試乗レポート

メルセデス・ベンツの新型バッテリEV「EQB」、日本で購入できるBEVの中でもっとも万能なマルチプレイヤー

GLBの強みの大半を受け継ぐ

 ベースである「GLB」は、手ごろなサイズながら3列シートによりいざとなれば7人が乗れる利便性や、日本人好みのスクエアなフォルムがウケて、このところずっと価格の安い「GLA」よりも売れ行きが好調だ。そんなGLBが支持されている部分をそのままに、電動パワートレーンが与えられた「EQB」の導入を心待ちにしていた人も少なくないことだろう。

 基本骨格は同じでもエクステリアの目立つ部分がGLBに対して分かりやすく差別化されているのは見てのとおりで、AMGラインパッケージの有無によりスタイリング、サスペンション、タイヤ/ホイール、ステアリング、シートなどが違うのでだいぶ印象が変わる。

今回試乗したのは7月に発売となったメルセデス・ベンツのバッテリEV(電気自動車)第3弾となる「EQB」。EQBは「EQB 250」「EQB 350 4MATIC」の2モデルが用意され、写真のEQB 250(788万円)はフロントアクスルに新設計の永久磁石同期モーターが搭載される前輪駆動モデル。ボディサイズは4685×1835×1705mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2830mm。前後アクスル間のフロア部に搭載されるリチウムイオンバッテリの容量は66.5kWh。航続距離はEQB 250が520km、EQB 350 4MATICが468kmとなっている
都市型SUVの洗練されたプロポーションを持つEQBでは、中央にスリーポインテッドスターを配したブラックパネルグリルを採用。一見するとGLBと共通のスタイルに見えるが、前後エプロンの形状変更が行なわれるとともに、空力特性や風切り音の低減を考慮したドアミラー、ボディ下側を流れる空気を整流するために刷新したアンダーボディパネル、ルーフスポイラーなどさまざまな個所で空力の最適化が行なわれた。EQB 250の足下は18インチアルミホイールにブリヂストン「トランザ T005」(235/55R18)を組み合わせる。充電については6.0kWまでの交流普通充電と、100kWまでの直流急速充電(CHAdeMO規格)に対応

 車内の作りはGLBと同じように見えるが、実は2列目シート以降のフロアが底上げされていて、GLBでは身長168cmまで対応と伝えられていた3列目シートが、EQBでは165cmまでとなった。実際にGLBと座り比べてみるとたしかに違って、2列目は微妙に狭くなったかなという程度だが、3列目は身長172cmの筆者が座ってもGLBではわずかに隙間ができたところ、EQBはルーフに頭頂部が触れる。

 荷室もボード下の作りが違って、GLBでは後端に収めることのできたトノカバーが、EQBでは収められなくなっている。とはいえ、“パッケージングの天才”だと個人的にも感じていたGLBが誇る強みの大半をEQBも受け継いでいることには違いない。BEV(バッテリ電気自動車)では貴重な7人乗りである点は、EQBの大きな特徴の1つだ。

 インパネのディスプレイの表示やインフォテイメントの機能もBEV化をふまえて最適化されている。独自の音声認識システム「MBUX」には、電動化に合わせていくつかの専用のコマンドも設定されている。テレマティクスサービスの「Mercedes me connect」のいくつかの機能もiPhoneを使って試してみた。あらかじめ室内を快適な温度にしておくぐらいは朝飯前。カーナビの目的地も遠隔設定できて、しかも3つの単語で場所を正確に表すという斬新な位置情報テクノロジー「what3wards」を採用していることにも注目だ。

インテリアではアルミニウムルックのチューブ形状デザインがドアやコンソール、助手席側のダッシュボードに施された。センターディスプレイにある「メルセデスEQ」のアイコンに触れると、充電に関する選択や電力消費、エネルギーフローなどを確認できる
2830mmという長いホイールベースを活かして広い室内空間を実現するEQB。2列目シートは140mm調整が可能な60:40分割の前後スライド機構を備え、3列目シートは2列目シートのバックレストにあるロック解除レバーを操作することで、2列目シートが前に倒れてスライドし、ワンタッチで乗り降りすることが可能
モーターのコイルの色をモチーフにしたローズゴールドカラーの加飾が前席エアアウトレットやクルマのキーなどに与えられる。走行モードはインディビジュアル、スポーツ、コンフォート、エコから選択可能
コクピットディスプレイは表示デザインの切り替えが行なえる
ラゲッジスペースのレイアウト
GLBの3列目シートに座ったところ。頭部の余裕はGLBに軍配が上がる
撮影したEQB 350 4MATICはAMGラインパッケージ装着車で、スポーツサスペンションや20インチAMGマルチスポークアルミホイール(タイヤはピレリ「P ZERO」でサイズは235/45R20)、スポーツシートなどを装備

