試乗レポート
鈴鹿サーキットで171馬力の電動スポーツバイクに試乗してみた ENERGICAの3モデル
2022年8月8日 05:28
- 2022年8月6日 開催
イタリアを拠点に電動スポーツバイクを開発・製造するENERGICA(エネルジカ)が、2022年秋より複数車種を日本に導入する。神戸の総合商社エスターが輸入代理となって販売するもので、注目は171HPというパワフルなスーパースポーツモデルやネイキッドモデルだ。日本向けに急速充電規格のCHAdeMOに対応するのも特徴となる。鈴鹿サーキットでの試乗会に参加する機会が得られたので、レポートしたい。
最大171HP/215Nmのパワー&トルク、価格は300万円台から
ENERGICAは、二輪最高峰のロードレース世界選手権MotoGPの電動バイク版として2019年からスタートした「MotoE」の車体開発を担っていることで知られるイタリアメーカー。そのMotoEにおける知見などを投入して市販化したのが、「Ego」「Eva Ribelle」「EsseEsse9」といった独自の電動スポーツバイクだ。
いずれのモデルも200V電源による普通充電に対応するケーブルが付属。さらにはEV向けに日本国内で広く普及が進んでいるCHAdeMO規格のコネクタを搭載し、EVステーションなどでの急速充電にも対応する点が特徴の1つと言える。
車種ごとの性能・特徴を見ていこう。「Ego」はフルカウル、セパレートハンドルのスーパースポーツの雰囲気をまとったフラッグシップモデル。パワーやバッテリ容量が大きく、車重の軽い上位モデル「Ego+」「Ego RS」もラインアップする。
注目は最高出力171HP(Ego+およびEgo RSの値、Egoは145HP)というガソリンエンジンの最新スポーツモデルに勝るとも劣らないパワーを発揮すること。最大トルクに至っては215Nm(同200Nm)で、これは2.5リッターエンジンをもつトライアンフのROCKET 3に匹敵する値だ。
最高速は時速240km(リミッター設定)、0〜100km/h加速はEgo RSが2.6秒(Ego+は2.8秒、Egoは2.9秒)。バッテリはリチウムポリマーで、公称容量は18.9kWh(Egoは11.7kWh)。
エスターによれば、このバッテリまわりの技術にMotoE由来の知見が最も活かされているとのことで、航続距離は市街地走行で最大420kmを達成している。定速走行でも198〜246km(Egoは最大200km、定速走行時128〜161km)と長く、中距離ツーリングも無充電でこなせるだろう。
次の「Eva Ribelle」は「Ego」の性能ほぼそのままに、ストリートファイター系のスタイリングにしたネイキッドモデル。こちらも上位モデルとして、0〜100km/h加速が2.6秒の「Eva Ribelle RS」を用意している。
以上2つのモデルからパワーを落とした「カジュアルモデル」のネイキッドが「EsseEsse9」。「Eva Ribelle」よりもアップハンドルなポジションとなる。
「EsseEsse9+」および「EsseEsse9+RS」という上位モデルもあり、最高出力は109HP。控えめな数字に見えるが、それでも国内仕様のリッターバイク並みのパワフルさだ。最大トルクも200Nmに達している。0〜100km/h加速は「EsseEsse9」が3.1秒、「EsseEsse9+」が3.0秒、「EsseEsse9+RS」が2.8秒となる。
「Ego」「Eva Ribelle」「EsseEsse9」の3シリーズとも、コクピットのマルチインフォメーションディスプレイにはフルカラー液晶を採用。アーバン、スタンダード、ウェット、スポーツという4つのライディングモードなどから選んで走行でき、一定速度で巡航するクルーズコントロールもある。今回試すことはできなかったが、スマートフォンアプリなどとの連携用にBluetooth通信の機能ももつようだ。
また、取り回し時のサポート用として低速で前進・後退できるパークアシスタント機能を備える。電動だからこそ可能になった装備と言えるが、どのモデルも車重が260〜282kgとかなり重たく、少しの勾配で取り回しが難しくなりそうなことも理由だろう。
価格は未定としているものの、現在の想定価格は、今回の試乗車の「Ego+」「Eva Ribelle」「EsseEsse9+」や各「RS」のモデルが400万円台から、それ以外の標準モデルは300万円台から、ということになりそうだ。2022年秋までに取扱ディーラーを全国50店舗ほどに広げ、サポート・メンテナンス体制を整えたうえで発売を開始したいとしている。さらに、グローバルですでにラインアップしているアドベンチャーモデルの「Experia」も将来的に日本に導入する予定とのこと。
