試乗レポート

優雅なデザインのランドローバー「レンジローバー」で高速道路とワインディングを試乗

新型「レンジローバー」

伝統と最新技術を融合したラグジュアリーモデル

 レンジローバーがフルモデルチェンジで5代目となった。

 初代レンジローバーは1970年に2ドアのステーションワゴン型としてデビューした。作業車が常識の時代にあって、どんな道でも優雅に走れるレンジローバーは新鮮で衝撃的だった。ランドローバー伝統のアルミボディと、3.5リッターアルミ製V8エンジンはクロカン4WDの新しい世界を作り上げ、明るいキャビンを持つクリーンなデザインは「優れた工業デザイン」の作品として初めてルーブル美術館に展示された。

 その後の歴史をたどると1995年に2代目でセミモノコックボディとなり、2002年の3代目にはそのボディもフルモノコックとなった。BMW傘下にあった初期型はBMW製のV8エンジンを搭載している。2012年の4代目はオールアルミのモノコックボディで大幅な軽量化に成功し、ボディのフラッシュサーフェース化が行なわれた。

 最新のレンジローバーは伝統を活かしつつ、工芸品としても磨き上げられた。滑らかな面が特徴で、ドアハンドルもボディと均一化されたヴェラールに続いて、デプロイアブル・ドアハンドルを採用している。

 また、すべてのピラーをブラックアウトし、ルーフが浮いているように見えるフローティングルーフデザインもさらに進化した。

 デザインの妙はリアエンドに集中する。縦型のテールランプはブラックアウトされ、それにつながるガーニッシュと一体化され、これまでにない造形だ。リアエンドのボートテイルデザインとともに新型レンジローバーの大きな特徴となっている。

試乗車はレンジローバー オートバイオグラフィー P530(SWB)。価格は2228万円。ボディサイズは5065×2005×1870mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2995mmの5人乗り仕様。このほかに、全長とホイールベースが200mmアップした7人乗りのLWB仕様、SVのLWBには4人乗り仕様もラインアップ
ルーフ、ウエスト、シルの3つのラインやショートオーバーハング、クラムシェルボンネットといった歴代レンジローバーの特徴を引き継ぎつつ、新デザインのフロントグリルや凹凸の少ないサーフェイス、ブラックアウトされたリアランプなど、1つの塊から削り出したようなすっきりとしたデザインを採用。タイヤはオプションとなる285/40R23サイズのピレリ「スコーピオン ゼロ」を装着

 インテリアも上質で抜群のセンスで作られている。体を心地よく保持してくれるゆったりしたシートやシンプルで美しいトリム、液晶フルディスプレイのメインメーターはセンターにフローティング式の13.1インチタッチ式ディスプレイが置かれ、整理されている。そのディスプレイのタッチスクリーンはスイッチ感のある触感フィードバック機能があり使いやすい。

 アナログスイッチは大幅に整理され、インパネまわりはスッキリした。すぐに使うスイッチは表に出ており、ディスプレイには必要度に応じて呼び出せる項目が階層に応じて配置される。

ハプティックフィードバック機能付きの新開発13.1インチのフローティング式フルHDタッチスクリーンを装備した「Pivi Pro」などの最新のインフォテインメント・システムを搭載。新しいアクティブノイズキャンセレーションや「空気清浄システムプロ」(ナノイーX搭載、PM2.5フィルター付)を採用することで、快適でクリーンな室内空間を提供
試乗車はパーフォレイテッドセミアニリンレザーシート(カラー:エボニー)を装着
1600Wのコアアンプに加え、各ヘッドレストに20Wのアンプを4基搭載するとともに、10個のデジタルシグナルプロセッサー(DSP)を搭載することで、従来と比べ5倍の音響処理能力を実現するMERIDIANシグニチャーサウンドシステムを採用
ラゲッジスペースフロアを利用してくつろぎの場所に早変わりするテールゲートイベントスイートを採用。
ラゲッジ内側面にはシートのフォールディングスイッチなどを設定(写真左はSWB、写真右はLWB)
LWBの7人乗り仕様は3列目までフルサイズシートを採用
3列目シートはセミアニリンレザーシート、4ゾーンクライメートコントロール、パワーシート、シートヒーター、タスクライティング、USBソケット、インテリジェントシートフォールドを標準装備する

 新型レンジローバーには多くのバリエーションがある。エンジンは3.0リッター直6ターボディーゼルのマイルドハイブリッドと、4.4リッターV8ガソリンターボの2種類。ホイールベースは2995mmのスタンダードホイールベースと、V8には200mm長いロングホイールベース仕様とその7人乗りが揃えられる。

