試乗レポート

ホンダ「NSX タイプS」試乗 2代目NSXの集大成にSH-AWDの最適解を見た

NSX タイプSの進化を解説

 2代目「NSX」のファイナルモデルといえるタイプSが8月4日よりリリースされた。これまで北米で1653台、その他の地域で441台、そして日本では465台の販売台数に留まったこのクルマは、日本向けに許されたタイプSの30台という販売台数を加え、トータル495台で締めくくることになる。今回はその希少なタイプSの最後の仕上がりをワインディングで味わえる機会を得た。サーキットでもテストコースでもなく、リアルなシーンをどう走るのだろうか?

 その模様を語る前に、まずはNSX タイプSはどのように進化したかをじっくりと見ていくことにしよう。ドライバーとクルマとの一体感や操る喜びを第一に考えたというコンセプトで仕立てられたこのクルマは、システム最高出力を581PSから610PSへとアップ、同時にシステム最大トルクは646Nmから667Nmへと引き上げられている。あえて「システム」という言葉をつけるのは、エンジン出力もモーター出力も見直しているからだ。

 3.5リッターV6ツインターボエンジンは、ターボの過給圧やインジェクター噴射量、さらにはインタークーラーの放熱量をアップさせることで出力で22PS増、トルクで50Nm増を実現している。一方でインテリジェントパワーユニットはバッテリ出力と使用可能容量を拡大させ、システム出力に貢献。出力は7PSアップ、バッテリ使用可能容量は20%も向上している。また、フロントのツインパワーユニットは20%のローレシオ化。これらの対策により、低速からのピックアップが拡大しただけでなく、エンジンドライブ中のアシスト領域も拡大。さらにモーター走行の領域も拡大し、quietモードではEVドライブ領域を重来の37%から91%へと拡大することに成功している。

NSX タイプSが搭載するV型6気筒直噴3.5リッターツインターボ「JNC」型エンジン。クランクシャフトと直結したダイレクトドライブモーターと9速DCT、前輪の左右を独立した2つのモーターで駆動するTMU(ツインモーターユニット)とパワートレーンは従来通りだが、タイプSではエンジンの燃焼効率の向上、高耐熱ターボの採用による過給圧アップ、冷却性能の向上などにより、エンジンのさらなるパワーアップを実現。エンジンの最高出力は389kW(529PS)/6500-6850rpm、最大トルクは600Nm(61.2kgfm)/2300-6000rpm。これに3基のモーターを組み合わせ、システム全体で最高出力449kW(610PS)、最大トルク667Nm(68.0kgfm)を発生する。WLTCモード燃費は10.6km/L

 こうした出力アップに対応するかのように、デザインも改められた。フロントのセンター開口を拡大したほか、サイドラジエターやリアインタークーラーへの冷却をも見直している。それと同時に突き出したフロントリップスポイラーを採用することでセンター開口下のリップ位置を上げ、床下流量を増やしCLfを向上。リアディフューザーは従来よりもRを拡大した形状とすると同時に、フィンの方向なども見直すことで、挙動変化に対しダウンフォースの変化を抑制したという。

2021年9月2日に購入申し込みの受け付けを開始し、9月29日に日本限定30台を完売したことがアナウンスされた第2世代NSXの最終モデル「NSX タイプS」(2794万円)。ボディサイズは4535×1940×1215mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2630mm。車両重量は1790kg。ボディカラーは限定新色でホンダ初のマットカラーとなる「カーボンマットグレー・メタリック」
空力と冷却性能といったエアロダイナミクス性能を高次元で両立させる「トータル・エアフロー・マネジメント」のさらなる向上を目指し、デザイナーとレース経験のある技術者が最先端のシミュレーションや風洞実験、走行試験を何度も重ねて作り上げたという新デザインの前後バンパーを採用
タイプSではグリップ性能の高い専用タイヤとなるピレリ「P ZERO」を採用するとともに、新デザインの専用鍛造アルミホイールによるワイドトレッド化(フロント10mm増/リア20mm増)が図られ、サーキット走行時の限界性能とコントロール性をさらに高めた
インテリアはタイプSとしての存在感を主張するカラーコーディネートとし精巧さを表現。シートは「エボニー」「オーキッド」「レッド」とバリエーションを一新するとともに、ヘッドレストにNSXのロゴの刺繍が施された。グローブボックスには専用ロゴが配されている

