試乗記
メルセデス・ベンツのEV「EQA」「EQB」乗り比べ 同じSUVでもそれぞれ違う個性
2024年8月21日 00:00
内外装の質感向上と最新の装備
充実したラインアップを誇るメルセデス・ベンツのEV(電気自動車)のエントリークラスを担う、売れ筋の「EQA」と「EQB」が新しくなり、内外装の質感が高められたほか、最新のいろいろな機能が盛り込まれるなど、見た目も中身も少なからず変わった。
まずはEQAとEQBの両車に共通する部分から。エクステリアでは「プログレッシブ・ラグジュアリー」のコンセプトのもと、立体的なスターパターンを配したグリルやバンパーなどフロントフェイスやリアコンビネーションランプの内部のデザインが変わったほか、ホディカラーに新色が追加された。
インテリアでは、無数のスリーポインテッドスターを助手席前のインテリアトリムに浮かび上がらせる「スターパターンインテリアトリム」が採用されたので、ナイトドライブの楽しみが増えた。センターコンソールにあったタッチパッドがなくなりスッキリとしたのも歓迎だ。
第2世代のMBUXの搭載にともない、多くの機能を備えた新世代のステアリングホイールが採用された。ハンズオフ検知のためのセンサーがトルク感応式から静電容量式に変わったことで、使い勝手が向上したのもありがたい。
第2世代に進化して各種表示が分かりやすくなったのも特徴だ。EV専用のナビゲーションサービスもより充実し、スマートフォンとの連携も強化された。具体的には近くの充電ステーションを探して目的地として車両に送信したり、ボタン1つでプリエントリークライメートコントロールにより、あらかじめ車内を設定した温度に調整したりできる。
また、今回のハイライトの1つとして、V2H/V2Lへの対応が挙げられる。メルセデス・ベンツではGLC以外のEVが対応し、もちろん補助金の面でもより優遇される。試乗をした時点ではEVを手がけるヨーロッパのメーカーで唯一V2H/V2Lに対応していたが、その後、BMWのEVもV2H/V2Lに対応したので唯一ではなくなってしまったものの、先駆者であることは間違いない。
EQAの一充電走行距離が591kmに
試乗したAMGラインパッケージ装着車の目印である非常に凝ったデザインのホイールは、掃除が大変そうではあるがとても見栄えがよく、個人的にも好みだ。
ちょうどいいサイズの都市型SUVのEVとなるEQAは、190PSと385Nmを発揮するモーターをフロントに搭載し、今回バッテリ容量が66.6kWhから70.5kWhに増えたことで、グレード名には「+」が付いて「EQA 250+」となった。
当初は誘導モーターを採用していたが、ほどなく年次変更のタイミングで採用された同期モーターをその後も搭載している。デビュー時からモーターやバッテリ容量が変わったことで、最大トルク値が当初より15Nm大きくなり、一充電の走行距離も422kmから実に4割増の591kmまで伸びたことに注目だ。
一方のEQBは、多様なライフスタイルにフィットした3列シート7人乗りのEVで、前輪駆動の「EQB 250+」と、試乗した前後2モーターの「EQB 350 4MATIC」という2モデル体系となる。
「EQB 250+」はフロントに190PSと385Nmの同期モーターを搭載するのに対し、「EQB 350 4MATIC」はフロントに誘導モーター、リアに同期モーターと使い分けており、最高出力が292PS、最大トルクが520Nmと、AMGモデルなみの性能を持ち合わせていることに注目だ。スペック含めモーターはデビュー時から不変だが、バッテリ容量が大きくなった。
EQAとEQBではもちろん共通性は高いが、せっかく2モデルに分けたのだからなおのこと、お互いそれぞれにふさわしく作り分けられていて、クルマとしての性格はだいぶ異なる。
車内は3列目の有無だけでなく、1列目や2列目の居心地もかなり違う。EQAは、ファミリーカーとして使いたいユーザーにとっても大きな不満はないであろう実用性を備えながらも、どちらかというとパーソナルカーよりで、ドライブフィールも分かりやすくスポーティに味付けされている。
対するEQB は、このサイズながらクラス上のクルマに負けないほどファミリーカーとしての資質が高い。乗り心地からして快適性重視で、1列目のヒップポイントが高く、外見のとおりガラスウインドウが立っているのでより広く感じられる。
2列目も広々としていて、シートの前後スライドやリクライニングもできる。ヒール段差も十分に確保されているので、後席に成人を乗せる機会の多いユーザーにも適しそうだ。
EQBの3列目は、内燃エンジン版のGLBに対して微妙に狭くなっているといいながらも、3列シート車として十分に使える広さは確保されていて、外見から想像するよりもしっかり座れて、不要なときは床下にスッキリと格納できるので便利に使えそうだ。
それぞれのモデルにふさわしい走り
ドライブフィールについてもう少し述べると、EQAはやはりアジリティ重視で、瞬発力がありキビキビ走れて、エコな中にも乗り手にドライビングを楽しんでほしいという主張が感じられる。しかも、デビュー当初はいろいろ荒削りな感があったところ、まだ過敏な傾向は見受けられるものの、全体的に洗練されて扱いやすくなり、乗り心地もずいぶん快適になったように感じられた。とくに何か変えたとは伝えられていないが、そうしたところもしっかりと進化しているようだ。
電費にも期待できそうだ。限られた時間の中でいろいろな走り方をしたので正確には計測していないが、もっと減ってもおかしくないような走り方も試したわりにはなかなか減らないように思えた。
一方のEQBも電費のよい印象では大差はなく、クセもなくいたって乗りやすい。走りは同乗者のことを意識した味付けで、乗り心地がよく動きはおだやかで挙動が乱れにくい。アクセルレスポンスもリニアな特性でありつつ、最初のひと転がりは同乗者に配慮してカドが丸められている。
乗り味は異なれど、どちらも正確なハンドリングと高いスタビリティで共通しているのはさすがというほかないが、ちょっと気になったのはブレーキフィールだ。回生による取り分を重視してか、踏み方に対する反応がリニアでないところが見受けられる。
むしろ、フットブレーキをできるだけ使わず、コツをつかんで回生をうまく使ったほうがスムーズに走れそうだ。最大回生を選択すると、ほぼワンペダルドライブができるようになり、減速度も強すぎず扱いやすい。
さらには、インテリジェント回生が非常に重宝する。前走車との適切な距離を保ってくれるほか、巡行状態では平坦ならコースティングし、下り勾配では回生して車速を抑えてくれる。状況によっては急減速するときもあるが、迷ったらパドルを長引きして「D AUTO」にしておけばいい。
デビュー当初に比べると価格は高くなっているが、この価格帯でこれだけ高いバリューを持ったクルマというのはなかなかないように思う。また、お伝えしたような進化に加えて今回、V2HとV2Lに対応したことをあらためて念を押しておきたい。