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ヤマハ、電動トライアルバイク「TY-E 2.0」で世界選手権参戦へ 二輪車用パワステ「EPS」も発表

2022年3月24日 発表

電動トライアルバイク「TY-E 2.0」

 ヤマハ発動機は3月24日、プレス向けにオンライン説明会を開催し、新型の電動トライアルバイク「TY-E 2.0」、および二輪車用のパワーステアリングとなる「EPS(Electric Power Steering)」を発表し、2022年の世界・全日本選手権に車両・技術投入していくことを発表した。2022年3月25~27日に開催される東京モーターサイクルショーでは、「TY-E 2.0」と「EPS」搭載車が展示される予定。

2.5倍容量のバッテリを搭載し、至るところが進化した「TY-E 2.0」

「TY-E 2.0」について解説した、ヤマハ発動機株式会社 技術開発統括部 プロジェクト推進部 豊田剛士氏

「TY-E 2.0」は、競技向けに開発された電動トライアルバイク。同社は2018年、2019年のトライアル世界選手権シリーズの電動部門である「FIM TRIAL E-CUP」に、第1世代となる「TY-E」で参戦し、黒山健一選手が2年連続で年間ランキング2位を獲得した。このときの実戦データなどをもとに、ブラッシュアップする形で開発されたのが「TY-E 2.0」となる。

車体の各所に大幅なアップデートを施した

 新型の「TY-E 2.0」では、シャシーからバッテリ、パワーユニットに至るまで、多くの箇所が前世代から進化した。シャシーは軽量化と剛性の最適化、ハーネス保護など利点の多い積層材によるモノコックフレームを採用。パワーユニットとバッテリのレイアウトを見直して、大幅な低重心化を果たした。リアアームまわりのジオメトリーも変更しトラクション性能を高めたほか、豊田氏いわく「近代トライアルで重要とされるアンチスクワット挙動も確保した」という。

ボディ、シャシーでは、パワーユニットとバッテリのレイアウト、リアアームまわりのジオメトリーの見直しなど

 また、バッテリは「最も大きな進化を遂げた要素」とし、前世代比で容量を2.5倍にしながらも重量は20%増に抑えることに成功。冷却性を高めたことで高出力を連続で発揮できるようになったとし、これらのアップデートで「一般のトライアルライダーが実用的に楽しめるレベルに到達した」とする。

「TY-E 2.0」が搭載するバッテリ
2.5倍の容量に拡大しながら、重量は20%増に止めた

 加えてパワーユニットについては、「メカニカルクラッチとフライホイール、電動モーター制御の組み合わせで熟成を図った」。軽量化を重視したことにより、最高出力は既存の内燃機関のトライアルバイクには及ばないものの、その差を補うべく高度なモーター制御を加えた。「トップライダーでも反応が困難なレベルのグリップの変化を読み取り、それに合わせて駆動力をコントロールすることでトラクション性能を高める」仕組みで、タイヤの接地荷重に着目して走破性を高めた新たな路面追従制御だという。

走破性を高める路面追従制御を加えた

 2022年のFIMトライアル世界選手権シリーズには、黒山健一選手がこの「TY-E 2.0」で参戦する予定。レギュレーションの変更によりエンジン車と電動車の混走になることから、同社によると現在はそのレギュレーションを確認しているところ。可能であればTRIAL 2クラスへのスポット参戦を検討しているという。なお、5月に日本で開催予定だった開幕戦はキャンセルとなったため、6月以降の参戦を模索している。

「TY-E 2.0」の主要諸元
「TY-E 2.0」のデモ映像

電動アシスト自転車の技術を応用した二輪車用パワステ「EPS」

「EPS」について解説したヤマハ発動機株式会社 MS戦略部 開発プロジェクトリーダー 澁谷悠氏

 同社が「ステアリングサポートシステム」と呼ぶ「EPS」は、いわば二輪車用のパワーステアリング。しかしながら、開発を主導した澁谷氏は「一般的な自動車のパワーステアリングとは機構的に大きく異なる技術」だとし、「ハンドリングのヤマハ」として知られる伝統的な強みと、同社のコア技術である制御技術の掛け合わせによって「新たなヤマハハンドリングを作り出す」ことをビジョンに掲げて開発されたものだという。

 具体的には、電動アシスト自転車でも用いられている「磁歪式センサー」を用い、ライダーのハンドル操作のトルクを検出したうえで、アクチュエーターによってハンドル操作をサポートするもの。ここには、大きく分けて「ステアダンパー機能」と「ステアアシスト機能」という2つの要素があるとする。

ヤマハの電動アシスト自転車にも用いられている「磁歪式センサー」
軽量、小型のアクチュエーター。ライダーの要求に応じて細かく制御をカスタムすることも可能だという

 「ステアダンパー機能」は、「路面状況の変化などによって起こるさまざまな外乱を制御によって整える」もので、主に高速走行時の安定性向上に寄与するもの。また「ステアアシスト機能」は、「ライダーの意図に合わせてステアリング操作を補う」もので、主に低速走行時の軽快性向上に寄与するものだという。

「ステアダンパー機能」と「ステアアシスト機能」によって走行安定性と軽快性を達成する
「EPS」が搭載された車体のハンドル周り
「EPS」搭載車のデモ映像

 すでに2021年の全日本モトクロス選手権の一部レースで実戦投入しており、2022年は全日本モトクロス選手権に参戦するファクトリーマシンに搭載する。重量増やコスト増といったデメリットも考えられるものの、アクチュエーターの小型・軽量化を継続的に進め、市販車への搭載に向けてさまざまな製品・車種に展開できるよう開発を進めていく計画だとしている。

 なお、2022年4月9日に開幕するMFJ全日本モトクロス選手権シリーズには、豊田俊樹選手、渡辺祐介選手、ジェイ・ウィルソン選手の3名が、「EPS」を搭載するYZ450FM、YZ250Fでフル参戦する予定となっている。

「TY-E 2.0」と「EPS」搭載車による参戦計画を発表したヤマハ発動機株式会社 MS戦略部 佐藤美之氏