 そしてSH-AWDの特性にまたもや見直しが入ったところがポイントの1つだ。世界に先駆け、フロントの左右のトルクを自在に変化させることが可能な2モーターを採用していることが現行NSXの最大の特徴だったが、その制御がこれまでと違う。初期モデルではヨーゲインの立ち上がりをとにかく際立たせた仕上がりで、アクセルONで外輪に駆動を振る独特なコーナリングだった。アメリカ主体の開発が行なわれており、とにかくインパクト重視だったことがうかがえるセッティングだったが、それは2019モデルにおいて日本人主体の開発に切り替わり、アクセルONにおける左右輪のトルク差を与えないセッティングとなった。それはNSXならではの世界観を無視したのかと危惧したが、実はコーナー進入時にはそれを曲げる方向に使っており、違和感なく仕上がっていたことが思い出深い。フロントIN側は回生方向に、フロントOUT側は出力方向にトルクを与えることで、操舵初期のゲインの立ち上がり重視で動かしていたのだ。その際も、トルクをジワリと与えることで意のままに操れるようにしたのだ。

 その時の模様を開発トップの水上聡氏はこう振り返る。「2017年モデルの改良版を作るということで開発を引き継いだのですが、当時は頭を悩ませましたね。開発プロトには関わっていましたが、アメリカに開発移管をした後にインパクト重視になっていました。特徴的なSH-AWDの存在をとにかく誇示したかったんでしょうね。そこを私が好きになれるようなドライバーとクルマとが一体感を得られるようなものにしようと2017年から開発を行ないました。それが2019モデルだったんです」。

 水上氏がこの時に行なった改良はそれだけでは終わらず、バネダンパーを改めリニア特性に変更。スタビライザーの剛性はフロント26%アップ、リア19%アップ。さらにはリアコントロールアームブッシュの硬度を21%引き上げたほか、リアのハブベアリングの剛性も6%アップしている。その仕上がりは今回改めて乗ったが、初期モデルとはまるで違う世界観を実現しており、安定感も一体感も高まっていた。だが、これで満足せず、今回のタイプSではシャシーにさらなる改良を施している。

NSX タイプSと写真に収まるのが開発責任者の水上聡氏。2代目NSXの開発責任者はテッド・クラウス氏が務めてきたが、2019モデルから水上氏にスイッチしている

 まず、SH-AWDのセッティングについては、コーナーのアプローチについてはこれまで通りの設定となっているが、定常旋回領域ではなんとフロントの駆動をカット。MRとすることで軽快にコーナーに巻きつくような姿勢を展開。コーナー立ち上がり時にはフロントの駆動を30%も増した状態で与えている。ただし、その際には左右輪でのトルク差を出したりはしていない。引くところは引き、足すところは足すというメリハリあるセッティングがそこにある。

 足まわりはスプリングレートこそ変更していないが、磁性流体式のアクティブダンパーシステムは大幅に改められ、ロースピードの減衰を高めフラットな走りを実現。モードによって減衰力特性を変化させているが、その領域も拡大させている。さらに、ホイールのインセットによってフロント+10mm、リア+20mmのワイドトレッド化を実現。見た目はチューンドモデルを思わせるほどのいわゆるツライチ状態になっているところも興味深い。また、タイヤ銘柄を改め、今回はピレリ「P ZERO」を専用タイヤとしたところもポイントの1つだ。

最後の最後でSH-AWDの最適解を見た

 基準車の走りを確認した後にタイプSで走り出すと、たしかにモーター走行領域が拡大していることが伺える。当然だが静粛性は高く、街中をスッと駆け抜けている様を見ていると、EVという道でこの世界を継続してくれないかと思うほど走りが心地よい。quietモードでしなやかに、けれどもフラットにコーナーを駆け抜けていくこともまた楽しい。後にちょっとしたワインディングに差し掛かりデフォルトであるスポーツモードで走ると、エンジンがようやく目覚めてくる。日常域における快適性を保ちつつ、手足のように応答してくる軽快さが感じられてくるから面白い。さっきまでの基準車が重たくダルに感じられてしまうほどスッキリとしたフィーリングが存在するのだ。

