試乗記

メルセデス・ベンツのEV「EQA」「EQB」乗り比べ 同じSUVでもそれぞれ違う個性

岡本幸一郎がメルセデス・ベンツのEQA(左)とEQB(右)に試乗

内外装の質感向上と最新の装備

 充実したラインアップを誇るメルセデス・ベンツのEV(電気自動車)のエントリークラスを担う、売れ筋の「EQA」と「EQB」が新しくなり、内外装の質感が高められたほか、最新のいろいろな機能が盛り込まれるなど、見た目も中身も少なからず変わった。

 まずはEQAとEQBの両車に共通する部分から。エクステリアでは「プログレッシブ・ラグジュアリー」のコンセプトのもと、立体的なスターパターンを配したグリルやバンパーなどフロントフェイスやリアコンビネーションランプの内部のデザインが変わったほか、ホディカラーに新色が追加された。

 インテリアでは、無数のスリーポインテッドスターを助手席前のインテリアトリムに浮かび上がらせる「スターパターンインテリアトリム」が採用されたので、ナイトドライブの楽しみが増えた。センターコンソールにあったタッチパッドがなくなりスッキリとしたのも歓迎だ。

 第2世代のMBUXの搭載にともない、多くの機能を備えた新世代のステアリングホイールが採用された。ハンズオフ検知のためのセンサーがトルク感応式から静電容量式に変わったことで、使い勝手が向上したのもありがたい。

 第2世代に進化して各種表示が分かりやすくなったのも特徴だ。EV専用のナビゲーションサービスもより充実し、スマートフォンとの連携も強化された。具体的には近くの充電ステーションを探して目的地として車両に送信したり、ボタン1つでプリエントリークライメートコントロールにより、あらかじめ車内を設定した温度に調整したりできる。

スマートフォン用アプリ「Mercedes me アプリ」の機能を充実。「プリエントリークライメートコントロール」という機能ではエアコンを遠隔で始動でき、乗車前に車内を快適な温度にできる。また、次の目的地や駐車場情報を事前に設定できる「Send2Car」、リモートドアロック&アンロックといった機能にも対応している

 また、今回のハイライトの1つとして、V2H/V2Lへの対応が挙げられる。メルセデス・ベンツではGLC以外のEVが対応し、もちろん補助金の面でもより優遇される。試乗をした時点ではEVを手がけるヨーロッパのメーカーで唯一V2H/V2Lに対応していたが、その後、BMWのEVもV2H/V2Lに対応したので唯一ではなくなってしまったものの、先駆者であることは間違いない。

V2H/V2Lに対応しているため、車両のバッテリにためておいた電気を建物や家電製品などに供給可能。停電や災害時などに非常用電源としても利用できる

EQAの一充電走行距離が591kmに

 試乗したAMGラインパッケージ装着車の目印である非常に凝ったデザインのホイールは、掃除が大変そうではあるがとても見栄えがよく、個人的にも好みだ。

 ちょうどいいサイズの都市型SUVのEVとなるEQAは、190PSと385Nmを発揮するモーターをフロントに搭載し、今回バッテリ容量が66.6kWhから70.5kWhに増えたことで、グレード名には「+」が付いて「EQA 250+」となった。

 当初は誘導モーターを採用していたが、ほどなく年次変更のタイミングで採用された同期モーターをその後も搭載している。デビュー時からモーターやバッテリ容量が変わったことで、最大トルク値が当初より15Nm大きくなり、一充電の走行距離も422kmから実に4割増の591kmまで伸びたことに注目だ。

EQA 250+(771万円/車両提供:メルセデス・ベンツ日本合同会社)。ボディサイズは4465×1835×1610mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2730mm。車両重量は1980kg。一充電走行距離(WLTCモード/国土交通省審査値)は591km
EQA 250+のインテリア

 一方のEQBは、多様なライフスタイルにフィットした3列シート7人乗りのEVで、前輪駆動の「EQB 250+」と、試乗した前後2モーターの「EQB 350 4MATIC」という2モデル体系となる。

「EQB 250+」はフロントに190PSと385Nmの同期モーターを搭載するのに対し、「EQB 350 4MATIC」はフロントに誘導モーター、リアに同期モーターと使い分けており、最高出力が292PS、最大トルクが520Nmと、AMGモデルなみの性能を持ち合わせていることに注目だ。スペック含めモーターはデビュー時から不変だが、バッテリ容量が大きくなった。

EQB 350 4MATIC(899万円/車両提供:メルセデス・ベンツ日本合同会社)。ボディサイズは4985×1835×1705mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2830mm。車両重量は2160kg一充電走行距離(WLTCモード/国土交通省審査値)は547km
EQB 350 4MATICのインテリア

 EQAとEQBではもちろん共通性は高いが、せっかく2モデルに分けたのだからなおのこと、お互いそれぞれにふさわしく作り分けられていて、クルマとしての性格はだいぶ異なる。

 車内は3列目の有無だけでなく、1列目や2列目の居心地もかなり違う。EQAは、ファミリーカーとして使いたいユーザーにとっても大きな不満はないであろう実用性を備えながらも、どちらかというとパーソナルカーよりで、ドライブフィールも分かりやすくスポーティに味付けされている。

 対するEQB は、このサイズながらクラス上のクルマに負けないほどファミリーカーとしての資質が高い。乗り心地からして快適性重視で、1列目のヒップポイントが高く、外見のとおりガラスウインドウが立っているのでより広く感じられる。

