試乗レポート

300m先を認識するLiDARで連続緊急回避 日産が開発中の次世代プロパイロット「ProPILOT-コンセプトゼロ」搭載試作車に同乗

連続緊急回避を行なう日産が開発中の次世代プロパイロット「ProPILOT-コンセプトゼロ」搭載試作車

次世代LiDARで緊急回避性能を飛躍的に引き上げた日産のプロパイロット コンセプトゼロ

 プロパイロットでお馴染みの日産自動車が、次世代の運転支援技術を発表した。今回はグラウンド・トゥルース・パーセプション(Ground truth perception)と名付けられたその技術を搭載した試作車「ProPILOT-コンセプトゼロ(プロパイロット コンセプトゼロ)を体験した。

 このクルマは緊急回避性能を飛躍的に向上させたことが最大のポイントで、これまで衝突軽減ブレーキで止めることが主だった緊急回避を、ステアリングで障害物を避けることができるようになったところが特徴の1つ。高性能な次世代LiDAR(ライダー)技術を活用し、物体の形状や距離などを高精度で認識。それが次にどう動くのかをリアルタイムに把握し、障害物を避けることができるようになったという。

プロパイロット コンセプトゼロ搭載試作車のセンサー構成
ルミナーと共同開発中の次世代LiDAR

 日産の研究開発を担当する専務執行役員の浅見孝雄氏は「将来の自動運転を見据えたとき、最も重要なことは『ぶつからない』という高い安心感をお客様が持てることであると考えています。この技術は、世の中で起こりうる複雑な状況において、緊急回避操作を自動化することを可能とし、クルマの安全性能を飛躍的に向上させます。本技術は、将来の自動運転の実現に大きく貢献するものと確信しています」と述べている。

 運転支援技術や自動運転と聞くと、イージードライブばかりがクローズアップされがちだが、あくまで主目的は事故を起こさないクルマであることが大切であるという問題意識が日産にはあるということだろう。日産ではこの技術の開発を2020年代半ばまでに完了させ、新型車への搭載を開始し、2030年までにはほぼすべての新型車に搭載することを目指しているという。

 プロパイロット コンセプトゼロの最大の特徴は、次世代LiDARを搭載したことにある。これは世界トップレベルの技術を有するルミナーとの共同開発となっているが、車両の制御ロジックに関しては日産独自で開発が行なわれているそうだ。

プロパイロット コンセプトゼロ搭載車
プロパイロット コンセプトゼロ搭載車

 この次世代LiDARは、現状のそれとは違い、検知距離が300mとなり、これまでのおよそ倍の距離まで把握できるようになったところがポイントだ。垂直視野角も約3倍に引き上げられ、高解像度化を示す分解能も高められたことで、まるで3Dプリンタのように空間の構造と物体の形や位置を正確に再現。空間認識をより高めるためにプロパイロット コンセプトゼロではグリルに埋め込むのではなく、ルーフに取り付けられている。

 だが、それだけではもちろんこの技術は成立しない。車両と道路構造の区別、車両の種類、標識の文字や数字などのシーンを理解するにはカメラが有効であるし、周囲の移動物の動き(距離と速度)を把握するにはレーダーが有効。そこでプロパイロット コンセプトゼロにはフロントカメラ、フロントレーダー、そしてLiDARに加え、サラウンドカメラを9個、サイドレーダーを4個、リアレーダーを2個搭載。そしてステアリング制御システム、ブレーキ制御システム、電動パーキングブレーキ、高精度地図、そしてそのすべてを制御するコントローラなどでシステムが構成されている。

フロントカメラ
前側方カメラ
側方カメラ
後方カメラ

 いざステアリングで緊急回避となった場合、周囲に障害物がないかを把握している必要が出てくるからこそ、ここまでのシステムになるのだろう。ちなみに今回の試作車はさまざまな計測を行なうために、リアシートやトランクには各種の計測器が搭載されており、かなり物々しい雰囲気が漂っている。やや車高も低くなり、ややリア下がりな姿勢だったことが気になったが、これで緊急回避が成功となるか?

