試乗レポート
ヤマハの実証実験用電動スクーター「E01」はどんなモデル? 個人向け3か月限定リースの内容も含めてレポート
2022年4月18日 12:16
ヤマハ発動機が3月17日に発表した新たな電動スクーター「E01」。実証実験用とはいえ、約104kmの比較的長い航続距離と、最高速100km/hのパワーを兼ね備えた本格的なシティコミューターとなっており、いよいよ2輪車も電動化の時代を迎えるのでは、という期待感高まるモデルだ。「E01」がどんな車両なのか、報道陣向けの説明会とともに試乗会が開催されたので、その中身をレポートしたい。
3か月間限定のリース、料金は月額2万円
ご存じの通りヤマハは、早くから2輪実用車の電動化に向けて取り組んできた。電動アシスト自転車のPASシリーズはもとより、公道走行可能な2輪EVとしてもPassolを皮切りにたびたび新しい2輪EVをリリースし、最近では2022年3月に台湾市場向けの2輪EVスクーター「EMF」も発売している。それらの多くが軽量な着脱式バッテリを搭載する近隣移動を想定したモデルだが、今回の「E01」が見据えるのは中長距離。固定式の大容量バッテリで高出力、中距離走行を可能にするモデルだ。
「E01」が誕生した背景には、より長距離を快適に走れるモデルがほしいというユーザーニーズもあると思われるが、企業に求められる環境への取り組みなど、社会情勢的な側面もあるようだ。同社は中長期の成長戦略について記した「統合報告書 2021」において、「カーボンニュートラルへの継続的な取り組み」として、2輪のパワートレーンにおけるEV(BEV)の割合を2035年までに20%にするという目標を掲げている。この20%を達成するには、これまでのような短距離移動を想定したモデルだけでは不十分で、現在はガソリンエンジン車しかない中長距離セグメントにもEVを投入していく必要がある、というのが1つの大きな要因になっているのだ。
こうした理由から、まずはユーザーニーズにマッチする2輪EVとしての機能・性能の把握、およびインフラに関わる知見の獲得がヤマハとして必要と考え、実証実験車両として「E01」を開発するに至った。あくまでも実証実験用の車両であるため、量産車両として市販される予定はなく、リースやシェアリングサービスを通じて利用できるものとなる。
リースは個人向けにも実施される。2022年5月9日から22日まで利用者を募集し、7月1日から3か月間の期間限定で車両が貸し出される。台数は最大100台で、応募者多数の場合は抽選となる。月額料金は2万円で、この料金には対人対物無制限の保険も含まれる。3か月のリース終了後は車両を返却する必要があり、2回目以降のリースが実施されるかどうかは現段階では未定としている。この実証実験は日本国内だけでなく、気候や社会的な事情の異なる欧州、台湾、タイ、マレーシア、インドネシアという5つの国・地域でも順次実施される計画だ。
実証実験のため、利用実態などの情報収集がヤマハとしては重要なポイント。リース契約者からユーザーアンケートを通じて収集するとともに、車両に搭載したGPSと通信機能を用い、LTE回線を介して走行距離・区間など詳細なデータをリアルタイムで把握する仕組みを用意する。そのデータをもとに今後の車両開発などに役立てるが、一部のデータはユーザーもWebアプリを通じて活用できるようになる予定だ。例えば駐車位置やバッテリ残量を元にした走行可能距離などがスマートフォンやパソコンから確認できるという。
なお、車両のリース開始と同時に、専用充電機器や装備品のオプション提供も開始する。車両に付属するポータブル充電器は100V電源を用いてプラグイン充電でき、0%から満充電までは14時間。より高速に充電したいときは住宅向けの設備(要200V電源)もオプション選択可能で、こちらは5時間で満充電できるが、別途機器設置工事・撤去費に約13万円、月額費用1000円が必要になる。3か月間という期間限定のリースであることを考えると、短時間で充電できるとはいえ、コスト面ではメリットを感じにくいかもしれない。
また、1時間で90%まで充電できる急速充電器(90%以上の充電は不可)の設置も各地で進める計画。現在のところ5~10か所程度を予定しているとのことだが、詳しい設置場所や利用料金などは調整中としている。充電はいずれも独自方式のため、既存の電動自動車向けの設備は使用できない。
ポータブル充電器を利用して自宅充電するのがメインになると思われるものの、基本的には屋外にコンセントがあるか、延長ケーブルで部屋から電源を取り出せる環境にあることが求められるため、集合住宅よりはどちらかというと戸建て住宅の人向けのサービスになりそうだ。なお、リアキャリアやトップケースなどがセットになった「リアボックスSET」も月額1000円で提供する。
フレーム、バッテリ、モーターなどは新規に開発。静音へのこだわりも
「EV01」の車体については、ヤマハがこれまでに培ってきた2輪開発技術とEV開発技術の両方を結集したものになっている、とアピールする。第二種原動機付自転車登録の車体ということで、AT小型限定普通二輪免許さえ所有していれば運転でき、タンデム走行も可能。先述の通り、航続距離約104kmという性能で、自宅で充電できガソリンスタンドに寄る必要もないことから、毎日の通勤・通学にも適した利便性を備えるとする。