 スポーツ+モードを選択して走れば、エンジンの応答性はリニアさが際立つフィーリングへとイッキに昇華する。モーターアシストを加えることでエンジンの苦手なところを見事にカバーしながら、一方で高回転へ向けた吹け上がりにも電気の力が役立っている感覚が伝わる。右足の要求に対していつでも即座に吹け上がるようにセッティングされた新たなるパワーユニットは、まるでレーシングユニット。いや、それ以上といっても過言じゃない。どの回転域にいてもどの速度域でも一瞬で目覚めてくれるところがハイブリッドらしさだと感じる。エンジントルクがないところはモーターがアシストする量が豊かであり、基準車に対して低回転のピックアップを助けているように感じる。

 また、左のパドルシフトを引き続ければ、適切なギヤへと飛ばしシフトしてくれるところも面白い。こうしたリニアさはブレーキ側にも現れており、回生ブレーキとの協調が見事に行なわれているから微細なコントロール性も備えている。ただ、カーボンブレーキは温度が高まらないと本当の意味でのコントロールは難しく、例えば停止寸前のコントロール性については読みにくいところがあった。「今日みたいに雨じゃなく、晴れていてしっかりブレーキに熱が入っていればそんなことはないんですけれどね」とは水上氏の言葉だが、それくらい繊細なところも実はあるようだ。

 芦ノ湖スカイラインを走れば、タイトターンの連続でとにかくフラットに駆け抜けていくことが好感触だった。左右に連続するコーナーであってもクルマの重さをとにかく感じない。それは足まわりが引き締められたことはもちろんだが、加えてSH-AWDが改められたことも相当に大きい。基準車で走るよりも少ない操舵角でコーナーを駆け抜けてしまう。コーナーアプローチ時のスッとインを向く感覚、クリップ付近の吸い付くような動き、そして立ち上がり時には真っ直ぐ立ち上がれるほど向きが変化していたことに驚くばかりだ。タイプSの特徴であるコーナー中のフロント駆動カットは、安定性を失っているわけではないことがウェットのワインデイングでも理解できる。アクセルOFFをしている時にスムーズにINに転がっていく感覚がとにかく心地よく、捉えようによっては初代NSXが時おり顔を出すような感覚があるのだ。

 SH-AWDを誇示するのではなく、人間に寄り添ったチューニングを行なったことは大英断だったと思うが、最後の最後で最適解を見つけ出せたように思えてくる。そこにはもちろん、シャシーの煮詰めが必要だっただろうし、巨大なグリップを生み出す専用タイヤもひと役買っている。制御だけでも、シャシーだけでも、空力だけでもなく、トータルバランスで最良の世界を手にしたことが確実に伝わってくる仕上がりだった。

 いま日本には水上氏が仕上げたNSXが数十台単位でしか存在せず、このタイプSを含めても3桁前後というのが実際のところのようだ。おそらくこの世界は多くの人々に広まることはなく、終焉に向かっていくことは間違いない。だからこそ、オーナーとなった方々にはガレージに仕舞い込むことなく、あらゆるシーンを駆け抜け、多くの人々にそれを見せつけてほしいものだ。

 また、ホンダにはここまで示したほかにはない走りの世界をどうにか伝承できる方法を模索してほしい。2022年4月、ホンダは四輪電動ビジネスの取り組みについて発表を行なっているが、そこでスポーツモデルについてもある宣言をしている。「ホンダ不変のスポーツマインドや、際立つ個性を体現するようなスペシャリティとフラグシップ、2つのスポーツモデルをグローバルで投入していきます」と。そのシルエットはどこかNSXに似ている。カーボンニュートラルや電動化に挑む中でも、常にFUNもお客さまに届けていきたいという想いから、操る喜びを電動化時代に継承するとしているのだ。

2022年4月に行なわれた「Honda四輪電動ビジネス説明会」で、電動化に向けた進捗と将来への事業変革を説明するとともに、スペシャリティとフラグシップ、2つのスポーツモデルをグローバルへ投入していくことを明らかにした

 今回のタイプSはきっとその礎となる1台であることに間違いはない。さよならではない。また会おうとNSXに告げて試乗会場を後にしたのだった。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。