 今回試乗するのはスタンダードホイールベースのトップグレードで、V8ガソリンの4.4リッターターボを搭載したオートバイオグラフィー。

 ボディサイズは5065×2005×1870mm(全長×全幅×全高)と大きい。車両重量は2680kgと重量級だ。プラットフォームも一新され、近い将来のEVやPHEVにも対応したMLA-Flexアーキテクチャーでスチール製のバルクヘッドを持った混合金属を採用している。

 大きなボディは取りまわしが大変そうだったが、意外と使いやすい。ランドローバー車に共通するコマンドポジションで直前視界もよいが、Aピラーは欧州車の常で太いために斜め前方視界を少し遮る。ただ三角窓が有効だ。

 それに、新型から装備された4WSの効果は絶大で、低速では後輪が逆相に7.3度まで切れ、小まわりができる。後退時には最大2度までにとどめられるので違和感はない。逆相に入るのは7km/hまでで徐々に変化するので操舵フィールは自然だ。4WSの常で後輪は高速では同相に入り安定性を上げている。こちらも違和感は全くない。

 試乗車の4.4リッターV8ツインスクロールターボは最大出力390kW(530PS)。最大トルク750Nmは1850-4600回転で出す。これだけの大トルクを低速回転から出すため、2.7tにもおよぶ重量を悠々と高速まで運んでくれる。また、オフローダーをルーツとしているだけに、微低速での走行にも粘り強く滑らかに動く。アクセルコントロールはしやすく、その実力は先代の5.0リッターV8スーパーチャージャーに勝るとも劣らない。ATは8速となる。

従来モデルの5リッターエンジンの525PSから、ダウンサイジングしながらも出力と燃費を向上させた、最高出力390Nm(530PS)/5500-6000rpm、最大トルク750Nm/1850-4600rpmを発生するV型8気筒DOHC 4.4リッターターボエンジンを搭載。トランスミッションには8速ATを組み合わせ、4輪を駆動する4WDモデル

 そして静粛性は極めて高い。エンジンは始動時にわずかに力強い音がするがその後は粛々と回り、その存在を隠しているようだ。またV8らしく振動はほとんど伝わってこない。最も大きな音源はエアコンのファンノイズかもしれない。

 サスペンションはフロントにダブルウィッシュボーン、リアにマルチリンクでエアサス仕様となり、レンジローバーが想定するあらゆるシーンに適応できる。

 装着タイヤはピレリのスコーピオン・ゼロのオールシーズンでサイズは大径の235/40R23を履く。23インチタイヤとは驚きだ。

 郊外の国道は路面がさまざまに変化するが、透過音ではロードノイズの質が少し変化する程度で静粛性は極めて高い。サイドにも合わせガラスを使うなど、遮音には念には念を入れている。

 また上下動もバネ上の動きがよく抑えられており、ピッチングも小さくフラットな姿勢に保たれるのはさすがだ。

 路面段差などで時折細かい衝撃を感じるが、タイヤ特性によるところがありそうだ。しかし、逆にこのサイズでこの乗り心地と安定性を高いレベルでバランスさせているのは素晴らしい。

 ハンドルのロック・ツウ・ロックは2回転と4分の3で、操舵力は先代よりも重めの設定だ。その操舵フィールは操舵初期にはわずかに力を入れる必要があるもののドッシリとしたレンジローバーらしい味を持つ。

 ワインディングロードを走る際もドライブモードはコンフォートで十分だが、ダイナミックモードに変更するとアクセルレスポンスも向上して、GTのような元気のよさだ。コーナーではスタビライザーが効果的に作動してロールを抑える。このスタビライザーは電子制御によってきめ細かく反応・作動し、クルマの対角方向の姿勢変化も少ない。

 さらに後輪への駆動力配分が大きくなり、安定した姿勢のままグイグイと曲がっていく。ちなみに4WDシステムはフルタイムだが、オンデマンドタイプのいいところを取り入れて前後のトルク配分幅が大きくなっている。

 高速クルージングでは全車速追従システムが効果的だが、操作方法もシンプルで前車との車間距離の取り方も非常に上手だ。またレーンキープも巧みで、従来モデルよりもさらに自然に進化している。

 隙のない完成度を誇る第5世代のレンジローバー。ただ残念なことに試乗した4.4リッターガソリンターボはすでに予定台数の販売を終了しており、現在の納車可能は3.0リッター直6ターボディーゼル(マイルドハイブリッド)になるという。近い将来PHEVも投入される予定なので豊富な内装アレンジなどにこだわってジックリ待つのも楽しいだろう。

 価格は4.4リッターV8ガソリンターボのオートバイオグラフィー(SWB)で2228万円、試乗車はオプションの24ウェイ電動フロントシートなど約195万円分のオプションを装備して2423万円となる。納車可能の3.0リッター直6ディーゼルターボ(MHEV)ではオートバイオグラフィーで2031万円、ベースのSE D300では1687万円の値札が付いている。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:中野英幸