 2列目も広々としていて、シートの前後スライドやリクライニングもできる。ヒール段差も十分に確保されているので、後席に成人を乗せる機会の多いユーザーにも適しそうだ。

 EQBの3列目は、内燃エンジン版のGLBに対して微妙に狭くなっているといいながらも、3列シート車として十分に使える広さは確保されていて、外見から想像するよりもしっかり座れて、不要なときは床下にスッキリと格納できるので便利に使えそうだ。

それぞれのモデルにふさわしい走り

 ドライブフィールについてもう少し述べると、EQAはやはりアジリティ重視で、瞬発力がありキビキビ走れて、エコな中にも乗り手にドライビングを楽しんでほしいという主張が感じられる。しかも、デビュー当初はいろいろ荒削りな感があったところ、まだ過敏な傾向は見受けられるものの、全体的に洗練されて扱いやすくなり、乗り心地もずいぶん快適になったように感じられた。とくに何か変えたとは伝えられていないが、そうしたところもしっかりと進化しているようだ。

 電費にも期待できそうだ。限られた時間の中でいろいろな走り方をしたので正確には計測していないが、もっと減ってもおかしくないような走り方も試したわりにはなかなか減らないように思えた。

 一方のEQBも電費のよい印象では大差はなく、クセもなくいたって乗りやすい。走りは同乗者のことを意識した味付けで、乗り心地がよく動きはおだやかで挙動が乱れにくい。アクセルレスポンスもリニアな特性でありつつ、最初のひと転がりは同乗者に配慮してカドが丸められている。

 乗り味は異なれど、どちらも正確なハンドリングと高いスタビリティで共通しているのはさすがというほかないが、ちょっと気になったのはブレーキフィールだ。回生による取り分を重視してか、踏み方に対する反応がリニアでないところが見受けられる。

 むしろ、フットブレーキをできるだけ使わず、コツをつかんで回生をうまく使ったほうがスムーズに走れそうだ。最大回生を選択すると、ほぼワンペダルドライブができるようになり、減速度も強すぎず扱いやすい。

 さらには、インテリジェント回生が非常に重宝する。前走車との適切な距離を保ってくれるほか、巡行状態では平坦ならコースティングし、下り勾配では回生して車速を抑えてくれる。状況によっては急減速するときもあるが、迷ったらパドルを長引きして「D AUTO」にしておけばいい。

 デビュー当初に比べると価格は高くなっているが、この価格帯でこれだけ高いバリューを持ったクルマというのはなかなかないように思う。また、お伝えしたような進化に加えて今回、V2HとV2Lに対応したことをあらためて念を押しておきたい。

EQA 250+

日本の道路環境下でとりまわしのしやすいサイズでありながら、SUVとしての日常の使い勝手も両立させたEVとなるEQA。前後のオーバーハングが短く、パワフルでありながらもクーペのようにスタイリッシュで、曲線を用いたデザインが特徴で、立体的なスターパターンをあしらった「フロントグリル」に加え、フロントバンパー、リアコンビネーションランプに新デザインが用いられた。撮影車はオプションのAMGラインパッケージ選択時の20インチホイールに、235/45R20サイズのコンチネンタル「エココンタクト 6」を装着
普通充電(AC200V)と急速充電(CHAdeMO)に対応。急速充電の場合、電池残量10%から80%まで約50分(90kWタイプ)、もしくは約79分(50kWタイプ)で充電可能。メルセデス・ベンツの提供する充電用ウォールユニット(定格30A/6kWタイプ)であれば、約11時間50分でフル充電できる
新世代のステアリングホイールを採用したインテリア。ナビゲーションやインストルメントクラスター内の各種設定、ドライビングアシスタンスパッケージの設定を手元で完結できる機能性も有している。また、夜間走行時に無数のスリーポインテッドスターを助手席前部のインテリアトリムに浮かび上がらせる「スターパターンインテリアトリム(バックライト付)」も採用された。ステアリングに搭載されるパドルでは回生の強弱を「通常回生」(D+)、「強力回生」(D)、「最大回生」(D-)から選択可能。どちらかのパドルを長引きすると「インテリジェント回生」(D AUTO)となる
リアシート
フロントシート
ラゲッジ容量はVDA方式で340~1320L

EQB 350 4MATIC

長いホイールベースを活かした7名の乗車ができる3列シートを備え、大きな荷物も積載できるなど日常の使い勝手も両立させたEQB。前後のオーバーハングが短く、タイヤをボディの四隅に配置して居住空間を最大限確保するという機能的パッケージを大切にしながら、筋肉質でエモーショナルな都市型SUVの洗練されたプロポーションとなっている。撮影車はオプションのAMGラインパッケージ選択時の20インチホイールに、235/45R20サイズのピレリ「P ZERO」を装着
EQA同様の新世代ステアリングホイールを採用したインテリア。新世代ステアリングはアクティブディスタンスアシスト・ディストロニック使用時のハンズオフ検知機能のために、リムに静電容量式センサーを備えたパッドを新しく採用し、ステアリングホイールにかかるトルクがなくとも、ドライバーがステアリングホイールを握っていることを認識可能としている
フロントシート
リアシート
3列目シート
3列目のシートアレンジ

【お詫びと訂正】記事初出時、EQAのキャプション表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