外観はガソリンエンジン車のNMAX125に似ているところもある。が、2輪EVとしての実用性能を追求するため、フレーム、バッテリ、モーターなど多くの部分が新規開発された。車体ディメンションも細部で異なっている。
バッテリは4.9kWh容量のリチウムイオンで、大容量ながらも可能な限りの軽量化を図るためアルミニウムケースを採用し、各部形状を最適化。モーターはコンパクトな車体に収めつつ、2輪らしい高回転型の性能を実現する既存製品が存在しなかったため、こちらも1からの新規開発となった。コイルの巻線を一般的な丸線ではなく平角線にするなどして小型化、効率化し、最高出力8.1kW(約11ps)/5000rpm、最大トルク30Nm/1950rpmを達成した。
電子制御によりトラクションコントロールを可能にしているほか、出力やトルク、最高速が異なる3種類の走行モードを用意し、路面状況や道路環境に合わせて安全に走行できる。また、リバースモードにより1km/hでゆっくり後退させることも可能。前下がりの駐輪場から引き出すようなときに役立ちそうだ。回生ブレーキも実装されているが、バッテリへの給電を主目的としたものではなく、自然で効率的なブレーキフィーリングのために採用しているとのこと。
EVはエンジン音や排気音などがないため静かな走行が可能なのが特徴でもある。ただ、開発担当者によると、排気音などに隠れていた車体側のきしみや稼働部のノイズが目立つようになったため、それら車体側のノイズ対策も施した。40km/hでの走行時には、博物館の中よりも静かとされる58dB程度に抑え、快適性を高めたという。
デザイン面では、大まかに「タッチングエリア」となる車体上部と「メカニカルエリア」となる車体下部とで明確に目的を分け、エモーショナルなスタイリングを与えつつ、従来のエンジン車と同じように爽快な走りを可能にしたとする。側面から見たときに、バッテリ・モーターのある水平方向の軸と、乗車位置となるヒップポイントとスイングアームピボットの2点を結ぶ垂直方向の軸を組み合わせたレイアウトは「エンジン車ではタブー」とされてきたもので、EVだからこそ実現できた合理的な形だという。
スクーターでありながら一般のスポーツバイクに近い形状のスイングアームを採用し、そのうえでアクスルシャフトをカバーで覆うことでクリーンさも演出するなど、高い走行性能と環境イメージの両立を図った。このような次世代をにらむ2輪EVらしいこだわりが、「E01」では随所に詰め込まれている。
従来のスクーターになかったような安定性と操舵感
では、「E01」の乗り心地はどうだったか。試乗会当日はあいにくの雨だったものの、かえってEVの特徴やメリットをより感じられるようだった。発進時、加速時のパワーは唐突さがないようにスムーズに立ち上がり、その後は必要なだけパワーを引き出しながら操れる感覚。これなら交通量の多い街中でも全く問題なく周囲の流れに合わせられそうだ。瞬間的に過剰なトルクがかかることがないので、試乗会場の濡れた路面でもタイヤがスリップするような不安はなかった。
加速していくときの振動や音が少ないのは、少し寂しいと思うところもある。が、その後に比較用に用意されていたNMAX125に乗ると、エンジン音や排気音が反対に違和感というか、ストレスを感じるようになってしまった。アクセルを捻ってから加速し始めるまでのタイムラグ(発進時については遠心クラッチの影響も大きいが)もあり、一体感をもって走るために身体の方を合わせていかなければならない。そういった今まで意識しなかったエンジン車の特性にも改めて気付かされる。
ブレーキフィーリングは「E01」とNMAX125とでほとんど差はない。リアブレーキはやや立ち上がりが強めなので慎重に使いたいが、フロントブレーキはじっくり握り込んで確実に減速させていくことができ、そのなかで路面の詳しい状況がハンドルを通して感じられるため、安心感は大きい。回生ブレーキが介入しているような感触は皆無といってもいいくらいだ。
開発担当者によれば、前後荷重のバランスは5:5に限りなく近づけているとのこと。そのおかげか、ハンドリングはNMAX125などの一般的なスクーターよりしっとりしたもので、特にコーナリング時はフロントまわりの安定感が格段に高い。前輪と後輪でしっかり路面を踏みしめて走れるような実感がある。重量物が車体下部に集まっていることも要因だろう。この操舵感覚は今までのスクーターにはあまり感じられなかった部分で、スラロームを走るのが楽しくなってしまう。
ヘルメットが入る23L容量のシート下トランクを備え、オプションでトップケースを装着できるなど、ユーティリティ性能も十分に持ち合わせている。通勤・通学だけでなくちょっとした買い物にも気軽に使える日常の脚になってくれることは間違いない。月額2万円というリース料金は高く感じる人もいるかもしれないが、3か月間6万円で借りられる電動レンタルバイクと考えれば、むしろ格安と言えそう。100台という個人リースの枠は争奪戦になるのではないか。