試乗記

「メルセデスAMG GT 63 クーペ」「CLE カブリオレ」試乗 個性の違うスポーツカーに見つけた共通点

「CLE 200 カブリオレ スポーツ」(左)と「メルセデス AMG GT 63 4MATIC+ クーペ」(右)に岡本幸一郎が試乗

両極のスポーツカーを乗り比べ

 メルセデス・ベンツはスポーツカーだって大得意であることはかねてからお伝えしているとおりだ。その中から、もっとも硬派なモデルと、もっとも軟派な……というと語弊があるかもしれないが、2代目を迎えたメルセデスAMG GTクーペと、少し前にクーペをレポートしたCLEのカブリオレという、スポーツカーのラインアップの中で両極といえる2台の最新モデルを乗り比べた。

 AMG GTクーペは2014年に登場した初代から、このほど第2世代に移行したばかり。内容的にはメルセデスAMGの一員となったSLとの共通性が高い。

 おなじみのワンマン・ワンエンジンを示すプレートの貼られた4.0リッターV8ツインターボは、「63」らしく585PSもの最高出力と800Nmもの最大トルクを誇り、トルクコンバーターのかわりに多板クラッチを配した9速ATのスピードシフトMCTが組み合わされる。初代はRWDのみだったが2代目は4MATIC+となったのも大きなポイントだ。

 さらに特徴的な要素として、新たにAMGアクティブライドコントロールサスペンションが搭載されたほか、初代で非装着グレードもあったリアアクスルステアリングが、2代目では標準装備となったことなどが挙げられる。

 また、電子制御のAMGリミテッドスリップデフのほか、状況によって磁性流体によりマウントの硬さを自動的に可変制御する、初代でも注目されたAMGダイナミックエンジンマウントも継続して採用される。

 トランク容量は標準の2シーター仕様が321Lとなるのに対し、オプションの2+2仕様を選択して可倒式リアシートを折りたたむと675Lのスペースが創出されて、ゴルフバッグも積めるようになる。

メルセデスAMG GT 63 4MATIC+ クーペ(2750万円/車両提供:メルセデス・ベンツ日本合同会社)。ボディサイズは4730×1985×1355mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mm。車両重量は1940kg
メルセデスAMG GT 63 4MATIC+ クーペのインテリア
パワートレーンは最高出力430kW(585PS)/5500-6500rpm、最大トルク800Nm/2500-5000rpmを発生するV型8気筒4.0リッター「M177」エンジンを搭載。トランスミッションには9速ATを組み合わせる。駆動方式は4MATICの名が示すとおり4輪駆動

ダイナミックかつ快適に

 AMG GT63 4MATIC+クーペをドライブした第一印象としては、乗り心地がずいぶんよくなっていることに驚いた。初代はかなりスパルタンで、途中でいくぶんマイルドになったものの、とくに登場当初は路面の凹凸を拾って地響きするほどだったが、いずれに対しても別物になっている。乗りやすくてスタビリティも高い。

 それでいてGTクーペの持ち味である極めてダイナミックな走りにはさらに磨きがかかっている。この日は公道を普通に走っただけだが、こんなにステアリング操作に対してクルマ全体が一体になって正確についてくる感覚を味わえるクルマはなかなかない。コーナリングではまったくロールせず、限界がはるか彼方にあって、ペースを上げてもどこまでも行けそうな感覚がある。

 前述したいくつもの特徴的な機構の相乗効果で、初代で見受けられた難点を払拭し、普段は十分な快適性が確保されていながらも、いざとなればサーキットでもパフォーマンスを存分に引き出して楽しめるクルマに仕上がっている。

 一体感のある走りの実現には、エンジンも効いている。4.0リッターV8はとてつもなく力強く、内燃エンジンでもここまでできることに感心せずにいられないほどレスポンシブでコントロール性にも優れる。迫力あるV8サウンドにもホレボレする。

