第3世代クイックシフトシステム」では、シフトUP時は点火/噴射の制御、シフトDOWN時は電子制御スロットルの制御で、変速を実現させているが、「Y-AMT」では、点火/噴射、電子制御スロットルの制御に加えて、新たにシフトUP&DOWN時にクラッチ/シフトの制御を加えた。こうしたクラッチ&シフトアクチュエーターを制御により、MT車同等の発進加速をアクセル操作だけで実現させた。

「MT」「クイックシフター」「Y-AMT」、それぞれの変速時間については、シフトUP時の数値で、マニュアルシフトで0.2〜0.5秒、クイックシフターで0.1秒、Y-AMTで0.1秒という。また、Y-AMTでの0-400m加速は10.9秒という参考数値が公表されている。

より素早いシフトチェンジを実現するメカ部分の取り組み
MT、クイックシフター、Y-AMT、それぞれの特徴。クイックシフターでは半クラッチが使えないため低負荷時の変速が苦手といった特性があるが、Y-AMTは低負荷でもスムーズでY-AMTでは全域で良好な変速挙動をもつという。変速許可についても、クイックシフターではキックダウンなど領域に限定あるのに対して、Y-AMTでは常時変速を受け入れる

 千葉県袖ケ浦市「袖ヶ浦フォレストレースウェイ」で行なわれた試乗会では「MT-09」のY-AMTモデルとMTモデルに試乗することができた。試乗する記者のライディング技量を説明しておくと、バイクでサーキットを走行するは初めてなので、ここでは公道走行を想定した走り方や速度領域での印象をお伝えしたい。

 まず、Y-AMTモデルの発進までの手順としては、ブレーキをかけながらスタートスイッチを押すとエンジンが始動する、ギヤポジションをニュートラルから1速に入れると準備はOK。ニュートラルから1速にギヤが入るときに”カシャン”とショックがあるのはMTモデルと同じ感触。そこからアクセルを開けていくと、絶妙なクラッチコントロールでスルスルと発進していく。

「Y-AMT」では、ハンドシフトによる「MTモード」に加え、変速を自動化する「ATモード」を備えている。「MTモード」「ATモード」の変更は、右側のハンドルスイッチボックスに備えた切替ボタンが用意されている。

Y-AMTの使い方

 今回の試乗では「ATモード」にほとんどお任せして試乗してしまったのだが、「MTモード」を使用したい場合、左ハンドルにあるシフトスイッチの、人差し指側にある「+」を押すとシフトUP、親指側の「-」を押すとシストDOWN。「+」「−」のシフトスイッチはシーソータイプの一体型となっており、「+」を部分を使って人差し指だけで、シフトUPとDOWNの操作をできるようにもなっている。

 加速性能はどんなものだろうかと、ガバっとアクセルを開けて加速すると、ダイレクトなトルク感とともにほとんど継ぎ目を感じさせない加速を体験することができる。吸気サウンドまでデザインされたというサウンドの演出もあってか「ああ、これはスゴイ」と、4輪車で初めてDCT(デュアルクラッチトランスミッション)のクルマに乗ったときに感じた、感動を思い出した。

「MT-09 Y-AMT」

 ATモードにお任せした変速プログラムの印象については、例えばブレーキを使わないでクリアしたいなという緩やかなコーナーを走る場面では、アクセルをちょっと抜くのに合わせてシフトダウンもしてくれる、「そうそうシフトダウンも欲しかったのよ」と、かゆいところに手が届く感覚の制御をしてくれる。

 また、車体を傾けてコーナーリングしている途中にも積極的にシフト操作をしてくれるのも印象に残った。「こんなタイミングにシフト操作するの?」と最初は躊躇するも、同じコーナーを何回か走り込んでいくと、Y-AMTが行なうシフト操作に対して「ああ、正解だな」と納得。なにやらプロライダーのライディング技術をマシンから教えてもらっているようで、嬉しい感じもする。

Y-AMTのカットモデル
車体をバンクしている状態でもシフト操作は行なわれるが、その姿勢に影響を与えることもなく静かにシフト操作を終えてくれるなど精密な制御が行なわれている

「MT」モデルと「Y-AMT」モデルどちらを選んだらよいか?という悩みについては、このクラスのバイクは趣味性の高い乗り物だとおもうので、これはもう好みの問題。クラッチやシフトを操作する喜びを優先するなら「MT」モデル、マシンの先進性を楽しむのであれば「Y-AMT」という具合だろうか。「Y-AMT」モデルは、クラッチレバーやシフトペダルのないので「AT限定大型二輪免許」で乗れるモデルとなるが、免許の条件をクリアしたからといって飛びつくのではなく、一度は試乗してみることをおすすめする。

「MT-09」というモデルに対しては、サーキットという舞台で「Y-AMT」モデルと「MT」モデルの2台を乗ってみた印象として、どちらを選んでも楽しいモデルであることには違いないと感じた。サーキットでず〜と1日中乗りまわして、ハングオンとひざすりの練習に挑戦したくなるバイクかなと思った。

編集部:椿山和雄