「余計なもの」がない、次元の違う加速性能
試乗会の舞台となったのは、3年ぶりに開催された鈴鹿8時間耐久レースの熱気まっただなかの鈴鹿サーキット東コース。全長2.243km、時間にして(スローペースで)1分〜1分30秒程度のショートコースだ。時間の都合上1車種につき1周ずつしかできなかったため、試乗した3車種「Ego+」「Eva Ribelle」「EsseEsse9+」それぞれの全貌を理解するのは難しかったが、そのポテンシャルはしっかり感じ取ることができた。
従来の大型バイク並みのパワーをもつ電動バイクとなると、少なくとも日本国内で市販されているモデルは存在せず、当然のことながら筆者も未体験。せいぜい日常の足代わりを目的とした電動スクーター止まりだったわけだが、ENERGICAの3車種はそれらとはやはり別次元のパフォーマンスをもっている。
レシプロエンジンとは異なる、電動バイクの加速の滑らかさはつとに知られていること。ではあるが、それが天井知らずでどこまでも突き抜けていくような爽快さ。シフトもクラッチも操作することなく、ただアクセルをひねるだけで、一切よどみのないリニアな加速感が、モーター(あるいはインバーターの)電子的なサウンドとともに味わえる。
この加速感は、まさしく「味わえる」と言っていい。従来のスーパースポーツやメガツアラーのような大型バイクでも同等の加速感は得られるが、そこには多少なりとも恐怖感みたいなものがどうしても紛れ込む。それは、エンジンの鼓動感や車体の振動、普段意識することはないものの実際には一定ではなく波のあるエンジンの出力特性といったあたりが関係しているのかもしれない。
しかし電動バイクはそういった「余計なもの」がことごとく排除されているため、純粋に加速感だけを味わえる。つまり、加速時の恐怖感に類するものはびっくりするほど皆無なのだ。もし恐怖を感じるとしたら、あっという間に鈴鹿の1コーナーが迫り、ブレーキングが間に合うだろうか、と焦る瞬間くらいなもの。
それでも、フロントの330mm大径ブレーキローターとブレンボ製ブレーキキャリパーのおかげでガツンと、しかしコントローラブルに減速し、問題なくインに張り付ける(実際のところ、鈴鹿の1コーナーはそこまで急減速する必要なく飛び込めると思われるが)。
コーナリングはどっしりと安定。ハンドルやシートから接地感が十二分に伝わるうえ、パーシャルでの微妙なアクセルコントロールにも自然に追従し、エンジンブレーキ(を模した制御)もナチュラルで違和感がない。ちなみにこのエンジンブレーキ風制御の強さもカスタマイズできるようだ。
ただ、260kgという生来の車体の重さがあるため、ヒラヒラ感はない。鉄フレームの大型ネイキッドのような車重だ。そういう意味でのスポーティさは薄く、3車種のいずれも同様の感触だった。
なかでもスーパースポーツタイプの「Ego+」は、乗車ポジションが前傾姿勢かつセパレートハンドルなこともあり、最もスポーティに見えるにもかかわらず、操作感としては3車種のなかで一番鈍重に感じやすい。その点で言えば、ストリートファイター系の「Eva-Ribelle」のようなやや低めのハンドルをもつポジションが、低速でも高速域でも最も操りやすいモデルではないかと個人的には思えた。
いずれにしろ、重さはネックだ。最初に乗車するとき、スタンドを払うために車体を起こす時点でまず気張らなければならない。いったん走り出してしまえば重さは気にならない……と言いたいところだが、コーナリングだけでなく高速域からのブレーキングでの瞬間的なノーズダイブの大きさや、慣性の働き方に重量車らしさを再認識するところもある。
全体として見れば「尖ったマシン」という印象は強めだ。そのあたりはイタリア車らしい、とも言えるのかもしれない。とはいえ、ENERGICAの3車種は日本で最も早く手に入る本格電動スポーツバイクであり、その時点で最もパワフルなモデルであることもおそらく間違いない。実用的にツーリングを楽しめる性能を備えているうえに、並みのスーパースポーツ相手にならサーキットの短い直線でも置き去りにする快感が得られそうだ。
「電動バイクは音や鼓動がないからつまらない」という声もあるが、その指摘は、少なくとも乗っている側としては当たらないという思いを今回の試乗で強くした。既存のバイク並みにパワフルになれば、電動でもやっぱり乗るだけで、操るだけで楽しいのだ。この2022年から、電動スポーツバイク市場はどんどん面白くなっていく予感がする。