 走行モードは、雪マークのスリパリー、インディビジュアル、コンフォート、スポーツ、スポーツプラス、チェッカーフラッグの描かれたレースモードの6つが選べるようになっていて、スポーツモードとスポーツプラスモードでもかなり変わる。

 具体的には、スポーツモードでも十分に速さを味わえるところ、スポーツプラスモードにすると、さらに瞬発力が高まり中間加速の盛り上がり感が増す。エキゾーストサウンドが大きくなり、アクセルオフ時にはバブリング音による演出もある。このハンドリングとエンジンフィールは、やみつきになりそうだ。

万能な4座オープン

 CLEカブリオレは、メルセデス・ベンツでは本稿執筆時点で唯一の2+2ではない4人乗りのカブリオレとなる。一時期は、Sクラス、Eクラス、Cクラスのすべてにクーペとカブリオレがラインアップされていたが、現状は集約する方針のようだ。

CLE 200 カブリオレ スポーツ(936万円/車両提供:メルセデス・ベンツ日本合同会社)。ボディサイズは4850×1860×1425mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2865mm。車両重量は1900kg
CLE 200 カブリオレ スポーツのインテリア
パワートレーンは最高出力150kW(204PS)/5800rpm、最大トルク320Nm/1600-4000rpmを発生する直列4気筒2.0リッターターボ「254M20」エンジンを搭載。加えて、オルタネーターとスターターの機能を兼ねる最高出力17kW/1500-3000rpm、最大トルク205Nm/0-750rpmを発生する交流同期モーター「EM0024」を用いる「ISG」(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を搭載。トランスミッションは9速ATを採用する。駆動方式は後輪駆動

 試乗した「CLE 200 カブリオレ スポーツ」には、204PSと320Nmを発生する2.0リッター直4エンジンと9速ATにISGが組み合わされる。オプションの20インチタイヤ&ホイールを履き、ダイナミックボディコントロールサスペンションも付く。

 この組み合わせの乗り味が絶妙で、CLEクーペに試乗した際も非常に好印象だったように記憶しているが、カブリオレでもそのよい印象は変わることはなかった。オープンカーだとどうしてもボディ剛性が下がったり車両重量が増加したりするものだが、クーペと比べると多少は落ち込みを感じたものの、単体で乗って、世の一般的な水準からすると、オープンカーでここまでできているとはさすがというほかないように思えた。

 アームレストの部分にある3つのスイッチで、電動ソフトトップの開閉とエアキャップを出すかどうかを操作できて、トップは約20秒で開閉可能となっている。ちょうど試乗中に突然雨が降ってきたので、約60km/hまでは走行中でもルーフが開閉できることを実際に確認することもできた。閉めてもあまり運転席からの周囲の視界が悪化しないあたりも、おそらく大いに配慮して設計されているのだろう。

 メルセデスのオープンカーの特徴的装備であるエアキャップを出すと、見てくれは……ではあるが、4シーターで開口面積が広いため2シーターほどの効果はないものの、たしかに効果はある。また、冬場の寒い時期にはシートの首元から温風を吹き出してくれるエアスカーフが役に立つに違いない。リアシートの居住空間も十分に確保されているので、フル乗車して全乗員で快適にオープンエアドライブを満喫できるのもうれしい。

 エンジンが直4というのがひっかかる人も少なくないことだろうが、性能的には十分すぎるほどで、ノイズや振動が気にならないよう入念に対策されていたことには違いない。

 乗り心地は心なしかクーペよりも路面感度がマイルドに味付けされていて、なおかつ横方向の動きもおだやかだと思ったら、試乗車にはリアアクスルステアリングが装着されていないという大きな違いがあった。カブリオレにはこちらのほうが似合いそうだ。

 トランクはトップの開閉に合わせてパーテーションにより仕切られる位置が変わるようになっている。トランクスルーもできるので、意外と長尺物の積載にも対応する。

 インテリアの各部のパネルやシートのデザインも、オープンにして周囲に見せたくなるほどオシャレで見応えがある。メディアディスプレイがSLと同じく角度が調整できるようになっているのも重宝する。もちろんMBUXなどインフォテイメント系も最新のものがぬかりなく搭載されている。