同期モーターの恩恵

 走りについて、ひとあし早く投入されたEQAのパワートレーンが移植されるものと思いきや、そうではなかった。EQBにはこれまでメルセデスが使ってきた誘導モーターではなく、新設計の同期モーターが採用された点に注目だ。

 EQB 250は190PSと385Nmの同期モーターで前輪を駆動。EQB 350 4MATICは誘導モーターをフロントに、より強力な同期モーターをリアに搭載しており、システム最高出力292PS、同最大トルク520Nmで4輪を駆動する。66.5kWhのバッテリ容量は共通で、WLTCモード航続距離は、新しい同期モーターの採用も効いて、EQB 250では528kmに達した。急速充電は100kWまで対応している。今後、日本でも90kW級の充電器が増えてくると思われるが、その恩恵にもあずかれる。

EQB 250の最高出力は140kW(190PS)、最大トルクは385Nm。EQB 350 4MATICの最高出力は215kW(292PS)、最大トルクは520Nmを発生

 ご参考まで、両車の車両重量は2160kgと2100kgと60kgの差で、車検証の記載による前後軸重は、EQB 350 4MATICが前軸重1060kgで後軸重1100kgと後軸重のほうが重く、EQB 250が前軸重1070kgで後軸重1030kgと前軸重がEQB 350 4MATICよりもわずかに大きくなっている。

 同期モーターが効いてか、走りは記憶にある先発の「EQC」やEQAに比べて、いくぶんなめらかさや緻密さがが増して洗練されたように感じられた。静粛性も非常に高い。ただし、乗り比べた標準のEQB 250と、AMGラインパッケージ付きのEQB 350 4MATICではかなり走りが違った。BEVらしい俊敏なレスポンスと力強くリニアな加速フィールではいずれも共通しているが、動力性能は段違い。それもそのはず、0-100km/h加速タイムは9.2秒と6.2秒と3秒も違う。ただし、前輪駆動のEQB 250も踏み込むとトルクステアが出るほど力強い。加速の仕方も前輪駆動とリア重視の全輪駆動では別物だ。応答がダイレクトなBEVだからなおのこと、より駆動方式の違いが顕著に表れているようだ。

 回生レベルは4通りにパドルで選択できる。通常は「D Auto」に設定しておけば、レーダーが検知した先行車両との車間距離や走行状況に応じて回生レベルを自動調整してくれるので、市街地から高速道路までスムーズに効率よく走れる。

本命はAMGラインパッケージ

 車高は1.7mを超えており、ボディ形状もスクエアなわけだが、操縦感覚に重心の高さを感じさせないあたりは、バッテリをフロア下に搭載したことで重心が低くなり、前後重量配分のバランスもよくなるBEVの強みが表れている。さらには、強固なバッテリ搭載への手当てにより剛性感も高まっていて、動きが素直で一体感がある。

 AMGラインパッケージについて、諸元表でも「装着車」と「非装着車」と表記されているとおり、装着車のほうが基準とメルセデス自身も捉えているようだが、装着すると足まわりではタイヤ/ホイールが18インチから20インチとなり、コンフォートサスペンションがスポーツサスペンションとなり、ダイレクトステアリングも備わる。

 AMGラインパッケージのスポーツサスペンションに付くアジャスタブルダンピングシステムが秀逸で、モードの選択により乗り味が変わるのはもちろん、路面の状況に応じて減衰力を最適に調整してくれて、荒れた路面もしなやかに追従してフラットな走りを実現している。操舵に対する応答遅れが小さく、適度に俊敏なハンドリングを楽しめるこの組み合わせが、なかなか好印象だった。

 価格は、EQB 250が788万円、EQB 350 4MATICが870万円と、意外と差が小さいことにも驚いた。もちろんEQB 250の足の長さと価格の安さは魅力だが、それほど大きな差ではないことだし、走りは断然EQB 350 4MATICに軍配だ。何を優先するかは人によるだろうが、筆者ならEQB 350 4MATICを選び、58万円のAMGラインパッケージを迷わず装着する。とにかくEQBは2022年夏に日本で購入可能なBEVの中で、コストパフォーマンスの高さも含めて、もっとも万能なマルチプレイヤーだと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