プロパイロット コンセプトゼロに同乗

60km/hで走行中にクルマが飛び出す。それを回避するプロパイロット コンセプトゼロ搭載車

 まずプロパイロット コンセプトゼロの助手席に乗り体験したのは幹線道路を60km/hで走行中、左側の駐車場からクルマが突然バックしてくるシチュエーションだ。相手側のクルマの周囲は壁で視界が遮られており、あちらのドライバーからも、こちらのドライバーからも状況把握ができていない。

 60km/hの巡行状態からクルマがバックで飛び出してきた瞬間、プロパイロット コンセプトゼロは瞬間的にステアリングを右車線へと向けて見事にクリア! その際の動きはかなり俊敏であり無駄がない。あくまでもタイヤのグリップ範囲内でそのすべてが行なわれることもあり、助手席でも驚きはしたが怖さがなかった。

 だが、そこから先でさらに予測できないことが起きた。それは隣の車線に回避した瞬間に、右側から歩行者が飛び出してきたのだ。それに対してプロパイロット コンセプトゼロは瞬時にブレーキをかけて緊急停車した。さらに左にステアリングを切って回避かと思いきや、きちんと止めるほうを選んだのは、歩行者が歩き続けた場合は跳ねてしまうということを避けたかったのだろう。もし自分がステアリングを握っていて、ここまで正確な判断をできるかどうか……。プロパイロット コンセプトゼロは、目まぐるしく変化する状況を見事に判断しているのだと確認できた。

連続する危険な状況をしっかり回避するプロパイロット コンセプトゼロ

50km/hで向かってくるタイヤが。それを回避するプロパイロット コンセプトゼロ搭載車

 続くシチュエーションは自動車専用道路を60km/hで走行中に、対向車線のクルマが事故を起こし、タイヤが脱輪してこちらの車線に飛んできたという設定。それを前走車が左に避け、タイヤが急に現われたため、右にステアリングを切りタイヤを回避。だが、その先で事故を起こしたクルマがこちらの車線に飛び込んでくることになる。かなりレアなケースだが、実際に対向車線からクルマが飛び込んできたという事故は起きている。万が一の場合、どこまでそれが対応できるのか?

 走行を開始すると、前走車が左に緊急回避するとタイヤを模した障害物が前走車の目の前に向かってくる。前走車の陰にタイヤが隠れ自車からは発見が遅れるこのパターン。このタイヤを模した物体はGPSを搭載した無線制御により50km/hで迫ってくる状況。すなわち相対速度は110km/hにもなる。

 前走車が左に緊急回避した瞬間、そのタイヤが迫って来るが、自車はそれをステアリングによってスッと回避。タイヤが鳴くこともなく切り抜けたのは素晴らしい。その後、対向車線からクルマが飛び出てきたが、その手前でこれまたタイヤが鳴くこともなく急制動をして完全停止してみせたのだ。300mも先を見続けているLiDARの実力はなかなか。いち早く危険を察知し、即座に緊急回避動作を行なえるからこそ、タイヤが鳴くような危険な状況に陥ることなく、すんなりとクルマを安全な領域に導けるのだろう。

タイヤ回避後に、さらにクルマが車線をはみ出してくる。緊急ブレーキで対応するプロパイロット コンセプトゼロ搭載車

 それを特に感じたのが、続いて行なった高速道路における巡行時に、左側車線に出口渋滞が起き、そこを車線変更によって切り抜けるというテストだった。この状況もまた、かなり手前から渋滞を察知。ジワリと右に車線変更して何事もなくクリアして見せた。この動作と同じだが、車線内に落下物がある想定での回避行動もまたスムーズそのものといった感覚があった。落下物に迫る遥か前から回避行動に移せることこそ、プロパイロット コンセプトゼロの真骨頂といえる動きといっていい。

プロパイロット コンセプトゼロ搭載車内の表示

空間を認識し、所定のポイントに自動駐車

 最後は地図情報を持たない高級ホテルのバレーパーキングを模した状況にプロパイロット コンセプトゼロが突入するというシーンをトライする。LiDARやレーダー、そしてカメラによる情報だけでどこまで動かせるのかというテストだ。そのシーンにクルマが突入すると、壁と壁の中心を上手く走り、不安を抱くことなく動いていることに感心する。最後は車寄せの位置情報を頼りに左側にクルマを寄せて停止。見事なまでの制御だった。

 いずれの状況においてもクルマの動きはとにかくスムーズであり、ギクシャクした動きが一切感じられなかったところが今回のもうひとつの驚きだった。ステアリングの切り方やブレーキのかけ方まで、まるでエキスパートのプロドライバーが操るかのような滑らかな動きは凄い。時々刻々と迫り来るリアルな状況をクルマ側が把握して動かして行くプロパイロット コンセプトゼロは、やはり運転支援技術にこだわってきた日産自動車ならではの世界観があると感じた。これなら事故は間違いなく減るに違いない。一日も早く市場に投入されることを期待している。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。