 数少ない4座のオープンカーの中でも、もっともオシャレで走りがよくて快適で利便性にも優れた万能な1台といって過言ではない。

 メルセデスAMG GT 63 4MATIC+ クーペとCLE 200カブリオレ スポーツ。2台の方向性はそれぞれだが、お互い立ち位置を“極めた”点では共通していたといえそうだ。

メルセデスAMG GT 63 4MATIC+ クーペ

AMG独自開発モデルとなるメルセデスAMG GT 63 4MATIC+ クーペ。ワイドな専用フロントグリルや、ロングホイールベース、ショートオーバーハングなど、独特のデザインが取り入れられている。リアエンドには電動格納式のリトラクタブルリアスポイラーも備わる。タイヤサイズはフロント295/30R21、リア305/30R21。試乗車はミシュラン「パイロットスポーツ S 5」を装着
アナログとデジタルを融合した“ハイパーアナログ”デザインのインテリア。ウイング形状のダッシュボードや、NACTダクトデザインの採用など、航空機からインスパイアされたデザインが用いられている。12.3インチのデジタルコックピットディスプレイは好みに応じて表示を変更可能。11.9インチの縦型メディアディスプレイも標準装備され、「Hi, Mercedes」をキーワードとして起動する対話型インフォテインメントシステム「MBUX」の第2世代が搭載される
アファルターバッハで「One Man, One Engine」の原則に則って生産される最高出力430kW(585PS)/5500-6500rpm、最大トルク800Nm/2500-5000rpmを発生するV型8気筒4.0リッター「M177」エンジン。トランスミッションは湿式多板クラッチを採用したはAMGスピードシフトMCT9速トランスミッションを採用

CLE 200 カブリオレ スポーツ

現時点でメルセデス・ベンツブランドとして唯一のカブリオレモデルとなるCLE 200 カブリオレ スポーツ。AMGラインエクステリアを標準装備し、力強くスポーティなスタイリングとなっている。試乗車はオプションのドライバーズパッケージを装着しているため、タイヤサイズは通常の19インチからフロント245/35R20、リア275/30R20にサイズアップ。装着タイヤはグッドイヤー「イーグル F1 アシメトリック 5」となっていた
ソフトトップは60km/h以下であれば約20秒で開閉可能。アコースティックソフトトップは遮音性と耐候性に優れており、室内のノイズを大幅に抑制する
キャビン内へ風の巻き込みを低減するフロントウィンドウ上縁のウインドウディフレクターと、後席後ろのドラフトストップより構成されるエアキャップを採用
12.3インチと11.9インチの高解像度ディスプレイを採用したインテリア。中央のメディアディスプレイは、ソフトトップ開放時に日光の差し込む向きが変わることで生じる光の反射を防ぐため、傾きが調整可能。MBUXは第3世代となり、「Hi, Merceses」の音声キーワードなしで起動するJust Talk機能に対応した
フロントシートはCLE専用に開発。首元を暖めるエアスカーフやシートヒーターといったオープンエアドライブを楽しむための機能が採用されている
オプションの本革シートには、太陽の赤外線を反射する特殊コーティングが施され、夏場に暑くなりすぎないようになっている
荷室容量はVDA方式で295~385L。60:40の分割可倒式リアシートのバックレストを倒すことで、長尺物も搭載可能
最高出力150kW(204PS)/5800rpm、最大トルク320Nm/1600-4000rpmを発生する直列4気筒2.0リッターターボ「254M20」エンジンに加え、最高出力17kW/1500-3000rpm、最大トルク205Nm/0-750rpmを発生する交流同期モーター「EM0024」を用いる「ISG」技術搭載モデル。トランスミッションは9G-TRONICオートマチックトランスミッションを採用。駆動方式は後輪駆動
岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